ケルニアの盗賊 F
俺はアレルナとともに今宿屋への帰路へと着いている。
イーガルを撃ったあとに街の守衛が俺を詰め所へと連行したが、それを聞きつけたアレルナが来てくれて、なんとか釈放してくれた。師団の内部問題は師団で解決するとかそんな理由をつけてでのことだ。
沈黙が二人を包む。
「君は大きな罪悪感を感じているかもしれないが、元はといえばイーガルが君の魔銃を盗んだのが発端であるし、仲間の武具を盗むことは重罪だ。気を病むな、とは言わないが、私は君を処罰しようとは思わない。」
「腹が立っていたの事実ですが、まさか魔銃にまだ魔素が残っていたなんて思いも知りませんでした。
取返しのつかないことをしてしまった思いです。」
俺は後悔と自責の感情を表情に出す。イーガルへの罪悪感は当然あるのだが、ここでアレルナに見切りをつけられないようにするための打算の意味もそこにはあった。
「その罪悪感だけでイーガルへの弔いにもなる。今日君がやった罪を心に留めておけ。大きな力というのは使い方次第によって薬にでも毒にでもなるのだ。」
きっと魔銃のことを言っているんだろう。俺は初めて人を殺した恐怖心から早く抜け出したくて、その日は宿屋に戻り次第寝ることとしたのである。
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ひどい寝起きだ。結局寝付けなかった。なぜ、あそこで銃口を向けてしまったのか、引き金を引いてしまったのか。
唯一の救いは、いまだ俺はこの世界をリアルだととらえきれていないところだ。心のどこかでこの世界は夢の世界であるとか、現世ではないとか、ただの異世界であるとか、非現実的なところだと思っている節がある。そのおかげで罪悪感を減殺することができている。
まあ、我ながらクズなこった。
宿屋周辺は忙しく動き回っている。今日は出立の日。師団の皆が荷台に荷物を積んでいる。
この世界の荷台には車輪がない。代わりに荷台の下側に半畳分ぐらいの魔石が埋め込まれており、魔素の力で荷台を浮かせる仕組みとなっているのである。
そんな様子を眺めていると、アレルナが近寄ってきた。
「ひどい顔だな。まあ初めて人を殺めたのだ。当然だろう。むしろケロッとしているほうが怖いぐらいだ。」
アレルナは少しの笑みを浮かべている。一体どういった感情がそこに含まれているのか俺には計り知れない。大事な部下を殺された憤りか、俺が元気なことへの満足か。それともまた別のものか。
「副師団長!!!準備が整いました!!いつでも出発できます。」
「よし!では参ろうではないか。祖国ミリアへとな!!!」
こうして俺は初めて人を殺めたその日の、その街を発つこととなったのである。