友人の栄誉
「それじゃあめでたく友人になったことだし、君のことはウィル達に倣ってリアと呼ぶことにしよう。僕のことはマルと呼べばいい」
「いやいやいや、友人だけでも恐れ多いのに、そんな気安く呼べませんよ」
「何故だ。友人になったら愛称で呼ぶものだろう?」
「そ、そんな決まりは知りません。私のことはどうぞお好きに呼んで構いませんが、マルクラン様をそのように気安く呼ぶことはできません」
「えー?なんでー?…あ、もしかして、ウィルやレイのこともお名前で呼んでるの?」
「も、もちろんです。王族やお貴族様を愛称で呼ぶなんて、庶民にできるわけありません」
「えーー?面倒じゃーん」
年上の身分ある人と話しているはずなのに、同い年かそれ以下の子と話しているような気持ちになりながら、ルーナリアはウィルフレドやレイアードとも交わした言葉をマルクランにも告げた。しかし、響いている気はしない。
「そんなこと言ったって、フォルマだって庶民なのに僕たちのこと愛称で呼んでたよ?」
「ち、父は規格外です。私には無理です」
「えー?フォルマの娘でしょー?」
「それはそうですが、私は父とは同じ思考回路をしていません」
「まぁ、それはそうか。あのフォルマと同じだったら、とっくにこの学園は崩壊してるもんね」
「……」
父ならば、陰口やら嫌味を言われた時点で戦いを仕掛けに行くだろうし、目立ちたくないと言ってひたすら無視をすることはないだろう。今のルーナリアの置かれている状況に父がいたのなら、確かにこの学園は物理的に崩壊しているだろう。ルーナリアは父親の性格を思い浮かべ、あえて反論はせずにいた。もちろん、肯定も。
それにしても、この三人は仲がいいからなのか、本当に同じ提案をしてくる。この愛称呼びの訴えをどう退けようか、ルーナリアはいい策を見つけられずにいた。
「僕は親愛なるフォルマの娘に、マルクラン様なんて呼ばれたくないんだよー。マルとかマル助とか呼ばれていたのにさぁ」
「ま、マル助…」
なんて失礼極まりない愛称をつけて呼ぶのだ、我が父は…。命がいくつあっても足りないではないかと、ルーナリアはがっくり項垂れた。
「お願いしてダメなら、脅しちゃうよ?」
「お、脅す?」
物騒な言葉と共に、目を細め、すっと光らせたマルクランに、ルーナリアは思わず背筋を伸ばす。
「例えば…そうだなぁ、君が纏っているフォルマの魔力を取っ払っちゃう…とか?」
「おいおいおいおい、そんな事したらフォルマがここに来てしまうじゃないか!そんな恐ろしい提案今すぐ撤回しろ」
口をつけていたらしい紅茶のカップを音を立てて置きながら、ウィルフレドが慌てた声をマルクランに向けた。
「なんで?僕はフォルマに会いたいんだから、別にいいじゃん。むしろ好都合だよ。あれ、でもそうしたら脅しにならないか。…でも、興味あるなぁ、リアが纏っているフォルマの魔力」
「やめてくださいよ。そんなことしたら、父に絶対に来ないように言いますから」
「それは困る!今のはなしで!」
恐ろしい提案をするマルクランに、彼に一番効果があるであろう言葉を飛ばすと、途端に撤回をした。飄々とした態度から一変し、分かりやすく慌て出しているところを見ると、本当にフォルマに会いたいらしい。
そして、ウィルフレド達にとっても恐ろしい提案をしていたわけだが、それも撤回されたことでウィルフレドとレイアードは分かりやすく安心した顔をしていた。先ほどの焦った表情は消えている。
父への相対する評価に、ルーナリアはただただ首を捻った。
「でも、いいなぁ。僕もフォルマに魔法をかけられたいなぁ」
口を尖らせて羨ましそうに言うマルクランに、三人はそっちが目的か!と心の中で突っ込みを入れた。
「リアは綺麗な茶色い髪をしているんだねぇ。隠すなんてもったいない」
マルクランは今度は真面目な顔をしてルーナリアを見ていた。勝手に覗かないでと言いかけて、ルーナリアは口を閉じる。マルクラン程の魔力の持ち主なら、覗こうとせずとも勝手に見えてしまうのかもしれないと思ったからだ。魔法を暴かれていないだけよしとしようと、心の中で思った。
「でもさ、リア」
マルクランはすっと目を細めた。
「これは、何?」
声を低くし、ルーナリアの左腕を指差した。上腕の、ちょうど肩と肘の中間地点。長袖の制服には、特になんの変化も見えない。
「何が、ですか?」
ルーナリアの声にも緊張が宿る。ゴクリと唾を飲んだ。
マルクランはさらに目を細めて、自分の指差した先に集中する。制服の袖の、さらにその先に。
やり取りがつかめないウィルフレドとレイアードは、訳がわからないと言った顔で二人を見ていた。
「リア、君は呪われているね?」
ようやくここまで漕ぎ着けました!
次回、呪いにようやく触れられます




