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旅路の姉弟④/実験の成果




 ミイナとカイルのレベルは5から一気に8まで上がっていた。

 更にミイナが『槍術1』、カイルが『弓術1』のスキルも取得。

 彼女達はたった一度の戦闘で、一般的な大人並みの力を手に入れたのだ。


 レベルを上げるには、経験が必要となる。

 魔物は、ガチンコで戦わずともどんな形であれ倒しさえすれば大きな経験値が入る。

 奴らが魔力の塊だからだろうか。

 レベル上げで最も効率が良いのは魔物を倒す事なのだ。

 この不思議な世界においても、魔物という存在は特別のようだ。

 これで4つ目の実験が終了。


 それに、武器アイテムは操る者のレベルに関係なく魔力さえあれば扱えるみたいだ。

 弱者を強くするには、強いアイテムを与えるのが最も手っ取り早いと言う訳だ。

 これが5つ目の実験結果だな。



 レベルが上がっても消費した体力と魔力は回復しない。

 二人に「一休みしますか?」と尋ねたら、「続けたい」とお願いされたので、アイテムで強引に回復させる。


 ここでも実験。

 俺の魔法で複製した回復アイテムは、オリジナルと同じ効果を発揮してくれた。

 つまり俺の複製魔法は、地球産の品に限らずこの世界で製造された品、更には魔法で創造されたアイテムも完全にコピー出来る事が証明されたのだ。

 我ながら便利すぎて怖くなるレベル。


 一応の倫理から金銭の複製は自重するにしても、市場で売買されている物なら複製して売っても問題ないだろう。

 それが貴重なアイテムであってもだ。

 特に供給量の不足で困ってる消費者には喜ばれるだろう。


 これで金の心配は無くなった。

 ぶっちゃけ複製魔法による物量と金の力だけで天下取れそうだ。

 でも強力なアイテムを増やすと、その分俺の脅威になる可能性がある。

 特に武器アイテムの複製は控えよう。


 早くも6つ目の実験が完了だ。

 順調順調。



 次の戦闘からはハンナも参加した。

 彼女の改良された炎魔法は、ランク2の魔物を数発で撃破。

 ミイナとカイルもレベルアップによりステータスが大幅に上がった事、そして伝授した技を使いこなす事で、短時間で魔物を撃破するようになった。

 そしてまた、レベルアップ。


 以上の工程を夜が更けるまで繰り返した。




◇ ◇ ◇




 晩飯は複製魔法でバーベキューセットを出し、倒した魔物の肉を焼いて食べる事にした。

 自ら苦労して手に入れた食料。

 それを食べた方が美味しく感じるだろう。


 肉好きのカイルをはじめ、ハンナとミイナもがっつくように食べている。

 激しい運動の後だ。すごく腹が減っていたのだろう。

 デザートはパンが好きなミイナのため、苺のデコレーションケーキを出してみた。

 ……そして俺は、この日初めて、全員の笑顔を見る事が出来た。



 夜は、森の中で焚き火しながら眠る。

 アイテムで周辺を隠蔽しているから、魔物に襲われる心配は少ないだろう。

 樹木を背にして座り、魔法で出した本を読みながら、ついでに夜番。

 ミイナとカイルは、俺の両足を枕にしてスヤスヤ寝ている。

 子供は寝つきがいいので羨ましい。


 俺は寝るのが下手だ。

 二十代まではそれ程じゃなかったが、三十を超えると熟睡出来なくなった。

 歳の所為だと言われるとそれまでなんだが。

 特に他人と一緒だと殆ど眠れないのだ。


 この世界の住民と一日を過ごした結果、少なくとも人族は地球産の人間と変わらない事が分かった。

 これで全ての実験が終わったかな。



 ……ハンナは俺の横に座って休んでいる。

 寝息が聞こえないので、まだ寝ていないようだが。


「……ウスズミさんは、その、本当に商人なんですか?」


 こちらを見ずにハンナが話しかけてくる。

