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幼馴染達と行く異世界生活 作者:ソラ

魔剣捜索編

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憧れを越えるため

ちょっと遅れました。
筆が乗ってしまって。
〜友哉〜

「うおりゃあっ!!」

勇ましい声を上げながら腰だめに剣を構えて突っ込んでいく友哉は未来との特訓の日々を思い出していた。

『いい?友哉、騎士王剣術は別に騎士王だけが使えるものじゃないんだから。あれは騎士王が代々技を作りながら受け継ぎ、騎士国に広めた闘術なの。』

「炎はここに大いなる力をもたらし、焼き尽くせ!ーー炎舞!」

真っ正面から突っ込んでくる友哉にトラッシュは火の魔術を唱えるが、そんな悠長な詠唱をしている隙に既に友哉は間合いに入り込む。

『だから別に難しいことはなくて、コツさえ掴めば私みたいな魔人にだってマスターできるんだから。いい?まず闘術を使う前にーー』

「相手の攻撃をよく見る…だろ?」

いつも未来が使っていた魔術だ。つまり、彼にとって最も分かりやすい攻撃と言えよう。

迫る火の舞を彼は地面スレスレまでに体を曲げて炎の下をくぐり抜けるとその勢いのままでトラッシュをすれ違いざまに斬り捨てた。

『騎士王剣術ーー瞬。すれ違いざまの抜刀術。三代目が作り上げた速さ重視の剣技ね。友哉にはこれを覚えて貰うから。見事に習得できたら抱きしめてあげる。』

「くっ……」

しかし、いくら綺麗に決まったとしても所詮は子供の腕力、大した傷にはなりはしない。

だがそれは彼も重々承知の上だ。友哉は今度は剣先を下に向けてトラッシュへ向けて一歩踏み出す。

力のフェイスを使ってーー

『おめでとう!友哉、やれば出来るじゃない!じゃあ次ね、次は二代目がつくった剣技ーー翔、やってみようか。もちろん、覚えたらご褒美に膝枕して頭撫でてあげる。』

「なっ!?」

いきなり速さを増した友哉に対応する事が出来ず、棒立ちのトラッシュを友哉は下から切り上げた。

剣は右太ももから左肩へ向けて跳ね上がり、最後には彼も跳ぶ事でトラッシュの体を斬り裂いた。

「こんのガキがッ!空中に浮いたままじゃ避けられないだろ!!死ねぇぇぇ!!」

『この剣技は二段構えなの。最初の一撃で斬りあげてわざと隙を晒す。そして相手がそれに食いついた瞬間、2つ目の刃が相手を斬るのよ。』

「タイミングはここだよなッ!」

手に込められた魔力を見るや否や彼はトラッシュの肩を蹴って一回転、飛んできた魔力弾をやり過ごすとそのままトラッシュの背中へ回り、斬りつけた。

「チョロチョロしやがって!風の力よ、ここに大いなる力をもたらし、切り刻め!''風刃''!」

背中越しに声を荒げながら唱えられた風の魔術。

不可視の刃が残心する友哉に迫るが彼は慌てるそぶりもなくただ剣を顔の前に持ってくる。

『今回は覚えるのに時間が掛かったね。でも偉いよ、友哉。貴方がこの半年頑張ってたのは知ってるから。それじゃあ次に行こっか?次は4代目騎士王ではなく、リミアルさんがつくった剣ーー堅。』

(見えないからって焦らなくてもいい、俺には力を貸してくれる友がいるからな!)

