異世界生活……頑張っていきます
「さあルイス君。昨日は大きな口を叩いて貰ったんだ。君が考えた料理は必ずお客様を満足させることができるんだるろうね?」
「ああ、少なくとも今までよりは確実に満足させてやるよ。」
次の日、彼と未来はリミアルとイスランふたりと厨房内で対峙していた。
リミアルはいつものような優しい笑顔ではあるが言葉の節々からは棘を感じるし、イスランはイスランでどんな料理が出てくるかを楽しみにしている。
対して友哉は徹夜明けで大欠伸をしているし、未来は疲れた顔をしながらも何処か満足けだ。
「さてこれが俺達が作った料理だ。」
「熱いうちに食べてね?」
目の前に皿から湯気が立ち昇る。そこにあったのはいつもの黒パンただひとつ。
「ふふん。やっぱり口先だけだったみたいだね。これはただパンを焼いただけじゃないか?」
しかし、見た目から確実に侮るリミアルは気づかない。そのパンが上下2つに切られていることに。
「はい、ちょっとどいてね。今から仕上げるから。」
そして後ろから彼女がまた別の皿を運んでくる。そこにあったのはイスランやリミアルは見たことがないものだった。
「存分に楽しんでくれ。コロッケサンドだ。」
そう彼女が持っていたのは前世では子供に大人気のコロッケである。彼女はその揚げたてのコロッケを野菜とともに黒パンに挟んでそれを包丁で切り、見栄え良く整える。
「ソースがあればもっと良かったんだけどね〜」
「そこは仕方ないな。もうちょっと試作しねえと。」
そんな2人の話などとうに聞こえず、彼ら2人は目の前の料理にめを奪われていた。アツアツ、サクサクなコロッケサンドを前に口の中に涎が溜まっていく事をリミアルは止められない中、すでにイスランは手を伸ばしており、そのまま勢いよくかぶりつく。
「〜〜〜〜!?美っ味いよ!これ!リミアルより確実に美味い!」
リミアルを精神的ダメージが襲う。イスランは隣で膝をつく彼に目もくれずに夢中でかぶり付いていく。
「熱々だし、これ、塩で味付けしてるのか!?ジャガイモも甘くて美味しいし、野菜はいいいい休憩になるし、やっば止められない!!」
「…………そんなに美味いのかい?」
おそるおそる手に取り、口に運ぶ。
「ああ、美味い。」
負けた。完敗だ。素直にリミアルはそう思う。確かにこれなら腹に溜まるし、持ち運びも便利そうだ。世界樹に挑む冒険者達のお供にいいかもしれない。
何より、このホッとする感じがなんとも言えない。こんなのを食べてしまったら今まで自分が作ってきたものは何なのか?
ついつい手が伸び、ただただ黙って口を動かしているうちに皿の上から料理は消え去っていた。
「で?どうだよ味の方は?」
「……美味いよ。僕のより遥かにね。」
「「よっしゃ!!」」
料理対決はルイスとアリスが勝利を収めたのだった。
その後ふたりは、子供の体で徹夜をしたためか、はたまた緊張が切れたせいか、気を失うように寝てしまい、気づけば夜を迎えていた。
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「今までのは夢だったのか?」
「違うよ。現実よ。」
目を覚ますと最近見慣れた木の天井。隣にいるのはアリスもとい未来。
どうやら眠ってしまっていたらしい。さっさとベッドから飛び降り、迷惑をかけた非礼を詫びに行こうとする。……別に隣に未来がいて恥ずかしくなったからとかじゃねえから。
「そんなに急いでも今は稼ぎ時だから辞めといた方がいいと思うよ?だから大人しく寝ようよ?」
「何でさらっとここで寝るつもりなんだよ!?」
ベッドの毛布をまくり、おいでと手招きする未来の甘い誘惑を振り切って椅子に座った俺に未来は不服そうだ。
「つか、部屋帰れよ。ここ俺の部屋なんだけど。」
「え?帰っていいの?1人で寂しくない?大丈夫?」
「お前は俺の母親か!?」
もそもそとベッドに寝たままこちらに向き直った時点でもうこいつ帰る気ねぇな。しかし、この空いちまった時間何すっか。
「……そういや、未来つーか、アリスのことについて聞いてねえな。お前ってどっちなの?」
「私は魔人よ?年は7歳。好奇心に任せて魔人大陸から船に乗った結果、帰れなくなった哀れな子供なの。」
「馬鹿か!馬鹿なのか!?後、お前年下かよお!?」
やめろよ、俺の中の理想のお前が崩れてくだろうが!
