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人様に迷惑をかけてはいけない理由 2/2




≪ 鍛冶師 ≫




 真の名剣とは、百人の血を吸って完成する。

 

 これは、迷信でも何でもない。

 高ランクの鍛冶スキルを持ち、加えて血を媒介に犠牲者の力を付与する特殊魔法の使い手である彼本人が、そう断言し、実行しているのだから、間違いない。

 殺人で捕まるのを恐れ、九十九人までは奴隷を犠牲にしてきたが、最後の一人だけは一般人の血を以て完成させたい。

 その方が、より極上の名剣が完成するはず。

 ……いや、数多の生き血を啜って完成へと至るソレは、もはや名剣さえも超える、妖剣と呼ぶに相応しい。

 

「通りすがりの名も知れぬ男よっ。我が妖剣の血肉となる名誉を喜ぶがいいっ!! ………………は?」


 完成に及ばないとしても、九十九人の血の力を得た剣は、既に極悪な切れ味を身に付けている。

 そのはずなのに、たまたま路地裏で見つけた中年男の背中に、刃が入らない。

 仮に服の下に鎧を着込んでいたとしても、その鎧ごと切り裂いてしまうはずなのに。

 

「なーんだ。妖刀村正って聞こえたから、興味に負けて生身で受けてみたのに、とんだナマクラだったな」

「………………は?」


「一応聞いておくが、この俺に正当な恨みがあったり、人違いだったり、可愛い娘がいたりしないよな?」

「………………は?」


「妖刀使いなだけに、刃ってしか喋れないのか?」

「――――――」


 稀代の傑作である妖剣は、確かに完成した。

 最後は、鍛冶師自身の血を以て。

 しかし――――。

  

「オカルトは、苦手なんだよなぁ」


 完成直後、過剰に粉砕され、大量の塩と一緒に埋められたので、日の目を見ることはなかった。

 闇で輝く妖剣に相応しい最期であったのだろう。






≪ 暴走貴族 ≫



 

 貴族は、恐怖と無縁の生き物だ。

 

 餓えに苦しむ恐れなく。

 病気になってもすぐ治療され。

 魔物と戦うリスクを冒す必要もない。


 通常、赤子は、泣きながら生まれてくるが、貴族の子は最初っから笑っているという。

 人生勝ち組を確信したが故に。 

 ……と、まことしやかに噂されるほどの、怖いモノ知らず。


 だが、人とは不思議な生き物で、縁が無ければ無いほど、ソレを欲しようとする。

 一般人にとっての恐怖は、文字通り、「恐れ」を「怖い」と感じること。

 しかし、貴族にとっての恐怖とは、「エンターテイメント」にすぎない。


 恐怖さえも支配下に置き、自由に選べる貴族。

 個人で完結する類いであれば世話ないが、そこは人様に迷惑を掛ける仕事が本領と呼ばれる貴族。

 その貴族のドラ息子が好んだ恐怖とは、スピードであった。


「くははっ、速いっ! 速いぞっ!! やはり速さこそが最高の恐怖! 最高の娯楽だっ!!」


 人が走る速さは、精々時速60㎞。

 それに比べ、馬の速度は、人を乗せた状態でも、70㎞を超える。

 レベルが低い普通の人にとっては、馬こそが最速を味わえる最高の手段だ。


「なんぴとたりとも俺様の走りを邪魔をする庶民は許さねぇ!」


 より速さを求めるのなら、障害物が無い街の外が最適だが、貴族の息子という立場上、魔物に襲われる恐れがある外出は、制限されている。

 いくら貴族とはいえ、庭の広さは、限られる。


 その結果、その街では、縦横無尽に、かつ、傍若無人に、街中で馬を走り回す暴走貴族が誕生したのである。

 

 庶民が同じ真似をしたら、すぐに捕獲されて処刑される案件だが、そこは都市の支配者たる貴族の息子。

 彼らからすると、自分の庭で遊んでいる感覚なので、罪に問われない。

 むろん、爆走中に庶民を轢き殺しても、無罪。 

 むしろ、貴族に反抗したとして、怪我を負った庶民の方が罰せられる始末。

 なので、暴走ドラ息子が街中に姿を現したら、誰も彼も建物の中に隠れるのが、この街の常識。

 だがたまに、逃げ遅れた者や、事情を知らない余所者が巻き込まれてしまう。

 

