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新しいお友達

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頑張ります。

「こ、好意…ですか…?あの…どこかでお会いしたことありましたか…?」


 ルーナリアにはマルクランとの面識はなかった。そもそも貴族との面識など、あるようでないようなものだ。学園内であった人など、ただすれ違っただけの人と同じにすぎない。

 しかし、その学園内でも、マルクランと顔を合わせた覚えはない。もちろん言葉を交わしたことだってない。それなのに好意があるなんて言われたら、動揺してしまうのも無理はない。

 マルクランの表情から嘘は読み取れない。だとすれば、彼の持つ好意は本物だということになる。それがますますルーナリアを動揺させた。他の二人の生暖かい笑顔の意味に気付けないほどに。


「ううん。会ったことはないよ。でも、君のことはずっと知っていたよ」


 熱い視線を感じるけれど、そこに愛し恋しという感情は感じない。会ったこともないのに盲目に思い続けているわけではなさそうだ。しかし、マルクランの視線はルーナリアを離さない。ルーナリアの動揺は混乱に変わっていった。


「あの…理由をお聞きしてもよろしいですか…?」


 自分で考えることを放棄したとしても、なんらおかしくない状況だ。ルーナリアにはなんの情報もないのだ。マルクランのことも、魔力が学園トップということしか知らない。


「いいよ。僕は君の父親のダンテ・フォルマを崇拝しているんだ!」

「え?」

「僕は昔フォルマに魔法を指南してもらっていたんだ。フォルマに焼かれ、凍らされ、雷を落とされ、水浸しにされ、埋められ、吹き飛ばされ…。フォルマの魔法は素晴らしいものばかりだった!できることならもう一度魔法をかけてもらいたいが、彼は山に篭ってしまった。フォルマの娘が入学してくると知って浮き足立ったものだが、彼女は攻撃魔法が使えないというではないか。その時の僕の気持ちが君にわかるかい?」


 フォルマの魔法がいかに素晴らしくて、それを受け継いでいるであろうルーナリアに会うのを楽しみにしていたが、フォルマの醍醐味である攻撃魔法が使えないと知った時の落胆っぷりを、マルクランは延々と語った。それこそ本当に、延々と。思いもよらなかった展開に、ルーナリアは呆気にとられて開いた口を塞げずにいた。


「マルは昔、僕たちと一緒にフォルマに魔法を習っていたんだよ。みんな同じ体験をしたのに、マルだけ何故かフォルマに傾倒してしまったみたいでね…」


 固まったルーナリアへ助け舟を出したのはウィルフレドだ。苦笑いをしながら、小声でルーナリアに告げた。


「私…マルクラン様をがっかりさせてしまったのでは…」

「最初だけね。でも、思い直したみたいだよ」

「え…?」


 ウィルフレドが顎でマルクランを見るように示したので視線を戻すと、夢世界の話をしていたような目つきだったマルクランが、ルーナリアを見ていた。


「僕は思い直した!フォルマは確かに攻撃魔法が素晴らしいが、それ以外の魔法だって一流だ。君は攻撃魔法以外ならそこそこ使えると聞いた。それに君からはフォルマの魔力を感じる。君と仲良くしていれば、またいずれフォルマに会えることもあるかもしれない。だからルーナリア・フォルマ、君は今から僕とも友人になるんだ!」

「え、えぇ〜?」


 なかなかのとんでも発言を聞かされ、ルーナリアは思わず間抜けな声をあげた。お貴族様相手に不敬などと考えていられないほど、想定外の提案だったのだ。

 父が好きだから、自分とも仲良くしろ。そんなこと、今まで言われたことなんてあるわけがない。父を恐れる人ばかりだったのだから。


「僕と友人になるのは君にとっていいことだと思けど」


 ただただ戸惑うルーナリアに、マルクランは利点の説明をしてくれるという。

 普段なら少しくらいは理由の一つや二つ思い浮かぶのだが、想像を超える申し出ばかりで、頭がさっぱり動かない。それがマルクランの精神攻撃だったら最強かつ的確すぎて叶いそうもないとさえ思っていた。


