娼婦の姉妹①/実業家ではない中年男の休息
久しぶりに徹夜で働いた翌々日、つまりお嬢様とメイドさんに街で再会したその日の夜。
俺は疲れを癒すため、娼婦のおねーちゃんと遊ぶ事にした。
けっしてメイドさんに悪戯して滾ってしまった情熱を冷ますためではない。
その証拠に、これまでも何度か通っており、ご指名する相手も居るのだ!
……って、誰に言い訳しているんだろうな、俺。
目的の街に、アイテムを使って転移する。
オクサード街は冒険者の数に比例して娼館も多いのだが、根城としている街で遊び過ぎると居づらくなりそうなので、違う街で遊ぶ事にしているのだ。
おねーちゃんにデレデレしている様子を知り合いに見られたら、今まで築き上げてきた俺の善良なイメージが悪くなるしな。
お目当ての街に着くと、人目を避けて路地裏へと入る。
定番な場所である。
「あっ旦那! また来てくれたんだね!」
「だ、旦那様、あ、ありがとうございますっ」
「ああ、また世話になるよ」
「大歓迎さっ。旦那だったら毎日来てくれてもいいよ!」
「ははっ、この年になって毎日は辛いな」
流石はプロだけあって、客が喜びそうな事を言ってくれる。
世辞と分かっていてもついつい財布の紐が緩くなるのは、良く云えば男の悲しい性、悪く云えば騙されているタダの馬鹿なのだろう。
――――こんな風に出迎えてくれたのは、ルーネとティーネの姉妹である。
俺は勝手にネネ姉妹と略して呼んでいる。
ネネ姉妹は、何時もこの路地裏で客を探しているのだという。
姉のルーネは、長いシルバーブロンドに白い肌という驚きの白さ。
外見は北欧少女のように美しく儚げだが、口調と性格はチャキチャキの江戸っ子風味。
妹のティーネは、短いブラウンヘアーに褐色の肌という海辺が似合う健康美。
外見はつり目で気が強そうだが、性格は引っ込み思案なお姉ちゃん子。
この様に素敵なスペックを持つ姉妹である。
失礼に当たるので年齢は聞いていないが、外見から十代後半と思われる。
この世界では、大体13歳から結婚出来るそうなので問題ないが、十代後半は日本だとギリギリな年齢だ。
まあ、後半とは言っても、前後の2分割であれば15歳も含まれる訳だが。
……アウトー!
「いつ来ても相手してくれるが大丈夫なのか? 先約とか入ってないのか?」
「あははっ、予約なんて上等なものはないよ。あたいらみたいな立ちんぼは、その場限りの先着順。相手は誰でもいいような客しかこないのさ。常連と言える客は旦那だけだよ」
「そっか。俺としてはありがたいけど、見る目がない客が多いんだな」
「もう、旦那ったら上手いんだから」
俺もさほど頻繁に通っている訳ではないのだが。
まあ、こういった互いを立てる営業トークをしていると、自分が年相応のおっさんだと自覚出来るよな。
自分で言うのもなんだが、普段は言動共にあれだし。
そういえば以前、妹のティーネが寝た後に、姉のルーネが言ってたっけ。
姉は単独でも客を取れるが、妹は人見知りで弱視なため、姉とセットじゃないと駄目だって。
二人同時だと当然値段も上がるので、路地裏に来るような客で二人分を払う者は少なく、妹の出番はあまり無いそうだ。
二人とも可愛いのに、勿体ない事だな。
「旦那こそ、こんな場末じゃなくて、高級な娼館に通える金が有るんだろ?」
「娼館は雰囲気が合わなくてな」
「へー、そうなのかい」
日本の娼館は、指名かお任せが主流だが、海外ではズラリと並んだ多くの女性の中から、直接指差して選ぶ方式がある。
この眼前多岐選択方式は、当然お偉いさんから選んでいくため、狙っていた子が先に捕られた時の悲しさと、同じ趣味だと気付かされる後味の悪さが特徴的だ。
また、連れが居ると盛り上がるのだが、男一人で二桁の女性と対峙するのは、かなりのプレッシャーになるだろう。
そして、この世界もこの方式だと聞いた俺は、途端に怖気づいてしまい、娼館へ行くのは経験値が増えてからだと待ったをかけ、路上で誘ってくるお姉さんへと目標変更したのだ。
そこで出会ったのがネネ姉妹。
白黒のコントラストに目を奪われた俺は、二人同時プレイを希望。
もちろん姉妹丼が決め手だったのだが、一対一だと話題が乏しい俺には厳しいため、三人だったら間が持つかなって目論見もあったのだ。
以来、俺は、常連になった訳である。
「旦那、今日も朝まででいいのかい?」
「ああ、ゆっくりしたいからな」
