刺客襲撃
かっこつかずに帰って来た俺とアリスは直ぐに料理の仕込みを開始する。今日の目玉はコロッケサンド、あともう1つ作ろうと思っているのだ。
「てな訳で始まりました。3分クッキング〜!」
「はいでは今日お作りするのは子供達には大人気。大人達にも大人気の料理、ポテトフライです。」
「材料はこちら、ジャガイモ3つに塩と小麦粉、そして片栗粉。」
「先ずはジャガイモを細長く切って行く。」
「因みに切り終わったものがこちら!綺麗な切り口ですねぇ。」
「そのあと小麦粉をまぶして高温の油で揚げていきます。狐色になったら皿にあげて塩をふりかけましょう。」
「完成でーす!!」
本日のメニュー
コロッケサンド
ポテトフライ
因みに食わせたリミアルさん達からの評価は上々だ。さすがは万能食材ジャガイモ。応用次第で何とでもなるな。
「さあ2人とも準備は出来たかい?それじゃ店を開けるよ!」
結論から先に言わせてもらおう。
「何で誰も頼まないんだよ!?」
「ポテトフライとエールはちょいちょい出るんだけどね。」
時刻は午後、ポテトフライを酒のつまみとして飲む奴らはいるのだが、コロッケサンドだけは誰1人買ってくれない。このままだと今日の夕飯はコロッケサンドオンリーになるぞ。
「おそらく見たこともない料理だからね。誰も挑戦しようとしないんだよ。」
「まあ気持ちは分かるな。あたしも世界樹の冒険から帰って来て見たことない料理にまで冒険はしたくないからなあ。でもすごく上手いのに。」
おかげでリミアルさんとイスランさんが余ったコロッケサンドとポテトフライを消費してくれている。とはいえ焼け石に水になるくらい量を作ってしまったからな一体どうしたもんか。
しかし、神は俺を見捨てなかったみたいだ。砲弾のごとくアリスが厨房に入って来ると彼女は注文書を見せつけるようにしてこう言った。
「ルイス!まだコロッケサンドとポテト残ってる!?今、注文入ったんだけどそのお客さん、美味しかったら持ち帰るって言ってるの!」
「マジか!」
これを上手く使えばリピーターを増やすことができるし、中立大陸にコロッケサンドの美味しさを広げる願ってもいないチャンスにもなる。存分に使わせてもらおう。
〜フロア〜
「お待たせ致しました。こちらコロッケサンドとポテトフライでございます。」
作り直したアツアツのポテトフライにコロッケサンドを注文したお客さんであるサイドテールの少女の前に置く。
未来は配膳をした後、厨房から顔を覗かせて彼女の様子を伺う。
彼女は得体の知れない物を調べる様に(実際この世界の住人においては見たことない料理なのだが)パンをつついて見たり、分解してみたり、ポテトの匂いを嗅いだりしている。
しかし、彼女は遂に意を決してそれを口の中に放り込んだ。
「〜〜〜〜!?」
咀嚼しながらも目は爛々と輝き、感じたことのない味や食感に驚いている様だ。その後は黙って口を開いては食べて、飲み込んでを繰り返した結果、皿からコロッケサンドとポテトフライは消え去っていた。
「すまないが注文お願いします。」
「はいはい只今!」
厨房から飛び出した未来は嬉しさを隠さずに注文を取り始める。
「さっきも言ったかも知れないけどこのサンドイッチを人数分包んでもらえるかな?後はフライドポテトも揚げたてをもらえるか?」
「ご注文ありがとうございます!少々お待ち下さい。」
注文を受けて揚げたてを作って渡すと彼女は何処か嬉しそうにそれを持ち帰るのだった。
〜厨房〜
「いやまさかあんな大口の注文を取ってくれる人がいるとはね。おかげで久々に黒字だよ!」
「おお!なら給料は期待して良いんだな!?」
「ああ勿論さ、イスラン。」
店を閉めて後片付けを行う俺は新しいメニューについて考えていた。このメニューで少しでもリピーターが増えれば更にお客さんが来ると思うからな。
「ねぇ〜ルイス。ちょっと話が有るんだけどいい?」
「ああ何だよ?今、新料理考えんのに手間取ってんだよ。」
新鮮な肉や魚はこの大陸では高いため、今のこの店の売り上げだけじゃ仕入れはできねえし、野菜も限られてる中で作らなきゃいけないのが此処まできついとはな。
「……それよりも大事な事なの。お願いだから聞いてもらえる?」
「……何だよ。」
未来の目は据わっていた。まるで今から何処かに戦いに行くかのように……
「部屋に虫がわんさか湧いてるのよ!!お願いだから今日だけは部屋交換して!」
「はああァァァァァァァァァァ!?!?なぁに言ってんだテメェぇぇぇは!!」
真面目な顔して聞き返した俺が馬鹿だった。つか、どんだけ掃除してねえの。少なくともお前は俺より家事が得意だろうが!
