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水の都の眠り巫女・前編⑤/それは、きっと恨まれて当然




「そ、そうだっ、甘い物を食べて落ち着いた方がいいぞ。糖分は疲れを取ってくれるからな?」

「要らないわよ、そんなのっ」


 なぬっ、まさか俺の必殺技である餌付けが通用しないとは。

 どこぞのメイドさんなら、ホイホイ機嫌を直してくれそうなのに。

 中々の強敵だな。


「だ、たったら、花はどうだ? ほら、いい香りがして心が落ち着くだろう?」

「それも要らないわよ!」


 これも駄目なのかっ!? 

 一本三百円以上する有名処の薔薇の花束なのに、見向きもしないとはっ。


「……仕方ないな。金貨300枚は下らない宝石アイテムを進呈しよう。お茶会でご婦人方に自慢出来るぞ?」

「だからっ、何も要らないって言ってるでしょ!!」


 そんな馬鹿なっ。

 対女性用決戦兵器の中でも三種の神器と言われる「菓子」「花」「宝石」が通用しないだと!?

 昔読んだ若者向けの雑誌に、これを渡しておけば機嫌が直るって書いてあったのにっ。

 騙しやがって!


「許さないっ、許さないっ、許さないっ!」


 巫女さんは涙目で地団駄を踏みながら、益々ヒートアップしていく。

 俺が何を言っても逆効果にしかならないようだ。


 うーむ、本当に困ったぞ。

 泣き喚く子供を慰めるなんて、プレゼント以外にどんな方法があるというのか。

 巫女さんの幼児化が進んでいるようだし、歌でもうたってみるか?

 でもなー、俺も結構音痴なんだよなー。

 しかもレパートリーが女性の失恋ソング中心なんだよなー。

 失恋ソングは最高だよなー。


「え、えーと、その、ほらな? 夜中だし、静かにした方が……」

「恨んでやる! メイが死んだら化けて出てやるんだからっ」

「ひっ!?」


 うわっ、はっきりと宣言されてしまった!

 死に際の怨念まで使って呪われたら駄目だろう。

 絶対やばいだろうっ。


 あわ、あわわわわ……。

 ど、どうにかしないとっ。

 危ないっ、何よりも愛しく尊い俺の命が危ないっ。


「恨むのだけは勘弁してくれっ! 何でも、何でもするからっ!」

「…………」

「俺に出来る事なら本当に何でもするから! 喜んで!」

「…………なんでも?」

「そうそうっ。こう見えてもおじさん、そこそこ何でも出来るから!!」


 もう、なりふり構っていられない。

 人の命が賭かっているのだ。大事な人命がっ、俺の命が!

 誠意。誠意を見せないと。誠意を見せて許してもらわないと!



「だったら……」


 俺の誠意が伝わったのか。

 怒りと涙で顔をぐちゃぐちゃにした巫女さんは。

 口を閉じてしばらく間を置いた後、再び口を開く。


「――だったら、やっつけてよ」

「やるやるっ、何だってやっつけるぞ! いけ好かない神官だって、どんな貴族だって王様だって、魔王……様は無理だけど、それ以外なら何でもやっつけちゃうぞ! 何だったら人類滅ぼしちゃう?」

「そ、そこまでやれとは言ってないでしょ!? メイは炎の教団をやっつけてって言ってるのよ!!」


 あー、なるほどなるほど。

 ……そうだよ。冷静に考えれば、巫女さんの望みは最初から分かっていたよな。

 そもそも彼女は、抗争を防ぐために話し掛けてきたのだったよな。


「――――なんだ、そんな事でよかったのか」

「……えっ?」

「了解了解。その炎の教団とやらは、俺がどうにかするよ」

「ええっ!?」

「そうしたら、恨まないでくれるんだよな?」

「あ、うん…………、うえっっ!?」


 元はといえば、巫女さんを困らせているのは奴らなんだし、その元凶が無くなるのが最良なんだよな。

 よくよく思い出せば、俺もそれが目的で情報収集に来た訳だし。

 そもそも、奴らが悪さしなければ、俺が呪われそうな事態に陥る事もなかったはずだ。

 そう、俺は悪くないのだ。非があるのは奴らなのだ。

 炎の教団だけにな!



