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十日市③/作った物区画




「なあ、あんちゃん。別の仕事が入ってるから、案内は此処まででいいか?」

「ああ、助かったよコルト。これは今日の分だな」


 よく案内してくれた勤労少女に、昨日と同じ金貨1枚を渡す。


「……気前が良いのはありがたいけど、そんな調子で金を使ってると直ぐに無くなるぜ?」


 もっともな忠告だが、なまじ金があると小銭をジャラジャラ持ち歩きたくないんだよな。

 それに金は、惰性で生きる大人よりも欲と希望に溢れた子供の方が有効利用するだろう。

 出来る事なら子供の頃の自分に金を譲渡したいものだ。


 まあ、独身故の暴論だろうがな。

 今の俺は複製魔法で際限なく稼げるし、チマチマ使っても仕方ない。

 開き直って下品に成金生活を愉しむのも一興だろう。


「破産した時はコルトが養ってくれよ」

「絶対いやだ!」


 ははは、こやつめ!


「ところで明日の案内はどうするんだ?」

「案内はもう十分だが、別の仕事を頼むかもな」

「大歓迎だぜ。明日は一日空いてるから、見かけた時に声を掛けてくれよ」

「ああ、コルトも風呂に入りたくなったら、何時でも遊びに来ていいぞ」


「……連れ込んだ女が居たら、どうすんだよ?」

「そんときはベッドは使えないが、風呂は使えるだろ?」

「やだよ、そんな場面にかち合いたくないぜ」

「そうだよな、だったら来客中はドアに印を付けておくさ」

「……それなら、偶にはお邪魔するよ」


 危ない危ない。

 コルトの言う通り、娼婦とばったり合ったら気まずい空気が形成されるところだった。

 コルトはまだ12歳だから、直接的な性教育は幾分早かろう。


 ……そういえば、この世界では何歳から結婚出来るのだろうか? 

 いや、結婚願望なんて無いしコルトに手を出すつもりも無いけど、一応、一応な?

