6・私が願えば、彼女は微笑む。
『誰っ!?』
私達の背後にいたのは、同い年ほどの男の子。
髪がジン同様真っ白で。しかし、ジンとは違う冷たい瞳をしている。突き刺さるような蒼い瞳に縦長の黄の瞳孔が映えている。青い着物を着ていて、灰色の帯が緩くほどけている。
「拙者は、神影ミロと申します。そちらは、二級悪魔のマイブジンと・・・」
ミロと名乗った男の子は、私をまじまじと見つめる。
「幽霊でしょうか?」
『え? は? えっ?』
「あなたは幽霊ですね。しかも、未練のない至って普通の地縛霊」
「そうだけど。なんか文句?」
「成仏するなら、あちらですよ? 幽霊さん」
ミロは、ななめ上を指さす。ちょうどその方角の方に輪廻転生するための門がある。どうやら私を挑発しているようだ。
「・・・? 行かないのですか?」
ミロは、わざとらしく首をかしげる。すると、ジンが一歩前に出て話しだす。
「あんたには、用は無いよ」
「はい。承知の上です」
ミロは、薄笑いを浮かべて答える。
「オレ達は、閻魔様に御用がある」
「そうですか。ならば―――」
ミロは、ジンの方を向く。
「ならば、それは何の御用でしょうか。地縛霊連れて不法侵入までして。二級悪魔さん?」
「あんたみたいな閻魔様の僕に用はないね。オレらは、閻魔様に会いたいんだ」
二級といわれ、ムカついているジンが食って掛かる。
「なんの用でしょうか」
「だから、あんたに用はないっていってるだろ?」
「まがいなりにも、閻魔様に認められた僕ですから」
「はあん?」
上から目線×上から目線のバトル。ジンとミロの間に火花が散る。どちらとも一歩も譲らない。
私は、それを見ていることしか出来なかった。
そこへ、助け船がやってきた。
「なんじゃ、ミロ。騒がしいのう? ジンではないか!」
「閻魔様!」
ジンが、発狂気味に叫んだ。勢いよくふったしっぽが、ビュンッと私の後頭部を打つ。その勢いで、私は前のめりになり無理矢理土下座させられてしまった。
「痛っ」
「馬鹿っ、閻魔様の前だぞ! ちゃんと礼儀正しくしろ!」
ったく痛いなぁ・・・。少しは加減してよ。私は、痛む頭をさすりながら、前を向く。
そこには、私と同じぐらいの歳であろう、女の子が宙に浮いていた。
「ジンか? 不正侵入者は」
「ふっ、不正侵入者なんて、めっそうもない!オレは、閻魔様にお会いに来ただけです」
閻魔は、上から目線で私を見下ろす。その視線が私の心に突き刺さるようで。
『あれが・・・閻魔?』
閻魔は。そもそも、閻魔とは。こんな、可愛い女の子だったのだろうか?
私の想像していた閻魔とは、すごく威厳のある歳とったじいさんだったんだけどな・・・。
まさか、私と同い年くらいの子だったなんて。
「なんか、文句あるか? 梨花」
閻魔は、こちらを向いて微かに口角を上げる。”どうだ”って感じに。
そう、閻魔は。
「壱村梨花じゃろ? そなたは」
私は、名前を名乗ってもいないのに閻魔は見事に私の名前を当てた。後ろで、息をのむ音が聞こえたのは、スルーしよう。
「そなたらは、何しに来たんじゃ? まだその時でないだろう」
「オレらは、閻魔様に、お願いをしにきたのです!」
ジンが、右腕を胸に当てる。そして、礼儀正しく礼をする。
「願い?」
「そうです」
ジンが、私に”お前が言え”とでもいうように私の背中をポンッと叩く。
『は?』
「なんじゃ、わしに願う事があるのじゃろ。なんじゃ?」
閻魔の声が地下牢にキィンと鳴る。
私は身を乗り出す。例え、閻魔の赤くて紅い何もかも着き通してしまいそうな瞳にギリッと睨まれようとも。
私は、大きく息を吸って一気に叫ぶ。
『生き返りたいんですっ!!』
その声が、ぐわんぐわん響く。どこまでも、地下に響き渡る。
『いや、生き返らせてください!』
「なぜじゃ?」
閻魔が、即座に問う。私は、思いとどまってしまう。
「なぜ、そなたは生き返りたいのじゃ? 理由があるじゃろ?
理由もないのか?」
『それは・・・』
私は、黙り込んでしまう。
そこに、閻魔が爆弾発言を下した。
「ふーん・・・梨花。そなたは―――――――――――」
閻魔が下した言葉。それは、真っ当な事実だった。
「そなたは、もう死んでるのじゃ」
『え・・・? そんなの―――』
私は言い返そうとするが。
「そなたは、もう死んでるのじゃ」
閻魔は、もう一度言う。
「もう、そなたは、みんなが知っていた壱村梨花ではないのじゃ」
閻魔と私は、睨み合う。
『それがなんか、問題ある?』
「今更、戻ろうとしたって、無理じゃ。いくら、元の自分を求めようとも不可能じゃ」
そして、こう冷たく言い放つ。
「もう、壱村梨花は存在しないのじゃ。そろそろ、認めな・・・?」
『・・・っそんなこと無いっっっ!! 私はここに―――――ッ!』
私は、私ではない・・・・・・っ、そんなの、そんなのぉっ―――――――――-----ッ
『・・・・・もう、最初っから、分かってんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!』
私は、ただただ叫んだ。息が切れるまで叫んだ。それで何かが変わるはずでもないのに、叫んだ。
「・・・・・・分かっているなら良いではないのか?
―――――梨花」
視界がだんだん真っ暗になってゆく。閻魔の声が、小さくなってゆく。
「またそなたに会う時を、楽しみに待っておるぞ・・・」
閻魔の紫色の髪がたなびくのが、ぼやけて見えて、私はそのまま気を失っていった―――――――――。