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再度襲来

「とりあえずしばらくはお友達でいいよ」


 という、ありがたい?言葉をウィルフレドからもらい、どうにかルーナリアは気持ちを立て直した。まだ弱冠胸の鼓動が落ち着かないが、時期に戻るだろう。

 ウィルフレドはルーナリアから離れて元の位置へ戻り、紅茶を飲んだ。ほっと胸を撫で下ろし、ルーナリアも紅茶を飲む…が、混乱のせいか味がしない。残念だが、紅茶のカップを元に戻した。


 そうだ、とりあえず忘れてしまおう。気のせいということにして、忘れよう。何かの間違いに違いない。そうだ、そうしよう。

 ルーナリアはそんなことを考え、目を閉じてぎゅっと拳を握る。そんなルーナリアを、ウィルフレドは笑いを噛み殺しながら見つめ、レイアードはその2人の様子に軽くため息を落とした。


「リアは可愛いなぁ」

「なーーーーっ!」


 カップを手にしていなかったのは幸いだった。ウィルフレドの突然の言葉に、ルーナリアは声にならない声をあげ、頬に手を当てる。


「今、たった今、お友達でといったばかりではありませんかっ!」


 落ち着いてきていたはずの胸の鼓動が、再度高鳴り出す。


「ただ可愛いといっただけだろう。お友達を可愛いといってはいけない取り決めなどあったか?」

「あ、ありませんけど…」


 ウィルフレドはニヤリと笑った。今日は機嫌がいいのか、ウィルフレドの頬の筋肉が緩すぎる。


「何も手を出したわけでもないのに、リアは大袈裟だなぁ」

「くぅーーーっ」


 揶揄われているのか、本気なのか、手のひらで踊らされているルーナリアに分かるわけはなく、ただただ拳を握ってブンブン上下に振って、ウィルフレドを睨みつけた。


「も、もしも私に変なことをしたりしたら、父が飛んできますからねっ!」

「なっ」


 悔し紛れに、ウィルフレドに一番効果があるであろう言葉をルーナリアが投げつけると、分かりやすくウィルフレドが顔色を変える。


「父が私にかけた魔法が、変化だけだと思ったら大間違いですから!言葉通り、飛んできますから!」


 そう威勢良く言い切って、ルーナリアはプイッと顔を背けた。

 顔色を青くしたウィルフレドが、さすがにそれはありえない…、いや、フォルマならありえる…など、ブツブツ言っていたが、全て無視した。

 父親の存在を、おおっぴらにひけらかしたり、チラつかせて優位に立とうと思ったことはなかった。フォルマの娘という目で見られることは、好きではなかったから。けれど、こういう示し方は間違っていないはずだと、ルーナリアは思った。ウィルフレドなどという、この国でトップレベルの身分の者から身を守るには、父の傘を着るのが一番に違いない。まして、相手は父に怯えているのだから。


 ルーナリアはしばらく頬を膨らませて怒っているアピールをしていたが、いつかのように嫌な気配を感じて視線を空へと向けた。

 禍々しい、嫌な気配。


「レイアード様」

「何か来るな」


 ルーナリアが立ち上がるより数秒先にレイアードが立ち上がり、数歩前へ出た。ルーナリアもそれに続く。

 横に並んだ2人が同じ方向を睨んでいると、後ろでウィルフレドも立ち上がった。


「またか」


 揃って空気を切り替え、緊張を纏わせる。


「殿下が私をからかうと、魔物が襲来するスイッチでもあるんじゃないですか」

「確かにタイミングは良すぎますね。殿下、お戯れはほどほどにしていただかないと困ります」


 仕事モードになったレイアードが、言葉遣いを改めつつ、背を向けたままウィルフレドに声をかける。


「おいおい、これを僕のせいにするのは辞めてもらいたいな。たまたまだろう」


 ウィルフレドは腕を組み、おどけたふりをしながら気配を探って空を睨む。


「二匹、ですね」


 先に魔物の気配を読み取ったのはルーナリア。


「そのようだ。厄介だな。空を飛ぶものが二匹だと、一人で相手をするには手こずりそうだ」

「ならば僕も加勢しよう。そのうちに教師たちもやってくるだろうし」

「いいえ、殿下のお手を煩わせる必要はありません。ここは私が」


 前に出て来ようとしたウィルフレドを手で静止し、ルーナリアが更に前に出た。


「リア?でも君は…」


 ウィルフレドが戸惑いの声を上げる。レイアードもルーナリアでは無理だと思っているのか、眉間にシワがよっている。

 攻撃魔法が使えないルーナリアでは、と言いたいのだろう。それは当たり前だ。レイアード程ではないにしろ、ウィルフレドも攻撃魔法は使える。使えないのはルーナリアだけなのだ。


「殿下に近づく人間の事はとっくに調べられているものだと思いましたが、まだでしたか?」


 自分のことは調べさせただろうに、何も知らないの?と言いたげな挑戦的な視線を未だ戸惑いの中にいるウィルフレドに向ける。

 魔物は空に視認できる程度に近づいて来ていた。確かに二匹。


「私は守られること専門でしたけど、戦い方を知らないわけじゃありませんよ」


 視線を魔物に戻しながら、ルーナリアは移動魔法で右手に剣を呼び出した。

 銀色に輝く細身の剣には、赤、青、黄色の魔石が埋め込まれている。


「剣が使えるのか?いや、しかし剣技の成績は…」

「良くないですね。お貴族様の機嫌を損ねないよう、手を抜いていたので」


 話しながら左手で空を仰ぎ、3人個別に防御魔法をかける。


「片手間で防御魔法か…。リアの本当の力は、一体どれだけのものなんだ…」

「お友達なんですから、秘密にしてくださいね」

「…っ」


 ルーナリアは強気な笑みをウィルフレドに送り、すぐに視線を前に戻す。

 だから気付かない。ウィルフレドが、ルーナリアに見惚れて、息を飲んだことに。


「リア、本当に大丈夫なのか?」


 隣に立つレイアードが、尚も心配そうにルーナリアに声をかける。


「攻撃魔法が使えない私に、剣を持たせてくれたのは父です。ちゃんと、父の折り紙つきですよ」


 なるほど、とレイアードは頷いた。

 知る人ぞ知る、フォルマの剣の腕。魔法だけでなく、剣を教えられたことのあるレイアードは、当然その実力を知っている。もちろん、ウィルフレドも。


「氷を吐き出す魔物と、雷を落とす魔物ですね。レイアード様、氷の方をお願いしてもいいですか?」

「あぁ、構わないが。大丈夫なんだな?」

「多分、私は雷の方が得意だと思うので」

「分かった。無理はするな。危険だと判断したら、迷わず引け」

「はい」


 もう魔物はすぐそこだ。口を開けて今にも氷を吐き出そうとしているのが見える。

 レイアードが剣を構えた後、ルーナリアも自分の剣を両手で持ち、切っ先を雷の魔物へと向ける。


「殿下、父仕込みの剣をお見せしますから、ちゃんと守られていてくださいね」

「…あぁ、分かった」


 背中越しのウィルフレドの声に満足し、ルーナリアは地を蹴った。









子供が発熱と鼻水で寝てくれません。

なかなか進まない…

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