 この街は雰囲気も都合も良いから拠点にするつもりなので、女遊びは他の街でした方がいいかも。

 関係を持った女性と街中で遭遇する日常なんて、女に不慣れな独り身にはハードルが高すぎる。


「それじゃーな、あんちゃん!」


 コルトが手を振って走り去っていく。

 子供の元気さは見ていて微笑ましいものだ。






「それじゃあ、一人寂しく回ろうかね」


 大丈夫、大丈夫。

 半引きこもり人間だから、一人には慣れているのだ。


 制作物の区画を見渡すと、武具などの冒険者用品をはじめ、服や食器などの生活用品も売っているようだ。

 特に生活用品は使う機会が多いだろうから、一揃えしておきたい。



 まずは、武具類を見る事にした。

 剣、槍、弓のメジャー品から斧や鎌などの一風変わった武器まで幅広く揃えてある。

 流石は冒険業を基幹産業とする街だな。


 武器系のマジックアイテムは、上位ランクの魔物しかドロップしないため入手困難。

 当然、このような露店では扱ってない。

 魔法の武器を持つ事は、一流冒険者の証と言われている。このため、駆け出しから中堅までの冒険者は、人類が制作した普通の武器を使っている。

 量産出来ない高価な魔法武器よりも、腕利きの職人が造った武器の方が重宝されるのだ。


 だが、どんな名工が鍛え上げた武器も、マジックアイテムには遠く及ばない。

 切れ味をはじめ、耐久性、軽さ、そして何より魔法が生み出す特殊効果。

 これらの性能は、人類が逆立ちしても追いつけない決定的な差がある。

 それは人類と魔族との大きな戦闘能力の差からも明白である。

 人智を越えるアイテムや魔物を量産する魔王とは、如何に恐ろしい存在であろうか。


 …………以上のような、武器から始まり最後は魔王にまで飛躍した話を店主から聞きながら品定めする。


 店主の話どおりに、売られている武器と俺が持っている魔法武器との能力値の差は一目瞭然だ。

 先日ハンナ達に渡した魔法武器は低めの能力だったが、それでも露店に並ぶどんな武器とも比べものにならない。


 圧倒的な性能の差は、武器に魔力が付与されているか否かが理由だ。

 マジックアイテムとは、武器にとんでもない量の魔法を付与、若しくは魔力そのものを武器化した規格外の代物。

 人類が使用可能な付与魔法のランクでは、切れ味や耐久性を少しだけ増す程度が関の山なのだ。


 性能が低くインテリアに向かない無骨な武器は、少女達から買った石や花にも劣るのだが、とりあえず最も能力が高い武器や道具を購入していく。

 低ランクのアイテムと同様に、使う機会があるかもしれんしな。


 『大は小を兼ねる』は、俺のモットーの一つである。

 会社の打合せでは、参加予定人数より多めに資料を用意するものだ。

 もちろん無駄になる事が多いが、予定外の人数増で資料が足りなくなった場合のやりにくさに比べれば大した事は無い。

 資源を大切にするのとは、別の話なのだ。



 こんな風に、目に入る物を適当に買い漁っていたのだが、一つだけ掘り出し物があった。

 なんと、日本刀もどきな武器が売っていたのだ。

 俺は小学生時代に剣道を囓った事があるだけで、特段刀に詳しかったり執着がある訳ではない。

 それでも男心か、漫画好きだからか、日本刀には特別な魅力を感じてしまう。


 もどき、と称したのは、日本刀に詳しくないため本物と断定出来ないからだ。

 覚えている日本刀の特徴は、『よく切れる』『反りがある』『刃文がある』程度。

 反りや刃文が無い日本刀もありそうだから、勝手な格好いいイメージだ。

 露店に並んでいた刀は、この3つの特徴に当て嵌まり、他の剣とは大きく違っていた。


 この世界で一般的な剣は、切れ味より丈夫さを重視した直線状だ。

 耐久性を持たせるため刃が厚く、切るよりも叩き付けたり突く事に重点を置くいわゆる西洋剣。

 武器は高価なので、耐久性と制作コストに優れる西洋剣が主流なのは当然だろう。

 俺の適当なイメージでは、日本刀は造るのが難しく、細身で切る事に特化した使い捨てに近い武器だ。

 だからこそ格好いいイメージがあるのだが。


 この日本刀っぽい武器にコレクター精神を刺激された俺は、「全部くれ!」と興奮してしまい、売り子の無口な少女を驚かせてしまった。

 まさかこの少女が造った訳ではないだろうが、「また刀を造ってくれ」と頼むと何度も頷いて足早に去っていった。



 ……冷静に考えてみると、この刀は俺以外の地球人――――それどころか日本人がこの世界に存在する物証になる可能性がある。

 日本刀だけが転移してきたのかもしれないが、他の地球人が居る可能性は捨てない方がいいのだろう。




「道具類も揃えておくかな」


 道具の性能は、全般的に可もなく不可もなくといったところ。

 但し、薬類は酷かった。

 ここが規制の緩い個人市場だからかもしれないが、適当な材料を適当に混ぜただけの殆ど効用が無い薬が大半だった。

 逆に腹を壊しかねない酷さだ。

 回復魔法やアイテムが存在し、科学や技術が後れているこの世界では、特に医療分野が発展していないのだろう。

 ウォル爺さんが魔法薬に高値を出すのも頷ける。


 他には、衣服類も適当に買いまくった。

 特に女性物の服を買うのは、背徳感があって中々愉しかった。

 まあ、嫁や彼女が居ない男故に味わえる感情だろうがな。

 女装の趣味はないのだが、これも念のためって事で購入している。

 コルトにフリフリのスカートをプレゼントするのも面白そうだ。


 ここでも一つ、面白い出会いがあった。

 この世界の服は実用重視なのか遊ぶ余裕がないのか、地味でシンプルな装いが主流なのだが、その女性は独創的で可愛らしい服を作る事に成功していた。

 とはいえ、アニメの華やかな服と比べると、まだまだ大人し目である。

 まあ、日本の先鋭過ぎる二次創作服と比較するのは酷だろうが。

 意欲的かつ腕が確かな職人なので、今度は店舗の方に行ってオーダーメイドしてもらう予定だ。


 俺の魔法では以前触れた物しか複製出来ないため、服のストックが少ない。

 交流が少ないぼっちの弊害だ。

 もっとゴスロリ服とかに触っとけばよかった。いや、ゴスロリに触れる機会なんて普通ないよな。

 特に女性服のバリエーションが少ないから、雑誌から服の写真を複製して見せれば服屋も作りやすいだろう。

 なぜ女物の服に固執しているのかは自分でも謎である。



 その後も、戻ってきた運搬役の少年をお供に買い物を続ける。

 適当に生活用品を漁りながら最後尾を目指して行く。


 ……実用的な物は大体買い終わったかな。

 少年が担いでいる大きな籠も満杯だ。

 まだ見ていない場所は、一番奥の端っこだけ。


 これ以上は大して荷物が増えないだろうから、少年には先に戻ってもらおう。

 今度も服を畳む仕事などを付け足し金貨を渡す。

 今日はこれで最後だと伝えると、残念そうに大きく礼をして小走りで帰って行った。縁があればまた会う事もあるだろう。






 単に買い物を楽しむおっさんに見える俺だが、本当の目的は別にあった。


 本命だった武器製作区画では当たりを引けなかったが、最後の望みに賭けて残りの製作区画も探してみよう。

 市場の原理故か、目立たない奥に進むに連れ、質の悪い怪しい品が多くなり陰気な雰囲気が漂ってくる。

 当然、客も少ない。


 ……だが、品質とは逆に、段々と期待が高まっていく。

 残り物には福があるって言うしな。

 最後まで行ってみよう。



 ――――果たして俺は、最奥の陰気な区画で、それを発見したのである。





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