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王位継承権争い

 イングラム帝国の王位は、基本的には長子優先で継承される。そしてそれは男子のみだ。


 現在王位継承権一位は、第一王子のリュミエール・イングラム。次いでウィルフレド、ジェラルドとなっている。

 しかし、第一、第二共に側妃の産んだ子であるために、ことが面倒なことになっている。正妃が第三王子を産んだため、正妃の子こそ王位を継ぐべきという声が上がっているのだ。主に、正妃とその近しい周囲から。

 二人の側妃が共に身分が低いことが災いしたと言われている。本来なら、現状の第一王子が継承権一位で何も問題はないはずなのに、身分の高い正妃サイドが騒いでいるのだ。

 さらに厄介なのが、現王陛下の寵愛が側妃の、しかもウィルフレドの母に向けられていることだ。

 側妃たちは自分たちの身分と立場を理解し、王位には一切口出しをしていない。しかし、周りが口出しをした。現王陛下の寵愛を受ける妃の子であるウィルフレドこそ王位継承権一位であるべきというのだ。

 それにはさらにまだ理由があり、争いを複雑にさせている。

 まずは、第一王子の身体が少し弱いということ。幼少期はほとんど床に伏せっており、現在は伏せることは減ったものの、季節の節目にはよく体調を崩す。ベッドの上で本を読むことが多かったからか、頭は切れるが武術や魔法には長けていない。

 そして、王の血を引く子の中で、ウィルフレドが一番魔力を多く受け継いだことが大きい。ウィルフレドの髪色は、現王陛下の色とほぼ同じで、魔力が多い。リュミエールとジェラルドも王族特有の金色の髪をしているが、輝いてはいない。リュミエールはほんのり栗毛がかって見えるし、ジェラルドは茶色がかって見える色なのだ。ウィルフレドのように、輝く金色の髪はもっていない。それは、ウィルフレドより魔力が低いことを表した。

 魔力の強さは、そのままその人の強さを表すから、金色の髪を崇拝するものからすれば、それだけで次期王だと騒ぎ立てる者もいる。それを第三王子サイドは快く思わず、反発している。

 第三王子は王族の中では魔力が多い方ではないが、一般的には魔力は多い。派手な攻撃魔法を操ることで、その強さを周りに示している。特に母親の身分と、その後ろ盾を欲する者たちは、これを支持している。

 これが、現在のイングラム帝国の王位後継者争いの現状だ。


「僕は、兄上が王となるのがいいと思っている。それが理にかなっているし、もともとそう決まっているのだから、それを覆す必要はないんだ。確かに少し体は弱いけれど、それだけで王の器ではないと言う輩の気が知れない」

「第一王子殿下は、頭がキレるんですよね。それで十分ということですか?」

「そうだ。足りない部分は補佐すればいい。王が自ら武力行使をする必要はない。指示すればいいんだから」

「確かに。でもそれは、殿下だけの考えなんですね。第三王子殿下はそうじゃない」

「あぁ。あれは自分こそ王に相応しいと思っている。王に重要なのは、身分やその血筋だと思っているからな」

「なるほど。納得しました」


 ジェラルドの普段の行動を見ていると、身分こそ一番というのがよく分かる。身分にとらわれない学園生活をというこの学園で、誰よりも身分を重視した動きをしているのだ。庶民は基本的に視界に入れないし、視界に入ることすら嫌悪している。下位貴族ですら会話も許さない。自分の周りにいることを許しているのは、高位貴族のみだ。


「リアは…、どう思う?」


 ウィルフレドは、ふと思い立ったようにルーナリアに問いかけた。


「それを聞くっていうことは、迷いがあるからですかね」

「そう…ではないが…」


 歯切れの悪い返事は肯定をしめすだろうに、頷けない事情があるのだろうとルーナリアは苦笑した。


「私が口を出せることではないですからね。でも、誰でもいいですよ」

「誰でも?」


 ウィルフレドは軽く驚いた顔を見せた。


「誰かを希望したところで、それが通るわけではないし、どうすることもできませんから。私たちは、決まったことに従うだけです」


 庶民は、誰に希望しようが期待しようが、それを叶えるすべかない。伝えるすべもない。不当に税をあげられようが、悪政をしいられようが、ただ従うことしかできないのだ。だから、希望も、期待も、なるべくしないようにしている。その方が、ダメだった時のショックも小さくて済むからだ。


「あぁ、でも殿下にお伝えしておくべきこともありますね」

「なんだ?」

「悪政を強いるような王になれば、父はこの国を去るでしょう。父はどこでだって生きていけますから」

「お、おぉ…。なんともありがたい忠告だ」

「でしょう?」


 ルーナリアは意地悪く笑って見せた。

 この国にとって父親を失くすことは避けたいことだろうと知っている。それほど偉大な力を持つ魔法使いなのだ。王族や貴族に不敬な態度をとっても罰せられることのない庶民なんて、ルーナリアの父親くらいだろう。


「その前に鉄槌を下しにいくとは思いますけど」


 ルーナリアの言葉に、ウィルフレドは青ざめた。きっと思い出すことがあったに違いない。


「父は厳しいですから。愚王になったその人にも怒るでしょうし、その人を王に祭り上げた人々にも怒るでしょう。だから殿下、頑張ってくださいね」


 父は厳しい。けれどそれは、愛する故だとルーナリアは知っている。本当にどうでもいい人には、厳しくしない。目も合わせない。そういう人だ。現王陛下も、ウィルフレドも、それを分かっているだろうとも、ルーナリアは思っていた。


「恐ろしいことしか言わないな、君は」

「残念ながら事実ですよ」


 ふふっとルーナリアは笑い、青ざめたままのウィルフレドを見た。

 普段父親の威を借ることはないが、こうして友人を少しからかうのは楽しいものだと思っていた。本来ならば不敬だと叱られることだろうに、それを楽しむなんて自分も父の娘だなと嬉しくもなる。


「リア、フォルマみたいな笑い方をしてるぞ」

「あら、褒め言葉ですね」


 何度目かわからないウィルフレドのため息が、盛大にこぼれていった。眩しいほどの、ルーナリアの笑みと共に。





 






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