表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は、永久保存版。  作者: 壱村梨花
1話 幽霊
3/11

3・私は皆に会いに行く。

 まさか母や友人や医者は、張本人がすぐそこにいるなんて思いもしないだろう。


 だが実際にそこにいる。


 壱村梨花(いちむらなしか)(しぼ)りかすと化した壱村梨花(いちむらなしか)が。

 いわゆる、霊(生霊?)として。

 結局、看護師の臼井(うすい)さん何だっただろう。

 そういえば、小倉実果(おぐらみか)は、一体どこに行ったのかなぁ。探しに行くか。


 しかし、幽霊化してしまった足は、雲のように軽くて、少しふわふわした。壁も通り抜けられるみたいだ。

 スルスルと壁を通り抜け、ある病室の前まで着くと、そこには、「小倉実果(おぐらみか)」とかかれてあった。

 一応、ノックする。

 ―――――コンコンッ

 あ、ノックできるんだ~。初めて知ったかも。人生(じんせい)、やればできるんだなぁ。……間違えた。幽霊死(ゆうれいし)だ。なんだろ? 幽霊死(ゆうれいし)って。


 「どーぞ?」

という返事。OKがでたので、私はドアをすり抜けることはせず、ちゃんとドアを引いて堂々と病室の中に入る。

 私は、聞えるかどうか、(イチ)か、(バチ)かで叫んだ。

『みぃーか!!』

「誰っ!?」

 黄色いカーテン()しに実果(みか)の声が聞こえた。良かった、なぜか安心した。

 

 『失礼しま……っ!?』

 そこには、足を怪我(けが)したのだろう。実果が、ベッドの上で両足とも包帯でぐるんぐるんまきになっている。どうやら、両足とも()かれてしまったのか。ひどい様子だ。

『その足、大丈夫?』

「?」

『ミカ?』

「……気のせいかな?」

ちょっとぉ待てえぇい!? 今、思いっきりドア開けて入って来たよ!! 気のせいで済まされますかぁっ!?

『ミカ? 実果(みか)……? 小倉実果(おぐらみか)さんっ?』


「……」

 反応がない。

 そうか。やはり実果(みか)にはアユ同様、私が見えていないみたいだった。



 『あれ? そう言えば、あいつは?』

 私は思い出す。

 クラスメートの桜井正午(さくらいせいご)のことをすっかり忘れていた。あの(あと)、どうなったのかよく覚えていないから、正午(せいご)がどうなったか知らない。


 『はぁ、はぁ……。』

 結局、病院じゅうのどこの部屋を探しても、桜井正午(さくらいせいご)は、見つからない。

『あ~、疲れたぁ~』

 一体全体(いったいぜんたい)、どこにいるのだろうか。どこ探しても、(幽霊という事を少し利用しても)見つけることが出来なかった。すれ違ったのかも知れない。

 そして、新発見。

『これが結構疲れるんだなぁ……。(あし)って』

 ()けて見える(見えない?)(あし)一見(いっけん)、地面に着いていないようにも見えるが、一応地面の感覚(かんかく)がある(錯覚(さっかく)かもしれない)。まぁ、そんなこと、どうでもいいのかもしれないけれど。

 いったい、どこにいるのだろうか、正午(せいご)は。


 そんなこんなで六日も経ってしまったみたい。


 ある木曜日のこと。私は、もはや目的を忘れていた。

 私は、いままで通っていた学校の周りを歩いていた。最初は、散歩(さんぽ)のつもりで歩いていたが。見えていないのをいいことに、オール信号完全無視(しんごうかんぜんむし)。(よい子も悪い子も真似(まね)しないでね!)

