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ルーナリアの魔力

「おかしな魔力…とは?」

「リア、君に会った時から何か不思議な魔力を感じていた。レイ、君も感じているな?」

「あぁ」

「それはあれですか。攻撃魔法の使えない私の魔力は、他とは違う異様なものだ、とかそういうのですか?」

「そういう卑下を含んだ誤魔化しは不要だ。僕はこう見えて結構魔力が多い。そして、魔力の流れを見る力は結構高めだ。」

「殿下こそ、ご自分のことを卑下するなんてらしくありませんね。殿下の魔力量が相当量なことは、その金色の髪が証明していますのに」


 ルーナリアはうつむいていた顔を上げ、ウィルフレドを見た。その目は秘密の暴露は許さないとばかりに鋭い。


 魔力量は、髪の毛の色に現れる。この学園に一番多い色は、こげ茶色。魔力量は、多いとも少ないとも言えず、普通。次に多いのは、薄い茶色。魔力量は中から多め。レイアードの持つ輝く茶色は特別で、魔力量はかなり多い。ただし、レイアードはスナイデル家に伝わる特別な髪の色であるから、その色だけで判断できるものではなく、魔力量を測定し、多いことがわかった。

 そしてウィルフレドの輝く金色の髪は、魔力量がかなり多いことを表す。。金色の髪は王家に伝わる、こちらも特別な髪の色だが、輝けば輝くほど魔力量が多いとされている。国王陛下も金色の髪をしているが、ウィルフレドほど輝いてはいない。赤の王子殿下も、同じく金色の髪をしているが、輝きは少ない。そもそも王家の血を引くものは魔力を多く持って生まれるので、赤の王子殿下も魔力量は他より多いほうだが、ウィルフレドとの差はかなりあるとされている。


「じゃあ、どうしてリアの髪の色は紺色なんだろうね」

「…さぁ、持って生まれたものですので…としか言えないんですけれども」


 ルーナリアの持つ紺色の髪の色は、魔力量がそう多くないことを示している。魔力を持たないものの髪の色は黒色。少しでも魔力があれば黒ではなく、ルーナリアのように紺色だったり、濃いグレーだったり、黒に近いけれど、そうではない色を持って生まれる。そしてそれは庶民に多く、この学園で下に見られる色だ。


「錬金ができて、結界が見えて、防御魔法が使えて、移動魔法も難なく使える。そんな人間の髪の色が紺色とは、ありえないよね」

「……」


 ウィルフレドは確信しているのだろう。ルーナリアの秘密に気づいていて、誤魔化す気はない。射抜くような目でウィルフレドはルーナリアを見ていた。


 魔石の錬金を見られていた時、ひょっとしたら気付かれたかもしれないと思った。錬金は勉強すればだいたいの人間ができるようにはなる。しかし、昼休憩のちょっとした時間で魔石を錬金するというのは、難しい。そう、紺色の髪の持ち主には不可能だ。

 結界を言い当てた時のウィルフレドの反応も、試されている感じがした。けれど、フォルマの娘であるルーナリアを試そうとする者は多い。確信は得られなかった。

 防御魔法を使ったのは予定外だった。けれど、あの状況下では致し方のないことだと思った。この国に住まう国民として、この国の王子殿下を守らないという選択肢はない。ルーナリアは、フォルマの娘だ。この国に、この国の王に忠誠を誓うフォルマの娘。あそこで防御魔法を展開したルーナリアを、父は咎めはしないだろう。

 魔石のついた杖を呼び出して使ったのは、もう隠す必要を感じなかったからだ。ウィルフレドは聡明だ。杖を使うまでもなく分かっていただろうとは思ったけれど、駄目押しにはなったはずだ。あれも自作かと聞いてきたのは、念のための確認か。

 移動魔法は…、油断だ。あれも簡単な魔法ではない。この学園の生徒はほとんどが使えるが、弁当の呼び出しなど簡単なことに使うのは、相当手慣れだと示していることになる。


「入学してから今まで、誰も気づかなかったんですよ。ここの教師も誰も気づきませんでした。さすが王子殿下は聡明でいらっしゃいますね。それとも、ここの教師がそうでもないだけでしょうか」

「おやおや、なかなか辛辣なことを言うね」

「例え私の髪の色が真実とは違ったとして、それは問題になりますか?実際の魔力量より多めに見せているなら問題でしょうが、そもそもそれはできないですし」


 魔力は髪の色で判断される。実際の魔力量より多く見せることができれば、色々と都合のいいことはある。ただ、そうできる魔法はない。ルーナリアのように、自分の魔力量より少なく見せる色に変えることはできる。ルーナリア以外にもそうしている生徒がいることを、ルーナリアは知っていた。


「庶民の分際で魔力量が多いと知られれば、目立ちますからね。嫌がらせも増えます。そのために色を変えているだけですよ。庶民の処世術です。これで、満足ですか?」

「…誤解をしないでほしい。そのために君に近づいたわけではない」

「未婚のレディの髪の毛を勝手に触るなんて、失礼ですよ」


 いつの間にかルーナリアとの距離を縮めていたウィルフレドは、ルーナリアの背中まで伸びた紺色の髪を一掴みし、そっと口元に寄せた。


「あの、それは友人の範囲を越えていますよね。お戯れはやめてください」


 ルーナリアは心を乱すことなく、冷静にウィルフレドを見つめる。


「覗き見は許しますが、魔法の解除はやめてください」

「おや」

「この魔法をかけたのは父です。私の許可なく解除すれば、父が飛んできますよ」

「うっ」

「それこそ言葉の通り飛んでくると思いますよ。父と対峙する覚悟がおありでしたら、どうぞ」

「いや…、やめておこう。フォルマを敵には回したくない。父よりフォルマの方が怖い」


 ウィルフレドはルーナリアの髪の毛を離し、渋い顔をした。ウィルフレドの脛はやはり父の存在なのだなと再認したルーナリアだった。


「あぁ、でもそうしたら私だって父に会えたんだから、止めない方が良かったですね。失敗しました。どうしても会いたくなったら、誰かをそそのかすのもいいかもしれませんね」

「……」


 ルーナリアはファザコンだった。

 そして、ルーナリアの悪魔のような笑みを見て、ルーナリアも敵には回すまいと、ウィルフレドは思ったのだった。




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