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魔に属する少女達との語らい⑦/約束の日、来たりなば・後編




 そう、油断していた俺は、彼女達との邂逅を避ける事が出来なかったのである。


「――あら、もしかして旅人さんじゃないの?」

「……グリン様?」


 突然、背後から投げかけられた声に、ギクッとする。

 正確には、その聞き慣れた声に、だ。

 まさかそんなはずがないと必死に否定しながら、おそるおそる振り返ってみると――――。


「んげっ!? お嬢様とメイドさん…………だとっ!?」


 メーデー! メーデー! メーデー!

 本官は現在、深刻な精神攻撃を受けている!?


「な、なによその驚き方、失礼ね」

「珍しい場所でお会いしますね、グリン様」


 ははっ、変だな、オクサード街の名物コンビ、ソマリお嬢様とメイドの格好をしたエレレ嬢の幻覚が見えるぞ。


「な、なななっ、なぜ故にっ、こここんな街にっ!?」

「こんなとは失礼ね。この街とオクサードは友好関係を結んでいて、今日はお父様の遣いで書類を届けに来てるのよ。だから、むしろ旅人さんがこの街に居る方が不思議だと思うのだけど?」

「これが運命と呼ばれるものでしょうか。やはり二人は離れられない関係なのです」


 いつもの小生意気な口調、そして年不相応な夢見がちな思考。

 あかん、モノホンや。

 ほんまもんのお嬢様とメイドさんや。


 くっ、まさかこの街がオクサードの姉妹都市だったとは。

 姉妹と聞くとほっこりするが、よりによってこんな時に知り合いと出会うとは。

 しかもこの二人とは、最悪としか言いようがない。


 ……しかし、偶然にしては出来過ぎている。

 もしかして、お嬢様だからこその奇縁かもしれない。

 流石は世にも奇妙なスキル持ち。

「好奇心スキル」の本領発揮というところか。

 ほんと端迷惑な!!


「あら、何だか焦っている様子だけど、不都合な事でもあるのかしら?」

「…………」


 そう思うなら、気を使ってさっさと立ち去る優しさを見せてほしい。

 優しさとは正反対に、俺の顔色を読んだお嬢様が、日頃の恨みとばかりにニヤニヤ笑いながら追及してくる。

 くそっ、常日頃からプレゼントを渋って嫌がらせしていたのがこんな形で返ってくるとはっ!


「ふふっ、旅人さんが焦るなんて本当に珍しいわね。いつもとぼけた感じと言うか、演技っぽい仕草ばかりなのに」


 ……失敬な。

 誰だって人生という舞台で踊る俳優なんだぞ。


「――――あっ、分かったわっ! おんな! 女性関係ねっ!!」


 …………そうか、俺も分かってしまったぞ。

 今回の俺の役どころは、援助交際を疑われるスケベ親父という訳だな。

 恨むぞ、この舞台の演出家を。

 悪戯好きの運命の女神を。

 これだから年増女は嫌いなんだ!



「どうかしたっすか、マスター? ……あれって、ヒトの知り合いっすか?」

「ちょっと、エンコ達を放っておいて何でヒトなんかと遊んでるのよっ!?」

「……マスターは、守備範囲が広すぎです」


 近くでうろちょろしていた三馬鹿が、こちらの様子に気づき近寄ってくる。

 …………舞台のシナリオを先読みしてしまった俺は、妙に冷静になって己を俯瞰していた。

 人はこれを、諦めの境地と呼ぶのだろう。

 もうどうにでもなーれ!


