楽しい…お昼ご飯?
本日二度目の投稿です。
中弛み感が…否めなかったもので。
サンドイッチの攻防戦をかわしにかわし、どうにかあの一切れ以上のサンドイッチを食べることはなく、ルーナリアはお昼ご飯を食べ終わった。
食後のデザートはさすがに回避できなかったけれど。
「普段食べているフルーツも十分美味しいと思っていたのに、このフルーツはその上をいく美味しさ…。恐るべし、王族」
バスケットの中で煌めいて見えたのは、幻覚ではなかったんだなと、ルーナリアは天を仰いだ。恐ろしく瑞々しく、恐ろしく甘い。これは寮で食べているフルーツとは全くの別物だ。この世にこんな食べ物が存在していたとは、ただただ恐ろしい…。
ルーナリアの言葉を肯定も否定もせず、ウィルフレドとレイアードは苦笑していた。
こっちの苺はどんな味がするのかと、震える手で摘みながら、ルーナリアは口を開いた。食べるためではなく、言葉を紡ぐために。
「ところで、今日は何を聞きたくて呼び出したんですか?」
「ん?」
「魔物を倒した場面に私がいなかったことにしてくれた見返りで、ここに呼び出されたんですよね?」
「あぁ」
ルーナリアは意を決して苺を口に入れた。途端に口の中に甘酸っぱさが広がる。甘味料なしでもすごく甘く、けれど絶妙な酸味がそれをくどくさせない。こちらも蕩けそうな美味しさだ。ウィルフレドの声が聞こえなくなりそうなほどの幸せを感じた。
「あれは見返りじゃなく、ただの約束さ。友人ともっと親しくなりたいという、していうなら下心かな?」
「ぐっ…」
苺を吐き出すかと思った。苺がくれた幸せが消えていくかと思った。なんて恐ろしいことを言うのだ、この王子殿下は。友人?友人とは私のこと…なの?え?友人?え?
ルーナリアは混乱した。
「ふっ、本当に顔にでるね。僕は昨日言ったと思うんだけどな。君と親しくなりたいと。つまりは、友人になりたいと言うことだよ」
友人…とは…?いや待て。待て待て。確か昨日このくだりで、話がおかしな方に転がったはずだ。確か殿下は昨日私の手を取って…、手を…取って…、その後…。
ポンッ!と音がしたかと思うくらい勢いよくルーナリアの頬が熱を持ち、赤く染まった。
「ど、どうした…?」
慌てて両手で頬を抑えるが、異変に気付いたウィルフレドが少し慌てた。
なぜ今の今まで忘れていたのか私!いくら魔物のことがあったからといって、すっかり忘れるとはどういうことか。昨日殿下はおかしな事を言っていたではないか。
まさか本気ではないだろう。しかし、魔がさすことはある…かもしれない?あるのか?
ルーナリアは混乱した頭で自分を責めた。そして迷走した。
「え、えぇと、殿下?恐れながら、私は特段顔が整っているわけではありませんし、年上のお姉様型のように素晴らしい体つきをしているわけでもありませんし、もしかしたら魔が差して物珍しいものが気になってしまったのかもしれませんが、えぇと…」
なんと言っていいかわからず言葉を詰まらせていると、レイアードがウィルフレドに何かを耳打ちしたのが見えた。途端、ウィルフレドは目を見開いた。
「あぁ!昨日はすまなかった!調子に乗りすぎたんだ!本当にすまない。そういう意味ではないんだ。本当に話をしたかっただけで、そういう下心で近づいたんじゃないんだ」
「で、殿下?」
「あわよくばはさておいといて、君と話すのが楽しいから、友人として親しくなりたいと思ったんだよ。だから、呼び出したんだ。そうでもなければ君と話すことはできないだろう?」
何かおかしな事を言われたような気もしたが、気のせいか。
「僕と友人になってくれないだろうか?ルーナリア嬢」
「……とんでもなく恐れ多いのですが…」
ウィルフレドがルーナリアに向かってキラキラ王子様スマイルを向けている。これを向けられた貴族令嬢は、きっと卒倒するだろう。何せウィルフレドは顔が整っている。ウィルフレドが微笑めば、大体の令嬢は大人しくなると言われているくらいだ。
ルーナリアには無効だが。
「もちろん、学園内で無駄に話しかけるなんて間抜けなことはしないと誓うよ。残念ながら君の言うように、ここは身分を問わないと言いながら、身分社会が染み込んでいるからね」
「……」
「そうだな、迷惑でなければお昼ご飯を一緒に食べる友人になってくれると嬉しい。もちろん、結界は張ろう」
「私は…そこまで気にかけてもらうような人間ではないと思うのですが…」
「僕が気に入ったのだからそれでいいんだよ。それで、返答は?」
ここまで気遣われて、それ以外の返答なんてできるだろうか。本来ならば、こんな選択肢すら与えられることもないはずなのに。
「え、餌付けをしないでくれるのならば、その…友人としてよろしくお願いします」
友人になってもいいなど、庶民が王子殿下に言う言葉ではない。ひどく緊張しながらルーナリアは返答し、ウィルフレドは満足げに笑顔を浮かべた。




