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魔に属する少女達との語らい①/ポンコツトリオ、来たる・前編




 人里から遠く離れた、見渡す限りの荒野にて。

 俺は、高らかに叫ぶ。


「来い! ポンコツども!!」


 ここには、戦闘訓練をするために来ている。

 軽い運動であれば街の近くでも隠れて出来るが、全力全開の戦闘訓練ともなると、このように人目に触れる心配がない場所で行う必要がある。

 腕をなまらせないための簡単な訓練だが、やはり相手が居た方が効果的であろう。


 そこで、炎の教団との一件にて、神と魔族について思うところがあった俺は。

 嫌なのだが、本当に嫌なのだが、渋々、本当に渋々、奴らを呼び出す事にしたのである。


「……」 

「……」 

「……」 


 俺の命令に従い、三つの人っぽい物体が目の前に現れ、ぷかぷかと浮遊する。

 一見、十歳ほどの少女に見えるが、よく観察してみると、体躯の節々が普通ではない。


 緑の瞳と髪。

 木目の付いた肌。

 葉っぱを重ねた服。

 まるで、木の妖精のようだ。


 赤い瞳と髪。

 焦げたような肌。

 メラメラと燃える服。

 まるで、炎の化身のようだ。


 黒い瞳と髪。

 真っ白な肌。

 真っ黒な服。

 まるで、呪いのかかった人形のようだ。


 ――――何を隠そう、こいつらこそが、人類から恐れられる『魔人』と呼ばれる存在である。


「……」 

「……」 

「……」 


 ……そう、だな。

 ここいらで、種明かしをしておこうか。


 今まで、散々ミスリードしてきたが…………。


 ――――そう、俺が、この俺様こそが、この世界における『魔王』その人だったのだ!!


「……」 

「……」 

「……」 


 ふははははははっっ…………。


 いや、もちろん冗談だが。

 俺みたいな世界平和を切に願うナイスガイが、そんな悪行に手を染める訳がなかろう。


 って、誰に言ってるんだろうな、俺は。

 昨日、魔王が正体を隠して人の社会に紛れ込む漫画やら推理小説やら、本を読みまくった影響が残っているようだな。


「……」 

「……」 

「……」 


「チェンジで」

「「「!?」」」


 俺の交代宣言に、これまでジト目で沈黙していた三体が慌て出す。

 男には、チェンジとキャンセルする権利があるのだ。


「自分で呼び出しといて、ひどいっすよっ、マスター!」

「なんで交代なのよっ! エンコ達のどこが気に入らないのよ!」

「……マスターは、我が侭です」


 魔人娘はいつも、木の妖精みたいなキイコ、炎の化身のようなエンコ、呪い人形のようなアンコの順番で話してくる。

 まるで、プログラムに従って動く機械のようだ。


 緑色のキイコは、無駄に元気でこましゃくれた子供みたいな喋り方。

 赤色のエンコは、カルシウムの足りない癇癪持ちの子供みたいな喋り方。

 黒色のアンコは、根暗で黒魔術が趣味な子供みたいな喋り方をする。


「いや、ずっと黙って、俺を無視していたお前らが悪いだろう?」


 せっかく呼び出したというのに、何が不満なのか、黙ったまま俺を睨んでいたのはお前らだよな。

 俺にとってジト目はご褒美なのだが、例外的にこいつらのジト目には嬉しさを感じないのだ。


「今までキイコ達を放ったらかしにしてたんだから、当然の抗議っすよっ!」

「そうよっ! 自分の都合が良い時だけ呼び出すなんて、最低よっ! もっと頻繁に呼びなさいよ!!」

「……マスターは、いけずです」


「俺も拠点作りやら何やらで忙しかったんだ。それに、人類の天敵を街中で呼び出す訳にはいかないしな。そもそも、基本的に用なんてないしな。正直、可能な限り会いたくないしな」