「ど、どういうことですか?」


 少しばかり警戒をしてしまうのは、仕方ないと思ってもらいたい。立て続けに身分の高い人と友人になるなど、警戒してしまうのも無理はないことなのだ。


「僕は学園一の魔力保持者だと言ったね」

「は、はい」

「その僕と親しいとなれば、大抵の奴らは君への嫌がらせをやめるだろう。僕まで敵に回したくはないだろうからね」

「た、確かに…」


 学園内での力関係は、身分の他に、魔力の大きさがある。学園トップの魔力保持者であるマルクランは、この学園内において相当の力を持っているはずである。身分も当然ものをいうが、攻撃魔法に長けていて成績もトップのマルクランに表立って楯突くものはいないのだろう。周知なのかどうかはわからないが、ウィルフレドと仲がいいともなれば、ますますその立場は強固なものとなる。さらには、マルクランは貴族だ。その格までは分からないが、魔力と貴族の身分どちらも持ち、王族とのつながりもあるなんて、最強すぎることこのうえない。

 そんなマルクランと親しいとなれば、確かにくだらない嫌がらせをする人は減るだろうし、表立って嫌な態度をとる者も減るだろう。陰口は…残るだろうが。


「今の君の立場はなかなか悪いよね。ウィルやレイと知り合いで、魔物襲来時に足を引っ張ったと思われている。攻撃魔法が全くできない君が、魔物退治なんてできるわけないとみんな思っているだろう」

「それは、そうですね」

「ウィルも、表立って君と仲がいいなんて言えない。庶民と親しいなんて公言したら、君が周りに叩かれるだけだからね。しかも、王族故にそこに助けの手を差し伸べることもできない。わかりやすく一人だけを特別扱いするなんて、普通は王族には許されないことだからね。婚約者でもない限り」


 マルクランはそう言って、挑発するような目つきをウィルフレドに向けた。それをレイアードがすかさず後頭部を叩いてやめさせた。ウィルフレドはただただ貼り付けたような笑顔を浮かべている。


「でも、僕なら君を助けることができるよ。僕の友人に何をしてるのかな〜?なんて一言言えば、それでおしまい。あぁ、王族だけは専門外だから、それはウィルに任せるしかないけどね。それ以外ならばっちり効果あるよ」


 暗に第三王子からは守れないとマルクランはウィルフレドをチラッと見て言った。今回の騒動の関係者からは守れないけれど、それに付随した者からは守ことができる。普段から面倒だと思っていた貴族たちの嫌味からも解放されるだろう。

 なるほど、確かに悪い提案ではない。


「僕の友人となれば、ウィルやレイと接触を持ってもおかしくはない。だから、ウィルからも勧めたらどう?僕と友人になることを、さ」


 マルクランはニヤリと笑ってウィルフレドを見た。


「ウィルはこの子を気に入っているんでしょ?」

「まぁな」

「!」


 否定しないの!?とルーナリアは隣にいるウィルフレドに思い切り顔を向けてみたが、微笑みを向けられて終わった。


「さぁさぁウィル、僕を護衛に選んだのは腕が立つからだけじゃないでしょ。この子を護りたいからなんでしょ?ウィルは僕にこの子と友人になってほしいはずだよね」

「分かってるじゃないか、マル。その通りだよ」

「え?」


 またも思いもよらぬことを言われ、ルーナリアはマルクランとウィルフレドの顔を交互に見る。さっきから言葉が出てこない。


「というわけでリア、マルは悪い奴じゃないし、君を騙すこともないと思う。リアが嫌じゃなければマルとも友人になってほしいんだが、ダメかな?」


 ウィルフレドは困ったような微笑みを浮かべ、ルーナリアを見つめた。お願いであるはずの言葉なのに、その目に必死さが見えて、ルーナリアはまたも困惑した。

 ルーナリアは守られるような立場の人間ではない。けれど、何かそういうことが必要と思うことが、ウィルフレドにはあるのだろう。マルクランをルーナリアに近づけておきたい理由が、きっと他に。


「ダ、ダメでは…ないですけど…。ただ、恐れ多いといいますか…」

「じゃあ、決定だね。僕はそういうの気にしないもん」

「え」

「というわけで、僕と君は今から友人だ。よろしくね、ルーナリア・フォルマ」


 戸惑うルーナリアをよそに、マルクランはとびっきりの笑顔を浮かべていた。







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