 今日もまた、憐れな犠牲者が――――。


「どけどけどけっ! 庶民どもがぁぁぁっ!!」

 

 最高速度を記録し、最高にハイ状態の暴走ドラ息子。

 視界に緑色の服を着た人物が入るが、気にしない。

 賢ければ回避するし、馬鹿なら轢かれて死ぬだけ。

 どちらにしろ、貴族である自分には実害無し。


「邪魔な輩は死で償えぇぇぇぇぇ――――――――え?」


 次の瞬間、暴走ドラ息子は、空を飛んでいた。

 ああ、そういえば、空の上を走ってみたいと思っていた。

 地上は何かと障害物が多すぎる。

 空の上なら、何の邪魔なく全力で自由に走れるのに。

 これまで以上の一番のスピードを愉しめるはずなのに。


「くははははっっっ! 速いっ! 馬よりずっと速い! ついに俺様は、この世界で誰よりも速くなったのだ!!」


 人を乗せた馬が走る速さは、精々時速70㎞。

 それに比べ、自由落下の速度は、優に100㎞を超える。


 ――――グシャ!!!


「一応聞いておくが……、って、もう遅いか。まあ、全身骨折程度で済んだ悪運に感謝することだな」


 念願にして極上のスピードを体験した暴走ドラ息子は、しかし。

 大怪我を負ったトラウマで、二度と馬に乗れない身体になったのだが、彼の家族を除き、同情する者はいなかったという。 


 その後、暴走ドラ息子の親が、愛息が大怪我を負った原因を血眼になって探したのだが、捜索は早々に打ち切られてしまった。

 以来、ドラ息子だけでなく、その家族全員が何かに怯えるようになったのだが、やはり、同情する者はいなかった。 

 かくして、怖いモノ知らずにして、人一倍ソレに興味を抱いていた貴族連中は、生まれて初めて恐怖の何たるかを知ったのだ。


 本当に怖いのは、スピードでも魔物でもなく、人、である。






≪ 他殺志願者 ≫




 女に振られた。

 仕事をクビになった。

 泥棒に間違われた。

 病気になった。

 親が亡くなった。

 

 そのどれもが、残りの人生に悪影響を及ぼす、大きな不幸だ。

 だけど、どうにか耐えていた。

 しょせん、自分なんて、女なんて、社会なんて、運命なんて、こんなものだと諦めていた。

 諦めて、受け入れることで、自分を保っていた。


「あいたっ!?」


 その不幸は、それまでと比べたら、取るに足らないものだった。

 建物の角に、足の小指をぶつけただけ。

 小指は特に敏感なので痛いけど、ただ、それだけ。


「あああぁーーーっ! くそ!くそ!くそ!くそぉがぁーーーっ!! 全部消えろぉぉぉーーーっ!!!」


 ただそれだけで、この世の全てが憎くなった。

 全人類が消えてしまえばいいと思った。

 無一文で彷徨いながらも、唯一手放せなかったのは、短剣。

 無意識ながら、最後に必要になると、分かっていたのだろう。


「うあああああああああああっっっ――――」


 もしかしたら、偶然ではなかったのかもしれない。

 憤怒に支配されながらも、冷静な部分が残っていたのかもしれない。

 だから、罪悪感が強い女、子供、老人は、最初のターゲットにしなかった。

 返り討ちになるのは嫌なので、強そうな青年も避けた。

 その結果、自分と同じ、弱そうで、冴えない顔で、この世からいなくなっても社会的影響が小さいであろう中年男を選んでいた。

 くすんだ緑色の髪と服をした中年男を、選んでしまっていた。


「……まあ、さすがに聞くまでもないか。この手の事件をテレビで見る度に思うのだが、相手が誰でもいい無差別殺人者は、どうせなら反社会的勢力をターゲットにすればいいのに。そうすれば社会貢献とまではいかなくても、印象は多少良くなると思うんだがなぁ。どうして俺のような善良なおっさんばかりが、貧乏くじを引かされるんだろうなぁ」


