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幼馴染達と行く異世界生活  作者: 篠宮ソラ
異世界転生編
8/44

月下の対峙

「いらっしゃいませ〜。お客様は何名様ですか?」


「2名様ですか?かしこまりました。ご案内いたします。」


ここは最近話題の食堂『sanctuary 』

見た目はいかにも古く歴史漂う佇まい……まあ誤魔化さずにいえばただのオンボロのお店だ。


しかし、最近そこでは見たこともない美味い料理が食えると冒険者の中では噂になっていると聞いて私はやって来た。


え……?私が誰かって?

ふふ〜、私は新進気鋭の若手商人!名はソーン!

誉れ高きウニとセンの娘!


そんな私がここに来た理由?

それはこの店と専属契約を結んで付き合いを得るためよ!

かれこれ下積み10年、自立して3年。今、現在25歳の私の鼻が匂う。この店は金のなる木だと!


てな訳で早速お店に入ろうと思う。

ギイっという音を立てながら開けた扉の先には昼時だからかかなりのお客が入っている。


「いらっしゃいませ〜、お客様はお一人様ですか?」


「ご案内いたしますよ?こちらにどうぞ。」


出迎えてくれたのは可愛らしいお嬢ちゃん達。太陽な笑顔を浮かべる金髪の少女と淡い紫の髪をサイドに結んだ女の子。


フリフリのエプロンを揺らしながら私は紫少女についていき、空いていた席に座るとほぼ同時にメニューを手渡された。


「ふむふむ、雰囲気は◯ね。だけど1番の問題は味よ。」


渡されたメニューにはこの世界どこを探したとしても見つからないような奇怪な料理名が乗っていた。


本日のメニュー

コロッケ

ポテトサラダ

フライドポテト


デザート

芋餅


(た、試されている……)


どうやら私はこの得体の知れない料理名から何が美味しいかを判断しなくてはならないらしい。


(ええい!なすがまま!)

「すいませーん。コロッケとポテトサラダ下さい。」


とりあえず冒険者の間で名前が知れているコロッケとポテトサラダを頼んだ。


注文をし終わり、手持ち無沙汰となった私は近くに座ってる冒険者達の話に耳を傾ける。意外とこういうのって大事だよ♪


「しっかし、なんつーか変わったよな、この店。」


「分かるぜ、それ、以前はただ腹を膨らませるだけのパンに塩辛いスープだもんな。それが今じゃ、珍しいもんを売るようになったわ。朝早くくれば弁当とか作ってくれるわで最高だよな。」


「全くだぜ。しまいには夜の一杯に最高のつまみまで出してくれるんだぜ。最近、世界樹から帰ったらここに入り浸るようになっちまったよ。」


ガハハとお互いに笑い合う男たちの話からやはり私の勘は間違っていないと確信した。


「お待たせいたしました。こちらがコロッケとポテトサラダでございます。ごゆっくりどうぞ〜。」


おお〜美味しいそう。

私の眼前に出された握り拳くらいの大きさのコロッケはきつね色によく上がっており、見ただけで腹の虫がなってしまうくらいだ。


料理と一緒に渡されたナイフで切り分けると中は黄金色に輝いている。それをゆっくりと口に運び、熱さに耐えながら頬張るとこの世界では味わったことのない深い旨味が生まれた。