はあ、聞いたのが間違いだったな……
「失礼な!少なくとも友哉に言われたくないわよ!私達の中で成績は下から数えた方が早いでしょ!」
「はっ!もう前世みてえな頭の良さはここでは関係ねえだろうが!」
「屁理屈こねないの!」
毛布から頭出した状態で叱られても説得力皆無なんだが…
「話戻すけどよ、何でここで働いてんだ?世界樹でも行きゃいいじゃねえか。」
「それは私に死ねと?私が使える魔術だけじゃ第一階層くらいしかいけないのよ。オーケー?」
それでも稼げるには稼げると思うんだがな…まあいいやいい機会だし、魔人に着いて聞いとくか。
「なあ魔人大陸について聞かせてもらっていいか?武人大陸…どっちかていうと騎士国『シュヴァリーエ』には無かったからな。」
「いいよ。何から聞きたいの?」
ならまずはさっきも言った魔術からだ。
「そうだね。魔人達は魔術を使えるってことは分かるよね?だけど優れた魔人達は更に上、『魔法』を扱うことが出来るの。」
つまり、俺たちの闘術、闘法と一緒みたいなもんか。
「ここまで理解できてる?なら話を続けるよ。魔術は主に5種類。
火、水、風、土、空が存在するの。一応詠唱は必要だけど簡単なものは一言で良いし、魔力消費もごく僅かで済むし、難しいものは魔力を練るのも難しくなるから長くなるのよ。」
「ドラ◯エの呪文みたいじゃねえか。」
ぷるぷる震える某青色の粘性生物が頭を過る。あまり知らないが5だけは結構やり込んだよな……誰を嫁にするかで力や正義と一晩中争ったのはいい思い出だ。ちなみに結論はみんな違ってみんないいに落ち着いたが。
「それで魔法っていうのは魔人達が産まれながらに持つ『適性』に従って自力で編み出したもの。例えば『分析』が適性ならその人は分析に特化した魔法を生み出すの。」
「それは誰にでも使えんのか?」
「うーん、使えるには使えると思うけど先ず始めに基礎となる魔術を修めてからじゃないと自分の適性を理解するなんて出来ないのよ。適性を理解する為に自分の人生を棒に振った人だっているわけで。」
要は丸っ切り運次第ってことか。そこらへんは引き継いでいきながら進化させていく闘法とは違うんだな。
「なら、アリスは魔法を使えんのか?」
「……ノーコメントで。」
こいつ、毛布を頭まで被って完全に黙秘の状態に入りやがった。そんなにして聞かれたくないのかよ。
「まあいいや、ダチが嫌がることを俺は無理に聞き出したりしないし。」
「助かる〜。じゃあ大体予想つくけど逆にルイスは闘法を使えるの?」
「……聞くなよ。」
だからこんな辺境に飛ばされてんだろうが!そんなことを気にせず、彼女は毛布から這い出てくるとベッドに腰掛ける。
「……じゃあ今度はこっちから質問。ルイスはーーフェイスって知ってる?」
「何だそれ?何かの秘密結社か何かか?」
トラスト?聞いたことねえし、見たこともねえ。この世界での何らかの能力か?
