4・私と悪魔と交渉と。
「キミ、そんなに生き返りたいのかい?」
「えっ?!」
急に後ろから声がした。
びっくりして振り返る。そこには_____。
「誰?」
「オレ?」
そこには、変なやつがいた。ホントに変なやつだ。普通に不審者だ。私は、まじまじとそいつを見つめた。
そいつは、ところどころ破けた薄い灰色の服に濃い紫のズボンをはいている。歳は、私と同じくらい。顔は、血の気がうせているように青白い。赤くキツそうな瞳に、釣り目。口はなんというか、さけている。
そして、かなり浮いている。いろんな意味で。
おまけに・・・・・・。
背中に漆黒の翼が付いているではないか。
これが、決定的な証拠だ。
「オレは、マイブ ジン。二級悪魔だ」
「・・・二級?」
こいつは、悪魔だった。
しかも、まさかの”二級”!なんなの、二級て。悪魔に階級てあんの?
「・・・ジンさんですか」
「”ジンさま”と呼べ」
「はあ」
えらく、偉そうなやつだと私は思った。
いや、待てよ、こいつなら・・・。
どうやら私は、とんでもないことを思いついてしまったみたいだ。
二級悪魔、ジンは言う。
「地獄に来ないかい?」
真っ赤な眼を見開いて、私に話し続ける。
「お前みたいな、未練たっぷりの”生き返りたい”という願望を持っているものは、とても価値があるんだ」
悪魔は、不敵に微笑む。黒い、しっぽみたいなのがクネクネと動く。喜んでいる様だ。
「なんだ?断ち切れない未練があるのか?」
そこで。私はジンに言う。
「ないんだけどさ。
それより、ちょっと”取引”しない?」
「ん?」
悪魔は、キョトンとする。赤い瞳が点になる。それが、悪魔というには少し可愛いらしいそぶりだった。
「へ? なんで」
頭をかしげる悪魔。私はもう一度繰り返す。
「しようじゃない、”取引”を」
「取引ぃ? なにを」
ジンはポカーンとしてしまう。そんなジンに私は条件を差し出す。
「私の、この魂がすっぽり入るような、”肉体”ってある?」
あきっぱなしだった口を急いで閉じ、悪魔は答える。
「もちろん、あるぜ」
「じゃあ、その肉体をくれないかな」
私は、身を乗り出す。ジンは、戸惑いを隠しきれていない。
「くれるとは思うけど・・・相当な代償が・・・」
「くれるの!?」
「手続きと、交換条件を契約すればなんとか・・・」
・・・頼りない・・・。一言で言えばそう。
悪魔は、頭を抱え込んでしまった。
これこそが、”2級”の悪魔である。
一瞬でも、可愛いと思ってしまうほどに、全然怖くない悪魔。2級悪魔。
弱そうな悪魔。非常に、頼りない悪魔。
残念な悪魔なのでした。
「まず、閻魔様にお会いしなければいけない」
ジンは言う。
「お前、本気か? まじで生き返る気か?」
『うん』
「そんなにも、成し遂げたい未練があるのか?」
『へ?』
未練? 何それ、おいしいの?
私、ただ成仏したくないだけだから。
「お、お前っ!?」
『だから、未練なんてないよ』
「お前、バカなの?」
『馬鹿です。アホです、ピンボケ幽霊ですぅー』
あっかんべーをする私に、ジンは腕を組んで考える。
『・・・・・・あれ?』
ジンが、一瞬、誰かに見えたような・・・・・・。
おかしいな・・・・・・?
「うん?」
ジンが私の目線に気付き、振り向いた。
「・・・・・・あ。ゴメン、言い過ぎた?それか、オレの顔に何かついてるのか?」
『あ、いや。何でもない』
そうだよね。そんなわけがない。
・・・まさか、ジンがあいつに似てるなんて。
「問題は、どうやって行くか、だ」
『どういうこと?』
私はジンに聞く。
「お前、浮幽霊だろ。浮幽霊ってもんは、非常に割れやすいカバーガラスのようなもの」
『・・・なんで、カバーガラス?』
あれですよね、学校でよく使う、プレパラートにのってるやつ? いや、違うかな。確か、カバーガラス込みでプレパラートだった気が。
「それはともかく、未練がない浮遊霊は、たとえ罪がなくても地獄に堕ちる可能性が高いんだ」
『…はぁ』
それはどういう意味で?
「つまり、成仏、生き返る以前に永久に救われなくなってしまうんだ」