 最大の不幸は、彼の人生の最後に訪れた。

 だが、それを認識する前に、この世を去れたのは、最大の幸福だったのかもしれない。 






≪ 荒くれ者 ≫




 金と喧嘩は冒険者の華。

 短絡的で、血の気が多く、一攫千金を夢見てたった一つしかない命を投げ出す冒険者を表す言葉である。

 紳士的で、堅実な生活を送っている冒険者もいるが、悪いところばかりが目立つのは世の常。

 特に夜間の酒場は、魔物討伐の後で気が高ぶっている冒険者が多く、喧嘩が日常茶飯事。

 もはや当たり前すぎて、酒の肴としてや、賭けの対象として、酒場の余興に組み込まれている。


 喧嘩が始まるとすぐに、他の客は料理が乗ったテーブルごと移動させてスペースを作り、飲み客から観客へとチェンジするのが暗黙の了解。

 たとえ喧嘩に興味が無い者でも、やれやれと溜息を吐きながら素早く避難する。

 巻き込まれて料理が落とされたり、自分自身が怪我しても、誰も補償してくれないからだ。

 ……なのに、どんな場所にも、空気を読めない観客が存在する。


 酒屋に即席のリングが用意されても、なおその真ん中で頑なに食事を続ける中年男が一人。

 周囲の客が「あーあ」という顔で苦笑いするなか、案の定、孤高を気取るその中年男の下へ、喧嘩している片方が殴り飛ばされていく。

 危機感に欠ける中年男はどうでもいいが、その馬鹿の所為で台無しになる料理は可哀想だなと、観客たちは悲惨な結末を哀れんでいたのだが――――。


 ――――ドガンッ!!


 と、大きな音を立てて、店の外へと吹っ飛んでいったのは、空気を読めない観客ではなく、主役の方だった。


「てっ、てめえっ、何しやがる――――」


 喧嘩する相手を奪われたもう一人の主役が、怒号を放ちながら、未だ食事を続ける観客へ詰め寄るが――――。


 ――――ドガンッ!!


 結果は同じで、問答無用で吹っ飛ばされていった。

 強制退場させられた主役二人が、一向に戻ってこない様子から、たった一撃で悶絶しているのだと窺える。


「「「…………」」」


 そして、ようやく咀嚼し終えた中年男が、ご丁寧にティッシュで口元を拭った後、出入り口に向かい、今更ながら苦言を呈する。


「キャットファイトならともかく、むさ苦しいオッサン同士の喧嘩なんて見せられても、味気ない飯が更に不味くなるだけだろうがっ! それとも、喧嘩する相手もいない、ボッチ飯な俺への当て付けかっ!? 人生も食事もボッチな中年男には便所飯がお似合いだと言ってるのかっ!? 何にせよ、ホコリが舞って不衛生だから、外でやれ!!」


 喧嘩に第三者の介入は、珍しくない。

 賭けの対象が、二人から三人に替わるだけ。

 だから、より盛り上がるのが通常だが……。


「「「…………」」」


 空気を読めない観客が、一瞬で主役を蹴っ飛ばしてしまったので、楽しむ余地が無い。

 しかも、喧嘩していた主役二人は、この街でトップクラスの強者だったので、文句も言えない。

 荒くれ者が集まる酒場にしては、あるまじき静寂が場を支配していた。


 もちろん、気まずさからくる沈黙であるが、それを生み出した張本人は、気づいていない。

 やれやれと肩をすくめながら、いっぱしの被害者気取りで椅子に座り、しかめっ面で食事を再開する。

 だからこその、ボッチ飯である。




 ◇ ◇ ◇




 人様に迷惑をかけてはいけない理由は、いくつもある。


 人と関わって生きている以上、それが社会のルールだから。

 かけがえのない時間を奪う行為だから。

 自分の評価が下がるから。


 そんな中でも最大の理由は、仕返しされても文句を言えないから、であろう。


 ……少なくとも、仕返しされて当然とばかりに、容赦なく攻撃してくる頭のネジが外れた相手がいることは、忘れるべきではないだろう。


▼あとがき

コミック版の第7話が本日から配信開始されています。

今回はサブヒロインが登場するサブストーリーですよ!

是非ご覧くださいね!

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― 新着の感想 ―
[一言] 圧倒的都市伝説感……!
[一言] 珍しくおっさんが世間的に見て良いことだけしてる!
[良い点] 道徳ってのは、同調圧力とはよくいったものですね。 率直に言って、核ミサイルが直撃しても死なず、自活して生きられるような相手にはどうにも交渉しようがないし、何されても対抗できないですよね、…
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