表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/280

モンスター・ハンター 1/3




 彼女の二つ名は、「モンスター・ハンター」。


 歳は35。レベルは12。

 夫は一人。子供は三人。

 職歴は15年。

 

 常識外れのモンスターは、何も街の外ばかりに出現するわけではない。

 人の最大の敵は、人。

 事実、殺人の最大要因は魔族ではなく、同族たる人類。

 遠く離れた人外よりも、すぐ近くの隣人を注意すべきなのだ。


 同族殺しを初めとした人型のモンスターは、普段は見えなくとも、至る所に潜んでいて、ふとした拍子で正体を現す。

 いや、普段は気づいていないだけ、と表現する方が正しいか。

 誰しもが覚醒する素質を持っていて、誰しもがモンスターになりうるのだ。


 ……ほら、今日もまた、彼女の目の前に、人型のモンスターが訪れる。

 常識外れのモンスターとはいえ、その中身は人類のまま。

 理解は及ばなくとも、同じ言葉を介する同類である以上、突破口が残されているはず。

 それを、信じて――――。


 深い経験則という名の剣と、辛抱強さという名の楯を武器に。

 数多くの悲しきモンスターと真っ正面から対峙し。

 強引にでも新天地へと導く、辛口のコンサルタント。

 

 業界内で彼女は、「婚活モンスター・ハンター」として尊敬され、或いは恐れられていた。




 ◇ ◇ ◇




 人類の天敵が猛威を振るう、弱肉強食な世界。

 生き抜くことに精一杯でも、色恋沙汰が廃るわけではない。

 むしろ、常に生命の危機を強いられる状態なので、本能が種を残そうと、積極的にパートナーを求めようとする。

 だが、職業に適性があるように、恋愛にもまた得手不得手がある。

 それに、出逢いという運の要素も強い。

 

 そんな迷える子羊たちの赤い糸を適正に結びつけ、新婚生活という新天地へと引っ張っていく有り難い存在。

 社交性に富んだ友人や、近所の世話焼きおばさんや、怪しい宗教を除けば、それをビジネスにしている結婚相談所に頼るほかない。 

 斬新なようで案外歴史あるそのビジネスは、恋愛強者から見ると理解に苦しむ駆け込み寺だが、利用者は多い。

 それだけ結婚を望む者と、出逢いに恵まれない者が多い証拠であろう。

 