力のフェイスを一旦、解除し、使うのは未来のフェイス。

ーー右足を狙った1刃、剣を持った手を狙う2刃、そして命を刈り取る3刃ーー

見えた未来に従って彼は体を動かす。

右足を少し上げて1つ目を回避。
剣を持った手を刃の軌道に合わせ、2つ目を弾く。
そして3つ目の刃は頭を下げて、やり過ごし、そこから走り出す。

いとも簡単に対処した友哉にトラッシュは戦慄するが彼だってただ黙って見ていたわけではないのだ。

「世界を覆う風よ、ここに。世界を包む水よ、ここに、空は果てまで続き、海は際限なく広がる。恵みの雨、災いの風をここに表す。舞うは嵐、奏でるは我が歌、その歌は海を超え、世界に響く。それに従い我の元に姿を現したまえ、風雨の龍よ!"嵐翔龍扇"!」

先程の攻撃はこのための時間稼ぎ、彼が扱う中でも最高の魔術だ。

この魔術は水と風で出来た龍が相手へと襲いかかる魔術。これを無効化するにはこれ以上の火の魔術が必要になる。

しかし、闘人である友哉にはこれをなんとかする手段はない、そう考えたのだ。

「!?ちっ」

軽く舌打ちすると迫る龍から90度曲がり、逃げるがどうやら追尾式らしいこの魔術はちょこまか逃げ回る友哉をしつこく追いかける。

「無駄無駄ぁぁ!君みたいなガキには対処できねえよ!この魔術は魔力を半分程持っていくがこれで倒せなかった相手はいない!無様に泣いて死ねぇぇぇ!!」

既に勝ち誇ったかのように高笑いするトラッシュがあまりにもかませ犬のようで友哉は思わず苦笑する。

彼だって殺し合いの経験はないが闘いの経験は存在する。

いつだって彼は友が困っていたら身を削ってまで助けた。たとえ馬鹿にされても非難の目にさらされても彼は友の為に闘い続けた。

何人もの不良相手を殴り飛ばし、権力をかさに友の正義をへし折った奴らを蹴り飛ばし、彼は短い人生を走り抜けたのだ。

顔から血が出ても骨が折れても友の笑顔を守る為に闘った経験は今でも彼の中に生きている。

友哉は捕まった時に手放した荷物に手を掛けると風の龍へと向けて投げ込んだ。

風の龍がそれを大口を上げて飲み込むのを見るとすぐさま風の龍へと向けて走り出す。

「馬鹿だ!馬鹿がいる!自分から死にに行ってやんの!」

腹を抱えて笑うトラッシュの声など友哉の耳には届いていない。見つめるのはただ一点、狙うのはそこだけだ。

龍の口が友哉を飲み込む寸前、龍の顔面が爆発した!

「なっ!さっきの荷物に何か仕込んでやがったな!」

トラッシュの推測通り、友哉の荷物の中には全くと言っていいほど使っていなかった魔結晶が入っていたのだ。

およそ20個ほどあった魔結晶全てが魔力へと変わり、龍の顔面を破壊したのだが、壊れたのは一部分、そしてそこから見えるのは焦るトラッシュ。

「フェイス発動ーー力」

もう未来を見なくてもいい。今、必要なのはただ前へ向けて走ることだけだ!

「聞いて驚け!俺の100メートルのタイムはーー!」

頬に当たる水飛沫、目も開けられない風が吹き荒れるが彼は足を止めない。ここで足を止めれば確実に負けることが分かっているからだ。

「駄目だ!来るなぁぁぁ!!」

トラッシュは喚き散らしながらも魔力を込めた。それは友哉の足を止めるには十分で後一歩の位置で動きが止まる。

だが、ただ一瞬、この一瞬、息が出来るなら彼にとってこんな嵐のような魔術など問題はーーない!

「11.5秒だぁぁぁぁ!!」

力強く踏み込んだ先に見えたのは恐怖に怯えるトラッシュの姿。

頬に伝う雫もそのままに彼は剣を振るう。

「………だが一歩遅い!喰らえ!土弾!!」

しかし、相手の手には拳骨大の岩の塊、それがかき分けて出てきた友哉へと迫る。

『堅はカウンターの剣。相手の攻撃を防御しながら攻撃を繰り出すの。でもタイミングを間違えたら大怪我するから気をつけてね?今回もマスターできたら…そうだね………添い寝してあげる。』

