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幼馴染達と行く異世界生活  作者: 篠宮ソラ
異世界転生編
4/44

友との再会

「な、何で……」


「私と貴方の仲でしょ?それに口調は前世から変わらないからバレバレだし。まあ他にも有るけど今は置いとくね。」


未だ状況を信じきれていない彼の手を引き、扉を開ける。中は机と椅子、ベッドが置かれた簡素なものだ。彼女は慣れた手つきでガタガタと音を立てている年代物の窓を開けると冷えた夜風が吹き込んでくる。


「……座って?久々に会ったから積もる話もあるでしょ?」


椅子に深く座り込み、手を膝に乗せる彼女に言われるがままベッドに腰掛けて荷物を床に置く。


「……なんで!どうしてッ!?」


「うーん?何から話して上げればいいかな。じゃあ友哉は何が聞きたい?」


友とまた出会えた喜びとあり得るはずがないと考える疑惑が入り混じり、涙を流しながら笑う彼に前世から変わらない笑顔のまま彼女は泣き続けているルイスの頭を撫でる。子供をあやす母のように。


「大丈夫だから、私は……未来はここにいるよ。だから落ち着いて、ねっ?」


彼はただその温もりを求めて抱きつく。彼女の胸の中で泣き止むまで彼は離れることはなかった。



彼女が生きてここにいるーーその実感を得ながら……



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「死にたい。」


「ふふ、可愛かったよ?友哉。」


「ああああああああああぁぁァァァァァァァァァァ!!!!!!」


暫くして落ち着いたルイス。だが彼はベッドにかけられていたカビ臭い毛布に蹲り、絶叫していた。


彼の気持ちを代弁するなら大体こんな感じだ。

『好きな奴の前でみっともなく泣き喚いてかっこ悪いところを見せちまったァァァァァァァァァァァ!!??!ああああ恥ずかしさで死ねる!」


「いや〜友哉って昔からそうだよね〜何というか母性をくすぐられるっていうか、甘えさせてあげたいっていうか?」


「いっそ、殺せ。そして俺という存在をこの世から無くしてくれ。お願いします。」



羞恥に悶え、ベッドに頭をバフバフと叩きつける奇行を暫く行い、拉致があかないと思った彼女の手によって毛布を引っぺがされた。


隠れる場所を失い、耳まで真っ赤になった少年ルイスは露骨にアリスから顔を背ける。



「なんで目を逸らすの?やっぱり…私のこと嫌い?」


「べ、別にそんなんじゃねぇが……ただみっともない姿を晒したことに合わせる顔がねぇだけだ。」


「ふ〜ん。」


「何、笑ってんだ!コラァァァァァ!!!」


彼は楽しんでいた。心の底から喜んでいた。


友に会えた。それも好きだった友に。


(生きてて……よかったッ!!本当によかった!!)


今まで無気力にただ流されるだけのように生きて来た彼にとっての微かな光。諦めずに生きて来た甲斐がここにあった。


だけどふと我に帰る。好きな……親友が生きてたことに舞い上がっていた彼は再び昏い表情に戻った。


「……それでだが、なあ未来。さっき聞きたいことがあったら聞けって言ってたな?ちょっと聞きたいことがある。」


「私に答えられる範囲ならね。」


ふわりと微笑む彼女を直視できずに横を向くルイス。昔から彼女の笑顔に勝てない彼であった。だが彼の横顔には憂いが見える。


「俺たちは転生したって……ことだよな?つまり、俺たちは……死んだのか?」


聞きたいと思っていたこと。はっきりさせておきたかったことだ。そうでもしないと彼はいつまでも喪失感に苛まれ、一歩も進めなくなる。


「……言いづらいけど、そうだね。私がクラス会から帰って来た時にはもう……みんな死んでた。駆け寄った私も誰かに後ろから襲われて、気づいたらこの世界に来てたの。」


「そうか……犯人の顔は見たのか……って今更聞いても無意味だな。捕まえようがないし、復讐すらできやしない。」


「文字通り生きてる世界が違うからね。」


現実を再確認し、項垂れるルイス。それを見て励ますかのようにアリスは声高々に告げる。


「でもまた会えた。また一緒に過ごせる。今はそれでいいじゃない?ねっ?」


「ーーいいわけねぇだろ」


明るく振る舞う彼女とは裏腹に彼が纏う気配は暗く、俯いたまま吐き捨てた言葉には僅かな怒りが滲み出ていた。


「……あいつらが死んだ。その事実だけは絶対に変わらない。俺は……俺は!少なくとも未来や夢叶と出会ってから友の為に生きて来たつもりだった。それがこのざまだ!少し強くなったところであいつらを……親友達を!人殺しから守れなかった!散々、頼れだの、守ってやるだの口だけ一丁前なだけで……いざとなったら全て失う……そんな野郎だよ、俺は…」


