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水の都の眠り巫女・前編③/それは、神殿に侵入する怪しい影




「……さて、どうしたものか」


 格好つけて出発したのはいいのだが、如何せん情報が足りない。

 ミズっちは一般市民だから、上辺の情報しか伝わってないだろう。

 ならば、何処で情報を収集すれば良いのかと言うと、一般市民じゃない人達が集まる総本山。

 すなわち、水の都の中枢である神殿が最も適するであろう。

 一番偉い巫女さんも、おそらくそこに居るだろうしな。


 今回は、諜報活動に相応しい黒装束に身を包んだ忍者もどきのクロスケに変身する。

 前回の領主一行に助太刀した時と合わせ、この恰好をするのは二度目となる。

 今回は情報収集、前回は暗殺、と目的が違うが、どちらも忍者の得意分野であろう。


 黒装束は闇夜だと目立たないが、今はまだ日中。

 この時間帯では、逆に怪しい者ですよと吹聴しているようなもの。

 だから、隠蔽アイテムを使って姿を消す。

 それなら変装なんかする必要ないって事になるのだが。

 まあ、そこは、形から入るのも大事というか、様式美ってことで。



 そんな訳で、物陰に隠れ変装を済ませた俺は、神殿へと向かって飛び出す。

 この都には昼寝目的で寄っているため詳しくないのだが、流石に神殿の位置は分かる。

 なにせ、都の中央に威風堂々とそびえ立っているからだ。


 改めて見るに、水をイメージしたであろう水色の輝きと流線型が特徴的な建物だ。

 全容は細く長い水晶に似ているため、神殿よりも塔と言った方がしっくりくる。

 その存在感たるや、まさに水の都を名乗るに相応しい。


 この世界の建築技術はさほど高くないだろうから、もの凄い手間と金を掛けて造られたのだろうな。

 もしかして、魔法を使った特殊な技術とかがあるのかもしれない。

 水の都の象徴として、そして実際に中枢を担う場所だけあって、威厳が必要なのだろう。

 ただの観光客である俺としては、景観と調和した美しい建物ってだけで十分だがな。



 そんな美しい神殿に相応しくない俺は、裏口からこっそりと侵入する。

 そしてゴキブリ、もとい忍者のように天井に張り付いて、情報を探っていく。


 …………ふむふむ。

 神殿内の慌ただしさと下っ端連中の噂話から、もうすぐ抗争が起こるのは間違いなさそうだ。


 もっと詳しい情報を手に入れるため、天井をカサカサと移動していく。

 なるほど、今ならゴキブリの気持ちが少し分かる気がする。

 死角をこそこそ動き回り、天井から見下ろすというのは案外愉しいものだ。

 人形売りのミシルを待ち伏せしている時も思ったのだが、ストーキング活動は結構面白くて嵌りそうで怖い。

 今度、お嬢様とメイドさんの生態観察日記でもつけてみようかな。



「……おっ、会議中みたいだな」


 カサカサと下の層から順に覗き回っていくと、上層部で重要っぽい会議をしている部屋を見つける。

 偉い人と何とかは、高い場所に居るのが世の常なのだろうか。

 高層で盗聴の心配が無いためか、開いていた窓からカサカサ入り込み、部屋の隅の天井に陣取る。


「――――っ」

「――――!」

「――――!?」


 都の危機だけあって、白熱した議論が交わされているようだ。

 それでも怒号が飛び交っていないので、案外冷静というか余裕があるのかもしれない。

 ミズっちの話では、大した自衛組織を持っていないはずなのに、不思議な話である。

 そんな都自体の謎も含め、要点を聞いてみよう。


「「「――――」」」


 会議のメンバーは、戦闘関連の人物はおらず、全て政治関連と思われる線が細い者ばかりだ。

 神に仕える巫女が存在するのだから、その他の役人は神官とでも呼ぶべきだろうか。

 男女の構成は、日本でもそうだが政治関係者としては珍しく、女性の割合が3割程と比較的高い。

 水の都のトップが『巫女』と呼ばれる女性だからだろうか。

 政治に関心の無い俺には詳しい事が分からないが、この乱世においてトップが女性なのは相当珍しいのだろう。

 何か特別な理由があるのかもしれない。



「……やはり、衝突は避けられないようですね」


 悲壮感を漂わせ、そう結論付けたのが、件の『水の巫女』であろう。

 彼女の風貌は、巫女よりも女神と言った方がイメージに近い。

 皆が白い布を体にかけた古代ギリシャのような恰好をしている中、その女性だけが、より洗練された長いワンピース形式の服を着ている。

 額、髪、首元、手の甲には、青い宝石で作られた装飾品を身に付けている。

 何よりも唯一人、長い水色の髪をしているのが『水の巫女』たる証拠だろう。


 しかし、何というか、過剰なまでに「私が水の巫女ですよー」ってアピールした恰好だよな。

 水色の髪も鮮やか過ぎて天然っぽくない。

 豪華な装飾品で長い髪を耳元で束ねているのも、如何にも「お堅い巫女さんですよー」って感じだ。

 まるで『水の巫女』という名前に相応しいイメージを、外見から創り上げているようだ。

 本当にそうだとしたら、場面毎に恰好を使い分けている俺には親近感が湧く話である。


「……ん?」


 偶然だろうが、その巫女さんがちらりと視線を上げ、こちらを見てきた。

 二十歳程度とまだ若いが、厳粛な様がよく似合う、彫りの深い顔立ちの美人さんだ。

 一つ一つのパーツが目立つ顔だけに、目力も際立っている。

 これまたお堅そうな性格を想像させる外見だな。

 もしかして失礼な事を考えていたのが、ばれたのかもしれない。

 女性の感は怖いから注意しよう。



「「「――――」」」