友哉は岩の塊の軌道に沿うように剣を構え、突き進む。

峰に当たった岩玉を友哉は受け止めず、柔らかく岩石の向きを変えて、いなすと真っ青になったトラッシュの懐へと潜り込んだ。

『ひとまず2年も掛かったけど無事に覚えられて何よりだね。撃、翔、堅、瞬、そしてーー」

「この技は俺が1番最初に覚えた技だ。存分に味わいなッ!!騎士王剣術ーー斬!!」

斬、それは初代が撃とともに生み出しとされる剣技。

一点集中の剣技である撃とは違い、この剣は剣の振り方が全て繋がっている。そのため、相手に回避されるまで剣戟が続くのだ。

友哉の振りかぶった剣が肩の肉を斬り飛ばし、そして踏み込み、切り上げる。

トラッシュは妨害用の魔術を唱えようとするもその詠唱よりも早く、脇腹に剣が突き刺さる。

だがまだ止まらない。

剣を一気に引き抜き、返り血を辺りに撒き散らしながら、脹脛を浅く切りとばし、トラッシュの動きが僅かに止まったところに全体重を乗せた一撃が頭に向けて振り下ろされた。

「ふざけんなっ!ふざけるなぁぁぁぁ!!」

号哭しながらもわざと倒れることで致命傷を避けるがそれを見越していたのか友哉は倒れ込んだ体へ力のフェイスで強化された蹴撃をぶち込む。

「ぐっ!がぁぁぁぁぁぁ!?」

友哉の一撃は脇腹の傷に突き刺さり、メキメキッと嫌な音を立てるが友哉は顔色ひとつ変えずに蹴り飛ばし、トラッシュは悲痛な叫びをあげながらも宙へと浮かんだ。

「まだまだ行くぞオラァ!!」

蓮撃は止まらない。落ちてくる着地点に回り込み、重力に従って落ちてきたトラッシュに逆らうかのように剣を滑らせ、断ち切る。

それにより、更に打ち上げると力のフェイスで強化された体を存分に発揮し、宙を舞うトラッシュに並ぶとそこから地面へと向けて剣の峰で叩きつけた。

「ラストォォォォォ!!」

天井を蹴り、落下速度を更にあげ、隕石のごとく地面へと向かうトラッシュの体に渾身の突きを放ち、そのまま地面に突き刺す!

ぶちぶちと肉を切る感触を剣越しに嫌というほど味わいながらも確実に殺すために何度も剣を振り下ろす。

刺殺回数が片手で数えきれくなり、血の海が広がった所で友哉はついた肉片や血を払い、鞘にしまう。

「悪いが恨むなよ、例え未遂でも俺のダチに危害を加えた可能性が万が一、あった以上、俺は躊躇いなくお前を殺しただろうからな。」

そして友哉はフェイスを解除し、力の安否を確かめるためにフェイスを未来に切り替えた。





ーー血まみれになったトラッシュが赤い何かで自分の心臓を貫くーー

「なっ!?」

すぐさま後ろを振り返った先には赤い何かが一直線に心臓へと伸びており、無理やり体をひねり、肩を抉られるがどうにか死ぬという未来は避けた。

すぐさま力のフェイスに切り替え、傷を癒すが上手く傷口が治らない。

「回復能力が遅くなってる!?つか、確実に殺した筈だ!何で!生きてやがんだ!?」

目の前で蠢くのは赤い何か、よく見るとトラッシュの死体の周りにあった血が跡形もなく消えている。

ありえない、あり得るわけがない。そう頭の中で唱えようとも友哉の目に映るのは確固たる現実。

目の前で起きたことに理解が追いついていない中、赤い何か、トラッシュだったものはこちらに近づいてくる。

「オマエ……ココでコロス。キリフダキラセタコト、コウカイサセル。」

「おいおい……悪い夢なら覚めてくれよ、まさかその体全部、お前の血か!!血に意識を移したのか!?」

友哉は知らない。

トラッシュの魔法適性は『鮮血』本来、彼はこの適性を使い、自身の体の血液なら自在に操ることができることを。

だが友哉を格下と侮り、その魔法を使わずに戦った結果、心臓を貫かれ、死んだ筈だった……だが!