「本当に女連れ! しかも三人! 十歳くらいの少女! ご主人様強制鬼畜プレイ!!」

「……ま、まさか本当に…………グリン様?」


 お嬢様の興奮が最高潮に達する。

 普通に子守しているって発想はないものかねぇ。

 まあ、マスターとか呼ばれているから無理か。


 両手を上げて絶叫するお嬢様よりも、信じていた相手に裏切られて悲しむような視線を向けてくるメイドさんの方が辛い。

 言えた義理ではないが、ここは無理にでも信じてほしかったな。


「……人聞きの悪い妄想は止めてくれ、お嬢様。こいつらは知り合いから子守を頼まれているだけだ」


 嘘ではない、広義では。

 だから、特殊なスキルで嘘を看破するお嬢様にも見破られないはず。

 だが、人類の天敵を街中に入れた後ろめたさがあるためか、どうにも歯切れが悪い。


「でも、ご主人様って呼ばせているじゃない。もしかして、旅人さんの奴隷なんじゃないの?」

「よく見てくれ、こいつらに奴隷の刻印なんて付いてないだろう。呼び方も俺が強要している訳じゃない。子供が面白がってそう呼んでいるだけだ」


 ついには奴隷ときましたか。

 倫理観の塊である俺は、まだ奴隷には手を出していないのに酷い言われようだ。

 こいつらが本当に奴隷だったら、穴を掘って同じ所に埋め直す仕事を毎日させているだろうさ。


「うーん、確かに嘘じゃないみたいね。元気一杯だから奴隷って感じじゃないし、あまり親密な感じでもないし。……疑ってごめんなさい、旅人さん」

「ワタシは信じていました。グリン様が年端も行かない子供に手を出すはずがありません」


 いやいや、がっつり疑われていたと思うんだけど。

 お嬢様の見解を聞いて安心する様が何よりの証拠なんだけど。


「まあ、理解してくれたのなら、それでいいさ」


 何にせよ、誤解は解けたようだ。

 確かに俺は若い子の方が好きだが、ロリコンと思われるのは心外である。

 ロリコンの元ネタであるロリータって女の子が十二歳だから、まさに魔人娘みたいな外見の子を示すのだろう。

 いくら若い子の価値が高いといっても、十代前半は犯罪ですよ。


「「「…………」」」

「ん?」


 難を逃れてほっとしつつ三馬鹿の方を振り向くと、目が合ってしまう。

 奴らは何故か、無邪気な子供っぽい笑顔をしていた。

 そして俺は、嫌な予感を覚えていた。


「――――ねぇねぇ、パパ。ママが待ってるから早く帰るっすよ」

「そうよそうよ。待ちくたびれたママが怒ってるわよ、パパ」

「……パパは、ママが待っている家に急いで戻るべきです」


「…………」

「…………」

「…………」


 ……なるほど、一難去ってまた一難か。

 分かります、定番の天丼オチですね。


 少女援交疑惑と奴隷虐待疑惑の次は、隠し子疑惑か…………。

 ダンディな男としては、どれが一番誇れるのだろうか。

 ああ、最悪の選択肢が目の前に。


 ――――いや、まてまて。

 そもそも、仮に妻と子供が居たとしても、別に恋人でもない相手に非難されるいわれはないのだ。

 ……だが、以前お嬢様に、結婚なんて絶対するもんかと啖呵を切っている手前、どうにも格好が付かない。


 その証拠に、お嬢様は騒ぎ立てず、黙ったまま半目で俺を見ている。

 対照的にメイドさんは、目を見開いてぷるぷる震えている。

 今日ほど自分の信頼の低さを実感した日はないぞ。


「オーケイ、分かった分かった。まずは冷静になろう」

「…………」

「…………」


 見知らぬ相手なら誤解されたままでいいが、なにぶん数少ない知り合いである。

 しかも、色々と性格なんかに問題はあるが、若く美しい女性に分類される相手だ。

 俺のクールでクリーンかつクリエイティブなイメージを保つために、誤解を解いておく必要がある。


「俺の地元にはこんな素晴らしい格言があるから、よく聞いてくれ」

「…………」

「…………」


「『疑わしきは罰せず』だ!」

「…………」

「…………」


 あれ?

