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魔に属する少女達との語らい②/ポンコツトリオ、来たる・後編




「――――よし、それじゃあいつものように、俺一人対お前ら三体の何でも有り有りでやるか」


 ……とどのつまり、こいつらは遊び相手が欲しいだけなのだろう。

 聞くところによると、上司の魔王と同僚の魔人以外に話し相手がいないらしいし。

 圧倒的な実力差があるから、人類が攻めてくる事も殆どないし、暇を持て余しているのだ。

 暇つぶしの相手に選ばれてしまった俺は、自分の不運を嘆くしかない。


 そもそも、俺はボケ気質なので、オールボケ役なポンコツ集団とは致命的に相性が悪いのだ。

 ツッコミよりもボケたいんだよ、俺は!


「はいっ! マスター、提案があるっす!」

「よし、却下だ」


「そこは、『言ってみろ』って返すところじゃないっすか!?」

「……とりあえず、言ってみろ」


 譲歩した訳じゃないからな。

 埒が明かないから諦めただけだからな。


「キイコ達が勝ったら、ご褒美が欲しいっす!」

「……褒美って、なんだ?」


 疲れたリーマンみたいな事を言いやがって。


「ヒトの街で遊びたいっす!」

「…………勝手にすればいいだろう?」

「魔王様から、自分のテリトリーから出るのを禁止されてるっすよ。でも、マスターの命令があれば大丈夫っす!」


 なんだ、魔人は行動が制限されていたのか。

 どうりで目撃例が少ない訳だ。


「人類なんて歯牙にも掛けない魔人様が、人族の街で何をするんだ?」

「何でもいいのよ! とにかく遊びたいのよ! ヒトの街ってほら、何だか楽しそうじゃない!!」


 駄目だこいつら。

 厄介事を起こす予感しかしねえ。


「暴力を振るわない、魔法を使わない、体を動かさない、喋らない、部屋から出ない、って約束なら考えないでもないが」

「それじゃあ、遠くから眺めてるのと同じっすよ!」

「なんで外に出て遊んじゃダメなのよ!」

「……マスターは、意地悪です」


 だから、暗に拒否しているんだよ。

 察しろよポンコツども。


「ところで、俺が勝った場合には何をくれるんだ?」

「えっ、もちろん何もないっすよ、マスター。褒美は上司から部下に贈る物で、部下が上司に贈ったら褒美にならないじゃないっすか」


 なんだその理不尽な理屈は。

 こいつらから貰いたい物なんて何もないのだが、不公平はよくない。

 断固として断りたいが、言い出したら聞かない奴らなんだよなー。


 ……まあ、いいか。

 これまでのように、俺が勝てばいい話だし。


「仕方ない。とりあえず要望を受理しよう」

「やったっす!」


「――――だが、成功した場合に褒美があるという事は、逆に失敗したら罰があってしかるべきだよな?」

「な、なによ、罰って!?」


「そうだな、お前らの名前を『ポンコッツ』『ガラクッタ』『ハリボッテ』に改名しよう」

「「「…………」」」


「中々可愛い名前だろう? お前らにピッタリじゃないか」

「「「…………」」」


「この三つの中から、好きに選んでいいぞ。何だったら全員『ポンコッツ』でも全然いいぞ」

「「「…………」」」

 