「その前にお前は友達をそんな部屋に押し込める気か?」
最もな意見に彼女は焦るそぶりもなく、唯、指を胸の前で絡ませて上目遣いでお願いした。
「……信頼してる友哉にしか頼めないから」
そうやって俺が友の頼みを断れないことを利用しやがって。…………まあ断る気はゼロだったが。
「ああ!!分かったよ!ただし今日だけだからな!」
だがそんなんじゃカッコつかないから建前を並べて彼女の意見を了承する。未来は嬉しさを溢れんばかりの笑顔で表して部屋へと帰って言った。
「良いように利用されてないか?」
イスランさんから声を掛けられたがあえて聞こえないフリをすることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夕日が沈みかけた薄暗い道を歩くのは大きな袋を持った1人の少女。そこだけ見れば何らそこらへんにいる女の子と大差ない。
「よっと到着!ただいま帰りました。頭領、副頭領。」
しかし、彼女は普通ではない。
「お帰り、ティア。どうじゃ?標的の様子は確認できたかの?」
「はい!もちろんです!標的は今現在、食堂で働いているのは本当みたいでしたね。帰りに宿泊している部屋の間取りなども調べましたが侵入する事に問題は無さそうです。あ、あとこちらお土産です。」
頭領と呼ばれだその老人はコロッケサンドとポテトフライを受け取ると椅子に深く座り、それをつまみにしてエールを楽しみながらも何かを思案しているようだ。
「よろしい。ならば今回はお前がやりなさい。ネキロ、いるかの?」
「は!こちらに!」
エールを注ぎながら、彼は虚空に呼びかけた。するとまるで暗闇からぬらりと出て来るかのように1人の若者が姿を表す。
「今回は経験を積ませるためにティアにやらせようと思うのじゃが良いかの?」
「構いません。私めは貴方様に従うのみです。」
膝をつき、首を差し出して敬意を称する彼を見て満足げに頷くと彼女の方に向き直る。
「と言う訳じゃ。今回の依頼はお前に任せる。決してしくじるんじゃないぞ。」
突きつけられた厳しい言葉にただ黙って頷くと彼女は部屋から出ていった。
「失礼ですが頭領。なぜ貴方はあの女を目にかけるのですか?あの女はこれまで依頼を途中でやめたり、見逃したりと我ら暗殺者集団『静血』の誇りに泥を塗っているんですよ?私としてはあの女は暗殺者向きではないと考えるのですが?」
彼女が出ていった後にネキロは膝をついたまま疑問をぶつける。仕事上、感情を隠すのは得意である彼だがその言葉には僅かに非難の意味が含まれていた。
頭領はエールを一気に煽るとさっきまでの好々爺の雰囲気を一変させて獲物を狙う狩人のような気迫をネキロにぶつけた。
「良いか?ネキロ。お前は1つ勘違いをしている。」
「勘違いですか?」
「左様。我ら静血に誇りなど存在しない。我らはただの人殺しだ。金さえ貰えはなんでもやる。私達は只の掃除屋なんだ。」
「ッ!しかし、頭領!今回の依頼はあの騎士国からの依頼ですよ!これを無事達成、いや上手く利用すればあの憎っくき騎士国を私達が利用することができる!そうすれば私達の里『トラディ』が日の目を見れるんですよ!そんな大事な役目をなぜ彼女に任せたのですか!?頭領!!」
もはや立ち上がって只感情赴くままに言葉をぶつけるネキロに頭領は悲しい顔をして彼を見た。
「すまないな、ネキロ。今は話せないのだ。きっとそのうちチャンスが来る。その時まで待ってもらえるかの?」
その顔には悲観が見え隠れしていた。それを見たネキロは頭に登った血を下げる。
「……先程は感情的になってしまい、失礼しました。私がやる事は貴方に従うのみです。それではティアの支援もしなくてはいけませんので私はここで失礼します。」
ゆらりと空間に溶け込むように姿を消したかれを見る事なく、頭領は窓から差し込む月の光を見ていた。丸い月が暗闇を照らすその景色を見ながら残ったエールをグラスに注ぐ。
「変わってしまったな、大陸も静血も……私も。」