それは自分の中で分かっていたこと。分かっていながら見ないふりをしていたもの。それを彼女にぶつけるべきではないことを彼は理解している。


だが、堰を切ったように溢れ出るその言葉は途切れることを知らない。それでもアリスはただ彼の胸の奥につっかえていた汚いものを喚き散らすのを静かに受け止める。


「俺が前世で生きる支えにしてた信念なんて……そんなもんだよ。ーー”何よりも友の為に”それが果たせなかった時点で俺がこの世界で生きる意味なんて見いだせるわけもねぇ……」


1人じゃなくなったその時から、彼はその為に生きようとした。身近な世界を、自分の手で抱えられるものを彼は守ろうとしただけなのだ。


「……お前に会えて本当に嬉しい。それは本当のことだ。……けどな、俺の気持ちの大半はお前らを守れなかった自分への怒りなんだよ。」


何度剣の修行中に考えたことか。何度夜中にあの日を思い出して枕を濡らしたのか。何度船上で自責の念に駆られたか。


けれど未だ気持ちに決着はつかなかった。その抱えていたものを全て吐き出した……のだが。


「……何か言えよ?」


彼女は一切口を出さなかった。流石の彼も顔をあげてアリスを見る。だが最初に浮かんだのは疑問だった。


あれほど暗いものをぶつけたのに彼女の顔は何1つ変わらずにただこちらを真っ直ぐ見据えるだけだったからだ。


まるで胸の奥まで見透かされていたようなその目から逃れようとするが、いつの間にか近づいていた彼女は彼の頬を両手で挟んで無理やり真っ正面に直す。






「友哉って……本当に本ッッッ当に!馬鹿だよね!!」





ゴッチィィィィィン!と奇妙な音を立ててアリスから頭突きを食らったルイスはベッドに仰向けに倒れこんだ。


「いってぇぇぇェェェェェェ!!!何しやがんだ!未来!」


「うっさい!!」


再び鳴った鈍い音。余りの痛さに起き上がった彼へのカウンターを決めるかのような綺麗な2度目の頭突きは見事クリーンヒットし、彼は少し汚れたマットレスに体を沈める。


「もう……馬鹿だとは昔から思ってたけどここまでとは……私の育て方間違えたかな?」


幸せが間違いなく逃げるため息をつく彼女に鈍痛に頭を抱えながらも彼は起き上がった。


「てめぇに育ててもらったことはねぇっての。馬鹿か、お前は!」


「馬鹿に馬鹿って言われたくないわよ!」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ!!お、お前!三度目の正直って言葉知らねぇのか!何度頭突きをかませば気がすむんだ!」


「貴方のそのふざけた思考回路を正すまで!私は何度でも頭突きをするわよ!二度あることは三度あるからね!」


流石に3度も食らった彼に4度目を食らいたいという気持ちがある訳もなく、彼は額をさすりながらも座り直す。


「あのねぇ、友哉?私達は1回でも貴方に守って欲しいって言ったことあるかしら?」


「……はあ?」


腕を組み、仁王立ちし、怒りのオーラを背後から漂わせている彼女から発せられた言葉に間抜けな反応を返すルイス。


「ほ、ほら?前に達の悪い同級生に囲まれていたときに助けてくれってーー」


「それは助けが欲しかっただけで誰も守って下さいとは言ってない。現に、あの時だって私も微力ながら戦ったわよ?いい?友哉、貴方の信念は他人が聞けば殆どがすばらしいっていうに違いない……だけど!それを私達に押し付けないで!」


言い訳がましく思い出を探った結果を出してもバッサリと切り捨てられた挙句に彼の信念を真っ正面から否定。友を失った時とほぼ同じ精神的ダメージが彼を襲う!