(悔しい………こんなガキに俺の理想が壊れるのはユルセナイ!!コロス!ヒトジャナクナッテモイイ!アイツヲジゴグにヒキズリコムダケノチカラヲ!)

死ぬ間際に浮かんだのは幸せな走馬灯ではなく、相手への憎悪と理想への執念だった。

試したことはなかった。

だが成功することは何処かで分かっていた。

自身の体に流れる血液に意識を移し、彼は再び闘いへの舞台に返り咲いたのだ!

「モウ、オマエ、オレにコウゲキデキナイ。オレノカラダ、エキタイ。トウジュツジャツウヨウシナイ!」

友哉の頭の中で警鐘が鳴り響く。

背中を冷たい汗が流れ、息は荒くなる。

(この感じ、覚えがあるーー)




ーーサナトスと対峙し、死の一歩手前まで行った時だ。



緊張からからか口が渇く。

心臓を冷たい何かで鷲掴みにされる感覚が友哉を襲う。

逃げたい、逃げ出したい。こんな恐怖にさらされるくらいなら何もかも捨てて逃げ出したい。

「って!何考えてだ俺は!」

震える膝を拳で殴り、自身を鼓舞して立ち上がる。

勝てるかどうかは分からない。

1度死んだせいで目の前の相手は小さな剣士に油断はしない。

「だけど!俺は負けられねえ!あいつらを守るためにも!あいつらに追いつくためにも!俺はここでお前に負ける訳には行かねえんだ!」

恐怖を押さえつけ、頬を叩いて剣を抜く。

気を抜けば下がる足を無理やり前に引っ張り出す。

「カテルトオモウノカ?」

そんな嘲笑が入り混じった声に友哉は泣き顔を隠し。笑顔の面を貼り付けて、精一杯の虚勢をはる!

「負ける気はねえよ!」

真紅の死棘が辺りを覆い、飲み込み、溶かし、支配していく。

理由も力も全てを投げ入れて血の祭典はここに開演した!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜力〜