「やっぱりか……じゃあまだ自分のルーツである信念を思い出してないのね?」
「いや、それとこれは関係ーー」
「大有りよ!」
こちらに詰め寄る未来の顔はいつもの優しさに満ち溢れたものではなかった。この顔はどちらかと言えば俺たちが碌でもないことをやった時に見せる心配の顔だ。
「いい!?友哉!?フェイスってのはきっと私達転生者に与えられた能力なの。少なくともそれを使えるようにはなっときなさい!さもないとーーごめんなんでもない」
…………?なんで言い淀んでんだ?はっきりいやあ良いじゃねぇか。
「別に言いたいことがあんならさっさと言えよ。聞いたところで死ぬわけでもないし。」
「いやいや大丈夫。ごめんね、友哉。私ちょっと熱くなりすぎたみたいだわ。何でもないから今のことは忘れてね?お願い。」
手を合わせて上目遣いで頼み込む彼女に俺は強気に出る事など出来ず、彼女は営業終了時間まで他愛ない話をした後に部屋へと帰って行ったのだった。
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「……話せる訳ないじゃない。今のままだと貴方が死んじゃうなんて」
明かりも付けずに1人枕に顔を埋めて泣く。泣き声が彼に届かないようにーー
「今度こそ、私が絶対に守るから。前世みたいにはもうさせないから……」
泣くだけ泣いたら決意を胸に掲げて前を向く。みっともない姿を大好きな彼に見せたくはない。
「私のトラストで見えた未来なんて変えてやるから。私の信念を曲げない為にも。友哉を守る為にも。絶対に負けられない。」
覚悟は出来た。ならばあとは行動に移すだけ。
「"幸せな未来を掴む"ーーそれが私の生きる意味だから!」
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「くっそ駄目だ思い出せねえ。何だってんだ一体。」
未来が出て行った後に友哉は悩んでいた。今まで共に生きてきた中で彼女があんな顔をしたのは俺たちが碌でもないことをしてあいつに心配を掛けた時にしか見てこなかったからだ。
「あいつがあんな顔をするって事は俺になんかヤバいもんが近づいてるってことか……?いやまてそれじゃ何であいつはそんなことが分かる?」
あいつの魔法か?それともトラストとかいう力か?どっちにしろ、何かしらの方法で知ってるってことか。
つまりあいつはその危険から遠ざける為に俺に信念を思い出せと。そうすれば自衛の手段としてのトラストが目覚めるってことでいいのか?
あいつのトラストの力が何だかは知らねえがよほど役に立つってことは何となく分かる。だが問題は……
「思い出せねえ……」
かつての信念が思い出せないことだ。何よりも友の為にじゃないならいったい何だってんだよ。
「しょうがねえな、今日はもう寝るとするか。」
未来があんな顔をするくらいだ、時間は限られてるかもしれないがそんな明日明後日に来る訳がない……この時の俺はそう鷹をくくっていたのだった。
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「お客さん!お客さん!着きましたよ!起きてください!」
朝日が昇り始め、朝焼けが見える時間帯に1つの船が到着した。船員は朝早い為まだ寝ているお客さん達を起こす為に部屋を回っていたのだが、リストを見る限り、まだ起きていない人がいたらしく、こうやって走り回っているのだ。
「あれ?鍵が空いてる?お客さん、失礼ですが入りますよ。」
船員は目的地である扉に到着すると開けて中を確認する。薄暗い部屋の中には1人のお爺さんとその孫だろうか?10歳くらいの女の子が寄り添って眠っていた。
「お客さん!起きてください!着きましたよ!」
非常にほっこりとする絵ではあるがこちらも仕事だ。船員はそう割り切って声を荒げる。
「ZZZ……」
「むにゃむにゃ……」
「おい爺さんはともかく嬢ちゃんは起きてるだろ。」
明らかに喋ったように思われる彼女に声をかける。どうやら随分前から起きていたらしく、目が醒めているようだ。彼女はこちらに気づくと声をかけた。
「爺様はなれない船旅で疲れてるから、あまり大きな声を出さないで欲しい。」
「いや悪いんだがもう港に着いちまったからお越しに来たんだ。悪いがこの後も仕事が立て込んでる。悪いが爺さんを連れて早く降りてくれないか?」
「分かった。」
随分と物分かりの良い子らしく、彼女は爺さんの肩を優しく揺さぶり起こす。
「おお婆さんや、朝ごはんかのう?」
「違うよ、爺様。着いたって早く降りなきゃ。」
どうやら多少ボケているようだ。それを慣れた手つきで嬢ちゃんは支えながら俺の横を通って部屋から出て行く。
「おおそうじゃ、そこのお兄さん。ちょっといいかの?」
「ん?どうかしましたか?」
「いや大したことでは無いのですがーー」
爺さんは少女の手を離れるとこちらに寄りかかるように倒れてーー
「あんた、闘人大陸ー軍所属のエルドさんで間違い無いな?」
「ッ!?何で俺の名前を!まさか軍関係の者か!」
咄嗟に突き飛ばして退くエルドだが離れたはずの爺さんとの距離は未だ変わらず、爺さんは未だエルドに寄り掛かった状態なのだ。これが意味するのは……
(嘘だろ!俺の動きについて来てやがる!何もんだこのジジイ!?)