懐から標的が描かれた紙を取り出して酒を飲みながらも再度確認する。銀髪に緋色の目を持った少年がそこには描かれていた。
「騎士国長男、ルイス・アミティーエか……」
彼は残った酒を胃に流し込み、酔いに任せて目を閉じる。そこに浮かぶのはサイドテールが似合う女性の姿。それはティアに瓜二つだが何処か違うようで……
「心配するな、トレーネ。彼女は私が守るから。」
目から溢れた液体が月の光を浴びて輝いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時刻は夜中過ぎ、草木も眠り、人っ子1人いないはずなのにそこには蠢く影が存在した。
正体を隠すためなのか布で口元を覆い、黒装束で夜の街を駆け抜ける。
闇に紛れて道を進み、月が出れば建物の間へと姿を隠す。そうしてたどり着いたのはある食堂の裏にある宿泊施設。
既に下調べは済んでおり、此処には元傭兵の女と元騎士王がいるのは知っている。そのため、中から行くのは危険があると判断した侵入者は気づかれないよう標的がいる部屋付近の窓に近づく事にした。
標的は二階に住んでいるが、それは何の問題にもならない。侵入者は屈んで脚に力を蓄えるとそれを一気に解放する。ただそれだけの動きで二階の窓にまで近づくと建物の出っ張りに足をかけて体の位置を固定すると体に仕込んだ針金を用いて器用に窓の鍵を外す。
無事に侵入に成功するとベッドへと近づく。標的は未だ気づかずに毛布を被って寝ているようだ。侵入者は徐にナイフを取り出すと躊躇いなく突き刺した。
「……!?」
しかし、やけに反応が薄い。もしやフェイクか!と考えた侵入者はすぐさま毛布を引っぺがすが……
その前に布団の中から伸びてきた手にナイフをはたき落とされた。そのまま毛布越しに前蹴りを喰らい、後ろの机に激突する。
それでも攻撃の手を緩めないどころか、落ちたナイフを拾うと標的はこちらに向けて突っ込んで来る。瞬時に毛布を投げつけて相手の視界を奪うと侵入者は窓から飛び降りた。
膝を柔らかくついて前へと転がり、衝撃をそのまま勢いに変換してその場から逃走する。地図は既に頭に入っている。後は追いかけられるのを防ぐために小道や大通りを使って巻くだけだ。
(何なんだあの男は!?既に私が暗殺者である事に気付いていたのか!?)
走り続け、後ろを確認してもう追ってこないことを確信すると路地裏の壁に寄りかかった。辺りに誰もいないことをいい事に布をとき、口元を露出させる。
「指示を仰ぐか?いやまだ大丈夫のはずだ。私の素顔は見られていない。ならまだ取り返しはいくらでもつく。」
事実その通りであろう。あの暗闇の中で素顔を隠した侵入者の正体など普通の人間は簡単に突き止めることは不可能だ。
「みつけたわよ。」
ーーただしそれは相手が普通だったらの話だ。
「もう、探したわよ。貴方は足が速いのは知ってるから、先回りしてなきゃ追いつけなかったわよ。」
月の光で煌めく金髪を靡かせて透き通った碧い目がこちらを射抜く。手には先程侵入者が落としたナイフが握られており、熟練のナイフ使いのように器用に手先で弄んでいる彼女の名はアリス。
「何で此処に来ると分かった?お前と私には1度顔を合わせた程度の接点しか無いだろう!?」
侵入者ーーティアは驚愕の感情を何とか押し殺しながら、袖口から別のナイフを取り出して逆手に構える。
「見えたから。貴方が此処に来ることも……貴方の正体も。」
一歩、ただ彼女は踏み出した。しかしその一歩は2人にとって開戦の合図に等しいものだった。
「行くわよ。ティア・リーベンサナ。いいえ、違うわね貴方の真名はーー」
「それ以上は口を開くなぁぁァァァァァ!!!!」
アリスの言葉はティアによって投げられたナイフに途切れる。彼女は何とことなしに持っていたナイフで弾くが既にティアはアリスの懐に踏み込んでいた。
(投げたナイフはフェイク!!本命はこれよ!!)
バギィィン!!とおよそ彼女のような少女には縁のない音を立てながら、死神の鎌のごとく不可視の攻撃がアリスの首を狙う!