 今日の非常識な体験について疑問に思っているのだろう。

 適当に誤魔化すか。


「はは、商人らしい格好じゃなかったですかね?」

「い、いえ、そういう訳では……」

「遠い島国から出て来たばかりなので、この地域にはまだ慣れていないのですよ」

「いえ、そういう意味でもないのですが……。すみません、変なことを聞いて」

「……一夜の夢です。村に着いたら目が覚めますよ」

「……はい」


 暫くすると、肩にハンナの頭の感触が伝わってきた。

 そして寝息が聞こえてくる。


 俺はハンナの長い髪に指を絡めながら、一晩中本を読み続けた。




◇ ◇ ◇




 翌朝、姉弟は連戦と急激なレベルアップで体調が悪そうだったが、回復薬を飲むと治ったようだ。

 薬系アイテムを揃えれば医者要らずになるな。


 二日目からは魔物を拘束せず、自力で戦ってもらう。

 レベルが上がってるのでランク1の魔物なら問題無いだろう。

 念のため防具を装着。

 怪我は幾らでも治るが、蘇生アイテムが無いため即死だと復活出来ないのだ。


 幸いにも姉弟は大きなダメージを受ける事なく、元気に戦い続けた。



 こんな風に三日間を過ごした結果、三人の力を合わせると魔物ランク3まで撃退可能なレベルになっていた。

 ……やばい、成長し過ぎかもしれない。

 最終ステイタスは、こんな感じである。



名前:ハンナ

年齢:20歳

レベル:21

スキル:『体術1』『科学1』『信仰3』

魔法:『身体強化1』『魔力操作2』『炎系統4』『風系統2』


名前:ミイナ

年齢:14歳

レベル:18

スキル:『体術1』『槍術2』

魔法:『身体強化1』『魔力操作1』


名前:カイル

年齢:12歳

レベル:18

スキル:『体術1』『弓術2』

魔法:『身体強化1』『魔力操作1』



 レベルとスキルで大体の強さが分かるので、詳細な数値は省略。

 レベルは、冒険者並みなので結構高い。

 特にミイナとカイルは、十代前半で冒険者と渡り合える力があり将来有望。

 ハンナも炎魔法がランク4と頭一つ抜けている。お姉ちゃん怖いな。


 それと戦闘能力とは関係ないが、ハンナのスキル『信仰3』が気になる。

 このスキルは俺と出会う以前から取得していたようで、ここ数日の実験でランク1から3へ上がっている。

 まあ、ミイナとカイルは取得してないので、特段気にする必要はないのかもしれない。

 結論として、今はまだ経験不足だが、これから魔法とスキルの応用力を身に付ければ、冒険者として十分やっていけるだろう。


 ……いや、彼女達は冒険者なんて望んでいないのだが。

 無闇にレベルを上げてしまい申し訳ない。




◇ ◇ ◇




 遭遇した魔物を倒し、進み続けたその先――――。


 俺たちは無事、目的地に辿り着く。


「見えてきましたね。あの村で間違いないですか?」

「は、はい。一度来てますから、間違いありません」

「それでは手前で降りましょう」


 空から村に侵入すると驚かれるだろうし。

 変に目立ったら、これからの生活に支障を来すかもしれない。

 俺が村に入るのも止めた方がいいだろう。


 地面に降り立ち、三人と向かい合う。


「ここでお別れしましょう。実験にご協力頂き感謝します。満足いく結果が得られました」

「そ、そんな、こちらこそお世話になりっぱなしで、……その、本当にありがとうございましたっ」

「…………」

「おじちゃん……」


 ハンナはもどかしそうに礼を返してくる。

 ミイナとカイルも何か言いたそうにしている。


 ――――だが俺は、気の利いた別れの言葉を伝えるスキルを会得してない。

 最後は、事務的な話をして去ろう。


「お持ちの武器と防具は好きに使って下さい。村では目立つかもしれませんから、この収納用アイテムに入れておく方がいいでしょう。道中に倒した魔物のドロップアイテムも入れています」