 その後も、神官達による話し合いは続いた、らしい。

 「らしい」と曖昧に表現したのは、俺がよく覚えていないからである。

 自分の出番が無い会議に参加していると、直ぐ眠くなるんだよな。

 会議の雑音と車の振動を完璧に再現した睡眠グッズを開発したら、バカ売れしそうだ。

 つーか、是非商品化してくれ。絶対買うから。


「…………ぐー」


 そんな訳で、会議の後半はうとうとしてたので内容がよく分からなかった。

 まあ、主要な箇所は前半に聞いたので問題無いだろう。たぶん。

 話をまとめると、交渉の余地が無く、抗争は避けられないらしい。

 それどころか、相手は既に部隊を出陣させており、数日中にはここに到着してしまう開戦必至な状況なのだ。


 ……おいおい、随分と急な話だな。

 まだ役作りしている段階と思いきや、既にリーチがかかった状態とは。

 それにしては、ここの連中の落ち着きようは異常だ。

 荒事に慣れており、準備万端って感じがする。

 それだけの戦力を隠し持っているのだろうか。


「――それでは巫女様、決行は予定通り、二日後にお願いします」

「……はい。心得ております」


 最後に、神官の代表らしき老人がまとめ、巫女が了解し、話は終わったようだ。

 神官達の粛々とした態度と、巫女さんの沈痛な面持ちとの落差が印象的である。


「――――」


 各々が会議室を去る間際、またしても巫女さんがこちらに視線を向けてきた。

 二度も続けば、流石に偶然と見ないふりをする訳にはいかないだろう。

 ご希望通り、巫女さんをストーキングしてみようじゃないか。カサカサ。






「RuLaLa~~~」


 巫女さんは、一人で最上級に位置する部屋に入ると、そのままベランダへと移動する。

 そして、月の光が無い夜の闇に向かって歌いはじめる。

 急に歌うよ~、を実際にやられると、本当にぽか~んってなるよな。


「LaLa~~~」


 彼女の歌は、歌詞が象徴的なためか、それとも元々意味が無い言葉の羅列なためか、翻訳アイテムでも上手く意訳されず、そのままの発声で聞こえる。

 しかしそれは、大して気にする事ではない。

 言葉の意味が分からずとも、歌は曲調と雰囲気だけで魅了する力があるのだから。


 どうやら、いつもミズっちが歌っている曲と同じようだ。

 この地域の定番の歌なのだろう。


「RuRuLa~~~」


 ……しかし、あれだな。ぶっちゃけ下手だな。

 ミズっちの美声に慣れているためか、どうしても比較して粗が目立つ。

 特に音程を外している訳ではないのだが、こう、何というか、明るい曲のはずなのに不安を感じさせるのだ。

 同じ歌なのに、これ程までに雰囲気を変えてしまうとは、ある意味才能と言っていいのかもしれない。


「――――ふう」


 日課なのか、心を静めるために歌ったのか、満足したように歌い終えた巫女さんは一息つき、回れ右をして天井を見上げる。

 ……いや、正確には、俺を、見ているのだろう。

 アイテムで姿を隠した、見えないはずの俺を。



「……お話があります。姿を見せてくれませんか?」


 やはり気付かれていたのか。

 これまで、彼女以外には気取られた様子が無かったので、隠蔽アイテムはちゃんと効果を発揮しているのだろう。

 だとしたら、彼女が特殊な力を持っているって事かな。

 今更ながら鑑定してみるか。



 名前:メイアナ

 職業:水の都ヴァダラーナ 水の巫女(33代目)

 年齢:20歳

 レベル:23

 スキル:『水占い5』

 魔法:『水魔法4』『火魔法4(隠蔽)』

 

 

 いやはや、いくら水が名物の水の都とはいえ、神殿の外観に、巫女さんの髪の色に、極めつけはステイタスと水を強調しすぎだろう。

 ……それとも、逆なのかな。

 相応しい能力を持つが故に、水の巫女に選ばれたのかもしれないな。


 ソマリお嬢様の『好奇心』に続き、これまたヘンテコなスキルが現れたものである。

 姿を消していた俺に気付いたのは、『水占い』なるスキルのせいだろうか。

 昔の日本では、占いで水脈を探していたそうだし。

 『水占い』スキルで自然界の水だけでなく、人体に含まれる水分も察知出来るのだとしたら、そりゃあ姿を消しても無駄だろう。


 それに、占いと言うからには、予知能力もあるのだろう。

 未来を察知する力は、使い方次第では運命をも操る力になりかねない。

 俺の無駄に強い力も、観念的な能力には及ばないだろうから要注意である。


 取得している魔法は、普通。

 ……普通の『水魔法』と『火魔法』のはずなのだが、こと彼女に関しては『火魔法』が異彩を放つ。

 なにせ此処は『水』を崇める都で、『火』とは敵対関係にあるのだ。

 その水の都のトップたる彼女が、『火魔法』を高いランクで取得しているのはおかしい。

 それは、隠蔽用アイテムを使って『火魔法』の存在を隠している事からも明白である。

 この辺の謎が、水の都の謎戦力と関係しているのかもしれない。


 総じて割とやばそうな能力持ちだが、別に敵対している訳でもないので、過剰に警戒する必要はないだろう。

 本当に危険な存在であれば、付与紙でも使って暗殺すればいいだろうし。

 とにかく、相手が対話を望んでいるのだから受けてみよう。


 中年太りのおっさんに進化してから、見ず知らずの女性に話し掛けられる機会なんて無かったからな。

 まだ枯れていない健常な男としては、無視出来まいて。

 まあ、若い頃も女性から話し掛けられた事なんて無かったけどな!





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