「よしっ、そうと分かったら俄然やる気が出てきたぞ。もう徹底的にやってやる。けちょんけちょんにしてやる!」

「ちょ、ちょっと……」


「準備が必要だから、明日中には片付けるよ。それで良いだろう?」

「ちょっとまってよっ! あなた何を言っているのっ? 本当にそんな事が出来ると思っているの!?」


「巫女さんだって、一人で軍隊を撃退するつもりだったのだろう?」

「そ、それは、そうだけど……」


「だったら、教団の一つや二つ消し去るぐらい、冴えないおっさんでもやれるさ」

「そんな簡単に出来る訳ないでしょ!? メイは命がけでやるのよ! なんであなたが、そこまでするのよっ!?」


「元々俺は、この都で快適に昼寝をするため、抗争を止めるつもりだった。だから、巫女さんの事はついでだな」

「ついで!? メイよりも昼寝が大事なの!?」


「ああ、もちろんだ!」

「――――」


 巫女さんは、口を開けて呆然としている。

 俺の昼寝にかける情熱に感心しているのだろう。



「まあ、ついでだと聞こえが悪いから、泣かせた詫びだと思ってくれればいいさ」


 おおっ、なんだか上手い具合にまとまった気がするぞ。

 これも日頃の行いが良いおかげだろう。


「水の巫女だからといって、涙まで似合う必要は無いだろう?」

「…………」


 最後は調子に乗ってキザな台詞で締めてみた。

 まあ、泣かせたのは俺なんですけど。


「だから、許してくれ。恨まないでやってくれ。根は良い奴なんだ、俺って奴は」

「……ほんとうに、やっつけてくれるの?」

「ああ、まかせとけ。――何人たりとも俺の昼寝を邪魔する奴は許さねぇ!」

「………………」


 巫女さんは「むー」って感じに唇をすぼめて、まだ俺を睨んでいる。

 年齢的にどうかと思うが、可愛くない訳でもない。


 俺の言葉を信じ切った訳ではなさそうだが、それなりに怒りを鎮めてくれたようだ。

 ふう、なんとかなりそうで良かった。

 こんな事で命の危険を感じるとは想定外だったな。

 やはり、女性をからかうのは程々にしておいた方が良さそうだ。

 仕方ない、コルトとお嬢様とメイドさんで我慢しておくか。


「…………ほんとうに、ほんとうに?」

「……ああ」


 どうやら、まだ涙は乾いていなかったようだ。

 泣く子をあやすように、巫女さんの頭をポンポンと叩く。


 ……落ち着いてみると、今回の俺の慌てぶりは自分でも異常と思える。

 きっと、少女をからかって涙ぐませるのは愉しいのだが、ガチ泣きさせたままだと流石に寝覚めが悪いのだろう。

 失恋ソングは大好きなのだが、真剣に泣く少女を見るのはそんなに面白くなかったようだ。

 一つ勉強になったな。



「それじゃあ、行ってくるよ。あ、俺の事は内緒にしてくれ。悪行は隠れてやるスタイルなんだ」

「あ、その…………」

「ん?」

「がんばってね? ……でも、ちゃんと帰ってきてね?」


 しおらしくなった巫女さんから、温かいお言葉を頂戴する。

 最後の最後で俺の事を信じてくれたのだろうか。


 ……いや、それは願望なのだろう。

 それでも、少女の声援を受けた俺が、しくじるはずがない。

 まあ、中身は少女でも、外見は大人なんだけどな。


「問題ない。ゆっくり眠っていれば万事解決する。『果報は寝て待て』だ」


 決め台詞を残し、ベランダから飛び立つ。

 『果報は寝て待て』とは、怠ける事を推進する言葉ではなく、人事を尽くした後には慌てずどっかり構えて、運任せで良いといった諺である。

 達観した立派な教えなのだが、裏を返せば、どんなに努力しても結局最後には神に頼るしかない悲しい現実を嘆いているのかもしれない。


 つまり、『果報は寝て待て』とは、努力は運に敵わない事が示唆されたお言葉なのだ。

 努力が苦手で、運と昼寝をこよなく愛する俺にお似合いの言葉だろう。



 ――さて、予想外の危機に見舞われてしまったが、俺がやる事は決まった。

 相手は炎の教団こと、神の配下。

 精々状況を愉しみつつ、お礼参りしましょうかね?





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