完璧に死角を狙い、これ以上ないタイミングで放たれたそれは彼女の命をーー
「ごめん、それも見えてた。」
ーー刈り取るとはいかなかった。
「う、嘘!?な、何で!?」
アリスは攻撃の来る方向を見ることなく、咄嗟に屈んんでティアの攻撃を回避する。
「だから見えてたのよ。貴方がナイフをブラフで使うことも。貴方の本当の武器はその鍛え上げた脚であることも。まあ、まさか地面を砕く程の脚力とは思わなかったけど。」
先ほどの音は地面を踏み砕いた音であり、彼女への攻撃は超近距離からの上段蹴りだったのだ。全てを悟られた彼女は咄嗟に後ろに下がる。
下がりながらも予備のナイフ全てを投げるが彼女はそれを峰で滑らせ、切っ先で弾き、肌スレスレでかわして距離を詰めて行く。
「くっ!お前何者だ!?あいつの護衛か何かか!?」
「ただの職場の同僚よ!私が守らなきゃいけない人だけどね!」
最後のナイフで彼女の刺突を止めて、がら空きの胴体に向けて左脚が飛ぶ。しかしまるで分かっていたかのようにナイフを空中に投げ上げてリンボーダンスのように上体を逸らす。
彼女の轟音を伴ったキックは彼女の金色の髪を何本か抉るだけに終わり、僅かな隙を晒した彼女にアリスは畳み掛ける。
体勢を崩しながら、振り回すナイフを持った右腕を抑えて引くと同時に顔に右肘を叩き込む。あどけなさが残る顔から鮮血が飛び散ることも気にせずに重力によって落ちてきたナイフを右手でキャッチし、一寸の迷いなく、ティアの引き締まった御御足を貫く。
余りの痛さに苦悶の表情を浮かべながらも無事な足を使ってアリスの顎をかち上げようとする。
「氷床」
短く呟いた彼女の言葉に呼応するかのごとく、蹴り上げようとしたティアの足元に氷が張られた。痛みで力が入らない脚がしっかり自身の体重移動を支えられる訳もなく、ものの見事にすっ転ぶ。
「はい、私の勝ちよ。もう諦めなさい。」
後頭部を強打してのたうちまわる彼女に馬乗りになるとナイフを首元へと添えて綺麗な声で勝利宣言をした。
「ふひ、ふひひひひ!!アハハハハハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
しかし、その宣言をかけらも気にせずに彼女は狂ったように慟哭する。まさか、誰かを呼び寄せるための合図かと身構えた彼女はとりあえず顔面に一撃お見舞いする。
「馬鹿な女だ!私が本気を出せば貴様など!!」
「なら早く本気を出しなさいよ、全く。」
血が混じった唾を吐く勢いでまくし立てるティアに強がりか負け惜しみと捉えて碌に取り合わないアリス。そんな彼女にキレたのか遂に彼女は自身の切り札を使用するーー!!
「私は…………誰からも愛される人間なんだ。物心ついてから理解した私の生まれ持った能力を味わうがいい!!」
一変彼女が纏う雰囲気が変わった。それはアリスの心に小動物に向ける慈愛のような、世界で1番大切な恋人へと抱く情愛のようなものを訴えかける。
「さあこれで貴方は私に愛しい気持ちを抱いたはずよ!まさか貴方にとって最愛の人にこんな酷いことは出来ないわよね!?早く私の上から退きなさい!さもなければほお!?」
「いや私にはあまり関係無いんだけど……てか、それ分かってたしね。」
どうやら他者に無理やり自分を愛するように仕向けるのが彼女の能力のようだが、アリスは全く気にせずに拳骨を彼女にお見舞いする。
既に少女とは思えないほど顔が腫れるまで殴り続けると意識を失ったので彼女は所持していたロープでティアを捕縛すると引きずりながら食堂へと帰って行くのだった。
〜アリスの部屋〜
(寝れねえ……!)
アリスがルイスを守るために暗殺者のティアと戦っている頃、ベッドに潜り込み、目を瞑っていた彼は開眼する。
(よし、落ち着け俺。こんなことで動揺するとはそれこそまさに童貞みたいじゃねえか。あまり俺をなめてもらっちゃ困るぜ。前世では携帯のメモリー一杯友達がいた俺にとって女と関わることだって多かったんだ、こんな……こんなことで心が揺さぶられる訳がない!!)
彼は枕に顔を埋めてとりあえず冷静になろうとする。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてーの深呼吸を何度か行うとより目が覚めてしまったのでベッドから這い出た。
(無理に決まってんだろぉぉぉぉぉ!!未来がいつも寝てるとか!甘い匂いとか!そんなことに耐えられる訳がねえ!くっ……だが、これに絶えないと俺は眠ることが出来ず、きっと寝坊して明日の朝の仕込みに間に合わなくなる!それは何としてでも避けたい!)
