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まさかの好意

「今分かっていることと、これからのことを説明するよ」


 ウィルフレドはそう言って、説明を始めた。途中マルクランも口を挟んだりしたが、ルーナリアは大体を頷きながら聞いた。


 魔物は多分第三王子が仕向けたものであること。魔物除けの結界が強められたが、意味があるかどうかは分からないこと。護衛としてマルクランが側に付くようになったこと。ルーナリアの周囲に起きている変化は、申し訳ないと思うが、できれば今まで通りでいて欲しいこと。

 大まかに分ければそういうことを説明され、ルーナリアは質問していいかを聞き、了承を得て口を開いた。


「殿下は、王位継承権の関係で命を狙われている…ということですか?それが誰からとは断定せずとも、狙われていることは間違いない…と?」


 第三王子が疑わしいけれど、証拠はないという言葉を得て、ルーナリアは事実だけを認識すべく、ウィルフレドに問いかけた。


「そうだね。僕の存在は、第一王子派からも、第三王子派からも疎まれている。魔力は多いし、母の身分は高くないけれど、陛下の寵姫であることに間違いはない。その変わらない事実が邪魔だと思う人間は多いんだ」

「そうなんですね。今までにも、こういうことはあったのですか?」

「生まれた時からずっとらしい。だから毒の耐性は兄弟の中で一番だし、教養というよりは護身のために磨いた魔法と剣も兄弟の中で多分一番だ。皮肉だろう?」


 望んで手に入れた力でないにしろ、王に強さを求めるものからしたら、ウィルフレドは魅力的に映った。そして、それはまた争いの種となった。争いに巻き込まれれば巻き込まれるほど、ウィルフレドの力は増していき、ますます争いを強めた。本人はそれを望まないのに、どんどん、どんどん。

 ウィルフレドは歪んだ笑みを浮かべた。


「しかし、さすがに魔物を遣わすとは思っていなかった。リアまで危険な目に合わせてしまって、本当に申し訳ない」

「頭は下げないでくださいね。謝りたいなら謝ってもいいですから」


 ウィルフレドが頭を下げようとするより先に、ルーナリアは言葉でそれを制止した。キョトンとしたウィルフレドが可笑しくて、ふふっと笑う。


「殿下に謝られるのはもう慣れましたけど、頭まで下げられるのは勘弁して欲しいです。謝られてあげますから、殿下も譲歩してください」

「ぷっ。謝られてあげるとか、ウィルにそんなこと言ってのけるなんて、本当に君面白いね」


 思わず吹き出したマルクランが、笑いを堪えながらルーナリアを見た。


「頭を下げられるこっちの身になってくださいよ。ただの庶民が王族に頭を下げられるなんてそうそうありませんよ。私の心臓がもちません!」

「ふはっ!それもそうだ」


 それはそれは楽しそうにマルクランは笑い続けた。ルーナリアにとっては本当に死活問題なのだが、彼にはそこまでは伝わらないらしい。


「それに殿下、私は全く危険な目にはあっていません。ただ、殿下以外の生徒を巻き込む可能性を知ってか知らずか、あのような方法で殿下を狙った人には腹が立ちます。そんな人が次期国王に相応しいとは思えません」

「あぁ…。そうだな」


 ルーナリアの言葉に、ウィルフレドは眉間に皺を寄せて頷いた。

 あの魔物襲来がどのような条件でなされたかは分からないものの、他の生徒を巻き込む可能性は十分にあった。現にルーナリアは巻き込まれたのだ。あれが食堂であったなら、もっとひどい騒ぎになっていただろう。怪我人も出たかもしれない。

 国民を守るべき人間が、目的のために関係のない人間を巻き込む方法を選択したことを、ルーナリアはよく思っていなかった。


「今後相手がどういう手を取ってくるかは分からない。しかし、レイだけでは対応しきれないことが起きることも考えて、マルにも護衛としてついてもらうことにした」

「僕は面倒くさいことは好きじゃないんだけどね。他ならぬウィルの頼みとあっては断れないよ」


 マルクランは軽く肩を竦めておどけてみせる。ウィルフレドはそれを穏やかな笑みを浮かべてみていた。


「マルはこの学園内において、一番の魔力の持ち主なんだ。ほとんどの科目でトップなんだよ」

「それはすごいですね。やはり殿下の周りにはそういう方達が集まるんですね」


 栗色の髪の毛は、魔力が相当高いことを示す。王族以外で金色の髪の毛が生まれることはないから、金色に近い栗毛の髪の持ち主は、この国においてトップレベルの魔力を持つことはルーナリアも分かっていた。けれど、改めてこの学園でトップと言われ、ルーナリアは驚いていた。