 改善している様子がまるで感じられないのは、何故だろう。

 もしかして、言葉を選び間違えたのだろうか。

 いや、そんなはずはあるまい。

 古代ローマから続く真理なんだぞ。


「…………」

「…………」


 おそらく、異国の言葉だから上手く真意が伝わらなかったのだろう。

 大丈夫大丈夫、まだ余裕で挽回出来る。

 ちゃんと誤解を解いてみせる。

 何しろ、俺の言い訳ラインナップは三十六個もあるんだ。

 楽勝楽勝。



「…………」

「…………」

「――よっこらしょ、っと」


「あっ、ちょっと!?」

「グ、グリン様っ!?」

「人違いですからーーーっ」


 そして俺は、三馬鹿を両脇に抱えて、さっさと逃げ出した。

 三十六計、逃げるに如かず、である。




◇ ◇ ◇




「さて、最後に言い残す言葉はないか?」

「「「――――」」」


「そうか、いさぎよい事だ」

「「「――――」」」


「ようやく自分達の罪を認める事が出来たんだな。――――そう、お前らの存在自体が有害であるのだと」

「「「――――」」」


「これでお別れだ。後の事は心配しなくていいぞ。消滅してもお前達の存在は俺の糧になる。主に経験値という名の糧にな」

「「「――――!」」」


「今度は良識のある魔人を従僕にしよう。氷の魔人が狙い目だな」

「「「――――!!」」」


「それじゃあ、な」

「「「――――!?」」」


 何だよ、せっかく己の命を以て罪を償おうとする真摯さに感心していたのに、最後になって暴れやがって。

 最後まで迷惑な奴らである。


「…………く、……首輪が絞まって、……しゃべれないっすよ、マスターっ」


 キイコの口から、かすれた声が聞こえてきた。

 ふん、罪人は黙って処刑されておけばいいものを。

 エンコとアンコも同様に、首を押さえてのたうち回りながら、俺に非難の視線を向けてくる。


 ……仕方ない。

 人じゃなくとも、少女の姿をした相手を苦しめるのは気が引けるしな。

 俺は呪文を唱えて、極悪人を拘束していた首輪アイテムを解除した。


「――――酷いじゃないっ! エンコ達が何をしたっていうのよっ!?」

「……マスターは、少女の苦しむ姿を見て悦ぶ変態です」


「まさか、己の罪を認識する機能まで無いとはな。そこまで欠陥品とは思わなかったぞ」

「ちょ、ちょっと待つっすよマスターっ。キイコ達はちゃんと誤魔化したじゃないっすかっ!?」


 誤魔化す? あれが?


「……どういう意味だ? 詳しく話してみろ」

「だって、あんたがヒトに絡まれた時は、あんな風に言えば丸く収まるって聞いてたのよっ!」

「……マスター、アンコ達は助言された通りにフォローしただけです」


 先程のパパママ騒動は、てっきり三馬鹿の嫌がらせかと思ったが、どうやら違うみたいだ。

 ここは冷静に、状況を整理してみよう。


「つまり、誰かから俺とお前らの関係を疑われた時には、親子関係だと説明すればいいと勝手に助言した奴がいるんだな?」

「そうっす、『知恵の魔人』は何でも知ってるっすよ!」


 こりゃまた確定的に怪しい魔人が現れたな、おい。


「なるほど、事情は理解した…………」


 騙されて俺を窮地に陥れた事は万死に値するのだが、一応こいつらに悪気はなかったらしい。

 言わずと知れたポンコツだから、仲間から言われた通りに行動したのだろう。

 ちっ、処分するいい機会だと思ったのに、今回だけは勘弁するか。



「ちなみに、その『知恵の魔人』とやらは、他に何か言ってなかったか?」

「あー、そういえば、マスターとキイコ達が親子だと説明しておけば、『あなた達のご主人様は感極まって泣き出す』って言ってたっすね」

「そうね、『その後は、あまりのショックにあなた達しか周りに置かなくなる」って言ってたわね」

「……『知恵の魔人』は、最後に『やったね!』って言っていました」

「………………」


 よく分かった。

 ほんと、よく分かったよ。

 俺を女ったらしの屑に仕立てて人類からの信頼を無くし、なし崩し的に魔族へと引き込もうって作戦なのだろう。

 とんでもねぇ、なんて事を考えるんだ。

 三馬鹿への全てのアドバイスが、絶妙な具合で嘘ではないところがまた嫌らしい。

 こいつは本当に『知恵の悪魔』だな。


「……なあ、今度そいつを連れてきてくれ。今回のお礼をしたいからさ?」

「あっ、それは駄目っすよ。『あなた達のご主人様が私を誘っても断ってね。私の魅力にやられて私の事ばかり見るようになるから、あなた達も困るでしょ』って言っていたっすから!」

「…………」

 

 誘き寄せて消滅させたかったのに、ここまでお見通しとは、やはり怖い魔人である。

 こいつらのポンコツぶりに騙され、魔族を侮っていると痛い目に遭いそうだ。

 いや、もう既に実害が出ているのだが。


 知恵の魔人の棲息エリアに直接出向く方法もあるのだが…………。

 こちらの思惑なんてお見通しだろうから、雲隠れして俺の前には決して姿を現さないだろう。

 ならばせめて、これ以上の被害を避けるしかあるまい。


「――――なあ、お前達にお願いしたい事があるんだ」

「ど、どうしたっすかっ、マスターがキイコ達にお願いなんてっ!?」

「だ、大丈夫なの? 脳みそが焼き焦げているんじゃないの!?」

「……マスターは、ご乱心です」


 酷い言われようである。

 しかし、今回ばかりは我慢我慢。

 なにせ、俺の損益に関わる話だからな。


「今度から、その『知恵の魔人』に助言をされたら、それを実行する前に俺に伝えてくれ」

「えっ、どうしてっすか?」


「ほらさあ、いくら魔人の中で一番賢かったとしても、魔族と人類とでは常識が違うだろう? だから思い違いがあるかもしれないから、実行する前に俺が確認すれば万全だろう?」