 たとえ運命の相手がいたとしても、ビジネスである以上、出逢いの場を提供するだけで放っておくのでは無責任。

 経験則に基づく知識と判断力を持ち、双方の仲を取り持つ婚活コンサルタントは必要不可欠なのである。



「私の年齢は42歳。収入は無いけど、毎日ちゃんと実家の手伝いをしているわよ」

「希望する男性の年収は、金貨1千枚以上が最低条件。私への毎月のお小遣いは、最低金貨50枚は欲しいわね」

「結婚後は専業主婦になって、夫を支えていきます。そうした方が夫も安心して長い時間仕事に励めるでしょう。でも、掃除や料理は苦手だから、お手伝いを雇いたいです」

「月に一度は他の街へ遊びに行きたいわ。家事って大変だから、息抜きが必要なのよね。だから、夫は抜きで友達と遊びに行くわ」

「子供はいらないわね。うるさくて苦手だし。そもそも、子供を作る行為が汚らわしくて嫌なのよ。だから結婚後は、夫とは別々に暮らしたいわね」


 このように、結婚相談所に出現するモンスターは、女性が多い。

 低スペックな自分と釣り合わない高スペックな相手を求める、いわゆる高望みというヤツだ。

 彼女たちは、デッドラインの三十路を越えても、無断にプライドが高く、高収入の相手を望み、そのくせ家事さえしようとしない。

 反対に、二十代前半までの若い女性は、まだ社会経験が少なく自信が無いためか、金貨200枚程の平均年収を望み、結婚後も共働きして堅実な生活を送ろうとする。


 対して、多くの男性は、自分の子孫を残そうとするため、若くて健康で慎ましい女性を望む。

 なのに女性は、自身のスペックと相手への希望が反比例しているから、若い子ばかりに人気が集中し、中年女は容赦なく売れ残ってしまう。


 結婚相談所に金を払うお客様は、神様と同じ。

 最大限の要望に応えてあげたいが、マッチングする相手も同様に要望を出してくるため、どうしても限界があって、妥協は避けられない。

 高い理想を抱くのは、けっして悪いことではないし、誰しもに許される権利だ。

 そう、心の内で思い描くだけなら、勝手。

 でも、そんな高望みモンスターを甘やかし、放っておいても、結婚相手は絶対に見つからない。

 失敗を繰り返すうちに、歳を重ねて女の価値は下がり続けるが、男への要望だけは中々下がらない。

 そのまま進んでも、その先に待ち構える未来は、一つだけ。

 一つだけの、独りぼっち。

 

 とうにデッドラインを踏み越えているのに、それに気づこうとせず、なのに慌てようともせず。

 結局最後には、自分に相応しい相手なんていなかったと、自己完結する様は憐れを通り越して怒りが湧く。

 同じ女性としても、そんな結末は見逃せない。

 結婚した後に後悔するのは仕方ない。

 だけど、結婚したいのに、結婚できず後悔するのだけは、どうにかしてあげたい。

 親切の押し売りだったとしても、結婚後に相応の苦労が待っていたとしても、幸せになれるチャンスに賭けてみたい。

 賭けとは、自分に相応しい舞台の上に立って初めて成立するのだ。



「お客様のスペックと、相手に求める条件では、成婚に至る可能性はありません。率直に申し上げれば、お客様が希望する男性が、お客様を選ぶことはありえません」


 だから、ベテランの婚活コンサルタントにして、成婚後の継続率ナンバーワンを誇る「婚活モンスター・ハンター」は、歯に衣着せぬ評価で厳しい現実を突きつける。


「結婚とは、認め合う二人が揃って初めて成立します。どんなに高スペックの持ち主でも、一人だけでは会話になりませんし、寂しさも癒やされませんし、何より子供ができません」


 確定的に明らかな酷い未来を打破するには、まずは本人の意識を改革させるしかない。


「今後長きに渡り、お互いを助け合う関係を築いていくお二方のスペックは、釣り合っていて然るべき。だけどお客様は、結婚することで自分ばかり得しようとしたり、イイ男を見せびらかそうとしたり、そのくせ自分は努力せず、若い頃の美貌に胡座を掻き、男なんて女に尽くして当然だと思っている。そんな甘い考えで、婚活が上手くいくはずありません」


 残念ながら、口で説明しただけで納得するモンスターは少ない。

 その程度で改心できるのなら、最初っからモンスターになっていない。


「私どもコンサルの仕事は、望む条件の相手を見つけ出すことではありません。スペックと条件が似通った相手を、円滑に繋ぎ合わせることが使命なのです。そもそも、お客様が主張する人生設計通りに全て進むのであれば、ずっと前に結婚して幸せな生活を送っているはずです」


 正論をこれでもかとぶつけられた相手は、泣きながら逃げ出すか、怒りながら逃げ出すか、激怒しつつ最後まで我を通そうとするかの三択である。

 自分は悪くない。

 悪いのは、理想の相手を見つけられないコンサル側。

 どこかにきっと、自分の理想を全部叶えてくれる結婚相手がいるはず。

 だって、美しい私が、こんなにも頑張っているんだから。


「そこまで自信があるのなら、ご自身の力で理想の相手を見つければ済む話では? どうして、こんな所まで足を延ばし、他人の力を借りようとしているのですか? 安くない金を払い、婚活コンサルである私に相談している時点で、もう答えは出ているのではありませんか?」


 常識が通じない。

 相手の言葉を聞こうとしない。

 大きな奇声を上げる。

 本物のモンスターのように。

 だからこその、婚活モンスター。


「では、私と勝負しましょう。半年以内に、お客様が出した条件の男性を、私の前に連れてきてください。もちろん、自身の力だけで。それができれば、お客様の勝ち。深く謝罪するとともに、これまで結婚相談所に支払ったお金を全額返金しましょう。それができなければ、お客様の負け。罰として、私の意見を取り入れた条件に見直し、さらに自身のスペックを向上する努力を行った上で、改めて婚活に挑んでいただきます」