時間を制限した方が安上がりだが、三十過ぎて急かされては立つものも立たない。
……いや、経験談ではなく、一般的かつ情緒的な話としてだが。
「それじゃあ、移動しようか」
周辺に人気が無い事を確かめ、アイテムで転移する。
通常は近くの廃屋や宿を借りるそうだが、そんな風呂が無い場所で事に及ぶつもりはない。
こんな時のために、オクサードとは別の街に広いベッドと風呂を備えた部屋を用意しているのだ。
……無駄に準備がいい男って気持ち悪いよな、うん。
「はー、いつ見てもすごいね! 旦那のアイテムも部屋も!」
ルーネが心底感心したように褒めてくる。
彼女の率直な言葉は、嫌みがなくて好感が持てる。
ティーネも真っ白でフワフワな毛布に触れながら嬉しそうにしている。
この部屋は、住み込みの管理人が掃除しているので綺麗なのだ。
俺は潔癖性ではないが、こういった時は雰囲気が大事だしな。
最初に転移した時は、二人とも凄く驚いてたっけ。
転移魔法は俺も使えないので、アイテム頼りになっている。
「娼婦と遊ぶために希少な転移アイテムを使うなんて、きっと世界中でも旦那だけだよ。そんな大金があるなら、美人の嫁さんや奴隷を買った方が良いじゃないのかい?」
奴隷が相手か……、あまり考えた事なかったな。
奴隷の購入には興味あるが、売り物として抵抗する意志を奪われた者に強要しても面白さに欠ける。
俺の手で無理矢理奴隷化するのは面白そうだが、どちらにしろ面倒な因縁が出来るだろうしな。
こんなものは、一夜限りの金だけの関係だと割り切った方が後腐れないのだ。
「深く付き合うのは苦手だし、色んな相手と遊びたいから、な」
「そっか……」
俺の最低な言い訳に、少しトーンを落としてルーネが呟く。
見るとティーネも似た表情をしていた。
「まずは、飯にしようか」
気を取り直すため、いつものように食事を用意する。
……いや、別に気を落としたつもりはないのだが。
「やった! 旦那のご飯は美味しいから大好きだよ!」
「わ、わたしも好きです!」
二人も喜んで同意してくれる。
素直かつ現金なものだ。
でも好きってセリフは俺に言ってほしい。
ネネ姉妹と事に及ぶ際は、事前に晩食する事が慣例となっている。
事後は飯を食う気力が無いからな。
ただ食後の運動もきついので、飯→風呂→本番→就寝ってコースが定着している。
最初の時は、直ぐにルパンダイブしたかったのだが、彼女達が痩せ気味で腹も減ってそうだったので、打ち解ける切っ掛けとして飯を出したのが始まりだ。
俺はスレンダーな子が好きだが、痩せ過ぎだと触る楽しみが減る以前に気が引けるしな。
俺が魔法で出した食事に、大層驚き大層美味そうに食べ大層喜んでくれたものだ。
お陰で会話も盛り上りサービスも良かった。やはり飯の力は偉大だな。
……単に餌付けとも言う。こればっかりだな、俺。
豪華な料理に喜ぶ少女達を愛でた後は、俺としては本番の一部でもある風呂にする。
「旦那、早くお風呂に入ろうよ!」
「わ、わたしも入りたいです!」
最初の日は、初めて入る風呂におっかなびっくりな二人だったが、今ではすっかり気に入ったようだ。
うんうん、湯船は気持ちいいよな。
お肌がツルツルになる泉質の湯を使っているしな。
各々に服を脱いで風呂に入る。
自分で服を脱がせて楽しむ趣味はないのだが、脱ぐ様を眺めるのは存外楽しめる。
……今更な気もするが、この世界に来てから俺の変態度が上がっている気がする。
正しくは、今まで抑制されていた性質が解放されたような――――。
まあ、それだけ自由を満喫出来ているって事だろう。
悪い事じゃないよな、たぶん。
裸になったネネ姉妹が並ぶと、対照的な白黒の肌が際立つ。
二人ともスレンダーな体型だ。
俺も正常な男なので乳が大好きだが、手の平で掴みきれない程のビッグサイズには嫌悪感を抱いてしまう。
っていうか怖い。巨乳こええよ。
明らかに人体とのバランスがおかしいだろ。
乳がでかい女性とは一生縁が無い方が良いな、うん。
体型的にもジャストフィットな少女達を両脇に侍らせて、湯船を楽しむ。
湯の温もりと相まって、多幸感がたまらない。
――――こんな感じで、いつものように飯を腹に入れ、風呂に入り、ベッドに入り、賢者タイムに入り、人生について考える。
ああ、この気怠さを味わうために、俺はこの世界に来たのかもしれない。
そんな馬鹿な事を考えつつ、眠気が来るまで本を読んでいると…………。