(やっぱり!私の目に狂いは無かった!後はこの店と契約を結んで仕入れとかすれば儲かるのでは…ぐへへ。


「あ、あのお客様?失礼ですが女性がしてはいけない顔になってらっしゃいますが?」


おっと不味い不味い。こんなおかしなところを見られては後々の交渉に響いてくる。仕方ない、ひとまず此処は引いてまたの機会に来るとしようじゃないか。


「ありがとうございましたー!!」


さあ、店を出たらあの店に取り入る方法を考えなくちゃなぁ。

私はそんなことを考えながら世界樹前の自分の店へと歩みを進めるのだった。



〜友哉〜


「何だったんだ、あの客?」


厨房からフロアの様子が伺えるのだが今日は何とも奇妙な客が来たものだ。あんな女を捨てたような笑い方をする奴と関わり持ちたくねえな。


「ああ、あの人だよ。私が木剣をもらった人。」


「……ねぇ?」


「へえ、じゃああの人、商人なのか。全くそうは見えねえけど。」


「ねぇってば?」


「人は見かけに寄らないからね。」


「話を聞いて下さいよ!2人とも!」


んだよ、せっかく早めの休憩時間を貰ったのにぎゃあぎゃあ騒ぎやがって。顔を真っ赤にしてふるふる震えてんな、愛紗。


「どうしたんだよ、新米メイドマジカル♡ティア」


「ほら決め台詞の『貴方の涙を愛するよ♡』はどうしたのよ。」


「よっぽど死にたいんですか貴方達は?よーし分かりました。私が転生してから磨き上げた暗殺術の全てを喰らうが良いですよ!」


何で彼女が働いてるかって?説明しよう。

イスランさんに食い逃げ犯と誤解されて捕まった愛紗は人手が足りないこの店の従業員として雇われたのだ。


どうやら2人にはお金がなく、仕方なく食い逃げをした哀れな子供のように見えているらしい。


彼女は必死に誤解を解こうとしたがその場合、何でそこにいたかの理由の1つである本来の目的のルイス殺害がバレるために彼女は黙って働くしか無かったという訳だ。


「しっかし、まさか服ってアリスが作ってたとは驚きだぜ。」


「まあ全部じゃないしね。所々に可愛らしく仕上げただけだから。」


「なら未来が着て下さいよ!何で(精神年齢)30歳にもなってこんな可愛いフリフリレースのメイド服を着なきゃいけないんですか!」


「似合ってるぜ、その寸胴体型だとな。」


「今はまだ小学生並みの年齢ですからね!そりゃあドラム缶みたいな凹凸なしの平坦ボディでしょうよ!」


「だからちょうど良いのよ。ほら、私の年齢でそんなメイド服を着てたらただの如何わしいお店にしかならないじゃない。」


「''7歳の金髪碧眼美少女がご主人様のお世話をする店"、確かに大きいお友達が喜びそうですね!!」


「字面にすると犯罪臭しかしねぇな。」


冴え渡る愛紗のツッコミにボケをかぶせていく2人組。話してる内容は子供の姿から懸け離れたものではあるが、仲睦まじく見えるのだから不思議なものだ。


もうやだ!ティア、お家帰る!、など1人ぼやいて机に突っ伏した彼女の前に未来はコップに水を注いであげている。


「もうやだ、かれこれ3日ですよ、3日。このままだと私、裏切り者認定されてしまいますよ……」


水をくぴくぴと飲みながらぼやく愛紗。


「別によくね?人殺すよりかは遥かにマシだろうが。」


コロッケを片手で食いながら正論をぶつける友哉。


「死体なんて昔の爆発事故の忌まわしい記憶が未だに私たちを縛っているのに良く、暗殺者なんて道を選んだね。」


伏せがちに目を下げながら氷水の氷を撫でる未来。


「……まあ、ある意味あんな事件があったからですかね。どんなに平和な世の中でも人は簡単に死ぬ。それを教えてくれましたから。開き直ったに近いですかね。」


「けどお前じゃ無理だろ。どう考えたって''愛''を大事にするという信念を持ってたら、いちいち殺害対象に恋人がいたからとか、小さな子供がいるからとかで情を抱くんじゃねえか?」


