人形売りの少女③/付与少女との契約
……感激に浸るのは、このくらいにしておこう。
空気を読まず申し訳ないが、まだ次のステップが残っているのだ。
俺が付与魔法に求める能力は二つある。
その一つである持続性は、アイテムでサポートする事でクリアされた。
だがもう一つの汎用性は、アイテムを使った外部からの支援が出来ないと思われる。
こればかりはミシル嬢の純粋な実力次第。
そもそも、付与魔法で実現可能なのかさえ分かっていないのだ。
まあ、あれこれ考えても仕方ない。とにかく試してみよう。
「これで持続性の問題がなくなったね。そこでもう一つ、試してもらいたい事があるんだ」
「もももう一つ、ですか?」
俺は神妙に頷いて、詳細を告げる。
本来は付与魔法の性質を詳しく聞いてから試すべきだろうが、付与魔法の適性がない俺が悩んでも大して役に立たないだろう。
俺が真に求める使い方を、ほしい結果だけを告げ、後は専門家である彼女の裁量に任せるのが最良と思われる。
「――――――――どうだろう、こんな付与魔法の使い方は可能かな?」
「…………わわ分かりません。いい今まで考えた事が無い、ほほ方法です。――――でも、やりたいです! 試させてくださいっ!」
最後の台詞をどもらず、力強く宣言したミシルには、今までにない意気込みが感じられる。
持続性の実験が成功した事で自信がついたのだろう。
意識一つで、人はこんなにも変わる事が出来るのだ。
そうだ、見せてくれ! 君の本当の力を!!
……うん、益々変なノリになってきたぞ。
でも、悪くない、悪くないんだ。
刮目せよ! 今宵、俺は、奇跡を目の当たりにするのだ!!
「――――――――――――」
ミシルは、より一層真剣な表情で魔法を開始する。
「――――――――――――」
左手は、先程と同様にストローを差した回復薬を持っている。
「――――――――――――」
右手は、俺が新たに複製した白い短冊の上に置かれている。
「――――――――――――」
魔力を注がれていた用紙が、光を発する。
そして――――。
「――――っ、で、でできましっ、…………た?」
なぜ疑問符?
せっかく盛り上がっていたのに、最後まで格好付けて欲しかったな。
「うん。それじゃあ、使ってみようか」
気を取り直して、と。
とにかく完成したようだし、ここからは俺が実験する番だ。
「…………」
ミシルから付与魔法が施された短冊を受け取り、ペンで文字を書く。
相変わらず下手くそな字だ。
字の綺麗さが評価されていたらしい昔の入社試験だったら確実に落とされるレベル。
パソコンが主流となり字を書く機会が少なくなった平成生まれならまだしも、昭和人なのに字を美しく書くスキルを会得してないとは悲しいな。
「…………何も起きないね」
「…………はい」
短冊はぴくりとも反応しない。
だけど、失敗した訳じゃない。
文字を書いただけで起動しないのは注文通りであり、その方が都合いいのだ。
――――さて、締めのアクションに入ろう。
短冊を掴み、今度は俺の魔力を込める。
同時に鑑定を行い、魔力の注入量を計測する。
……100、……200、……300。
…………1000、……2000、……3000。
…………注入量が一万に達した時、変化が訪れる。
短冊はひとりでに織り曲がっていき、最後にはポンっと軽い音を立てて黒い猫に変化した。
そして、俺の腕から登って頭上に乗っかり、「にゃー」と一声発した。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「……あああ、あの?」
「――――素晴らしい!!」
俺の絶賛を聞いてミシルがびくっと怯えるが、今は気遣う余裕がない。
『黒猫に変化して俺の頭上で鳴く』
これが短冊に書いた文字だったのだ。
――――そう、俺が彼女に求めた力は『文面を現実化する紙』を創り出すこと。
昔話の『三枚のお札』に出てくるお札を創り出す能力、だと考えると分かり易いだろう。
それとも漫画好きには『ウイングマン』に出てくるドリームノート、と言った方が分かり易いだろうか。ちなみに俺はアオイさん派である。
要するに、魔力が込められた媒体を介する事で、間接的だが誰でも魔法少女になれる訳だ。
このように便利すぎる魔法なので駄目元で頼んでみたのだが……。
流石は何でもありの魔法というべきか、それともミシルの突出した才能が成せる技か。
どちらにしろ、目的の品は完成したのである。
この『文面を現実化する紙』は、誰でも使えるのが最大の利点であり欠点だ。
但し、使用条件が『膨大な魔力注入が必要』であるため、実際に誰でも使える訳ではない。
この世界の住民は基本的にレベルが低く魔力量が少ないので、一度に1万以上の魔力を注入出来る者は極僅かだろう。
詳しいメカニズムは分からないが、おそらくミシルが創ったものが『機械』となり、それを動かすには魔力という莫大な『燃料』が必要なのだろう。
もの凄い商品なのだが、もの凄く燃費が悪いため、もの凄く使用者を選んでしまう、ある意味欠陥品。
――――だからこそ、転売して悪用される心配がなくなり、俺専用と言えるような都合がいい道具となり得るのだ。
「だだだ大丈夫、です、か?」
黙り込んでいた俺を心配したミシルが話しかけてくる。
感動のあまり考え込んでいたようだ。
「すまない。望んでいた通りの出来映えで、思わず興奮してしまったよ。……本当に最高の出来映えだ!」
「ほほほ本当ですかっ。よよよかったです!」
稀代の天才少女は、自分がどれ程とんでもない品を創ってしまったのか、それがどのように利用されるのか殆ど理解していないのだろう。
単純に、客である俺を満足させられた事に喜んでいるのだ。
「君の力は素晴らしいものだ。是非とも俺と契約して欲しい!」
十分に能力を確認し、十二分に満足した俺は、功を急ぎ不十分な言葉を発してしまった。
どこぞの白いマスコットキャラが言いそうな怪しい勧誘である。魔法少女が相手なのも嫌な共通点だ。
「は、ははははいっ! ああありがとうございますっ!!」
胡散臭い中年男の怪しい誘惑に、本日一番の笑顔を見せてくれる少女。
元気な返事だが、内容も聞かずに了解するとはな。
素直な子は良いよね、扱いやすくて。
……まあ、精々、この笑顔が曇らない事を願おうじゃないか。
こうして俺は、良く云えば最高のパートナー、普通に云えば商売相手、悪く云えば最高の金蔓を手に入れたのである。
◇ ◇ ◇
その後は、トントン拍子に契約が成立。
もちろんお互い納得の上の合意だ。
……ほんとだぞ?
