許嫁4
(私のバカ!何考えてるの!先生は大人なのに……)
子どもの自分など相手にしてもらえない。ましてや先生と生徒なのだ。でも転校したら、生徒ではなくなるのだろうか。そんな淡い期待を無理やりかき消す。
そこで蒼永にちんちくりんと言われたことを思い出す。光姫の身長は154センチで足のサイズも小さい。胸も小さい。お日さま色の髪は鎖骨あたりまであるセミロングで、右側だけ少し髪を取り、ピンクのリボンで結わいている。このリボンは誰かからもらったもので、母がこうしたらかわいいと今のヘアスタイルにしてくれた。以来光姫のトレードマークとなっている。誰にもらったのかは忘れてしまった。
自分では気に入っているけれど、ちんちくりんと言われるように子どもっぽいのかもしれない。
「でもさ、だからって面と向かって言う?デリカシーなさすぎだよねっ、ランラン」
「おい」
「きゃあああ!?」
急に声をかけられたと思ったら、ドアの外に蒼永がいた。
「何一人でブツブツ言ってんだよ」
「そっちこそ勝手に開けないで!」
「ここは俺ん家だろ。飯だから来い」
「うっ、わかった」
「お前、その人形……」
蒼永はパンダのランランに目を向ける。
「いい年こいて人形遊びかよ。つくづくガキだな」
「うるさい!ほっといてよ!」
「しかも汚ねぇ」
「ランランに触らないで!」
「ランラン?」
「この子の名前」
「っ、ふは」
蒼永は噴き出したかと思うと、声をあげて笑い出す。
「名前までつけて、ダッサ」
「も〜〜!うるさいってば!出てって!!」
「……変わってねぇな」
「はあ?」
「なんでもねーよ。ジジィがうるせえからとっとと来いノロマ」
「あんたは一言多いのよ!」
本当に嫌味な奴だと思う。だが、笑ったところを初めて見た。出会った時から不機嫌な仏頂面だったが、あんな風にくしゃっと笑うことも出来るらしい。だからどうということはないのだけど。
光姫はランランをベッドに座らせ、蒼永について居間に向かった。九竜家はとにかく広く、光姫の部屋から居間まで長い渡り廊下を歩いていかなければいけない。迷子になりそうな広さだ。中庭には趣ある和風庭園が広がっている。鹿おどしの音が涼しげで気持ちいい。
「綺麗なお庭だね」
思わずそう呟いていた。
「おじいさんが手入れしてるの?」
「いや庭師」
「庭師さんがいるんだ……」
さすがは立派な家を構えているだけあるなと思った。他にもお手伝いさんが何人か来ているらしい。
(ご両親はいないのかな……?)
気になったけれど聞けずに居間に着いてしまった。何やら豪勢な和食が卓袱台にたくさん並んでいる。
「今日は光姫ちゃんの歓迎会じゃ。たんと食べなさい」
「すごい…!いただきます!」
「どうじゃ?」
「とっても美味しいです!」
「それは良かった」
本当にどれも美味しく、料亭で出されていると言われても信じてしまいそうだ。