彼女が戦う理由
小刀を逆手に構えなおした。
真剣を鞘から引き抜いた。
彼女は建物の上から静かに飛び降りた。
彼は体の力全てを足に集中させ、飛び跳ねた。
互いの距離はおよそ10メートル
ーー8メートル
ーーーー5メートル
ーーーーーー3メートル
ーーーーーーーー1メートル
「そこを退けええええええええええええええ!!!!」
「ここで死ねええええええええええええええ!!!!」
両者激突!!
すでに月は雲に隠れてまた静かな暗闇が帰って来ている。
そんな中で激しい金属音と飛び散る火花!
飛び上がる力と落ちる力。どちらが強いかは前世組ならすぐにわかることだ。それに加えてお互いのこの世界に来てからの年月の差ーー戦いの経験値がこの勝負の明暗を分けた。
「落ちろぉぉぉぉぉぉォォォォォォ!!!」
右手で振るった小刀に左手を添えて彼の剣を押し切り、両腕を弾く。それによってがら空きの胴体に彼女の鍛え上げた足が突き刺さる!
「ぐはっ!!」
蛙が潰れたような音ともに地面に叩きつけられる。肺から全ての空気を吐き出されて上手く呼吸が出来ない中、愛紗は畳み掛ける。
両膝を曲げて着地の衝撃を減らすと、未だにうずくまり、嗚咽しているルイスの横っ腹を蹴り飛ばす。更に追撃に何本かのナイフを投げ飛ばす。
「ゲホゲホッ!!」
地面と平行に飛んだ彼は背中から建物の壁に激突し、激痛に顔をしかめる。しかし、相手はその間にも待ってくれる訳がなく、飛んできたナイフが右肩、左腕に突き刺さった。
「ーー諦めなさい。抵抗すればするほど痛い目に遭うわよ。」
肉を切り裂き、骨までやられたのではないかと思う痛みに頭が正常に働かない中で聞こえた声になんとか力を振り絞って立ち上がる。
「ーー諦めるか。馬鹿野郎!ダチが捕まってんだぞ!!こんなことで諦められるか!!」
「そう……なら貴方をここで殺さないとね。」
メキィと地面が砕けた音が聞こえた瞬間には既にティアは蹴りのモーションに入っていた。反射的に体を極めて土下座のような体制で踞る。
かすかに何かが焼けるような匂いとともにボゴン!という破壊音が聞こえた。だがそれで終わらず、そのまま勢いよく前転して彼女の股下をくぐり抜ける。
ドガン!という音が鳴り響き思わず振り向くと、壁にできた横一文字の蹴りの跡と穴が空いた地面の意味を理解して冷や汗が流れる。
(普通、横蹴りとカカト落としでこんなことになるかよ……)
今更ながらだが彼は前の世界がどれだけ温かったかを再確認する。
(この世界の戦いって所詮はケンカの延長戦だと思ってだがそんなことはない!!これは間違いなく命の取り合いじゃねえか!?)