「こ、こんな高価な品をもらう訳には――――」

「その代わり、出来ればですが、火の魔法と私の事は秘密にして下さい。目立つのが苦手なものですから」


 商人のくせに目立ちたくないとは、これ如何に。

 まあ、彼女達も俺が普通の商人とは思ってないだろうから了解してくれるだろう。


「……分かりました。あなた様の事は無暗に話さないようにします」


 ハンナの言葉に、ミイナとカイルも頷く。

 脅しているつもりはないので、そんなに畏まらなくても。

 あと、様付けが気になるのだが。


「最後にもう一つ。皆さんは自力で魔物を倒せるようになりました。ですが、戦闘経験はまだまだ浅い。無理せず、魔物と対峙する場合は必ず3人一緒にして下さい」

「っはい! 必ず守ります!!」

「……ありがとう、ございました」

「おじちゃん、ありがとう!」


 最後にミイナとカイルの頭を撫で、もの欲しそうしていたハンナの頭も撫でて、別れを告げる。


「それでは」


 俺は回れ右をして魔法の絨毯に乗り、そのまま飛び去った。






 ――――しばらく飛び続ける。


 そろそろ村も見えなくなっただろうか。

 なんとなく、振り返りたくはなかった。



 ……総評として、自分で言うのも何だが、思いの外、気さくな人物を演じる事が出来た気がする。

 会社と親族以外で個人的な交流が皆無な半引きこもりの俺が、である。

 やはり、心に余裕が有るお陰だろうか。


 高いレベルと多様なアイテムに裏付けされた優位性。

 その気になれば相手を容易に消し去る事が可能な絶大な力。


 また、通りすがりの何の責任もない自由な立ち位置。

 気が向けば適当に手を差し伸べればいいし、都合が悪くなれば何時でも逃げ出せる無責任っぷり。


 更には、年下相手に問答無用で発動される日本伝統の年功序列。

 理不尽な優越感。


 ――――これだけ多くのプラス要素があれば、俺のような甲斐性無しの中年男でも、良く云えば大人な対応が可能、悪く云えば人を欺くゆとりが生じるものだ。


 気の赴くまま身勝手に行動出来る立ち位置は最高である。

 『金持ち喧嘩せず』の意味が少し分かった気がする。

 己に余裕があれば、多少の不利益は許容出来るのだろう。

 村上さんちのハルちゃんも『優雅に生きることが一番の復讐』と言ってたしな。


 大きな力を持ってしまった者としては、『ノブレス・オブリージュ』みたいな高尚な慈愛精神に目覚めるべきかもしれんが、俺には到底無理だ。

 精々、目の前に腹を空かせた子猫が歩いてきて目が合ったら、ポケットを叩いてビスケットを増やした後に分け与える程度。

 所詮俺の器はその程度なのだ。


 だけど、そんな俺でも、今回のように誰かに影響を与える事が出来るのだとしたら…………。

 それは生きるのに精一杯で、流されるだけだった元の世界では考えもしなかった事だ。

 ……まあ、俺の目的は道楽なので、他人の都合はどうでもいいのだが。

 思いのほか簡単に人と交われた事に戸惑いを覚えているのだろう。

 つくづく駄目な大人だな。


 ともあれ、俺自身の反応を含めた実験は終了である。

 多くの成果が出たし情報も得たりで、とても有意義な時間だった。

 しかし、あの姉弟にとってはどうだろうか。

 レベルアップは悪い事じゃないと思うのだが、如何せん弱みに付け込んだ無理矢理な実験だったからな。


 選択肢が増えるのは、悪い事ではないのだろう。

 だけども、不幸を招く選択肢は元より無い方がいい。

 身にそぐわない力は、不幸に至る可能性が高いからだ。


「……魔物と俺に出会ってしまったのは、自分達の運の無さだと諦めてくれ」


 今度から強要は避けよう。

 なるべく、なるべくな。


 とにかく、今は眠りたい。




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