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いい加減な純愛①/水も滴るいい少女




「風呂はいい。自然と文化が融合した傑作だな」


 手の平で湯をすくいながら、暖かい流体の感触を楽しむ。

 朝風呂は至高なる嗜好の一つだ。


「あんちゃんって、独り言が多いよな」


 ご満悦な俺に、一緒に風呂に入っていたコルトから呆れ声が届く。

 段々と呆れ声が諦め声に進化している気がするが、気にしない事にしよう。

 独り言が多いのは、ボッチの特性なのだ。


 最初に会った日に誘って以降、こうしてコルトは時々泊まりに来てくれる。

 彼女も風呂が気に入ったようで何よりだ。



「……なあ、あんちゃん。最初に会った時の約束、覚えてるか?」


 少女との馴れ初めを思い出していると、その本人が真剣な表情で問いかけてくる。

 やくそく、約束かぁ。

 約束って何だか死亡フラグっぽくて、あまり好きじゃないんだよな。


「モチロンだ。俺は約束を破った事がないのが自慢なんだ。……確かコルトが大人になったら、俺のお嫁さんにしてほしいって頼んできた件だよな?」

「違うだろっ! なんでオレがそんなこと頼むんだよ!?」


 あれ、違ったっけな。

 おかしいな、そんな幸せな夢を見た気がしたんだけどな。


「魔法のコツを教えてくれるって約束だよ!」


 あー、その件ですかー。

 ……ええと、確か、最初に風呂に入ったとき約束したんだよな。


「大丈夫、忘れてない、ちゃんと覚えてるさ。俺がコルトとの約束を忘れる訳がないだろ?」

「…………」


 あっ、無言のジト目! 久しぶりのジト目いただきました!

 しかし喜んでばかりはいられない。

 少女からの信頼を回復せねばなるまいて。


「ちょ、ちょうど良いから、ここで練習するか!」


 コルトが取得しているのは、水魔法だったはず。うん、今鑑定しても間違いない。

 潜在能力も水魔法が最も高いようだ。

 そして、ここは水場なので、練習場所としてちょうどいいだろう。


「やった! 本当にあんちゃんが教えてくれるとは思ってなかったぜ!」 


 子供が大人を信じられないのは、この殺伐とした世界が悪いのだろうな。

 ただ、まあ、魔法は殺傷能力を持つ危険な力だ。

 安易に教える訳にはいかない。



「ん、んー、ごほん! 但し、魔法の極意を伝授するにあたり、三つの条件があります」

「な、なんだよ急にかしこまって。嫁にはならないぞっ」


 失礼な。真面目な話のつもりなのに。

 ……けっしてフラれた訳じゃないんだからな!


「一つめは、教えたのが俺だと他言しないこと。二つめは、教えた内容も他言しないこと、だ」

「……最後は?」

「俺のよめに――――」

「それは絶対嫌だって!」


 あー、言われたー。

 嫌だってハッキリ言われちゃったー。

 しかも「絶対」付きだよ。

 もう立ち直れない。

 冗談で言ったんだけど、もう立ち直れないよ!


「は、ははは、もちろん冗談さ。ジョークなのさ。オヤジギャグなのさ。……だから前言撤回してくれコルコル!」

「わ、わかったっ。もう嫌だって言ったりしないから! だから抱きついてくんなよ! あとコルコル言うな!」


 ふうー。

 どうやら精神の破壊は、まぬがれたようだ。

 少女に嫌われるなんて、考えただけでも耐えられない。

 中々粋な精神攻撃をしてくるじゃないか、コルコルめ。



「その、本当の三つめは、魔法が上手くなっても安易に戦おうとしないこと、だ!」


 一番重要な事なのに、何だか締まらない感じになってしまった。

 ……不用意に力を得て、選択肢が増える事で失敗しがちなのが無謀な特攻である。

 力を持つと、どうしても無駄に試したくなるからな。


 これは、いきなり高レベルになってしまった俺の体験談なので間違いない。

 迂闊な俺が今こうして生き長らえているのは、多少の失敗など無視出来る程レベルが高かったからに過ぎない。

 要するに、俺にしては珍しく運が良かった、だけなのだろう。

 だから俺はまだ、この世界がゲームや夢である可能性を捨てきれないのだが。

 ……まあ、それは置いとくとして。



「…………約束を破ったら、どうなるんだよ?」


 コルトは俺の言葉の重要性を感じ取ってくれたようで、真剣な表情で問いかけてくる。

 約束を強いられた時、とにかく約束を守ろうと決心するタイプと、約束を破った場合の罰を心配するタイプが存在するが、彼女は後者のようだ。

 無論、俺も同じだ。


「そうだな、針を千本飲んでもらおうかな」

「こわっ。なんだよその罰!?」


 実際は、今後俺から教える事をやめる程度だ。

 ただ、コルト自身が危険になる可能性があるので、しっかりと約束しておいた方がいい。

 俺の意思で不幸になるのは良いのだが、俺の関与しない処で不幸になられても面白くない。


「……分かったよ。約束するぜ、あんちゃん」

「それじゃあ、正式に誓ってもらおう。小指を出してくれ」

「こうか?」

「よし、『ゆーびきーり、げーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーん、のーーーます! ゆびきった!』」