 これぞまさに、ポンコツトリオの爆誕である。


「ぜ、全員が『ポンコッツ』だったら、呼び分けに困らないっすか?」

「別に区分する必要はないだろう? お前ら全員、似たようなものなんだし。ついでに、『ポンコツトリオ』って芸名もつけるか」


「「「…………」」」

「もしも、本当にもしも、個別に用がある場合は、『緑ポン』『赤ポン』『黒ポン』って呼ぶかな」


「「「…………」」」

「ははっ、『緑ポン』だけ語呂が悪いな」


「……やばいっす。冗談で言ってる感じじゃないっすよ」

「……今まで見た事ないような笑顔よ。鬼畜すぎるわよっ」

「……マスターは、鬼畜な笑顔が似合います」


 元来、魔人には名前がない。

 『炎の魔人』と言った風に、司る性質で呼称されているが、個別の正式名称は与えられていないそうなのだ。

 何にでも名前を付けたがる者が居れば、逆に無頓着な者も居るからな。

 魔王様は後者の部類らしい。


 現在使用している「キイコ」「エンコ」「アンコ」は、従属化した際に請われ、性質に因んで適当に付けた名前。

 つまり、俺が名付け親に当たる。

 だから、改名する権利も俺にはあるのだ。


「くくくっ、俄然やる気が出てきたぞ」

「キイコの名前をみんな羨ましがってたのに、そんな名前に変わったら馬鹿にされるっすよ!」

「せっかくエンコって素敵な名前が付いたのにっ! 絶対負けないんだから!」

「……アンコは、アンコを守ります!」


 おおっ、いつになくポンコツトリオも本気のようだ。

 これはいい訓練になりそうだな。



「じゃあ、さっそく始めるか。敗北条件はいつも通り、俺がダメージを受けるか、お前らが死ぬかのどちらかだ」

「殺さないでよっ!? ちゃんと手加減しなさいよ!」


 ちっ、この機会に乗じて抹消しようと思ったのに。


「一応善処しよう。それじゃ、戦闘開始だっ!」

「マジでやったるっす!」

「ギタンギタンにしてやるわよ!」

「……マスターは、今日が命日です」


 お前らこそ、殺す気満々じゃねーか。



 ――――ここで、おさらいしておこう。


 魔物の最大ランク10は、人類のレベル100に相当する。

 そして、魔族の幹部である魔人の強さは、人類のレベル換算で150程度。

 単純計算すると、一体当たり150×3馬鹿=合計レベル450となり、俺のレベル203を軽く超える。


 総戦力では負けているのに、これまでの戦闘訓練で俺が無傷で勝利しているのは、大きな理由がある。

 それは、魔人娘が連携せず、個別に好き勝手戦うからだ。

 これは、ポンコツトリオのみならず、全ての魔人に共通する特徴だという。


 この世界に十体ほどしか存在しない魔人は、個々で人類の最大レベルを圧倒的に上回る力を持っているため、連携する必要がない。

 それに、魔王からの出撃命令は個々に出されるため、複数体が一緒に行動する機会もないようなのだ。

 俺の見解としても、我が侭な性格なので協力作業に向いていないと思っていたのだが――――。


「……おい、なんでお前ら、強くなってるんだよ?」


 正確には、一体一体が強くなっている訳ではない。

 三体が今まで見せなかった動きをしているのだ。

 それは、俺の見間違いでなければ、ちゃんとした連携と言えるだろう。

 おかしいな、自由奔放なのが魔人娘の矜持だと思っていたのだが。


「油断したっすね、マスターっ。この日のために、キイコ達は毎日寝ずに連携技を磨いたっすよ!」

「見た見たっ、エンコ達の力! 凄い頑張ったんだから!」

「……マスターという人の皮を被った血も涙もない極悪非道の畜生なる共通の敵がアンコ達を強くしたのです!」


 おいっ!?

 ただの訓練のために、そこまで必死になるなよ!

 人類の天敵に極悪とか言われたくねえよ!

 それにアンコ、そんなに長く喋れるのかよ!

 ちゃんとキャラ付け守れよ!

 

「……はあ、はあ」


 いかん、連携技よりも、連続ツッコミで疲れたぞ。

 俺のツッコミ癖まで計算し尽くした攻撃なら大した物だ。



 …………しかし、どうするか。


 正直、このまま連携され続けたら、洒落にならん。

 負けはしないだろうが、そこそこダメージを負いそうだ。

 くっそ! まさか三馬鹿に後れを取る日が来ようとは!


「どうっすかっ、マスター! これがキイコ達の本当の実力っすよ!!」

「殲滅よ殲滅! 謝っても許してあげないんだから! 燃やし尽くしてやるんだから!!」

「……マスター、素直に褒めてもいいんですよ?」


 おや?