「まあ、そうよね……」


 もう一押しだな。


「それにさ、俺は我慢出来ないんだよ」

「……マスターは、何が不満なのですか?」


 俺の熱演に騙された三馬鹿が、心配そうな表情をつくる。

 ここで一拍ためて、と。


「――――お前達が、俺以外に従う事が我慢出来ないんだ」

「「「えっ?」」」


「お前達には、いつも俺の言葉だけを聞いてほしいんだよ」

「「「ほわっ!?」」」


 三馬鹿が胸を押さえてキュンとした表情になる。

 その様子にうわっと思うが、作戦通り。

 こいつらってば生意気なくせにマゾ気質だから、俺様スタイルに弱そうだと思っていたら、まさにその通りだったようだ。


「「「マ、マスターっ」」」

「――――俺様のお願い、聞いてくれるよな?」

「「「はいっ!!!」」」


 よし、これで知恵の魔人とやらに好き勝手される心配はないだろう。

 こいつらはポンコツ故に素直だから、誰の話でもすぐに信じてしまう。

 だが、こうして情に訴えておけば、同僚の魔人よりもマスターである俺の方が優先されるはずだ。


 それにしても、チョロい、チョロすぎる。

 これほど効果覿面なら、もっと早めに俺様モードにしておけば良かったかもしれない。

 ……でもなー。


「「「………………」」」


 怖い。

 三馬鹿のうっとりした表情が怖い。


 この俺様モードって、本当の意味で、俺がこいつらのマスターであると認めた事になりそうで怖いんだよな。

 それに、歯の浮くような台詞とキメ顔をする必要があるので、冴えない中年男にとってはたまらなく恥ずかしいのだ。

 あーっ、穴があったらこいつらを埋めてしまいたい!


「「「――――ほぅ」」」

「――――――はあ」


 いつまでも惚けた表情でこちらを見ている三馬鹿とは対照的に。

 何だか大事な物を失った気がする俺は、大きなため息を吐いた。






◆ ◆ ◆






―――― 1日後 ――――






≪ オクサードの街にて ≫



「おやおや、お嬢様にメイドさん、随分と久しぶりだな。先週この街で会って以来だな。本当の本当に久しぶりだな?」


「……うわっ、旅人さんはこの前の出来事を本当に人違いで押し通すつもりよ、エレレ」

「……どんなに素晴らしい殿方でも触れてほしくない部分があるものです。ここは話を合わせておくのが大人の対応というものですよ、お嬢様」


「はははっ、久しぶりの再会なのにテンションが低いんじゃないかな、お二人さん」


「……うわっ、無理矢理テンションを上げて誤魔化そうとしているのが痛々しいわね、エレレ」

「……殿方には空元気しなくてはならない時もあるのですよ、お嬢様」


「ああっ、そういえばお土産があるんだっ! ほらっ、お嬢様が大好きな希少なおもちゃと、エレレ嬢が大好きな甘い甘いお菓子だぞ!!」


「……うわっ、甘い物さえ渡しておけば何でも納得する都合がいい女って思われているわよ、エレレ」

「……珍しい物を渡しておけば昔の事はすぐ忘れてしまう馬鹿な女だと思われていますね、お嬢様」


「――――それじゃあ、また来週! お風呂入れよ! 歯磨けよ!」


「あっ、ちょっと待ちなさいよっ! 私はまだ納得していないわよ!!」

「グリン様は、引き際も完璧ですね」






≪ 迷宮ダンジョンにて ≫



「――――ヤア、よく来てくれタネ。キミ達のマスターとの逢い引きは、どうだったカナ?」


「どうもこうもないわよ! あんたが教えた通りにやったら、凄く怒られたんだからっ!」


「デモ、最後には自分をマスターだと認めてくれたダロウ?」


「そうなんっすよ! あんなに強気で格好いいマスターは、初めて見たっすよ!」


「ま、まあ、最後はエンコ達にちゃんと命令してきたから、許してあげるわ!」


「……傲慢で押しの強いマスターは、最高です」


「ソウ、よかっタネ。――――ソウ、全て、予定通り、ダネ?」


 知恵の魔人。


 それは、相容れぬヒトの思考まで読み通す、恐ろしい魔人である。





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[気になる点] 「ママのもも」 誤字では無いよね?業とだよね? [一言] 太ももって良いよね。
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