 コルトの小指に俺の小指を絡め、子供の頃によく使っていた定番の約束の歌を唄う。

 もしかして、今の平成生まれの子は知らないかもな。


「なんだよその歌、めちゃくちゃ怖いよ!」

「これは、俺の地元に伝わる契約の儀式だ。それぐらい約束ってのは重いって事だな」


 そうだよな。

 改めて考えると、歌詞は元より曲調まで異様な怖さを感じさせる歌だよな。

 子供には道徳よりも、恐怖を刻み込ませた方が良いって表れかもしれない。



「罰が怖かったら、無理に俺から教わる必要はないんだぞ?」

「……魔法の使い方は、大金を払ったり弟子になって何年も修行しないと教えてもらえないのが普通だよ。だから、こんなチャンスを逃す奴は馬鹿だぜ」

「へー、そうなのか。本を読んだりして自分で勉強するのが普通かと思ってたぞ」

「人から教わるって言っても、やっぱり元の素質が重要らしいし。それに、誰もが適当に使っている感じだから、言葉や文字では伝えるのが難しいんだよ。だから、魔法を使っているところを直接見て、少しずつ真似しながら覚えるのが普通だぜ」


 マジでか。

 だったら以前、火魔法を教えたハンナのレベルが直ぐに上がったのは、やはり異常だったようだ。


 長い時間見て練習するって事は、科学的な原理を理解するのじゃなくて、イメージ力を強化しているのだろう。

 つまり、この世界の住民は、基本的にイメージだけで魔法を使っているみたいだな。

 絵あり色あり音ありの動画が無く、書物を読む習慣もまだ普及していない文化レベルでは、具体的にイメージするのは難しかろう。

 魔法のレベルが低いのも仕方ないという訳だ。


「だから、あんちゃんから教わったぐらいで、直ぐに強くなれるなんて思ってないぜ。でも、雑用ばかりやってても強くなれないから、少しずつでも出来る事をやっておきたいんだ」


 ちゃんと聞いた訳じゃないが、コルトは冒険者志望みたいだからな。

 冒険者は、死と隣り合わせの危険な職業なので15歳以上からと決まっているらしい。

 コルトはまだ12歳なので時間があるが、それまでに鍛えておきたいのだろう。


 彼女の意思が明確で、どの道危険な道に進むのであれば、生き抜く力は多い方がいい。

 後はもう、俺の教えがプラス方面に働いてくれる事を祈るしかないのかもしれない。




「それじゃあ、はじめようか。教えるのは水魔法でいいよな?」

「やだよ、水魔法は攻撃力が低そうだし。火魔法か風魔法がいいぜ」


 コルトが口を尖らせて可愛く抗議してくる。

 本人にそのつもりはないのだろうが、ロリコンホイホイな可愛らしさだ。


「まあ、そう言うな。弱点を克服するのも大事だが、まずは得意な系統を伸ばした方がコツも掴みやすいさ」

「……分かったよ。あんちゃんに従うぜ」


 渋々ながらもコルトは納得してくれたようだ。

 俺の言い分に嘘はないが、初心者なので下手に殺傷力が高い魔法から覚えるより、水魔法の方が安全だろうとの目論見もある。

 それに彼女の先入観を覆すためにも、水魔法を上手く使って攻撃力を高める事で応用力も鍛えられるだろう。


「まず、コルトの水魔法を見せてもらおうかな」

「いいけど、笑うなよ?」

「ああ」


 分かってるって。フリだよな?


「そんじゃあ、よっと!」


 軽い掛け声の下、コルトの手の平に、僅かばかりの水が出現する。


「……」

「……」


 あ、終わりか。

 しまったな、ツッコミは間が大事なのに、笑うタイミングを逃したぞ。


「うん、その、水だな?」

「水魔法だから当然だろ!?」 


 コルトはちょっと泣きそうになっている。可愛い。


「まあ、その、透明で不純物が無く美味しそうな水だよな?」

「無理に褒めんなよっ。笑われた方がマシだぜっ!」

「わはは!」

「今更笑うなよ!」


 難しいな。

 多感なお年頃だし、仕方ないか。

 娘を持つ父親って色々な苦労をしているのだろうな。


 しかし、思ったよりショボかったのは確かだ。

 こんな初心者に、どう教えたらいいものか…………。



 悩みながら、天井を見上げていると、風呂から立ち上る湯気が目に映る。


 水、お湯、湯気……。


 そうだな、分かり易く、実際ここにある物体で説明してみるか。




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[気になる点] 指輪をつけたまま風呂に入るおっさん それとも使う時に取り出しているのか
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