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私は、永久保存版。  作者: 壱村梨花
1話 幽霊
2/11

2・私の友達は・・・?

 「息を吹き返す可能性は非常に低いかと……」


市内の病院にて。

「そんにゃ……ッ」

仁藤(じんどう)(あゆみ)は、病院の手術室の前で泣いていた。看護婦が、そのそばに立って申し訳なさそうな顔をしている。

 『……』

私はそんな状況を目前にし、(だま)りこくってしまった。

「どうにかにゃらにゃいんですかぁっ?!」

アユのかすれた声。〈手術中〉の赤い明りが、冷たい色の廊下(ろうか)をうっすらと照らす。

 ごめんね、アユ。アユは何も悪くないから。私は心の中で謝った。

「お願いです、私が一人で逃げてしまったから。あそこで勝手に逃げにゃければ、梨花(なしか)ちゃんは……、ひかれてにゃかったかもぉぅ……ぅぅ……っ…」

 目を真っ赤に()らしてアユは看護婦に泣きつく。

 自分の目の前で自分の親友がトラックに()ねられたのだ。泣くのは当然だ。

 だけれど、そんな悲しまないで。これは全部私のせいなのだから。

 『アユ……私は大丈夫なんだよ?』

 私は、すぐ隣りにいるのに。

 今すぐ、アユに謝りたい。アユを(なぐさ)めてあげたい。アユと話をしたい。だけれど、出来ない。私はもう幽霊になってしまったから。魂だけの状態では叶わない願い。

 アユに私は視えない。その事実は私の心を深くえぐり、跡を残した。


 看護婦はそんなアユをただ見守るだけで慰めてもくれやしない。多分慰められないんだ。看護婦の首にかけられた、”臼井(うすい)”と書かれたネームカードが蛍光灯の光を反射し、キラリと光る。

 「梨花さんは、大量出血の上、身体(からだ)のそこら中、複雑骨折(ふくざつこっせつ)をしていて、息をしているのが不思議なくらいなんですよ。歩さん」

暗い顔で言う、看護婦の臼井(うすい)さん。

 『あぁ、そんなにひどかったんだね』

 聞えるはずないのに、一応、私は独り言で呟いた。

 ……まだ生きてる。その言葉は、少しだけ私を勇気付けてくれた。

 『―――ん?』

今一瞬、臼井さんがサッとこちらを(にら)んできた……(よう)に見えたんだけどな。多分、私の見間違いだろう。


 「ぅぅ……っ、うわぁーんっ……、ひっく……」

そんなことは(かま)わず、アユは涙を流して泣く。大粒の雫が次々とアユの(ほお)をつたう。

「できるだけの処置を行っておきますよ。……歩さんも、お手、お大事に」

奥にいた白衣の男性―――おそらく院長と(おぼ)しき人が臼井(うすい)さんを呼んだので、臼井さんはそれだけ言い残して足早にこの場から去って行った。


 「どうか、梨花(なしか)ちゃんが助かりますように……」

アユは、両手を胸の前で合わせ、祈っている。その左手の手首には、包帯が巻かれていた。

 私は、ここにいるのに、アユは気付かない。それが、どうも悔しかった。

 そして、臼井(うすい)さんの言葉に私は不満を抱える。

『できるだけの処置って……もう、死んだも同然なのに、どうやってさ?』


 私は透けている自分の脚を見つめながら、自嘲的な笑みをこぼした。



 私には、小さい頃から”人ではない何か”が視えてしまっていた。

 それが、”幽霊(・・)”と知ったときのあの背筋(せすじ)に走った寒気(さむけ)は、今でも忘れられない。

 私は、臼井(うすい)知代(ちよ)

 母方の祖母(ゆず)りの強力な霊感と霊力を、私は受け継いだ。私の祖母はその世界では有名な霊媒師(れいばいし)で、若き頃は悪質な霊・悪魔を(はら)いに全国を転々としていた。もともと祖母は巫女であった。故に霊力を人並み以上に持ち合わせていたのだ。

 霊感とは、不思議な物で。私の母は霊力はあれども、全く強力な霊感は遺伝しなかった。

 どういうことか孫である私が、その強い霊感を祖母から受け継いでしまったのだ。


 小学生の頃、そのせいでよく私はいじめられていた。

 ≫「お前、おばけが見えるんだろ?」

 「そーだ、連れて来いよ!!」

 「紹介しろよ、”友達幽霊(****)”さんを!」≪


 幽霊が見えるせいで、近寄ってくる人も少ない。おかげで、友達もいない。

 いや、いたんだ。いたけれど、幽霊になってしまった。

 親友であった女の子は不死の病にかかってしまい、亡くなってしまった(・・・・・・・・・)


 友達が幽霊になったから、友達なんて、もういない(+++)

 幽霊が見えるから、友達ができない(++++)

 友達がいない(+++)、幽霊のせいで。


 ≫『私が、いるよ? たとえ、私がおばけだとしても。私はね、おばけになっても、ずーっと、千代ちゃんのお友達なんだよ?』≪

 佳代(かよ)ちゃんは、そう言っていた。


 ……そう。幽霊が友達なんだから、友達いる(++)じゃない?




 ねぇ?

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