「あら?怯えてるの?」
「はあ!?な、何言って!!」
思わず立ち上がろうとしたルイス。しかし、その強く言った言葉とは裏腹に足はガクガク震え、冷や汗が手にまで滲んでいる。
「別に隠すことじゃないわ。それは誰にだってあるものだから。死の恐怖を実感したのでしょう?」
「これが……かよ。」
震えが止まらない。
頭では止まれ!止まれ!と指示を出すのに体は言うことを聞かない。
「怖いでしょう?恐ろしいでしょ?これが戦いよ。これこそが殺し合いよ。」
「はっ……ちげえし、これは武者震いだっての!」
剣を支えにして何とか立ち上がり、虚勢をはる彼にティアの顔から感情が消えた。
「もういいわ……付き合うのも限界だし、殺すわね。」
刹那、砕けた壁の前から彼女が消えたと思うと視界が急展開する。何が起きたかはわからない状況下でルイスは恐怖に苛まれ、無闇やたらに剣を振るう。
「隙だらけ。これでおしまい。」
耳元から聞こえたその声の後に
ボキィン!何かが砕ける音がした。
「あ…が!ひ、左腕が!!」
サッカーボールのように蹴飛ばされ、地面に転がるルイス。すぐに来る追撃から身を守ろうとするがそこで異変に気付いた。
左腕の感覚がない。まるでゴムのような皮膚の感触しか感じられない。
「手応えからして多分粉砕骨折。もう満足に剣は震えないわよ。」
再び月明かりの下で両者は合間見える。
光を浴びながら悠然と佇むティア。
苦痛に顔を歪めて地面を転がるルイス。
「なあ……1つ聞いていいか?」
両者の決着はもう明らか。そのせいか、ティアは最後にその質問に答える。
「いいわ、何?」
聞かれることに予想はついていた。
1番有力なのは自分が死ねば未来を無事に解放するかどうか。
次に他の人達に手を出すのかどうか。
そして1番可能性が低いのが自分を見逃してはくれないかと言う嘆願。
全て答えは決まっている。
最初の質問は無理だろう。私に関わりすぎた彼女は恐らく消される。
次に彼らの関係者だがこれは恐らく大丈夫だ。幾ら何でも正体さえバレていなければ元騎士王を相手にしようとは思わないはずだ。
最後は絶対に無理。
「……なあ、何でお前はそんな顔をするんだ。」
しかし、死にかけの彼から出た言葉は彼女の予想斜めを行くものだったーー
〜愛紗〜
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で
「そうやって隙でも狙うつもり?甘いわよ。マロングラッセより甘いわ。」
「そうか……じゃあ俺が見えるその涙に濡れた後は見間違いってことだな。」
嘘よ!涙なんて私が流すわけ無いじゃない!私は暗殺者として育てられた!その時に感情を殺す方法だって教わった!
そんな……そんな私が
「ええそうよ、見間違い。聞きたいことはそれで終わり?なら殺すわ。」
「いや、やっぱりまだだ。なあ……お前は俺より強いよ。だから、おかしい。何でそんなお前が俺を殺せないんだ?」
それは!それは……そ、れ……は
「答えは1つ。俺がお前や未来を愛するようにお前も俺たちに友愛や家族愛を持っているからだ。」
違う!違います!私はティア!愛紗じゃない!そんな愛なんて貴方達に抱いたことはない!
「愛を大事にするお前じゃあ俺たちは殺せないよな。……なあ愛紗、お前、一体何を隠してる?」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う
もう聞きたくない!悪いけど貴方の気持ち利用させてもらう!
「減らず口はそこまでです。死んでもらいますよ。」
念のため、距離を取り眉間に当たるようナイフの狙いをつけて宣告する。彼の事だ。きっと私の気持ちを汲んで死んでくれるだろう……