 そして、そんなルーナリアの反応を見て、他の三人は顔を見合わせる。そしてウィルフレドが先にルーナリアに視線を戻した。


「リア、君は本当にマルのことを知らないのかい?」

「え?」

「僕はこの学園では結構有名だと思ってたんだけど、思い違いだったかな?」

「あー、いや、それは…その…」


 ルーナリアの背中を冷や汗が流れる。マルクランの顔を見れば怒っているのではなく、単純に事実に驚いているだけとわかるのだが、ルーナリアはお貴族様の不興を買ったと思い込んでいた。


「あー、ちょっと驚いただけで、別に不満とかじゃないよ。事実確認をしたいだけだから、そんなに気にしなくていいよー」

「まさかマルを知らない人がいたとは思わなくて。逆に驚かせちゃったね」

「紅茶でも飲んで落ち着け、リア。マルのことなんて気にしなくていい」


 目の前に座るレイアードが、ルーナリアに紅茶を近づける。いい香りのする紅茶で喉を潤わすと、少し気分が落ち着く気がした。


「レイはさりげなく僕のことを貶めないでくれる?」

「事実だろう。言われたくないなら少しは貴族らしい態度を取れ」

「嫌だよ、面倒くさい。せっかく次男に生まれたんだから、自由にさせてもらうよ」


 ルーナリアが紅茶で気持ちを落ち着かせている間、レイアードとマルクランは軽く口論していた。レイアードはお目付係で、マルクランは手のかかるお坊ちゃんのようだと、こっそりルーナリアは思った。言い逃れている間のマルクランが、ずっと口を尖らせていた所が少し幼く思わせるななどとも思いながら。


「多分君のクラスの子達は、みんな僕を知っていると思うよ。というか、この学園で僕を知らないのは、多分君だけだ。やっぱり君は面白いね」


 紅茶を飲んで落ち着いただろうルーナリアを確認し、マルクランはまた声をかけた。


「えぇと、すみません…。あまり…人を覚えるのが得意ではなくて…」


 ルーナリアはマルクランに頭を下げた。高位貴族の名前を知らないなんて、それだけで断罪されることもあるのだ。


「違うね」

「え?」

「君は興味がなかったから覚えなかったんだ。だってウィルとレイのことは知っていたんでしょ?ウィルはともかく、レイのことを知っていて僕を知らないっていうのは違和感がある。確かにレイも有名だけど、この学園では僕の方が知名度は高いよ。特に庶民にはね。だって僕はこの学園のトップだもん。なのに僕を知らないっていうことは、ウィルやレイのことは興味があったのに、僕にはなかったってことだ」

「そ、そういうわけでは…」

「じゃあどういう事?本当の理由は?」

「え、えぇー…?」


 突然マルクランに問い詰められて、ルーナリアはやや困惑した。

 ルーナリアは知らなかったが、庶民に知名度が高いのはマルクランだ。学園トップの魔力を持つものとして、憧れでもあるからだ。貴族の知名度は位の高いものからになるが、庶民はそれより魔力を見てしまうのだ。


「僕は君を知っていたよ、ルーナリア・フォルマ。それなのに君は僕に興味が全くなかったというんだね」

「え…?」


 マルクランの悲しそうな顔に、ルーナリアはますます混乱した。知名度など気にするような人には見えなかったのに、何故こんなにも拘ってくるのか、検討もつかなかったのだ。


「あ、あの、その、失礼を承知で申し上げます…が、その、害がなさそうだと思った方は…覚えていないだけ…なんです…」

「え?」

「その、王族の方や、あとは私に敵意をむき出しにするような方は、何かあった時にすぐ対処できるようにと覚えてはみたのですが、そうでない方は覚えなかった…というのが正しいです。すみません」


 申し訳なさそうに、ルーナリアは再度頭を下げた。

 この学園には貴族は山のようにいる。貴族は教養として全ての貴族を覚えているし、庶民も処世術として貴族を覚える。しかし、ルーナリアはそんな面倒なことをするのは嫌で、自分にとって必要だと思う人だけを覚えていた。どうせ自分にいい感情を持っている人なんていないだろうから、負の感情を持っている人を優先的に。

 無駄に対峙しなくていいように、言いがかりをつけられた時も逃げやすくするように。そんな理由からだ。


「じゃあ、僕は君にとって悪しき存在じゃなかったということだね」


 ルーナリアの言葉の意味を汲んだマルクランは、パッと表情を明るくした。


「もちろんです、もちろんです。悪意は持たれていないと思っていましたが…、合って…いますか…?」


 合っているかと聞かれて、YESともNOとも答えにくい気はしたが、マルクランならいいだろうというような気がして、恐る恐るだが問いかけてしまった。


「もちろんその通りだよ!だって僕は君に好意を持っているんだから」


 まさかの返答にルーナリアは目を丸くした。

 当のマルクランはニコニコとルーナリアを見ており、残り二人に至っては、生暖かい笑顔で二人を見ていた。








今度は長女が胃腸炎疑い…。

嫌な季節…

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