 婚活モンスターの厄介なところは、プライドの高さ。

 それ故に、ここまで挑発されては、逃げるわけにもいかない。

 こうして、多くのモンスターが勝負に挑み、やはり多くが戦いに敗れ、その一部が自身の非を認め、彼女の前に帰ってくる。

 そして、改心した多くの元モンスターが、成婚へと至る。


 中には、本当に理想の男性を見つけて戻ってくるモンスターもいる。

 確かに男性の条件は変わっていないが、表に見えない自分自身のスペックは大幅にアップデートされたのだろう。

 けっして口には出さないが、並々ならぬ努力があったのだろう。

 だから、勝負に負けたはずの彼女は、喜んで約束のお金を渡す。

 会社は出してくれないから、自前で。

 それは、いわば、ご祝儀。


 そう、婚活コンサルタントである彼女こそが、誰よりも成婚を祈っているのだ。



 

「――――いらっしゃいませ、新しいお客様。ご入会をご希望ですか?」

「はい!」


「入会金は、お得な年間払いと、割高な月払いがありますが、どちらになさいますか?」

「まずはお試しってことで、一ヶ月分で十分です!」


「それでは、初回の登録料と合わせて、金貨3枚となります」

「では、これで!」


「確かに拝受いたしました。早速ですが、本題に入らせていただきます。お客様は、結婚活動、いわゆる婚活は初めてでしょうか?」


 弁明させてもらえば、婚活モンスターと呼ばれる女性は、少数に過ぎない。

 そして当然、男性のモンスターも存在する。  


「はい、婚活が初めてというか、結婚を考えたのも初めてです!」

「まあ、そうだったのですね。いったいどのような心の変化があったのですか?」


 男性の婚活モンスターは、女性に比べると割合が低い。

 だけど、女性よりもっともっと理解の及ばない思考の持ち主が多い。

 女性のソレは常識の延長上にあるが、男性のソレはルートさえも外れてしまう。

 婚活コンサルである自分が女であるためか、異性である男性の異常性は、深い経験則で対抗してなお、手に余ってしまう。

 いわば、真の婚活モンスター。


 今回の相談相手である、くすんだ緑色の髪と服のお客様は、年齢の割に大げさな仕草を取り、何かしら違和感を覚えるが、ちゃんと受け答えしていて、常識は持ち合わせているようだ。

 普通のお客様でよかった。

 軽薄な態度と服のセンスがやや心配だが、高望みさえしなければ、成婚に至るのも難しくないだろう。

 そう、思っていたのに――――。


「実は最近、女性にモテている気がしましてねぇ。三度あるモテ期の三度目が、ついに来てしまったのかなぁ。隠しても隠しきれないダンディなミドルの魅力に、ようやく世間が気づき始めたんでしょうかねぇ。いやー、まいったなー」

「はあ……」


「要約すると『乗るしかない、このビッグウェーブに!』状態になっちゃったんで、心機一転して婚活しようと思った次第なんですよ」

「……自由恋愛で好意を寄せられているのなら、その女性と結婚すればよろしいのでは?」


「いやー、そう簡単な話ではないんですよー。普段から距離の近い女性とそういう関係になるのは、何か色々と不味い気がするんですよね。世界の全てが変わってしまうというか、取り返しがつかない事態が起こってしまうというか、とにかくデッドエンドがちらつくんです。ですからね、後腐れの無い初対面の相手の方が望ましいんです!!」

「…………………………」


 ♪ 今日も来た来たモンスター ♪

 ♪ だけどだけどね君は被害者 ♪

 ♪ 全部歪んだ社会が悪い悪い ♪


 脳内で謎の歌が流れる中、百戦錬磨の「モンスター・ハンター」は、真・婚活モンスターに向かって、毅然とした態度で口を開く。


「――――お客様、お出口はあちらでございます」


▼あとがき

コミック版の第4話が本日から配信開始です。

ついに主人公の大本命と目されるコルコルが登場します!

是非ご覧くださいね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 結婚する気がない婚活モンスター参★戦! 冷やかしなら帰ってくださいw
[一言] いやさすがに、金貨三枚とっておいて帰れはダメだろ もう少し頑張れw
[一言] 人生の墓場に叩き込むのが仕事なので死ぬ気が無い奴は帰れって事やな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