「どうした?動きが遅くなっているぞ?そんなんで倒せるのか?」

「はあっ……はあっ!ちくしょうぅぅぅぅぅぅ!!」

拳と拳がぶつかり合い、力の指の股は避け、エインの指の皮が弾け飛ぶ。

「おらよっ!!」

「らあっ!!」

左足で踏みとどまり、返しのハイキックが力の右頰へと突き刺さる。しかし、力は平然と耐えると右拳をエインの鼻っ柱に叩き込んだ。

「ぶふっ……!!」

噴き出す鼻血、よろめく体、だがよろけただけだ、倒れることは自身のプライドが許さない。

「があっ!!」

すぐさま態勢を立て直し、裏拳が力の顔を狙うが力は涼しい顔でそれを避けようとする。

「なっ!?」

しかし、裏拳を避けた力の目の前に火の魔石が飛んで炸裂!小さいながらも顔の一部くらいなら吹っ飛ばす爆発。

だが

「今のは良かったぞ、エイン。だがまだ甘かったな。俺を殺したきゃ、これの100倍は持って来ねえと。」

「………化け物めッ!!」

「褒めるなよ、照れるだろ?」

黒煙の中から出てきたのは眼球が灼け爛れ、鼻や右耳が吹き飛びながらも平然とした力の姿であった。

虚をついて負わせた傷すらも回復能力で瞬く間に治っていく。

元どおりの男前の顔に戻るとそのままエインの目の前に瞬時に移動し、鳩尾を右拳で撃ち抜く。

その瞬間、エインは全身にかけている硬化魔法を集中させ、受け止めるが……力はニヤリと不敵に笑い

「寸頸」

有り余る全身の力を砲弾のごとく右手から発し、エインの体は宙に舞う。

放たれたその力はエインの内臓に軽くはない損傷を引き起こし、地面に受け身も取れず仰向けに倒れた。

「……かはっ!げほ、があっ!」

息が上手くできず、口には血の味が広がる。思わず咳き込むと口から赤黒い塊が飛び出す。どうやら体の器官の何処かがいかれたらしい。

エインは考える、硬化魔法で覆った皮膚を突き抜けて内臓に衝撃を与える攻撃をどう防げばいいのかを。それを破らない限り、彼に勝ち目はない。

魔力も底を尽きそうだ。そうなった場合、自分はここで死ぬだろう。

(とりあえず時間を稼ぐっす。そうすれば少しは痛みも引いてまだ戦えるはずっす。)

仰向けの状態から首だけあげて、力の様子を確認する。

見る限り、律儀に力はエインが立つのを待っているようでエインはゆっくりと体を起こしながら口を開く。

「……死ぬ前にひとつ聞いていいっすか?少佐。」

痛む部分を庇いながらエインは薄っぺらい笑顔を貼り付けて力の挙動を注意深く見る。

「そうだな、いいだろ。俺にも情がある。何でも聞け。」

(情がある人間は元部下に対してここまで痛ぶったりしないと思うっすよ!)

内心そう吐き捨て、エインは力が逆上して襲いかかって来ないように慎重に言葉を選ぶ。

「イーサン少佐は何故そんな力が有るのにもっと上手く使わないんすか?軍なんかにいなくても冒険者稼業とかで食っていくことも可能だったはずっすよ?」

だがエインの言葉が何か大事な線を超えたのか、力が露骨に嫌そうな顔をする。だからといって仕掛けてくるわけでもなく、ただ無言の状態が続く。

エインにとって時間をかけるのは好都合だ。傷を癒すにも、体力を回復するにも時間が必要だからだ。

治癒魔術はあまり得意ではないがそれでもないよりはマシだと小声で詠唱しながら、内部の痛みを和らげていく。

「……質問の答えだが、聞いても理解できないと思うぞ?」

「いいっすよ、どうせ死ぬ覚悟をするための時間稼ぎだったんすから。」

治癒魔術を一通り、かけ終わった後、袖に仕込んであった無色の魔結晶を口の中でかみ砕く。

無色は空属性であり、純粋な魔力の塊で有る。それを摂取することで魔力回復や体の痛みを取り除くことが出来る。

体内で魔力がしっかり循環し始めたことを力にバレないように隠しながら彼は時間稼ぎのために話を聞く。

「……枷が必要だったからだ。」

「……枷?」

意味がわからない。軍に所属した理由は食事のためと聞いていたがその中で軍を選んだ理由が枷?

「お前の言う通り、飯を食うだけなら中立大陸で職を探せばいい。または冒険者として名をあげるのも悪くはない。だがな……その時、誰が俺を止めてくれる?」

「……マジで理解できないんすけど。」

「なら噛み砕いて答えるとな、壊す力を振り回し続けて力に溺れて、人の道を踏み外しかけた俺を誰が止めてくれるんだ?」

彼は笑う。

だがエインにはそれが笑顔には見えなかった。むしろ、もっとおぞましい何かにしか見えなかった。

「……つまり、無駄に力を使わない、戦わない為に敢えて規則が厳しい軍を選んだことっすか?」

「そういうことだ。俺はどうも昔から格上と戦う時や力に溢れた者と対峙するとその部分の記憶が抜けて、気づけば相手が再起不能で倒れてんだよ。」

カタカタと何処かで音が鳴る。それが自身の奥歯がかち合う音だと後になって気づいた。

イーサンは本気で戦ったら無意識に相手を再起不能としてしまう……それは裏を返せば今、自分が生きているのは手を抜かれているからだと。

さっきまでの猛攻も少佐にとっては本気ではなかったのだと。

自分が少佐より遥かに弱いおかげでなんとか食らいついていることにーー

(あれだけ強くて、まだ本気じゃないんすか……はは、ハハハハハハ!……嘘だろ。)

彼は恐怖に慄く。そして後悔する。

(この男はーー俺なんかの手に負えるような奴じゃなかった!!)

