305号室の少年 (un)happy end
ルート1
今日はボクの10才の誕生日だ。
なのに今日一日ずっとお父さんもお母さんもいない。
ボクの誕生日なのに。
白い壁に貼られたカレンダーを眺める。
9月の21日。ボクの誕生日だとわかるように大きく花丸が付けられてある。
間違いなく、ボクの誕生日。
カレンダーを眺めていたら部屋の扉が開いた。
リツノお姉さんだ。いつも白い服を着ている。白色が好きなんだろうな。
「ナツキくん、はい、お誕生日おめでとう」
リツノお姉さんがプレゼントをくれた。
ありがとう。
ボクはリツノお姉さんにお礼を言う。
そうだ、リツノお姉さんはボクのお父さんとお母さんがいない理由を知っているかもしれない。
聞いてみよう。
そうしたら、リツノお姉さんは寂しそうな顔をして言った。
「お父さんとお母さんはね、お仕事が忙しいみたいなの。ナツキくんにごめんねって言ってた」
そっか、お仕事が忙しいのか。じゃあ、仕方が、ないかな。
くいっ、くいっ、とボクの服が引っ張られる。
弟がボクの顔を見上げるように見つめていた。
プレゼント? だめだよ、これはボクのだ。それに今日はお前の誕生日じゃないだろ?
それでもずっとボクの服を引っ張る弟。
ボクは困ってリツノお姉さんの顔を見る。
「うーん、じゃあナツキくん、弟くんにはこのアメをあげたらどうかな?」
リツノさんがくれたアメ玉を弟に渡す。
あっ、弟がボクが渡したアメ玉を受け取らずに床に落とした。
なんて我が儘な弟なんだろう。
「ん? あ、ごめんナツキくん。私もう行かなきゃ」
携帯で電話をしながらリツノお姉さんは部屋から出て行ってしまった。
また、誰もいなくなっちゃったな。
広い部屋ですることのないボクは体育座りになる。
すると、また弟がボクの服の袖を引っ張った。
今度は何? え、扉?
弟が指さした先にはいつもは閉まっている部屋の扉が少し開いていた。
たぶんリツノさんが閉め損ねたんだろう。
弟が開いた扉の先を指さす。
え、外に出るの? ダメだよ。外に出たらいけないって言われてるじゃないか。
リツノお姉さんに怒られちゃう。
それでも弟は何度も何度も扉の先を指さした
ダメ、ダメ! 外には行かないの!!
服の袖を何度も何度も引っ張る弟を無視してボクは動かなかった。
いつの間にか、弟もボクを連れ出すことを諦めたのか、どこかに行ってしまった。
ボクは体育座りからゴロリと横になる。目の前にあるのは半開きの扉。
ボクは、扉からは出ない。ちゃんと言うことを聞くいい子なんだから。
起き上がったボクは半開きの扉をそっと閉める。
よし、これで大丈夫。
ガチャリ、と音がして閉めたはずの扉が開いた。
ガツン!! と、扉の目の前に立っていたボクの鼻が開けられた扉とぶつかる。
痛い、ちょっと涙が出てきそう。
「ナツキ、いるかー?」
開けられた扉から声が聞こえてきた。
この声、お父さん!?
「お、ナツキ! 元気してたか?」
部屋に入ってきたお父さんがボクの頭を乱暴に撫でる。
「ナツキ、遅くなっちゃってごめんね」
お父さんに続いて、ケーキを抱えたお母さんも部屋に入ってくる。
「今日はナツキのお誕生日だからケーキを買ってきたの。みんなで食べましょ?」
ボクとお父さんとお母さん。みんなで食べたイチゴのケーキはとてもおいしかった。