好きな女の子のベッドの前で挙動不振な動きをする精神年齢26の男。前世だったら警察を呼ばれているほど怪しい少年がそこにはいた。
(しかしこれはある意味チャンスではないのか……?合意的に女の子の匂いに包まれる機会だ。例えアリスがやっぱり部屋を変えてもらおうとして帰って来ても俺は全く悪くはない。そう!ただ寝ていただけなのだから!)
もう一度言うが一応今、アリスはティアを圧倒している最中だ。それは何のため?現在進行系で女の子の匂いを堪能しようとしている男を守るためである。
(はっはっはー!今の俺を止められるものはいない!止めたければ止めればいい!)
ルパンダイブとともに恍惚とした表情を浮かべながら枕をクンカクンカする少年。お巡りさん、早く捕まえてください。
〜1時間後〜
「入るよ、友……哉?ねぇ何してるの?」
「何だよ、ベッドで寝てるだけだぞ?」
「うん、まあそうだね。じゃあ何で服が脱ぎ散らかされてるの?」
「そりゃ今の俺は裸だからな。」
「何のために?」
「大事なダチがこっちに帰って来た時のために人肌で温めておいたんだよ。」
「そっかー」
「そうだな。」
「………………●●●切られたい?」
「愛紗みてえなことを真顔で言うなよ。」
仕方なく這いずり出てくる俺。安心して下さい。下はしっかり穿いてますよ。
「じゃあ俺も聞いていい?」
「うん、何かしら?」
「……その背中の血だらけの女の子は誰?」
「……まさか友哉にも私の守護霊が見えているの?」
「白々しい嘘つくな、コラ!例え100歩譲ってそいつが守護霊だとしても風貌から完全に悪霊の部類だろうが!?」
明らかに顔面アンパンのヒーローみたいに顔が腫れた女の子だろ。それ、つか何やったんだよ。
未来は紐で縛っていた余りの部分を天井のヘリの部分に縛り付けると彼女体を地面につかないようにする。踏み台にした椅子から、降りるとようやく説明に入ってくれた。
「えーと、何から話せばいい?」
「好きに話してくれよ。どうせこの部屋じゃ眠れねえし。」
「そう見たいね?いくら少年の体とはいえ精神年齢が大人だと性的興奮覚えるみたいだから。」
ジト目でこちらを見る彼女から目を逸らし、咳払いして話を続けさせる。一応今回のことは貸し1つにしてくれるらしい。やったね!
「まず始めに彼女は暗殺者よ。」
「…………マジで?」
暗殺者ってことは誰か殺しに来たってことか?なら狙いは騎士王になる予定だったリミアルさんってことかよ。あの糞親父、兄弟に対してやること酷くねえ?
「勘違いしないでね、友哉。狙われたのは貴方よ。」
「なーんだ、俺か。はっはっはっ…………はあっ!?」
え?マジでどう言うこと?狙われたのはおれ?…………嗚呼そう言うこと。
「あの糞野郎、エレナさんや母さんの言葉を最初から守る気なかったんだな。……ふざけんな!!」
思わず荒げた声に未来が人差し指で静かに!とジェスチャーしてくる。それにひとまず冷静になろうと目を瞑る。
「……確かにこんなことがリミアルさんにバレたりしたら面倒だな。」
「分かってるみたいね?なら、話を続けるわよ。」
ベッドに座っていた彼女が袖からナイフを取り出してベッド下に投げ入れる。おれも机に寄りかかりながら話を聞く。
「さてそれじゃあ嬉しいニュースと悪いニュース。どちらが聞きたい?」
「悪いニュースから。」
「気絶した後に彼女の体を調べて見たけどどうやら組織に所属してるみたいよ、この子。」
彼女の体から奪ったものだろう。小刀から鉄線。それにおれの似顔絵に何かのマークが入ったガラス瓶。
「友哉なら分かるんじゃないの?この子が一体誰なのか?」
彼女の訴えかける目に必死に記憶を巡らす。確かにあのマークはどっかで見た覚えがある。確か、親父が持ってた本の中の…………ああそうそう。
「確か、闘人大陸の国ってか里か。そこに確か殺し屋がいるみたいな噂を本で読んだことがある。その国の伝統品にそんな模様があったから大方そいつらだろう。」
「へえ〜そうなんだ。じゃあ後は嬉しいニュースね。」
彼女は意味深に笑うと指を天井からぶら下げてるティアを指した。
「彼女、多分愛紗よ。」
「……………………え?」
後にアリスは語る。あの時の友哉の顔は今まで見たことないほど間抜けな顔を晒していたと。