ケルニアの盗賊 E
「しかし、この世界の文明は意外と発展しているな。」
俺は自室で今日の探索の感想を漏らしていた。
朝方魔素についてアレルナに尋ねてからずっと街をぶらぶらしていたのだが、魔素を使ったのかあらゆることが俺の異世界間をぶっ壊してくれた。
通常なら馬一頭で運べるもののない量の荷も荷台に魔石を埋め込むことで、荷台を浮かして馬の負担を軽くしているのだ。だから、すごい量の荷を運搬する馬車を道で何台も見た。
また新鮮な魚介類がこの内陸の街に大量にあるのも、魔素の力で冷却することによって成り立っていることがわかった。魚屋の前に並べられている魚の下には緑色に輝く魔石が置かれていた。
こういった知識は街の人たちから直接聞いたりして得たものだ。サラリーマンを2年間やってきた経験というのは意外に役立つものだ。当然戻りたくはない。
そんな感じで街の探索を楽しんだ俺は宿屋に戻ってきている。もう夜だ。今は窓を開けて街の様子を観察している。街には街灯が何本かあり、夜でも活動している。魔石自体はある程度高価なものらしく、街灯自体の数は少ないので、限られた場所にしか設置されていない。
俺が街の様子をぼーっと眺めてみると、おっさんがこそこそと街に向かって歩いているのが見えた。
「あれイーガルじゃないか。なにしてんだ。こんな時間に。」
イーガルは手提げサイズの袋を持って一人夜道を歩いていた。
俺の予想だと、風俗か飲み屋だな。
あいつには出会い頭にいちゃもんつけられたから、こっそりつけて脅かしてやろうか。あわよくば意気投合しておごってもらおう。
俺はちょっとハイになっていたらしく、宿屋を出てイーガルを追ってみることにした。
――――――――――
イーガルは暗い道を歩いている。俺はこそこそと物陰に隠れながら歩く。あえてなのか、たまたまか、街灯のない通りだ。
(しかしイーガルはどこへ行くつもりなんだろうな。飲み屋とか風俗店がある方向とは違う気がするんだが)
日中に街をある程度探索したが、イーガルが向かるのは繁華街とは逆の方向だ。
(これはむしろ楽しくなってきたな。ますますどこに行くのか気になるぜ)
そんなことを考えながら着いていくと、イーガルは古めいたレンガ造りの店へと入っていった。
俺は店の前まで行く
「これは武器屋だな。なんだ、普通に買い物に来ただけじゃねえか。」
興が醒めたため、俺は帰路へと着こうとした瞬間、イーガルが店から出てきた。
俺は反射的に店と店との間の路地に隠れる。
「くそ!!ただの魔素切れの魔銃だと!?ふざけんな。そんなのでドラゴンを二体も倒せるわけねえじゃねえかよ。せっかくあの小僧からパクってきたってのに。」
イーガルはでっかい声で魔銃を持ちながら愚痴をこぼしている。てか、あの魔銃俺のじゃねえか。
どうやら魔銃を売るために、イーガルが俺から盗んだみたいだったらしい。
(異世界に着て、ほぼ裸一貫の俺から、武器まで取り上げるとは不届きものめ。)
俺は怒りのあまり路地から出て行った。
「おい!イーガル!てめえ俺の魔銃返しやがれ!!!」
「うお!?てめえなんでこんなとこにいやがる。」
イーガルはかなり驚愕している様子だ。
「お前俺が記憶喪失で、持ち物もほとんど持っていないの知っておきながら、魔銃まで取りやがって」
「うるせえ!!結局てめえの魔銃なんてただのガラクタと言われちまったよ!!こんなもん返してやるよ
どうせドラゴンを倒したのだって嘘八百なんだろうが。」
そういうと同時に魔銃を俺の方に投げてくる。俺は何とかそれをキャッチする。
「くそ!酒代の足しにでもしようと思ったのに。結局返してやったんだ。副師団長には黙っとけよ。」
捨て台詞を吐いてイーガルは俺を追い越して宿屋へと戻ろうとする。
(あんにゃろう。まさに盗人猛々しいだな、おい。)
俺は銃口をイーガルの後ろ頭に向ける。
(魔素が入っていたら今頃お前は殺されているからな)
ぶつけようのない怒りから俺は魔銃の指金を引く。
途端、
ズドォォォーン
イーガルの体は血潮に代わった。