彼はそれでも真っ直ぐこちらを見つめるとーー
「ーー嫌だね。」
ーー不敵に笑った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「何でですか!?貴方の信念に従うなら!ここで死ぬべきでしょうが!!」
「バーカ。お前って意外と馬鹿だよな。」
死の一歩手前まで来ているのにいつものように軽い口調で相手を小馬鹿にする。気づけば彼の震えは止まっていた。
「一度死んで分かったんだよ。ーー死んじまったら誰がお前達の笑顔を守るんだ。」
剣を杖代わりに壁に体を預けながらも二本の足で立った友哉からはもう恐怖も迷いもなくなっていた。
「笑顔?何を言ってーー」
「ようやく思い出したんだよ、俺の信念って奴を」
左腕は砕け、口からは血が滴り落ちながらも彼の目は死んではいない。いやむしろ、爛々と輝いている。
「ーー友の笑顔を守ること。それが俺が生きる上での支えとした確かなものだ。」
一歩、壁に寄りかかりながら愛紗のもとへと進む。
「戯言を!!今にも死にそうな友哉がどうやって守ると言うんですか!!」
ナイフを彼に向けて投げる。投げられたそれは空気を切り裂きながら右太腿に突き刺さった。
ガクンと彼の体が沈んだ。だが……彼は止まらない。
「こんなん痛くも痒くもねえよ。お前が抱えているもんに比べたら!!」
二歩、右手で痛む足を殴りつけ気合いで踏み出す。
「来ないで下さい!殺しますよ!」
止まらない彼に様々な感情が入り混じった顔でひたすら投げ続ける。腕に刺さり、脹脛を貫き、腹を切り裂く……それでも友哉は歩みを止めない。
「お前に俺は殺せねえよ。俺は知ってる、お前が優しいことを。みんなが知ってる、お前が結構弱いことも……」
三歩、足元には血の水たまりができ、目も虚ろげだ。だが、体を引きずってでも前進する。
「ーーおねがいですから…もう倒れて下さいよお……」
もうそこには冷徹無慈悲な暗殺者などおらず、ただ愛を欲しがった1人の少女がいた。
「だからこそお前にそんな顔をさせた奴を俺は許さねえ!!」
そしてようやく彼は倒れた。子供のように泣き噦る愛紗の前で。だが、彼はまだ止まらない。右手一本で体を引き摺っていく。
「ひっく、な、何でですか、何でそんなにボロボロになってまで私に向かってくるんですか!どうせ、死ぬんですよ!なら、余計な苦痛なんて味わなくて良いじゃないですか!」
彼女には理解できなかった。幾ら前世で家族のような存在だったとはいえ、今世では殺す相手と殺される相手だ。普通は誰だって見捨てるはずなのに……
愛紗は友哉の綺麗事や理想論を通り越した友哉の決意に戸惑う。
友哉に怨まれる覚悟は出来ていた。
未来に見限られる心構えもできていた。
それなのになぜ、友哉は私を見捨てないの?とーー
「お前が笑えなくなるからだーーだから見捨てない。」
愛紗はその予想を超えたその言葉に絶句する。
「ふ、ふざけないで下さい!私は貴方達を裏切ったんですよ!未来を連れ去って!友哉を此処まで傷付けた私にそんなことを言われる資格なんて有りません!」
悲痛な声に友哉は仰向けに転がり、俯く愛紗の顔を真っ直ぐに見つめた。
「優しいお前が自発的にそんなことをするかよ。恐らく黒幕がいるはずだ。お前が未来を誘拐したのも俺を殺そうとしたのも多分、そいつの指示だろう?だからーーお前が背追い込む必要はないんだ。」
優しく諭されるように言われたその言葉に彼女の決意が揺らぐ。核心を突かれた愛紗は今にも泣きそうな顔で友哉に向けて拳を振り下ろす。
「これは私の問題です!友哉が口出すことじゃないんですよ!だから!だから……もう」
彼女は残り最後のナイフを懐から取り出す。それを空高く掲げると友哉の頭に向けて振り下ろしたーー!!