 俺に実力を披露できて、キイコとアンコは褒めてほしそうだが、エンコだけ反応が違うぞ。

 同じポンコツ回路を持つポンコツトリオとしては珍しい。

 ふむ、ちょっと探りを入れてみるか。


「エンコは、なんでそんなに怒っているんだ?」

「怒って当たり前でしょ! あの事をエンコが知らないと思ってるの!?」

「なんの事だ?」

「とぼけたって無駄よ! この前、ヒトの集団と戦ったのを知ってるんだから!」


 ああ、炎の教団といざこざした件か。

 ちょっとした小競り合いなのに、魔族の情報網も馬鹿に出来ないな。

 それは、おいとくとして。


「それが、何か問題でも?」

「大ありよ! だって、ヒトの女と一緒に、火魔法を使って暴れまくったそうじゃない! 火を使うんだったら、何で炎の魔人のエンコを呼ばないのよ!!」


 あー、そんな理由かー。

 だって、仕方ないだろう。

 あそこで魔人が現れたら、普通の人類対魔族の構図になるじゃないか。

 あの時は、人智の及ばない天誅を演出したかったんだよ。

 お前の出番ねーから。


 ――――だがしかし、これは使える。


「それは悪かったな。……でもなぁ、エンコだけ呼び出すと、他の奴らに悪いだろう?」

「そんなの気にしないでいいわよ! エンコだけ呼び出しても何の問題もないわよ! いつも一人で呼びなさいよ!!」


 かかったな。計算どおり!


「…………」

「…………」

「あっ!?」


 キイコとアンコから睨まれたエンコは、咄嗟に口を押さえるがもう遅い。


「あっ、そのっ、今のは、ただの冗談で…………」

「へー、それにしては、ずいぶんな力説だったっすねー」

「……絶対、本気の本気だった」


「ちょ、ちょと口が滑っただけでしょ! まだ何もしてないわよ!」

「へー、まだ、っすねー。あれほど抜け駆け禁止と言ってたのは、どこの誰かさんだったすかねー?」

「……抜け駆け、ダメ、絶対に許さない」


 キイコとアンコは、犯人を逃さぬように挟み込んで、尋問を始める。

 今までと違う陰湿な雰囲気が怖い。

 色々と胡乱な存在ではあるが、こいつらも本質的には女性なんだな。


 嫌な事に気づいてしまったが、今は気にしまい。

 これだけ隙が出来れば十分だ。


「――――終わりだ」

「「「ぐぎゃーーー!!!」」」


 三馬鹿が言い争っている間、こっそり頭上に作っていた雷雲から、特大の雷を落とす。


「「「あばばばばばば!!!」」」


 おー、光ってる、光ってる。

 人は、こんなにも輝く事が出来るのか。

 人じゃねーけど。


「悪は滅びる、だな」

「「「ばたんきゅ~」」」


 ん? いま変な悲鳴を上げなかったか?

 翻訳アイテムは使用者の知識に依存して変換するから、偶に変な風に意訳されるんだよな。


「――よし、俺の勝ちだ!」

「ふ、不意打ちは卑怯っすよ、マスターっ」

「ふん、もっと高尚に心理戦と言いたまへ。戦闘中によそ見していたお前らが悪い」


 そう、俺は悪くない。


「それじゃ、俺は帰るぞ。善戦したから改名は勘弁しよう。お前らも適当に帰っていいぞ」

「……マスター、まって!」


 おや、根暗キャラのアンコが大声とは珍しい。


「……マスターは、左手から血が出ています」


 ちっ、気づきやがったか。


「そ、それっ、キイコ達の攻撃が当たった証拠っすよね!?」

「当たっていない。衝撃波がかすっただけだ」

「同じでしょ! ……ということは、やった! エンコ達の勝ちじゃない!!」

「……マスター、約束のご褒美を請求します」

「…………」


 まあ、こいつらの攻撃が要因となって怪我した事は認めよう。

 歪んだ動機とはいえ、俺のために努力して強くなった事も評価しよう。


 ――だから、仕方ないか。

 約束は約束だしな。

 これ以上、鬼畜呼ばわりされるのも癪だし、ちゃんと守ってやんよ!


「分かった、負けを認めよう。そして、約束も守ろう」

「ついにやったっす!!」

「すごく楽しみにしてるんだから!!」

「……マスターは、約束を守る男です!!」


 んぐっ…………。

 素直に喜ばれたら、ますます断れない。

 まあ、いい。

 俺は、約束を守る男なのだ!


「精々楽しみにして待ってろ!」

「「「はいっ!!!」」」


 いい返事。

 いい笑顔。


 こいつらが苦手だとしても、この笑顔は、裏切れない。

 そう思える、最高の笑顔だった。


 そうだよな、偶にはこいつらに優しくしても、バチは当たらないだろう。

 人は誰かに優しくすることで、自分にも優しくなれるのだ。



 ――――そんな決意を胸に、俺は街へと戻るのであった。






◆ ◆ ◆






―――― 数十日後 ――――






 約束は――――――まだ果たされていない。




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