契約内容を大まかに説明すると、ミシル嬢が『文面を現実化する紙』こと付与紙(適当命名)を毎月10枚提供する対価として、俺が動く人形の販売をサポートする事になった。
最初は真っ当に金を払う予定だったが、彼女の夢が人形売りで成功する事だったので、ただ金を渡すより俺が手伝った方が効率的かなって話にまとまったのだ。
目の前に大金があると仕事する気が失せるしな。
彼女が本気で成功を望むのならハングリーさも必要だろう。
まあ、金なんて俺と彼女の力が合わされば何時でも幾らでも稼げるし。
……そういえば、日本に居た頃は宝くじで一攫千金して好き勝手遊ぶのが俺の夢だったな。
純粋な少女の夢と比べるまでもなく、さもしいことだ。
動く人形売り事業は、俺なりに手伝うのだが、むろん成功を約束するものではない。
だから、失敗したら自己責任ってことで。
まあ、持久力を得た動く人形は珍しいから、売り方を工夫すればそこそこ売れるだろう。
此まで全く売れず辛酸を舐めてきたミシルは、失敗した場合を考え人形売りに専念していいものか悩んでいたようだが、翌日コルトに不動産を紹介してもらい購入した店舗を見て武者震いのなか覚悟を決め、皿洗いの仕事を退職して人形売り専業となった。
最初の一歩を踏み出せず迷っている人の背中を軽く押すのって大事だよな、うん。
彼女の両手は、人形と紙に命を与える文字通り魔法の手である。
その奇跡の手を皿洗い時のあかぎれで傷めるのは勿体ない。
いや、プロンジュール(皿洗いのプロ)を馬鹿にするつもりはないのだが。
適材適所というやつだ。
出来れば俺の専属となり、ひっそり目立たぬよう暮らしてもらった方が、俺にとっても彼女にとってもトラブルを起こす可能性が減るのだが、まあ仕方ないだろう。
これほど突出した才能である。
世間に役立つ物を作った方が喜ばれるだろうし。
何より、客に喜ばれる事が、彼女の喜びなのだから。
その代わりといっては何だが、協力者たる俺は付与魔法の力を利己的に使いたいと思う。
彼女が世間に貢献するプラス要素を持って、俺が世間に迷惑を掛けるマイナス要素を相殺する格好だ。
悪さばかりしていると運も悪くなりそうだからな。験担ぎは重要なのだ。
……そんな訳で、俺はミシルの成功を心から願うのである。
――――新たに手に入れた力は、付与紙。
『文面を現実化する紙』といっても、何でも現実化出来る訳ではない。
むしろ出来る事は限定的だ。
先ほどに例えた三枚のお札やドリームノートのような、願いを直接現実に投影する神の如き力はない。
あくまで魔力が込められた紙を媒介して、使用可能な魔法の幅を広げるだけなのだ。
実際に何が出来るのかは今後検証しないと分からないが、今のところ確実に出来るのは実験で黒猫を出したように、付与紙を生物の姿に変えて命令を遂行させること。
陰陽師が使役する『式神』や悪魔が使役する『使い魔』的な用途。
付与紙に任務内容を書き込み、その姿を自由に変え、偵察や護衛などの雑用をこなす手駒とする。
これにより、俺に欠けていた手勢を補う事が可能となる。
いくら個人の能力が高くとも、身一つでは手が回らない場合がある。
他の人に頼めばいい話だが、コミュ障が仲間を作るのは難し過ぎる。
組織を設立したり奴隷を使う方法もあるが、世話するのが面倒なのだ。
他にも紙ならではの応用的な使い方も考えているが、それは後々試していこう。
まずは使い魔として黒猫を創り、コルトとミシルを監視しよう。
俺の特異性に気付き面倒を起こす者が居ないか注意しておきたい。
人質に取られても面倒なので、護衛的な役割も担わせよう。
ついでにウォル爺も監視しておこう。
目を付けられてる気がするので、意趣返しみたいなものだ。
こんな感じで俺は、弱点を補って余りある汎用性の高い力を手に入れた。
自身の能力、多彩なアイテム、そして付与魔法の三種が揃った事で、三本の矢のように折れにくい強靭な力となるだろう。
強い武器を三つも揃えないと安心出来ないとは情けないがな。
この世は摩訶不思議な魔法社会。
何が起こっても不思議じゃない。
転ばぬ先の杖は多い方がいいだろうさ。
これでまた一歩、世界征服へ近づいたのだ!
……いや、そんな面倒な予定はないけどな。