「いや、でも、だって……」


「いやでもだってでもないのよ。友哉?別に貴方の信念が間違っているとは言わない。だけど貴方が思う友達っていうのは一方的に守られるだけの存在なの?」


「それは……」


答えがすんなりと口から出ない。それを見やり、彼女は呆れた表情で眉間を抑えながらも椅子に深く腰掛ける。


「友っていうのはお互い支え合い、競い合うものでしょ?それなのに貴方はいつからそんな傲慢な思想を抱くようになったの?違うよね?貴方の中の本当の信念を思い出しなさい。」


「俺の……本当の信念。」


彼の始まりは未来と夢叶がいたおかげで強い奴に立ち向かえた。初めて守りたい、失いたくないと思ったことに由来する。


「……あの頃の俺は唯、ずっと一緒にいたいと思っていた。でも夢叶が病気で死んだ時に思ったんだ。俺が駄目だから彼はいなくなったんだって……だから強くなろうと思った。守ってやろうと考えた。もう……誰も失わないようにって。」



「……そうだね。多分そこから変わっちゃったんだね。でも大丈夫、それさえ分かっていれば友哉はしっかりした自分の信条を思い出せるよ。さてともう……こんな時間だし、私も部屋に戻るね。そろそろイスランさんも仕事終わる頃だしね。」


「は?おい待てよ!話はまだ終わってないし、俺のーー」


「それは自分で見つけなくちゃ駄目だよ?私の”幸せな未来を掴むこと”みたいな信念がきっと貴方の中にあるはずだから。」


立ち上がり、扉に手をかけた彼女は最後に何かを思い出したようにこちらを振り向く。悪戯っ子みたいな笑みを見せた彼女は友哉にとって嬉しいある推測を語ってみせた。


「ああそうそう、私の信念に従って1つ推測を立ててみたよ。」


彼に意味ありげな微笑を向けたままピンと人差し指を立てた彼女はこう続けた。


「普通に考えて私達が死んだのは殆ど同時ーーそれで私と貴方は異世界に転生して、出会えた。ーーなら、きっと他のみんなも同年代として転生してる可能性が高いはず。」


「…………え?」


「それじゃあおやすみ〜」


言いたいことだけ彼女は伝えるとバタバタと足音を立てながら部屋から出て行った。残された彼は彼女の言葉にまるで魂が抜けたような表情だったという。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……これで良かったよね。こうでもしないと彼のトラストはきっと目覚めないから。」


綺麗に整頓された自身部屋に帰って来た彼女はベッドに倒れこむ。


「また会えて良かったよ、友哉。」


天使のような可愛らしい笑顔のまま彼女はそう1人呟くのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……みんなもか。」


昔の俺があり得ないと切り捨てた推測をあいつはいずれそうなるみたいにいいやがった。確かに俺とあいつがこの異世界で出会えたことも含めるなら確かに限りなく正しいはずだ。


「俺の本当に信じるもの……か。」


いつからか、すり替わっていた俺の信念。親も失い、家も失った俺らにとってそれは生きるための揺るぎない不変なものに等しかった。


「……何だっけなあ。」


友達を最優先する。其処だけは違いない。普通に考えて見ず知らずの人と友達が困っていたら友達を助けるはずだ。見ず知らずの人まで助けるほど俺は人が出来ちゃいない。無論、他の奴等も半分はそうだろ。


「思い出すしかねぇか。」


少なくとも時間はたっぷりある。だからといってもう、堕落した生き方はしない。仮にもしあいつらまでこの世界に来ているならみっともない真似を見せる訳にはいかないからだ。