「ひどすぎるっす!」

「最低よっ!」

「……マスターは、最悪です」

「いやいや、最悪はお前らの生みの親だろう?」


 なにせ、こいつらの創造主は、全人類の最大の敵である魔王だからな。


 …………はあ。

 このままでは埒が明かない。

 魔人娘と顔を会わせると、いつもこうだ。



 ――――魔人。

 それは、魔王が創り出した忠実な部下にして、魔王に次ぐ実力を持つ、魔族の幹部である。


 将棋で例えるなら、魔族の創造主である魔王が『王将』。

 人類が徒党を組み、どうにか倒せる魔物が『歩』。

 そして、人類を上回る力を持つ魔物さえも圧倒する魔人が『金銀飛車角』となるだろう。


 そんな人類社会の敵、パブリック・エナミーな奴らが、なぜ俺に従っているのかというと。

 強力無比な魔人を倒した事で発生するボーナスなのだ。


 魔人を倒した場合、通常はスーパーレアアイテムが手に入る。

 だが、トドメを刺さずに負けを認めさせた場合は、従属化させる事が出来るみたいなのだ。

 分かりやすく説明すると。

「なんと まじんむすめが おきあがり なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまに してあげますか? 」

「はい」

 ってな感じだ。

 この仕様は、従属化した後に魔人娘から聞いたのだが、あまりのゲームっぽさに思わず笑ってしまったものだ。


 但し、命令の優先権は魔王のまま。

 このため、創造主たる魔王本人や、同格である他の魔人達に対しての攻撃命令は受け付けてくれない。

 そんな中途半端な関係であるためか、魔人娘は俺をマスターと呼ぶようになった後も、反抗的な態度をとってくる。

 女性の可愛い我が侭だと容認するほど、俺も達観できていないのだ。


 こんな風に、性格に難があって、これ以上の戦闘能力を必要としていない俺にとっては、使い勝手が非常に悪い存在である。

 だから普段は、元いた場所に待機させる形で、今まで通りの生活を続けさせている。

 簡単に言えば、放置しているのだ。


 残念な事に、クーリングオフは出来ないらしい。

 こんな面倒な思いをするくらいなら、少女の姿に絆されて見逃さず、きっちりトドメを刺しアイテムをゲットしておけばよかった。


 …………今からでも、間に合うのではなかろうか?


「――――」

「「「ひいっ!?」」」


 俺が険のある目つきを向けると、魔人娘はお互いに抱き合って縮こまる。

 そんなに俺を怖がるくせに、普段の態度がフランクなのは何でだよ。

 もっと使い魔らしく従順にしとけよ。


「やっぱり、チェンジで」

「……無理っすよ、マスター。キイコ達以外に、従属化させている魔人が居ないじゃないっすか」


 そうなんだよなー。

 俺がこれまで倒した魔人は、この三体のみ。

 まさか、揃いも揃ってポンコツとは思わなかったぞ。

 運は悪い方だと諦めているが、ここまでクジ運が悪いと泣きたくなる。

 こんなことなら、修業時代に他の魔人も探しておくべきだったな。

 好きな数字である三体で満足したのが裏目に出たようだ。


「そもそも、エンコ達の何が不満なのよ!」

「沢山ありすぎて説明に困るが、一言でいうなら、鬱陶しい所かな。あとウザい」

「「「…………」」」


 そんな泣きそうな目で見られても困る。

 泣きたいのは俺の方だぞ。


「なあ、お前らからも、もっと有能な、いや贅沢は言わないから普通の奴に代えてくれって、魔王様に頼んでくれよ」

「いやっすよ! 何で自ら無能だと認めるような真似をしなくちゃいけないっすか!?」

「えっ? お前ら自覚ないのか?」

「……真顔で言うマスターは、嫌いです」


 だって、本当のことだろう?


