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死蔵喰らいと緑色の宝石 5/7




「――――」


 半信半疑のまま、冒険者ギルドに連れてこられたファイアは、実際に現場へ到着した後も、まだ半信半疑のままであった。


 夢や魔法で創った幻だと言われた方が、まだ納得しただろう。

 それとも、冒険者という職業と関わりが無く、引き籠もりな自分が疎いだけで、世間一般では普通なのだろうか?

 そう思いながら、何故か一緒に付いてきた冒険者ギルドの使い――――受付嬢のミランダに視線を向けると。


「――――」


 同じように、呆けた顔をしていた。


「どうしてあんたまで驚いた顔してんだよ? さっきまでの自分の男を自慢してるようなドヤ顔はどうしたよ?」

「……そのような顔をした覚えはありませんが、失礼しました。私もアイテムを使って転移するのは初めてなので、驚きを隠せなかったようです」


 無茶な案件の請負人を選定したはずのミランダは、成功を確信していたようだが、その手段までは確認できていなかったらしい。

 それが冒険者とギルド職員との信頼関係で成り立っているのか、それとも男女関係による盲目なのかは、判別しにくい。

 少なくともファイアには、後者寄りに思えてしまい、不安を掻き立ててくる。


「ふむ、転移に慣れていないと、視界の急な切り替わりに酔ってしまうでござる」


 不安の元凶というべき中年男が、したり顔で見当違いの感想を述べてくる。

 ミランダから紹介された、最高の請負人こと、冒険者クロスケ。

 第一印象は、黒い。

 頭の天辺から足の爪先まで、とにかく黒。

 その真っ黒な衣装に身を包んだ姿は、不吉の象徴として忌避される黒い宝石を彷彿させた。


「そのうち慣れるから、気にするだけ損でござるよ」


 高価なアイテムの中でも最上位に位置する転移アイテム。

 使うどころか、見ることさえ叶わぬ者が大勢いるなか、慣れるとはいったいどんな状況であろうか。

 転移してからしばらく経つのに、視界がくらりと傾く感覚に襲われる。


「おいおいおいっ、大丈夫なのかっ? 本当に大丈夫なのかっ? 案件の依頼料よりも遥かに高価なアイテムを使い捨てにしちまうような頭がぶっ飛んだ奴に任せて、本当の本当に大丈夫なのかよっ!?」

「案件の遂行中に発生する経費は、全て請け負った冒険者の裁量による自己負担となりますので、クロスケ様本人が問題にされていない以上、問題ありません」


 冷静さを取り戻したミランダの回答を聞きながら、「やっぱこいつもぶっ飛んでやがるな」とファイアは思う。

 だが、たった半日で原石の採掘を完遂させると断言したミランダの言葉を信じるのなら、まだまだ序の口であるのだろう。

 原石の種類は判別できても、採掘能力が無いファイアには、黒くて胡散臭い冒険者を信じるほかないのだ。


 ――この世界には、まだ存在しない、石言葉。

 黒い宝石の石言葉は、彼女が懸念するように、「不吉」。

 だけど、黒が示すのは、悪い意味ばかりではない。

 黒い宝石が有するもう一つの側面は、「実行力」「超越」「革新」、そして「成功」であった。



「ともかく、目的の原石が採れる場所というのは、ここで良かったでござるか?」


 女性二人の微妙なやり取りに気づこうとせず、黒装束の冒険者は呑気な声色で聞いてきた。


「……ああ、聞いていた話と特徴が同じだから、間違いねえはずだ」


 ファイアは、周囲の景色や漂う匂いを感じながら、確信する。

 誰よりも尊敬する祖父から聞かされた話なので、間違うはずがない。


「だけど、緑色の宝石の原石は特に産出量が少ないそうだから、まだこの採掘場に残ってるかは分かんねえよ」

「それは実際に見てみれば分かる話でござる。宝石職人殿、その緑色の宝石をお借りしても?」


「ほら、こいつだ。本当に実物があるだけで、探せるのか?」

「目標とする品の名前さえ明確であれば、後は拙者の忍術『サバ読み婚活女の実年齢を看破する眼』と『お風呂覗き放題の眼』を駆使すれば、掘削せずとも埋蔵されている場所が特定できるでござるよ」


「……もはや何でもありだな、あんた」


 ふざけた説明で分かりにくいが、おそらく、鑑定と透視の能力を持つアイテムを所有している、のだろう。

 転移アイテムをはじめ、高級アイテムをお気楽に乱用する冒険者を恐ろしく感じる。


「材料は全て揃っている。されど、問題が残っているのでござる」

「こんだけ揃えておいて、問題だと?」


「忍術『サバ読み婚活女の実年齢を看破する眼』、もとい鑑定アイテムは、固有名や能力値を可視化する能力故、その物体に決まった名前が無いと表示されないのでござるよ。この問題を解決するため、テキトーな暫定でいいので緑色の宝石に名前を付けてほしいのでござる」

「そんな簡単な方法で、本当に鑑定アイテムで表示されるようになんのか?」


「以前拙者が戯れに試した結果なので確実ではないが、鑑定アイテムで示される商品の名は、世間で最も一般的な名称。故に、元々の名前が無い物体であれば、この場にいる三人がそうだと認識するだけで多数意見となり、新たに名付けた名前が固有名として表示されるはずでござるよ」