「……寝よう。」


明日も仕込みとかあるだろうし、もう寝よう。今日は色々あって疲れたしな。俺は枕元のランプを消してベッドに横になる。


そしてそのまま深い眠りに落ちていった。



そして翌朝。


「ほら〜起きなさい。ルイス、今日から働くんだから、ちゃっちゃと動く。はいほら」


「……もうそんな時間か」


寝ぼけ眼をこすり、開かれたカーテンからは優しい光が差し込んでくるが、寝起きに対しては殺人光線と大差ない。


もぞもぞと光から逃れるモグラのように毛布の中へ避難すると毛布ごとひっくり返され、光から逃げ場を失う。


「もう〜友哉って朝が弱いってところは死んでも治らなかったみたいね?」


「……人間そう簡単には変われない生き物なんだよ。」


「つべこべ言わずにほら着替える。服は持って来たから。」


はい。と渡されたのは麻の白シャツに黒いズボン、それと黒いエプロンが渡された。対して彼女は膝丈までのスカートに白シャツに蝶ネクタイという格好だ。


「……なぁ。」


「どうしたの?サイズでも合わなかった?」


「いや見た所、それは大丈夫みたいだが……」


服とアリスを交互に見る彼を困惑した目で見る彼女にルイスは言い放った。


「お前、まさか着替える姿を其処で見続ける気か?」


「……え?……あっ。ああああああ!?ご、ごめん!す、すぐ出てくから!」


瞬間、一気に顔をリンゴのように真っ赤にした彼女はドッタンバッタンと取り乱しながら部屋から出ていった。


「其処まで取り乱すほどか?まあいい、俺もさっさと着替えちまおう。」


先に言っておこう。彼は自分への好意に疎い人間である。







「……もう着替え終わった?」


ひょこっと扉から顔を覗かせるアリス。彼女は目を手の平で隠しながら此方へと歩いてくるが指の間から様子を伺っているのがバレバレだ。


「覗き見はいいから案内してくれ。」


それに対してアリスはついてきてとだけ言うと昨日来た道を戻り、裏口から中に入る。厨房の中では既にリミアルさんとイスランさんが仕込みを行なっていた。


「やあ、おはよう。ルイス君。昨日はよく眠れたかい?」


「……まあぼちぼち」


「そうかい。なら、準備を手伝ってもらおうかな。イスラン、教えてあげてくれ。」


「はいよー。じゃあこっち来てくれ。アリスは机と椅子を綺麗に並べといて。」


「はーい。」


イスランさんに連れられてやって来たのは古びた竃。本当に絵本や昔話の中でしか見たことない代物だが……これで何作るんだ?


「ルイスには黒パンを焼いてもらう。黒パンって知ってるか?」


確か、芋とか混ぜて傘増ししたパンのことだよな?この大陸じゃ良く食べられてることや中までしっかり火を通すから黒パンと呼ばれてるとかなら、知ってる。


まさか、騎士王時代に親父の目を盗んで見た食料の本が役に立つとは思わなかった。俺は肯定の意思を表すと彼女は歯を見せるほど笑って背中をバシバシ叩く。地味に痛え。


「なら焼き方もわかるか?分かるようならもう今日からは焼いてもらいたい。まああんまりお客様も来ないから焦らずゆっくりな。」


ええ〜まじか〜。俺の担当これかよ。調理法は記事に崩した芋を混ぜて発酵させたら焼くというお手軽なもんだぞ?むしろ、メインの方につきたかったんだが?


「なぁイスランさん。メインって誰が担当してるんですか?」


「そりゃあもちろんリミアルさ。私は料理がからきしだからね。まだリミアルの方が上手いさ。」


まだってなんだまだって。おいおいまさかとは思うが出される飯が不味いからお客様が来ないとかそんな理由か?これって。


「まさかとは思うが……なぁアリス?」


おい、未来。こっち向けコラ。なんで「終わったよー」って言って入ったら話を聞いた直ぐに白々しく椅子の整理に向かうんだ。終わったんじゃねえのか。


「……私には手に負えない。後は任せた。」


「何かっこいい感じで言ってんだ、おい。要は諦めたってことじゃねえか。」


「……食べればわかるよ。彼らのレベルの低さを。」


椅子の整理に向かった未来もといアリスをずるずると厨房に引きずり込んだ結果、何となく予想がつく事を言われた俺の気持ちを分かって欲しい。


「何ぼさっとしてんだ。朝飯の時間だぞ?ほらさっさと食ったら、開店すっからな。」


2人して曖昧な表現で沈黙してる後ろからイスランさんが2つのお盆を持ち込んでこちらに来る。イスランさんは空いてるスペースにお盆を置いて立ち去った。


本日の朝食

マッシュポテト

野菜一欠片の塩辛いスープ

黒パン。


「何でだよッ!?」


仮にも騎士王家の血を引き継ぐ料理人がこんな不味そうな料理を作んなコラァァ!!


「ちょっ!落ち着いて!ルイス!荒ぶる気持ちは分かるけど!分かるけど!せめて食べてから判断して!」


……そうだな、見た目はともかく味は美味しいかもしれないしな。まあそれじゃマッシュポテトを一口。スープを一飲み。パンをひと齧り。…………………………おい。


「ふざけてんのかッッ!!」


「待って!ルイス!言いたい事は分かるけど!前世とは違うの!そこら辺を理解して!」


何なんだ!この味は!マッシュポテトを味がねえし、スープは塩辛すぎて海飲んでるみたいな上に黒パンはパサパサすぎて話にならねえわ!


「俺はやだ。こんな朝飯なんて。絶対に認めるものかぁぁァァァァァァァァ!!」


「シャラァァァァプ!!リミアルさんとイスランさんがこっちに来ちゃうから!我慢して!」


そりゃそうだろ!ここは世界樹がある大陸。命を懸けて成り上がろうとしている町での唯一の楽しみなんて食事だけのようなもんなのにこんなもん出された日には1日ローテンションだろ!


「くっそ、直談判して来る!俺に料理をやらせてくれって!」


世話になってる身としては生意気だが少なくとも俺が作る方がまだマシだ!