嫌な汗が背中に流れた。だが得体も知れない爺さんの存在に戸惑いながらも長年軍人として訓練を受けてきた体は反射的に腕を固めて地面に組み伏せようとする。
「ーー筋はいい。だが相手が悪かったのう。」
その言葉の意味を理解する前にエルドはある違和感を感じた。体の何処かが足りない、いや失われている。
手はある。
首はついている。
足は動く。
しかし、ある部分がすっぽり抜けている。それを確かめる為に恐る恐る自身の胸元へと視線を下ろして行く……
そこで彼の目に映ったのは空洞。そして顔をあげて微笑ましく此方を見る爺さんの手の上のそれを見た瞬間彼は自身の死を理解した。
「これは貰って行くよ。依頼人への証拠としなきゃならんからな。」
ーーそれは血が滴る心の臓だった。
「さて勉強にはなったかの?ティアよ。」
「はい、とても」
ティアと呼ばれた少女はサイドテールの髪を振りながら能面のような表情で返答した。
「そうかそうか、なら良い。それじゃ行くとするかの。ネキロと合流して情報を手に入れなくては。」
「はい爺様……いえ、承りました……頭領。」
地面に伏せたエルドを部屋に押し込み、清掃中と書かれた看板を扉の前にかけて彼らはそこから消えるように立ち去ったのだった。
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「朝だよ〜友哉起きなさい。」
聞き慣れた声に微睡む意識を急上昇させるとそこには最近見慣れた顔がそこにはあった。
「おお今日はちゃんと起きれたね。偉い偉い。」
「……1つ聞いていいか?」
重たい瞼をあげた彼は目元を押さえる。
「……この部屋は鍵が掛かるよな?」
「そうだね。」
「……俺は昨日寝る前に鍵をかけてたよな?」
「2つ目聞いてるけど鍵はちゃんと掛かってたよ。」
「……どうやって入った。」
「窓から侵入に決まってるでしょ?」
「ふざけんな!プライバシーの侵害じゃボケェェェぇぇ!!?!」
神様、どうやら俺の幼馴染は転生したら泥棒の技術を身につけていました。どうしましょう。
「何疲れた顔してるのよ。ほら早く外行くわよ。」
「は?外?何の為に?」
急に外出するとかトンチンカンな事を言い出した彼女は腰に手をつき、少女のように可愛らしくこう言った。
「特訓?するでしょ?」
〜空き地〜
「何でこんな朝っぱらから俺はこんなとこにいるんだ……?」
未来にせかされるまま服を着替えて連れてこられたのは世界樹近くの空き地。そしてここへ連れてきた張本人は何やら草むらでゴソゴソしてる。
「あった、あった。はい友哉。」
「おう、ってこれ木剣だろう。何でお前が持ってんの?魔人には必要ねえだろ。」
「いやいや護身術としてリミアルさんから剣術習ってるから必要なの。ちなみにこれは店に良くくる商人からただで譲り受けたのよ。」
それと同時に彼女は構える。確かに剣術を習ってるだけあって以外とちゃんとなっている。つか、下手すれば俺よりもしっかりしてそうだな。
「ほら友哉も構えて。掛かり稽古しましょう?リミアルさんは店が忙しくて今まで1人だったからこんな稽古はやってないの。」
やっと納得がいったわ。つまりお前は練習相手に俺を連れてきたつーことか。
「……分かった、やるか。」
悪いが俺にも男としてのプライドがある。手加減は抜きでいくらからな!久しぶりに剣を構えて彼女の前に立つ。
「行くぞ。未来。」
「いつでもどうぞ。」
それと同時に友哉は一歩踏み込んだ。
「シィィ!!」
短い呼吸音の後に飛んだ剣は未来の脇腹を狙う。彼女は剣の峰で滑らせて勢いそのまま剣を腰に構えた状態で懐に潜り込む。
通常の人間なら避けられない完璧なタイミング、だが友哉はそこから放たれる攻撃を先に知っていた。
「''瞬''」
「そうだと思ってたぜ!」
全身の反発力を利用して剣を握る右手が振るうのは瞬間の斬撃。目視したところで体が追いつかないこの攻撃を受け止められたのは長年の訓練の賜物だろう。
剣を受け止められ鍔迫り合い状態に移行しながらもお互い足の動きや目線などでのフェイントを織り交ぜて行く。
その中先に動いたのは友哉だ。体当たりで突き飛ばして距離をとる。あちらが騎士王の剣術を使ったのなら、こちらも躊躇いなく使うためにーー!