「あ?生きてる?」
咄嗟に目を瞑り、迫り来るナイフを見ていなかった友哉は不思議に思いながらもふと横に顔を向ける。
そこには月の光を反射して輝く刃が突き刺さっていた。
「やっぱり馬鹿ですよね、友哉は。」
優しく髪を掻き分けられて、ひたいに手を添えられる。
「ただ殺されれば良かったのに、反抗期の子供みたいに駄々こねて歯向かうだけじゃなく、私の問題にまで首を突っ込んで行くんですから。」
頭を撫でながら友哉の頭を膝に乗せた。突き刺さっていたナイフを見ては苦しそうな顔になるとまた友哉を見つめる。
「何でですか?何でこんなにボロボロになるまで抗ったんですか?」
ぽたりと友哉の頬に雫が溢れる。それを見ると友哉は笑った。
「俺の友達を泣かせるわけにはいかなかったらだ。ーーだから笑ってくれよ。」
愛紗は自分のためにボロボロになってくれた殺すべき相手に涙を零し続ける。友哉はそんな彼女を止められたことに安堵する中、愛紗の笑顔を失わなくて良かったと微笑んだ。
「それで?一体誰がお前にそんなことを言ったんだ?」
愛紗による応急処置を受けて、血が止まった後も愛紗の膝枕状態で彼女からの話を聞く。
「私に未来を連れ去り、友哉を殺すよう指示したのはネキロという男ですーー」
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「ね、ネキロさん!?どうしてここに?」
私は最初はびっくりしました。けどいつか来るだろうと心構えが出来ていたからか直ぐに驚きを仮面の下に隠して平常を装ったんです。
「お前を監視していたのだ。最初、あの女にやられた時は焦ったが今じゃ良い具合に店に馴染んでいるではないか。良くやったな。」
「はい、ありがとうございます。」
「それで、いつ殺すんだ?なるべく早くしろよ。」
やっぱり、って最初は思いました。だけど私は友哉達を殺したくはない。しかし、爺様を裏切るわけにはいかない。私は迷ってしまったんです。
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「爺様?誰だそいつ。」
「本名は教えられません。ですが爺様は私達暗殺者集団『血の揺籠』の頭領で有りーー私の実の祖父です。」
「まじかよ。お前の家は暗殺者一家って事か?どこのゾルディ◯ク家だよ。」
そのうち心臓とか盗んだり、雷とか落としたりしねえだろうな。
「爺様は私の母、まあ爺様にとっては娘を暗殺者にしたくはない一心から私達を里から遠く離れた村に住ませてたんです。ですが、ある日、盗賊に襲われて母に庇われた私は床の下に隠れて何とかやり過ごしましたが……」
「ああもう良い、それ以上はしゃべんなんくていい、つまりそれがきっかけでお前はその爺さんに引き取られたって訳だな。」
こいつも辛いよな……せっかくお前自身を愛してくれる親に出会えたってのに……
「爺様は私を引き取ってくれましたが周りはあまり快く思っていなかったみたいです。幾ら頭領の孫でも我らの規律を守らなくてはいけませんから。」
「規律って?」
「"私達に関わるなら暗殺者として生きよ''。要は爺様の下で暮らすなら私は暗殺者として生きなきゃならなかったんです。」
……俺も中々のもんだと思ってだが愛紗はそれ以上だな。悲惨すぎるだろう。
「爺様は私に暗殺術を教えたがりませんでした。でも私はそうでもなかったんです。」
「前世とは違って爺様は愛してくれた。私が欲しかった1番のものをくれました。だから私もその気持ちに答えたかったんです。その上私にはフェイスがありましたから。」
俺はただ黙って彼女の話を聞いていた。爺様の話をする時の彼女の顔はとても嬉しそうで幸せそうだった。
「でも殺せない奴だっていたんだろ?こないだの話だとその時の爺様はどんな反応をしたんだ?」
体の痛みは引いてきたな。すごい効き目じゃねえか。愛紗が持ってた薬は。
「その時は毎度ネキロさんや他の人が代わりにやってくれましたが…他の人達からの私の評価はただ下りですよ。役立たず、そう言われて後ろ指を刺されることもありました。」
「でも爺様とやらは違ったんだろ?」
「はい!爺様はいつも失敗した私を怒ることはありませんでしたよ。非難されても庇ってくれたり、励ましてくれたりといつも優しかったです。でもーーそれもまやかしだったんですよ。」