「そんなに言うなら、エンコ達を呼び出さなければいいじゃない!」

「確かにお前らはポンコツで鬱陶しくてウザいが、それでも腐っても魔人だしな。

 性格を気にせず能力だけに限れば、極僅かながらも何かの役に立つ可能性が無いとも言い切れないしな」

「「「…………」」」


 だから泣きそうな顔をするなって。

 まるで俺が虐めているみたいじゃないか。


「前々から思っていたが、お前らって外見や口癖でキャラ分けしているけど、基本的に言動が同じだよな」

「「「!?」」」


 またもや三体そろって、驚愕の表情をする魔人娘。


「そっ、それは言っちゃダメっすよ!」

「なっ、なんでエンコ達が気にしてる事を言うのよっ!」

「……マスター、それは禁句です!」


 自覚あったのかよ。


「ひどいっす、本当にひどいっすよぉ…………」

「何でそんなにエンコ達が嫌いなのよぉ…………」

「…………しくしく」


 ガチ泣きはやめろぉ!

 お前らに罪悪感なんて持ちたくないんだよぉ!!



 ――――誰かが見ている訳ではないだろうが、一応言い訳をしておきたい。

 自分で言うのも何だが、こいつらが絡むと、俺の性格は何故か変わってしまうのだ。


 基本的に女性には、特に少女には優しくありたいと思っている俺だが、最初の出会いが最悪だったためか、本質的に敵同士であるためか、それとも単に性格が合わないためか、この三馬鹿だけはどうしても杜撰に扱ってしまう。

 理性では抑制できない、本能みたいなものだろうか。


 二次娯楽が大好きな俺は、ツンデレキャラも大好物だが、自分でそんな精神病の一種みたいな真似をするつもりはない。

 だから、好意の裏返しだったり、虐めて喜んでいたりする訳ではない。

 単純に、純粋に、圧倒的に鬱陶しく感じてしまうのだ。


「――――はあ、分かった分かった。俺が悪かったよ」


「マ、マスターっ。やっと分かってくれたっすね!」

「ふんっ、正直に謝ったんだから、特別に許してあげるわ!」

「……マスターの、謝罪を受け入れます」


「ああ、だから、もういいから、さっさと帰っていいぞ」

「「「……え?」」」


「そうだよな、お前らを呼び出した俺が悪かったんだよな。もう二度と呼ばないから、安心してくれ」

「「「…………え??」」」


 落とすためには、まず上げなければならない。

 物理法則の基本である。


「「「――――」」」


 魔人娘は、いつものようにギャーギャー騒ぐかと思いきや、目を見開き口を半開きにして突っ立っている。

 その瞳には光が宿っておらず、全身が小刻みに震えていた。


「「「――――――――――」」」


 あ、やばい。

 怒りと悲しみとが、ごちゃ混ぜになって茫然自失としているようだ。

 脳の処理能力を超えてしまったのだろう。


 こいつらは、能力の大半を戦闘能力に注いでいるらしく、おつむがポンコツなのだ。

 はなはだ不本意ではあるが、あまり無下に扱っていると暴走するかもしれない。

 三体同時に暴れられては、流石に厄介だ。

 ちっ、今回はこの辺で勘弁してやるか。


「……まあ、その、ちょっと戦闘訓練をしたいから、誰か手伝ってくれないかなー?」


「!! 手伝うっす! 全力で手伝うっす!!」

「!! 手伝うわよ! むしろ手伝わせてください!!」

「!! ……やるやるやるやるやるやるやるやるやるやる!!」


 だからチョロいんだよ。

 反応が同じなんだよ。

 もっとバリエーション増やせよ。


 あれだけ邪険にされたのに、この食いつきよう。

 魔王様よ、あんたがどんな人物なのか、不安になってきたぞ。 

 どんな意図があって、こんなポンコツどもを創造したんだよ。

 お遊びにも程があると思うのだが。


 知れば知るほど、避けたい気持ちが強くなるのに、魔族との縁が深いのは何故だろう。

 聞くところ、魔人は全て女性だと言うし。

 やはり俺には、変な奴に絡まれる女難の相が出ているのだろうか。


 ……そんな悪縁であっても、女性との縁が全くないよりはマシだと思ってしまう、自分が哀れである。




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