落第寸前
イングラム帝国には、適齢期の子息、子女が通う学園が3つある。
1つは庶民の通う一般知識を身につける学園。
1つは貴族の通う一般知識、教養を身につける学園。
そしてもう1つが、イングラム帝国の誇る魔法学園だ。
魔法学園は庶民、貴族問わず、魔法の才があるものならば誰にでもその門を開いている、全寮制の学園である。
イングラムの民であればほとんどが大なり小なりの魔法を使えるが、だからと言ってその全てが魔法学園に通えるわけではない。
難関の試験を受け、突破したものだけが通える、いわゆるエリート学園なのだ。
庶民であっても才能があれば学べるよう、特待生制度もある。
が、特待生になれるのはほんの一握りであり、学園に通う生徒の多くは貴族で占められている。
小さい頃から専門の教育を受けられる貴族の方が、試験をパスできるためだ。
しかし、虹の魔法の使い手が生まれた年に生まれたものたちは、特別な扱いをされた。
12の年になる頃に身分を問わず全員が魔力量を測定され、一定以上の魔力があるものは全て、魔法学園への入学を強制された。
無条件で授業料が免除されたこともあり、この学年は他の学年よりも生徒数が多く、また貴族に対する庶民の割合も多めであった。
そう、虹の魔法の使い手は、その命の誕生こそ知らされたものの、誰がそれなのかはわかっていなかったのだ。
よって、通常であれば落第、中途退学であろうレベルの生徒もそれは許されず、学園に残されていた。
「ルーナリア・フォルマ!お前はまた火の玉さえ生成できんのか!」
「家名まで呼ぶのはルール違反です。ファナック先生」
「くだらぬことを言っていないで真面目にやらんか!あのフォルマがこんなざまとはなんなのだ!」
「あのフォルマでもできないことはできません」
「初歩中の初歩だぞ!あぁもう!こんなことのために時間など割いてはいられぬ!お前は補習だ!」
「………はい」
無駄だと思いますけどねぇ。
そう聞こえないように呟いたのは、たった今まで攻撃魔法の教師ファナックに怒鳴られていたルーナリアだ。
魔法学園の制服に身を包み、紺色の髪に、紺色の目をした少女は、つまらなそうに口を尖らせ、ファナックの背中を見送った。
その胸元を飾るリボンの色は赤。
魔法学園において、特別を意味する、虹の魔法の使い手の学年の証だ。
「補習したところで、どうせ落第も退学もしないっていうのに」
またもファナックには聞こえない程度の声でルーナリアは呟いた。そして、胸元の赤いリボンを指に絡める。
そう、ルーナリアは赤のリボンを持つが故、本来ならば落第レベルの攻撃魔法力なのに、学園を去ることのない劣等生代表なのだ。