異世界人と会えたのは行幸のはずなんだけどな
ノリにのって3話目投稿
足音が聞こえてくる。何人かこちらに向かってくるみたいだ。
渡りに船である。だって知らない山道を何日もあてもなくさまよう可能性もあったのだから、道に出た瞬間に人と出くわせるなんて神の思し召しではないだろうか。
だんだん足音が大きくなってくる。姿がおぼろげに確認できるが、彼らは中世ヨーロッパにでも出てきそうな鎧を着ているみたいだ。ただ、足をひきずっているものがいたり、肩を貸してもらってなんとか歩いているものもいるみたいで疲労困憊が伝わってくる。
こんな状況で、「すみませーん。道に迷っちゃったみたいなんですけど、麓の街まで案内してくださーい。あわせてこの世界の知識も教示してくださーい。」なんて言わなければならないのだろうか。空気を読めてないのもほどがあるが覚悟を決めないといけない。こっちとしても彼らと同行できるかどうかは死活問題なのだから。
ちょっとどんよりとしながらも彼らとの距離が詰まるのを待っていると、彼らのうちの一人が俺に気が付いたみたいだ。
「こんなところでなにしてんだ!?どうした!?」
無精ひげを生やした赤毛のおっさんがつんざくような声で尋ねてくる。
「いやーちょっと道に迷ってしまったみたいで、立ち往生してしまっていたんですよ。近くの村ってどのあたりですか。」
「近くの村ー?このあたりに村なんてあるわけないだろ!
・・・・・・・お前もしかして魔物じゃないだろうな?」
ちょっとこのおっさん剣呑なこと言いだしたぞ!てか剣の柄の手をかけているし!!
「いや人間ですよ!!人間!!!!このあたりのことに詳しくないのは記憶消失になってしまってよくわかんないんですよ。ほんとにほんと!!!」
こんなところで殺されてたまるか。せっかく会社から逃げ切ってファンタジーライフを堪能するつもりだったのに。記憶喪失の話とかそういうのは辻褄とかをきちんと考えてから説明しようと思ったのに、これじゃ作戦が台無しだ。
「記憶喪失だと?それは本当か!?」
おっさんは警戒状態を解こうとしない。こちらを睨む睨む。
どうすればよいか思考をフル回転しながら、こちらも目を離さない。こういうときは離したほうが負けなのだ。どう言えば信頼してもらって街まで連れて行ってもらえるのか。このおっさんは見るからに乱暴粗雑、武芸一筋で来たような雰囲気だ。・・・・・正直このおっさんを懐柔するのは無理な気がしてきた。
「イーガルよ。それまでにしておけ。魔物にここまでの知能はない。どうやら先ほどのドラゴンの毒素にやられたのだろう。
貴殿よ。申し訳ない。部下の無礼を許してくれ。こちらも事情が事情で気を荒立ててしまっていてな」
イーガルなるおっさんの後ろから声をかけたのは、金髪碧眼の美人騎士であった。腰まである髪は泥や血みたいなもので汚れているものの、その美しさを失っていない。
こんな美人に出会えて、しかも西洋甲冑のコスプレまでしているなんて異世界最高じゃん!!と気持ちは高ぶるが、もちろんそんな言葉を出せる雰囲気でもない。
「すみません。こちらこそ記憶喪失とか面倒なものになってしまって。右も左もわからない状況で人影が見えたのでつい舞い上がってしまったんです。」
「人影が見えて?すると君は私たちの姿を向こうから確認していたということだろうか。」
「ええ、まあそうですけど。なにか無礼なことしてしまいましたか。礼儀作法とかに触れることであれば寛大に見ていただければありがたいんですけど。」
「いやなに、遠目から見ることが破廉恥というわけではない。無論着替え中ならまだしもだがな。」
ジョークを交えながらの笑みというのはすごい。さきほどまであった剣呑な雰囲気は霧消したようだ。少なくともおれはそう感じる。美女の後ろにいるおっさんがどう感じているかは知らない。
さあここから同行させてもらうためにどう頼み込もうか。この人なら無碍に断ることはないだろうが、念には念を入れて言葉を選ぼう。そう考えて口を開こうとした矢先、この美女はこう告げたのであった。
「順番が前後したが、私はミラス王国第2師団の副師団長アレルナ。石龍制圧任務中であったが、現在撤退中の身である。」