「さて……死ぬ覚悟は出来たか?俺は殺す覚悟は出来た……がその前に聞きたいことがある。」

一歩、また一歩、徐々に距離を詰めて行く中でエインの耳に届いたのはそんな言葉。

「お前は俺を最初から殺す筈だった……なら何故、ここに来てすぐに俺を殺らなかった?」

その言葉にエインはただ目を閉じた。



〜エイン〜

自分はプローシライ王国の掃き溜めで生まれた。

プローシライ王国では過去に囚われずに王になれるという習わしがあり、試練に耐え抜き、王になった誰もが皆、幸せな生活を国民に与えてくれた。

自分が生まれた時代以外は。

その王が生まれるや否や、すぐに平等だったはずの国は変わり、格差が生まれ、理不尽が蔓延る国となった。

「貴方が……この国を変えなさい。」

娼婦であった母が死ぬまでいい続けていた言葉を胸に自分は当時から頭角を現し始めていた指揮者に入り、力を欲した。

そこで初めて任務を受け、闘人大陸にスパイとして潜入し、魔剣を探している軍の情報を流す為に軍に入隊したのだ。

この作戦を成功させる為に彼は必死で自分を磨いた。軍の訓練を嫌な顔せずに黙々とこなし、戦場では命すら捨てる勢いで武勲をあげた。

ただ力を得て、母との約束を守る為に。

「おめでとう。エイン少尉。これからお前の上司となるイーサン大尉だ。よろしく。」

だがそこで出会った上司は自身にはなかった強さを持ち、確固たる信念を元に生きていた。

敵になるかもしれない男に心を開く訳にはいかず、冷たくしてもその男は自分を見捨てたりはしなかった。

ーー少佐は何故、違反を繰り返す自分を庇うんですか?ーー

ふと不思議に思って聞いたことがある。その時、彼はなんてことないようにエインに背中を向けてこう言った。

ーーお前も大事な仲間だから。それ以外の理由なんてないーー

その背中は力なき少年だった彼にはとても大きく見えた。

いつからだろう、俺もこんな風になりたいと思ったのは……

いつからだろう、俺もこんな強さが欲しいと考えたのは……

いつからだろうーー


ーー俺がこの人に憧れるようになったのは。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「別に、唯、殺す機会がなかっただけっすよ。」

膝に手を突き、ゆっくりと立ち上がる。

おそらく、自分はここで死ぬだろう。

だからと言って、憧れた人の前で惨めな真似は出来ない。

今、戦う理由は魔剣の邪魔を消すためではない。

目標を越えるため、その先へ進むために戦うのだ。

生き恥を永遠に晒すより、一瞬の死に様が記憶に焼き付くほどに!!

恐怖は何処かに吹き飛んだ。ならーー叫べ!!

「……俺の名はエイン・クラフト!プローシライ王国スラム街出身!扱う魔法は硬化!指揮者所属の魔人だ!」

「……名乗りを受けたならこちらも返さなくちゃな。俺はイーサン・フォルス。闘術は軍隊式格闘術と空手、そして帝国軍の少佐だ!」

迷いが消えた男、迷わない男、互いに歩み寄り、お互いの拳が届く間合いまで近づく。



「実は以外とあんたの事気に入ってたっすよ。」

「奇遇だな。俺もお前の事、戦友だと思ってたよ。」


両者、同時に腕を上げ、互いの想いを乗せた一撃が2人の頬へと突き刺さる!