 通りすがりに、帰宅中の二人の女子生徒がこんな話をしていた。


 「最近(さいきん)事故、多いよね~」

死亡事故(しぼうじこ)は、キツイわぁ」

 『……は?』

 思わず耳をかたむける。

「ウチんとこの1年だってね」

意識不明(いしきふめい)だったらしいけど、昨日(きのう)()くなったんだって」

「え? 誰よ?」

「確か、1年のイチムラナシカって子」

『えっ』

 全然知らなかった……。自分のことなのに……。

「今日、通夜(つや)だってさ」

「へ~……」

 私の心臓は、止まった。生きていたんだ。のに、私は、なぜ気付かなかったのだろう?

 どうやら、私は私自身を裏切ってしまったらしい。

 一方の私はまだ生きようと懸命に息をしていたというに。なのに私は、どうせ助からないとかほざいていた。だから。


 ”間違っても、実は生きていた”ってことはないよね?

 そう思いたい私もここにいて。でも……。


 もう一人の、そしてホンモノの私が。


 二度と帰ってこないところに()ってしまった。


 そして、ニセモノの私が残った。




 ……でも、どちらも、本物。




 俺のクラスメートが、亡くなった。


 俺の目の前で、()かれやがって。

 責任取れよ、なぁ、梨花(なしか)


 そして。

 

 先日、梨花の葬式に俺は行った。それは、悲しく、さみしいものだった。

 家族、親戚に、近所の人、担任(たんにん)の先生、部活の顧問、クラスメートなど生徒数名が参列した。別に、人数はにぎやかなのに。

 梨花の母は、ハンカチを手に、涙をぽろぽろ流している。

 そして、梨花の父はうつむいて泣いていて、 父方の祖父は、そんな息子をなぐさめる。

 梨花のいとこの太一(たいち)は、つまらないとでもいうように、持参のゲームに没頭(ぼっとう)している。

 近所のおばさんであろう人。茶屋のおっちゃん。看護師さん。梨花の父の同僚》。

 そして、担任の吉村(よしむら)先生。おまけに校長までもが。


 俺は、クラスメートの一人として来ただけ。

 あるいは現場を見てしまった一員として。

 他には、クラスメートの仁藤歩(じんどうあゆみ)小倉実果(おぐらみか)坂野真友(さかのまゆ)小田真菜(おだまな)青木京(あおきけい)……などと大勢。


 お坊さんがお経をとなえている間。

 泣く人、睡魔に襲われる人。ただそこにいるだけの人、放心状態の人。ゲームに集中してる人。いろんな人がいた。

 俺は、ただそこにいるだけの人として、そこに(すわ)っていた。




 今、梨花(なしか)はどこにいるかを考えて……。




 さあ、どうする?


 まる一週間たった今、それしか私は考えていなかった。

 私が私でなくなった今。

 考えることといったら、『どうしよう』の一言。

 これなら、いっそのこと転生(てんせい)してしまえばよかったなぁと、だんだん思ってきた。葬式(そうしき)は、終わってから日がたってしまっているだろう。肉体が存在しないのなら、復活は絶対的(ぜったいてき)不可能(ふかのう)だ。

 いまごろ生き返る方法を探しているなんて、私は情けない。


 肉体(・・)さえ、あれば……生き返れるのかな?


 『肉体……?』

 そうだ、肉体さえあれば、生き返る(・・・・)ことも可能(かのう)ではないか?

 『…生き返られるの?』

 生き返られる、でも。私の肉体は、もはや存在(そんざい)しない。

 焼かれ、(はい)になったはず。残っているのは、(ほね)だけだろう。

 『無理(むり)だねぇ~……』


 (ひと)(ごと)(つぶや)いている私。

 ここは、近所の駄菓子屋(だがしや)さん。

 お邪魔(じゃま)していま~す。

 代表的な、子供(おもに小学生)の(いこ)いの場。そこに、幽霊(ゆうれい)一人(・・)、いや、一柱(・・)たむろしている。そして、深い考え事をしている。

 答えがない考え事。


 もはや、目的を(うしな)って、ただそこにいるだけ。



 『さあ、どうする?』



 浮幽霊(ふゆうれい)()した壱村梨花(いちむらなしか)は、そう何度も(つぶや)き、(おのれ)()いかけるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