男たちの心情
眠気に勝てません…
あの後、教師たちに状況説明をし、三人はそれぞれ寮の自室に帰された。度重なる魔物の襲来により、午後の授業は中止となったのだ。そして念のため、今日一日は寮から出ないようにと、学園の全生徒に言い渡されていた。
「リアはたまたま通りかかっただけということにしておいたが、周りは黙っていないだろうな」
「いらん詮索をするのが貴族達の暇潰しだからな。もう今頃は話が回っている頃だろう」
寮の自室でウィルフレドとレイアードがお互いのベッドに座り、向かい合っていた。
寮は基本的には個室なのだが、二人部屋もある。貴族は個室を好むものだが、ウィルフレドは敢えて二人部屋をレイアードと使っていた。
「多分、リアは嫌味は聞き流すんだろうけどな。本来なら、こんな面倒を押し付けることもなかったんだが」
「ウィルがリアに構わなければこんなことにはならなかったろうな」
「魔物が襲ってきたせいだろ」
「……」
「無言で訴えるな」
「分かっているならいいんですよ」
「ちっ」
ウィルフレドとレイアードは、主と従者でありながら互いに遠慮がなく普段は敬語も使わない。レイアードが敬語を使う時は、公衆の面前と、主に何かを訴えたい時だ。
レイアードはスナイデルの者として、常にウィルフレドを監視、教育し、且つ護衛を担っている。王子殿下らしくない行動は、諌めなければならない。付き合いもそこそこ長くなり、主の考えていることは手に取るように分かるのだ。
ウィルフレドは、王子殿下として、ルーナリアに必要以上に構うべきではなかった。レイアードはそう思っている。そしてそれは、言葉にせずともウィルフレドに伝わっていた。それは、ウィルフレド自身が、自分の行動が王子殿下として相応しくは無いものと分かっていたからだ。
「まさか、リアのことを本気で気にいっているんじゃ無いだろうな」
「だとしたら、どうする」
「妾にでもするつもりか。あれは庶民だぞ」
「身分などどうにでもなる。俺が本気だと知れば、身分を与えようとする者はいくらでも出てくるさ。支持者に頼むのが一番だがな」
「本気なのか!?」
多少苛立っているようだったレイアードの言葉に、ウィルフレドはスッと目を細めた。
「そんなに驚くことか?俺は、お前こそリアを気に入っていると思っていたんだが、違ったか?レイ」
ウィルフレドは少し声を低くし、睨むようにレイアードを見た。
普段のレイアードは寡黙だ。寄って来る貴族子女とも必要以上に会話はしない。ましてや、口調を崩すことなどあり得ない。しかし、ルーナリアの前で、レイアードは自ら口調を崩し、話しかけた。レイアードがルーナリアに何かしら興味を持っているのは明白だった。
「馬鹿なことを言うな。あの子の魔力と魔法に興味があるだけだ」
「それならばいいがな。いらん心配はしない方が楽だ」
レイアードの言葉の全てを真実ととったわけではないが、心配することはなさそうだと読み取り、ウィルフレドはニヤリと笑った。その顔を見て、レイアードはため息をつく。
「もう一度聞く。本気なのか?」
レイアードは射抜くような目でウィルフレドを見た。
「俺が女に不誠実なことはしないと、知っているだろう。ただし、リアにその気がないのなら、無理強いはしないさ。フォルマに殺されたくはない」
自分の言葉に、ウィルフレドは最後に目を伏せた。
ルーナリアの言葉が思い出される。ルーナリアに何かをすれば、フォルマは目の前に現れるだろう。あれは脅しではない。いつだってフォルマは本気なのだから。
「あぁ、殺されるだけで済めばいい方だろうな」
レイアードは遠い目で窓の外を見た。思い出すのは、幼い頃にフォルマにしごかれた記憶。
「フォルマの娘に下手なことを出来るわけがない」
「それでも、リアがいいのか」
レイアードがウィルフレドに視線を戻すと、ウィルフレドはニヤリと笑った。
「リアといると退屈しない。あれは自分が庶民だから面白がられていると思っていそうだが、あんなに面白い庶民は他に見たことないぞ。それにリアは聡い。その場の空気を読んで、自分の立ち位置を正しく把握する。いざという時は進んで盾となり、剣となる。ただ守られるだけの妃より、戦える妃の方が安心だ」
「本気で盾になんてしてみろ。生き延びた暁にはフォルマに殺されておしまいだ」
「確かにな。盾にしようなどと、本気で思ってはいないさ。死期が早まる」
目を閉じて思い浮かべるのは、フォルマに受けた数々の仕打ち。笑いながらえげつない魔法を放ち、笑いながら治療をする恐ろしい魔法使い。
「フォルマのおかげで、俺の一番得意な魔法は治癒魔法になったわけだがな」
感謝すればいいのか、恨めばいいのか。攻撃魔法が得意と思われているレイアードは、それと同じくらい治癒魔法が得意であるし、ウィルフレドに至っては攻撃魔法よりも治癒魔法に長けることとなった。
「攻撃魔法至上主義のこの国の王子が、攻撃魔法よりも治癒魔法に長けているなんて知ったら、国民は…貴族たちはどう思うだろうな」
「学園でもその事実を知るものはいない。知られたところで、掌を返す者の多さに呆れるだけだろう」
「そうだろうな。まぁ、たかだかそんなことを逆手にとって騒ぐ者もいると思うがな」
くくっと、蔑むような笑みをウィルフレドは浮かべた。貴族たちの反応など、手に取るように分かる。
第一王子派、第二王子派、第三王子派、それぞれ本当にわかりやすい態度をしているのだ。気付かれていないとでも思っているのか、わざとそうしているのか、貴族達はわかりやすく擦り寄り、媚び諂ってくる。頼んでもいないのに、他の王子の至らぬ点を教えてくれたりもする。それが自分達にとっていいように帰ってくると思っているところが笑えてならないウィルフレドだった。
「で、こんなことが続くと俺はおちおちリアと会うこともできなくなってしまいそうなんだが、お前はどう考える、レイ。魔物は、何故学園に現れた?しかも、二度も」
限りの悪いところで切ってしまいました…。済みません