「痛いとこつきますね、友哉の癖に、馬鹿の癖に。」


「とりあえず俺を罵倒すれば良いってもんじゃないからな?」


「つまり愛紗は何度かそんなことがあったの?」


図星だったのか、思わず固まる愛紗は普段なら出すことのない感情の機微をなんとか隠そうとする。


だが所詮、そんなことは長年付き合いの長い彼らには通用しない。すでに友哉も未来もふざけていた先程とはもう顔つきが違う。


バレてる……素直に愛紗はそう思った。ならば誤魔化しは不要。この2人は自分の信念に従って私に動揺した原因を吐かせるだろう。


なら、いっそ吐いて楽になってしまおう。彼らはきっと自分の吐露を真摯に受け止めてくれるはずだ。


彼女は水で薄い唇を湿らせると途切れ途切れだがその理由を話し始めた。


「そうですよ。本当に碌でなしなら殺せるんですが殺す前に家族の写真や結婚を間近に控えた恋人がいたりすると……体が震えるんです。


この人を殺してしまうと生まれるはずだった愛が消えてしまう。


私が奪ってしまう。台無しにしてしまう。


そう考えるともう自分が自分で無くなる気がしてその場から逃げ帰ってしまうんです。」


「…………」


「…………」


重々しい雰囲気で語られたその言葉を聞いた彼らはどんな言葉をかけて良いか、戸惑う。


人殺しはいけないとか、もうやめようとかありきたりな言葉をかけるなら誰にだって出来る。


しかし、これは彼らにしか言えない言葉をかけなくてはいけない。そうでもしなければ彼らの繋がりはそんなもんだ、安いものだと決定付けられる。


それだけは駄目だ。


ーーだから


「たった1人で良く頑張ったな。けどもう1人で背負わなくていいっての。」


「そうだよ。私達にも貴方の重荷を背負わせてよ。代わりに貴方も私達の荷物を背負ってね。」


「「俺(私)をもっと頼れよ!(りなさい!)」」


彼女が愛の為に生きるならそれを彼らは全力で応援する。


彼女の笑顔を守る為に


彼女の幸せな未来を掴む為に


彼らは自分に出来ることで彼女の前に立ちはだかる壁を壊す。


例え、どんな業を背負うとも彼女がこれで良いと実感するまで彼らは互いが互いを支え続ける。


それが彼らの家族の形だ。




「2人とも……セリフが臭いです。」


「うおおおい!!そこは『はい!ありがとうございます!!』とかだろうが!?」


「そうだよ!普通は『2人とも(照)』でしょうが!」


呆れたような目線と共に発せられた辛辣な言葉に必死に反論する2人組。しかし、弁明も虚しく、はいはいと愛紗には受け流されて彼女は席立ってしまった。


「何か間違ったかな……俺ら。」


「ふふ、そうでもないかもよ。」


頭に?を浮かべる友哉とは反対にニヤニヤとした顔で彼女が出て行った裏口の扉を見つめていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ああもう!何であんな恥ずかしいセリフを真顔で言えるんですかね!2人は!」


裏口から少し離れた場所で1人の少女が羞恥に悶えて蹲っていた。しかし厳しい言葉とは裏腹にその顔は酷く緩んでおり、纏う雰囲気も何処か嬉しそうだ。


「全くあのお人好しコンビはいつか絶対に痛い目を見ますよ。……全く」


だが破顔した愛紗の顔からはまるで説得力を感じない。むしろふふと笑いが溢れ始めている。


だがーー


「やはり失敗していたか、ティアよ。」


彼女に降ってきた束の間の幸せは


「ネキロさん!な、何でこんなところに!!」


ーーここで終わる


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あれ?なあルイス。ティアはどこ行った?」


「え?さっき裏口から出て行ったところまでしか知らないっすけど?」


「いや、いないなら良いんだ。今日は沢山御客が入ってくれたおかげで大量に貯蔵してた芋が無くなっちまったから今日は早めの店仕舞いするってことを2人に伝えてといてくれ。」