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「い、今なんて……?」
「何度でも言おう。爺様ーーサナトス様はお前の血の繋がった祖父じゃあない。お前は私達が皆殺しにした村の娘だ。」
殺害を渋る私にネキロさんは告げました。まだ赤ん坊の私は瓦礫に塗れ、多大なショックを受けて仮死状態だったのを視察にきた爺様にひろわれたことを。
「サナトス様がお前を拾った理由は本人しか知らないところだが、間違いなくお前はサナトス様にとっては赤の他人だ。」
それを聞いた私は足元がガラガラと音を立てて崩れていくような錯覚に囚われました。
今まで過ごしてきた思い出は全てまやかしで受けた愛はただの虚構でしかなかったんです。
「何故それを今、私に言ったんだ?」
「別になんてことはない。ただ真実を知らないお前が可哀想だと思っただけだ。」
嘘、ネキロは頭領に可愛がられている私をいつも妬んでいました。更に最近頭領とも集団を率いる方針に文句を言ったりしていたんです。
つまりこれは彼によるただの嫌がらせで私に次の要求を飲ませるための布石だったんです。
「ちなみにこのことを知っているのは私だけだ。だがどうだろうなあ、今回またお前が失敗すれば、やはりただの村娘だからと里で報告してしまうかもしれないな。」
「ーー!!脅すんですか!?」
「別に脅迫などしていない。ただ村娘を自分の実の孫と偽り、組織全体を騙したサナトス様は一体どうなることかな。下の者達は嘘をつく上の人について行くと思うか?なあティア?」
もうその時の私は爺様のことや友哉達のことで頭がごちゃ混ぜになり、正直パニックになりました。それを分かっていたから、ネキロは私に悪魔の提案を告げたんです。
「何、簡単なことだ。昔から人に好かれやすいお前なら子供1人誘拐することなど簡単だろ?そうだな、あの金髪の女を拠点まで連れてこい。あの女もお前の顔を見ている以上、処分しなければならない。あの男は見ている限り、どうやら友達思いのようだからな。誘拐されたと分かれば自分からノコノコとやって来るだろう。」
そう今回全ての手柄を奪い取るつもりだったんですよ。あの男は。
「私は……アリスを誘拐するだけでいいんですね。」
「そうだ、後は私がやろう。何、心配はいらない。私は約束は守る男だ。」
それだけ告げると彼は姿を消しました。残された私はただその指示通りにトイレに行った未来を誘拐して拠点に軟禁。
その後は友哉が帰ってきたタイミングで紙を貼って建物の上で待ち構えていました。
指示通りなら私の仕事はそこで終わりだったんですが私は2人を救いたかったんです。けど爺様も守らなきゃいけないと思いました。
だから私が友哉を殺すふりをして、腕か何かを見せて殺したと錯覚させて手柄全てを引き渡す代わりに未来を開放。そしてその隙をついて刺し違える覚悟でネキロを殺すつもりでした。
以上がことのあらましです。
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「オーケー、なんとなく分かった。誰が俺にとっての本当の敵でどいつが愛紗から笑顔を奪ったのか。」
友哉は痛みが引いた体を押して静かに立ち上がる。その目は強い怒りの炎を宿していた。
「ちょっと待って下さい!何処に行く気ですか!?今の友哉は絶対安静が必要なほどの怪我をおってるんですよ!?」
そうだ。左腕は粉砕骨折、なんども壁にぶつかり、蹴り飛ばされ、あばらや肋骨は何本も折れている。流した血は水溜りを作るくらいの量で少し休憩して薬を使ったくらいじゃ治るわけがない。
既に支えを失い、ふらついている彼の体を必死に止めようとする愛紗。
「決まってるだろ、未来を助けに行く。そしてネキロとやらをぶっ倒してお前に笑顔を取り戻す。」
「そんなーーそんなこと出来ませんよ!」
彼女は知っている。相手は暗殺者集団『血の揺籠』野副頭領だ。たかが剣術を齧った子供が勝てる相手ではない……と。
それに2人を巻き込んでしまった責任は自分が取らないとーー
「心配すんなーー未来は必ず連れ戻す。」
「そしたらまたみんなでワイワイやろうぜ。」
そんな彼女の心配を吹き飛ばすように彼は笑った。そして振り向くことなく傷だらけの少年は月明かりに照らされた夜道を走り出すーーッ!!