腰の高さに剣を構えて突っ込んでくるアリスを狙う。目標は剣を持つ右肩。針に糸を通すような精密さを持ち……
「''撃"!!」
それは弾丸の如く、穿たれたのはただの突き。しかし、威力は岩をも砕く。木製の剣のため、威力は格段に落ちるがそれでも少女の未熟な体くらいなら行動不能にすることくらいは出来る。
しかしーー
「読んでたよ。その攻撃は」
捉えたはずの姿を見失い、すぐ後ろから声が聞こえる。全力で放った攻撃のために僅かに反応が遅れた。
「とった!!」
友哉が振り向くより早く、足を払われて背中への衝撃に息を飲みながらも空を見上げる。すぐに未来が馬乗りになり、剣を喉元へと突きつけた。
「……負けだ。」
好きなやつに負けを認めない惨めな姿を晒すよりかは遥かにマシな決着を彼は選んだのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「友哉さあ、私に負けて良いの?」
「……ほっとけ。」
決着が着いた頃にはいつも仕込みを始める時間になっていた。未来は木剣を植木の中に片付けて此方へと歩いてくる。
ちなみに上の言葉はその時の第一声である。
「仮にも騎士王の血筋でしょう!もっとシャキッとしなさい。シャキッと!」
「2度言わなくても分かるわ!」
砂埃を払って立ち上がると彼女は腕を組んで困った顔でこちら側を見つめていた。
「友哉……?貴方何年剣を振ってきたの?」
「三年くらいか?」
「……嘘でしょ?基礎もなってないし、型もガタガタ。真面目に取り組んだならこんなに酷くは…………ちょっと待って。ねえ友哉、正直に答えてね?」
何やらブツブツ言いだしたかと思えば急に笑顔になる……けど何やら嫌な予感しかしないんだが!?もうその笑顔の裏に何やら怒りが透けて見えるぞ!
「友哉はさ……もしかしてだけど真面目に生きてこなかったんじゃないよね?」
「……聞いても怒らないなら言う。」
「怒らない、怒らないから。」
「……この世界ではただ漠然と生きてきました。」
刹那、頭に手刀が振り下ろされた。傷1つない細くて綺麗な腕から出るとは思えない威力が内包されており、思わず膝をつく。
「怒らないって言ったじゃねえか!?」
「怒ってなーい。怒ってなーいよ?」
いや嘘だ。絶対嘘だ。街角アンケートをとっても100人中100人は嘘だって分かるぞ、おい。普通怒ってない奴は血管が浮き出るほど拳を握りしめたりはしないぞ。
「友哉はさ、昔から希望を持たないよね〜。なんかどっかネガティブ思考なんだもん。」
いや待て、ねえ待って、お願い待って、手刀を止めて。何か女子の力とは思えないんだけど!?これ以上食らうと頭が爆発するぞ!?
「お仕置きだから、やめません。因みにこの手刀を教えてくれたのは力です。」
「あいつめぇぇぇ!!この世界であったら覚えてやがれぇぇぇぇ!!!」
しかし、そんな叫びを聞いた彼女は無慈悲な罰の手を止める。頭を庇いながら涙目で見ると先程の表面上の笑顔ではなく、心の底から笑っていた。
「何がおかしいんだよ?」
「うん?ふふっ、だって友哉がようやくちゃんと生きようとしてくれたんだもん。」
「は?何でそんなことーー」
「だって力に仕返しするんでしょ?この世界に来てるかも分からないし、会えるかも分からない友達に。」
そこまで言われてようやく気づく。自分の発言の不自然さに。
「良い兆候だよ。少なくとも友哉は今、少し希望を持ち始めた。今はまだそれで良い。ほんの少し、希望があればこんな世界でも自分の足で歩いていけるでしょ?」
ふわりと綻ぶその笑顔と言葉に俺は少しだけ救われた気がした。
アリスに会って未来を信じたくなった。友達もこの世界に来ている推測を聞いて少しだけ希望を持った。それによる変化がきっと今の言葉に無意識に現れたのだろう。
「……全くお前って本当にーー」
ーー最高に良い奴だよ。
その言葉は胸にしまって、気恥ずかしくなったのを隠す様に空き地から立ち去る。朝焼けに照らされた群青色の空は何処か眩しかった。
「友哉……帰り道逆だよ?」
「それ早く言えよ!締まらねえだろうが!」
結局方向音痴の俺は未来に連れられて帰って行くのだった……