「はっ、やっぱ魔族が生み出したアイテムってのはとんでもねーな。人が扱っていい代物じゃねーよ」


「結局のところ、生かすのも殺すのも、道具を使う人次第でござるよ」

「おっ、そんな怪しい格好なのに、いいこと言うじゃねーか」


「と、いうわけで、名前プリーズでござる」

「あー、あたしは宝石を磨くのは得意だが、名前なんて付けたことねーから思いつかねーな」


 宝石の名前は、その特徴を指す地域の言葉や、最初に発見された地域名や、発見者の名前に由来するのが一般的だが、流通量が少ないと明確な名称が決められないまま扱われる場合がある。

 名は体を表すと言うように、商品に名前を付けるのは、気を使う難しい作業なのだ。


「……そういえば、クロスケ様の故郷にも緑色の宝石があると話されていましたが、そこではどう呼ばれているのですか?」


 専門外のため黙って見守っていたミランダが、手間取りそうな気配を察し、午前の作戦会議中に聞いた話を思い出しながら助け船を出してきた。


「ふむ、緑色の宝石で有名なのは、エメラルドだったと思うでござるよ」

「おおっ、いい響きの名じゃねーか。これからはあたしらもエメラルドと呼ぼーぜ!」


「そんな余所様の真似っこでいいのでござるか?」

「ぱっと聞いた時の印象が大事なんだよ。あたしには、緑色の宝石と『エメラルド』という名がピッタリ合ってるよう感じられたからな」


「他ならぬ宝石職人殿の意見だし、ネーミングには基本著作権が無いそうだから、とりあえずソレでいいでござろう。正式には、後で関係者が話し合ってでも決めればいいし」


 一人で勝手に納得した男は、一呼吸置き、自身の手の平に乗せた緑色の宝石をじっと見つめながら、厳かに口を開く。


「――命名、『エメラルド』」


 目に見える変化は、なかった。

 だけど、ファイアの眼には、微かだが緑色の宝石――エメラルドが光ったように見えた。


「……なんだそりゃ、まじないの類か?」

「この虚ろな世界に固有名を刻み込む儀式、といえばカッコいいけど、ただの様式美でござる。拙者の地元には、しっかりと口に出した言葉には力が宿るという言い伝えがあるのでござるよ」


「へー、面白い考え方だね」

「何でもかんでも名前や意味を付けるのが大好きな民族でござるからな。ちなみに、宝石にも石言葉といったそれぞれを象徴する意味が付けられているのでござる」


「それなら少し分かるよ。宝石は装飾や鑑賞以外にも、魔除けみたいなお守りとして使われているからね。そのエメラルドには、どんな石言葉があるんだぁ?」

「ええと確か、幸福とか、希望とか、そして愛!……でござる」



 そこから先は、早かった。

 自分で説明した言葉に何か思うところがあったのか、黒装束の冒険者は、まるで逃げ出すようにそそくさと仕事を開始。

 鑑定アイテムと透視アイテムを使って、鉱山の中に眠るエメラルドの原石を見つけ出し、それに向かって一直線に掘削していく。

 無駄の一切を排除しているであろうその姿は、異様としか表現できなかった。


「……ありゃあ、本当に人なのかよ?」

「……高レベルの冒険者は、常人を遥かに超える力を持っていますので」


「……それにしたって限度があるだろうがよ。どんだけレベルを上げれば、あんな風に空を飛んだり大石を持ち上げたり素手でかち割ったり、まるで砂遊びしてるみたいに楽々と山の中に潜っていけるんだよ?」

「……ベテランの冒険者はレベルだけではなく、魔法やスキルやアイテムの使い方も巧みですので」


 岩盤と同じように、常識を壊されているのはミランダも同じだったので、杓子定規な答えしか返ってこない。

 聞いている方も、納得いく説明が返ってくるとは思っていないので、それ以上は追及しない。

 黒装束の冒険者の非常識さは、薄々どころか色濃く感じていたので、今更の話である。


「受付嬢殿、これくらいあれば足りるでござるか?」


 程なくして、二人の前に戻ってきた男は、そう言いながら、十を超える原石を地面に並べた。


「え、ええ、数としては、十分すぎるほどです」

「では、次に宝石職人殿、エメラルドの原石に相違ないか、確認をお願いするでござる」

「…………………………ああ、全部間違いねぇ。しかも、大物ばかりだ」


 確認かつ役目を終えた二人の女性は、予想を遥かに超える成果を前に、どうしてだか物足りなさを感じていた。

 おそらく、それは、達成感と呼ばれる、手間暇かけて苦労した者だけに与えられる特権、であったのだろう。

 だがそれは、一時の感傷にすぎず……。


「――――おいっ」


 まさに宝の山を目にしたファイアは、すぐに宝石職人としての本領を思い出し、歓喜の声を上げた。


「おいおいおいっ! こんな短時間で、しかもこんなに多くの原石を見つけちまうなんて、上等じゃねーかよ! あんたっ、あたし専属の採掘人になりなよっ」

「今はやりのヘッドハンティングでござるか。いやぁ~、仕事の出来る男はつらいでござるなぁ~」

「……冒険者ギルドに在籍する冒険者の引き抜きはお止めください」


「誰だってどんな仕事をするかは自由だろっ」

「その通りでござる。だから仕事をしないのも自由でござる。働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!!」

「……ファイアさんは、まずご自身の目的を達成することだけに注力してください」


「それも忘れてねえよ。こんだけ上等な原石があるんだから、アイテムなんかには絶対に負けない宝石を仕上げてみせるよっ!」


 原石の採掘が予想以上に上手くいったとはいえ、喜ぶのはまだまだ早い。

 全体の工程でいえば、まだ準備段階。


 本番は、これからなのだ。




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