「……分かった。私も行くよ。私も流石にこの食事は……ねえ?」


…………………………


…………………………………………


「え?メインの料理を作らせて欲しい?はは〜ルイス君面白い事言うな〜」


はははは……そりゃそうか。確かに見た目8歳の少年に料理を任せようとする馬鹿はいねえよな。だけどな、男には譲れないもんがある。


「いやいやルイス君。意外と料理ってのは奥が深くてね……かれこれ10年間積み重ねて来てやっと人様に出せる味が作れたんだよ。」


つまり、10年間やってこの味だと……戦慄する俺に見せつけるように塩をドバドバ入れて野菜スープをかき混ぜるリミアルさん。


いやそんなに入れたら海みたいな味になるから。むしろ入れすぎて死海並みの塩分濃度になるから。


あたふたする俺にリミアルさんは笑いながら「これくらい入れないと冒険者さんの疲れは取れないからねえ〜」とスープを味見している。まじかよ、おい。


「……なあこんな話を聞いてどんな顔をすればいいと思う?」


「笑えばいいと思うよ。」


結局、疲れたような顔の未来と共にメインの料理と言う名のよく分からないものを作っていたリミアルさんとの舌戦と剣戟の果てに明日の朝のメニューを担当できるようになったのであった。





「イテテテッ!!染みるから、もうちょい優しく!!」


「これ以上優しくは出来ないから、我慢しなさい。」


本日の営業を終了した後、俺はアリスに引き摺られながら彼女の部屋に連れていかれた。ベッドに腰掛けた俺に消毒液をパシャパシャかける彼女のせいで部屋には悶絶の声が鳴り響く。


「けどまさかあそこ迄とはな……」


「そこは友哉が悪いからね?普通作ってくれた人に直球で不味いって言われたらキレるから!もう少し、オブラートに包むとか無かったわけ?」


「いやだから、ちゃんと包んでただろうが?」


「『オブこの料理不味いですよラート』みたいな言い方にしろとは誰も言ってない!もうこの怪我だってそのせいでしょうが……」


消毒が終わり、タオルで汚れなどを吹かれた俺は先程あった惨劇を思い出して背筋が凍る。まさかこんなところで騎士王の実力が見れるとは思って無かった。


「顔は笑ってたけど剣は確実に殺しに来てたよね。」


「2度目の死の瞬間を垣間見たぜ……」


無駄に素晴らしい剣術が容赦なく俺たちを襲ったが理由はどうであれ明日の朝食の権利は勝ち取ったんだ。


「はいおしまい。これに懲りたらあんまり生意気な口の聞き方しちゃダメよ?前世とは違うんだから、その発言がいつか命取になるかもしれないしね?」


包帯を巻き終わり、完了の合図とばかりにペシと頭を叩かれた俺は椅子に座り、机に向かう。明日の朝食のメニューを考えるためにイスランさんに渡された材料のメモにはジャガイモや塩、後はパンのための小麦や卵などが書かれていた。野菜も少ないがキャベツみたいなものもあるらしい。


「これだけあってなぜあんな料理を10年間続けて来たのかが気になるな……」


「もしかしたら、2人にとって思い出深い料理だったのかもしれないね。」


「仮にそうだとしたら、悪いことをしたな……」


なんかしみじみとしてしまったが俺の勘はまだまだ冴えているらしい。今ここにある材料で作れる冒険者達にとっての最適な料理を紙に書き出していく。


「……何だか昔を思い出すね、ルイス。まだ8年前くらいの事なのに」


どうやら感傷的になったのか未来が俺の後ろから机の上のメモを覗き込見ながらそんなことを呟いた。


「そうだな。彼奴らは昔から暇さえあれば俺と未来に料理を作れと違ってたよなあ……」


思い出すのはかつての日々。仲間達と過ごした幸せな日々。


(おい友哉。肉買ったからなんかうまいもん作ってくれ。)


(美味しい魚を強d……げふんげふん貰ったからなんか美味しい料理作ってもらえる?)


(カレーライスが食べたいの!早く作りなさい!)


(ねえねえ夜食作って貰っていいかい?今から徹夜でゲームプレイするからさ!)


「……大丈夫だよ。友哉。きっとみんなも来てるから。」


すっと後ろから抱きしめられる。彼女の暖かさが今の俺にとってやけに落ち着く。どうやら俺の胸中を見透かされていたらしい。全くつくづくこいつには敵わないな。


「ありがとな……未来。」


「どーいたしまして、友哉。」


この後2人は夜が明けるまで料理の考案、試作を行うのであった。




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