「うーす。イスランさん」


休憩時間が終了し、未来はちょっとお花を摘みに行って1人でぐでーとしていた俺にイスランさんが伝言を残した。


さて思いがけずに時間が空いた事だし、愛紗と未来でも連れて特訓でもするかな。


世界樹にも行って見たいがリミアルさんたちが子供だけで行く事はダメって厳しいからなぁ……


「……にしても未来、遅くねえか?あいつ何処まで行ったんだ。」


トイレは宿泊施設の中に設置されている。店の中にもあることにはあるのだが、ほぼ男性冒険者が使う為に、うん、まあその、見たくはない酷い有様なのだ。


元傭兵上がりのイスランさんは気にしないが流石に前世組はこのトイレには抵抗があった。だから大抵、よほどのことがない限り、宿泊施設の方を使っているのだが…


「なーんか、嫌な予感がすんなあ。」


十中八九、強さでいったら段違いに未来の方が強いはずだ。


暗殺者として育てられた愛紗を圧倒する身体能力。


フェイスによる未来を見据えた回避に攻撃の繋ぎ方。


まだ見せてもらってないが魔術もある。


そんな万能戦士みたいなあいつがまさか捕まったわけないよな。……まさかな


きっと1人でサボってるだけだ。そうに違いない。


おそらくいつもの場所で1人で訓練しているだけだ。


「ま、まあ一応、確認はしておくか。」


ただこの胸に湧き上がる嫌な感じを消すだけだ。何も問題はない。


まずはトイレに向かう。扉に鍵はかかっていなかった。ノックして中を覗きこむ。誰もいなかった。


次にいつもの訓練場所へ向かう。誰もそこにはいなかった。木剣も俺と未来の分。それと予備なのかもう1つあった。


港へと向かう。売られそうになった。彼女はここにもいなかった。


半日歩き回って気づけば夜になっていた。俺はとりあえず部屋へと帰って来た。いつもなら部屋に不法進入しているはずの彼女の姿は何処にもなかった。


しかし、代わりに窓に何かが貼り付けられていた。


『金髪の少女を預かった。この事を誰にも言わずにここに記された場所まで来い。そうすれば彼女はまた平穏な日々へと帰れる。』


それはまるで血で塗られたような真っ赤な文字で書かれた呪いの手紙、もとい未来が連れ去られたという確固たる証拠であった。


「嗚呼くそ!まじかよ!?。」


落ち着け俺。餅つけ俺。こんな時は素数を数えろ。


1、2、4、8、10……駄目だ。現実から逃げるのは辞めよう。


多分、連れ去ったのは愛紗が所属している暗殺者集団のはずだ。おそらく愛紗を見張っていたか何かなのだろう。


それで殺害対象である俺が死んでおらず、あろうことか刺客として送り込んだ愛紗が店に馴染んでいるのを見てしびれを切らした結果がこれ……か。


だが何故そいつらは俺じゃなくて未来を連れ去った?


何で巻き込みやがった!!これは俺の問題だろ!!


「クッソ!こんなところでガタガタ文句言っても始まらねえ!武器になるもんは何かーー!!」


目に入ったのは母から譲り受けた真剣。それを拾い上げ、紙をひっぺがすと俺はそのまま外に飛び出した。


「待ってろ、未来!直ぐに行くからな!」


場所はそう遠くはない。これなら道にも迷わないはずだ。



月は雲に覆われ、前世と違い人工の光がないこの世界は夕方を過ぎれば一寸先すら見えない闇に飲まれる。


そんな中、ふと異質な気配を感じた。


「ねえ友哉。何処に行くんですか?」


紙に記された場所へと走る友哉の上から声が降ってくる。思わず、足を止めた彼は上を見上げた。


一陣の風が吹き、雲が流れ、銀に淡く光る月明かりがスポットライトのように屋根の上に立っている声の主人を照らす。


紫のサイドテールを揺らし

夜に紛れる黒装束の格好で

小刀を逆手に構えた少女がそこにはいた。






「……何やってんだ?愛紗。そんな忍者みたいな格好で。」






「別に……終えなきゃいけない仕事を終わらせに来ただけよ。」





友哉は僅かな対話で悟る。


彼女は以前こう言っていた。


仕事になると舐められるのを防ぐためにいつもの警護口調から言葉遣いが変化すると。


つまり、今の彼女は仕事モード。


そして彼女の仕事は……友哉もといルイスを殺すこと。


「そうか……愛紗。お前、俺を殺すんだな。」


「……ええ、悪いけど死んでもらうわ。友……いえルイス・アミティーエ。」


「ッ!?何でだ!何で未来を巻き込んだ!これは俺狙いのはずだろ!?」


「貴方に語る意味はありませんよ。愛しい彼女の元へ行きたいなら私を倒して行くことですね。」


「くそが!できるわけねえだろ!」


「なら、黙って死んでください。」


臨戦態勢に入った愛紗に友哉は歯噛みしながらも構える。


再び月が雲に覆われた時、2人は同時に動き出す!






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