「だけどこの闘いは」

「終わらない」

「「どちらかが倒れるまで!!」」

2度目の激突はエインの左フックと力の右ストレート。

エインの左フックがこめかみをえぐり、力の右ストレートが奥歯をへし折る。

「があっ!!」

硬化して耐えたエインが頭から突っ込み、力の腹筋に頭突きをかましながら、執拗に肝臓へと拳を叩きつける。

「戦い方が雑だ!エイン!」

力の鍛え抜かれた腹筋に鈍い痛みと鋭い衝撃が走る中、迷う事なく、立てた肘鉄をエインのがら空きの背中に叩き込み、重い一撃を突き刺す。

その上で岩をも砕く威力の膝蹴りをエインの鳩尾へとねじ込みながら空いている右手で何度も何度もエインの後頭部を殴りつける。

それを歯が削れるほど食いしばって耐え、全身の力を振り絞り、体を僅かに浮かせるとそのまま前へと突っ込み、押し倒す。

「アアアアアア!!」

馬乗りになり、力の顔へと鉄以上の硬度と化した拳で殴る。

右目が潰れ、鼻がおかしな方に向いてもエインは殴ることをやめない。

「がはっ!野郎!」

「ぐおっ!!」

再び、殴りかかろうとするエインに向け、力は鍛え上げた腹筋で起き上がり、エインの顔へと頭突きをかます。

そして解放された右手でエインの体を横倒しにし、エインの脇腹を蹴り抉る。

「軍隊式格闘術だけじゃ、俺には勝てねえぞ!来いよ!エイン!魔人としての力を見せてみろ!」

「言われなくても見せてやるっすよ!泥沼ぁぁぁぁ!!」

曲がり掛けた鼻を力ずくで元に戻し、同時に震脚、するとそこを中心としてフロア全てが沈んでいく。

「あんたの寸頸とやらは確かに強力っす!だけど足場が不安定なこの場所でうてるんすか?」

「いい判断だ。だがなぁ!」

沈みかけた足を強引に引っ張り出し、身体能力にかまけてエインに接近し、近距離戦に持ち込む。

「そんなことだろうと思ったっすよ!土壁ぇぇぇ!!」

詠唱と共に作られたのは5枚の壁。しかし、力にとって、それは障害にならず、突進の勢いそのまま4枚の壁を砕いていく。

「これが最後の一枚だぁ!!」

最後の壁を拳で砕いた先には青褪めたエインがーーいなかった。

「ほんと馬鹿みたいっすよ。真っ正面から戦うしかない脳筋野郎がぁぁ!!」

真下から響く怒号と腹から背中へと抜ける衝撃、それがエインからの一撃だと気付いたが時既に遅く、身動きが取れないまま、宙へと投げ出された力の目の前には岩の弾幕が張られていた。

「炸裂する岩砕弾ストーン・ウィズ・ファイア存分に食らうと良いっすよ。」

鉄以上の硬度にまで上がった岩弾が隙だらけの力の体を砕いていく。

「全く!てめえはどうしようもねえ大馬鹿者だなぁ!!」

しかし、それら全てを受け切ってなお、彼の中から闘志は失われない。

千切れかけた右腕をもぎ取り、地面に落とすとそれをまた踏み台にしてエインに肉薄する。

「んなっ!!くっ……負けるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

迫る、力に全身の硬化魔法を右腕に集めて、特攻する。

両者の距離が一メートルを切り、振り上げた拳が、踏み出した足が最高の一撃を力に撃ち込まんと振るわれる。

(まだ右腕が回復しきっていない!もらった!!)

狙うは頭、カウンターの容量で弾丸のごとく飛んできた力の右腕に被せるようにエインの一撃が力の顎を捉えた。

「くたばれぇぇぇぇぇ!!」

腰をひねり、そのまま地面へと力を叩きつけようとするが回復しきった右腕がエインの左肩を掴む。

「……良い攻撃だった。お前は強いよ。俺が認める。だが……ここでさよならだ。」

右腕の腕力だけで体を支えながら、エインの左足を右足で踏み砕き、そして剛腕の一撃がエインの鳩尾から背骨を砕き、ぶち破った。

胃の内容物が、肺から空気が、心臓から血が全てが流れ出し、力なくエインは倒れる。

それを力は見下ろしていたーー
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