異世界転移ということにしておこう。そうしよう。
「兵は神速を貴ぶ」
よくわからない状況でも行動あるのみである。
目が覚める。
いま何時だろう。7時には家でないといけないから6時前の時間をスマホが告げてくれればいいのだが。
そう思い布団の端にあるはずのスマホを探すが見当たらない。
というか自室ですらない。周りを見渡すとどうやら森の中らしいが、なぜ自分がこんなとこで寝ていたのか検討もつかない。
電車のドアから落ちるという夢を見ていたのは覚えているが、あくまでそれは夢の話であったはずだ。
だってリアルでそんなことが起こるわけないのだから。
ひとまず現状確認。なにごとも「確認→行動」というのが大事ということは2年少しサラリーマンとして勤めた俺には痛感するほど身に染みていた。
まず自分の身なりの確認。目を自分の体に向けると、どうやら木こりの格好をしているようだ。見たこともない服。当然そんな服を買ったことも着たこともない。
「え???」
まだスーツや自分が買った私服を着ているのならいいが、知らない服を着ている。場所だけ見知らないならまだしも、服装まで見に覚えがないとか夢遊病にでもなったのか、おれ。
身に付けているものをもう少し確かめてみると、腰に西部映画にでも出てきそうな銃入れがついている。
ボタンを外してぶら下がっているものを確認すると、それはまさしく拳銃そのものであった。
わけわかんないが、装備品の探索を続行。
結果自分がもっているものは、銃、大き目の袋、ふたきれのパン、コンパス?のような器具。
察するに、自分はなんか獲物とか果実とか採集するためにこの森に入ってきた模様である。勿論推測。
現状確認はひとまずできたので、現状について推察してみる。
目を覚める前に見た夢の中で「世界なんで滅んでしまえ」と願って、電車のホームから落下して、意味のわからない格好で森の中で寝ていた現状。これを冷静な頭で分析するに、
「これって異世界転移じゃね?!」
なんでスーツを着ていないとか、銃とかを所持しているのかは脇に置いとくとしよう。どうせ考えてもわからないし。本当に異世界転移なわけはないだろうが、そういうことにしておいたほうが精神衛生上良い。だって異世界だとすればわくわくするし、逆にリアルだと考えれば知らない場所で知らない格好をしている状況は怖すぎるから。
ではこれからどうしようか。
ひとまずすべきことは生き延びることだ。
日本でも素人が山にはいって遭難することがあることぐらいだから、異世界転移した俺がこのまま生き延びるためには死力を尽くして、人がいるところまで移動しなければならない。
混乱しながらも今後の行動をどうするか考える。自分がいる近くにちらっと開けている個所が見える。あれは道だろうか。
ひとまずその道のような場所に行こうと歩を進めた瞬間に、道の方向から足音が聞こえてくる。
幸運の天使というのは偶然やってくるものなのである。望むとも望まずとも。