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彼女がそうする理由 2/2




 人の営みに、労働は不可欠である。


 ……とは、言い切れない。

 実際に働かずとも暮らしている者も居るからだ。


 だが、多くの者は従事することで得た対価で暮らしている。

 人の社会に、仕事は欠かせないのだろう。


 仕事の適性を考えた場合、「能力」「やる気」「運」といった三つの要素が重要だ。

 その全てを持っていても成就するとは限らず、また、どれも持っていなくとも働き続けることは可能かもしれないが。

 例外はともかく。


 ここで、とある中年男に出会ったが故にデビューすることになってしまった新たなアイドルグループ――――「トリ・コロール」の少女達の適性について考えてみよう。



 青い髪の少女、ブラウ。

 14歳。農村出身。中庸な体つき。

 噂で聞いた舞台女優に憧れ、後先考えず村を出て、中年男の妹に似ているという理由だけでアイドルに抜擢された少女。

 彼女の「能力」は、精々下の上といったところ。

 生まれ育った村には歌ったり踊ったりする文化が無かったため、経験不足が否めない。

 しかも、先天的な歌唱力もダンス力も今一つであり、お世辞にも向いている仕事とは言い難い。

 それでも、「やる気」だけは誰にも負けない。

 自爆行為に等しい奴隷なる手段を用いてまで身一つで飛び出してきたのだから、当然であろう。

 憧れに向かって走る突進力こそが、彼女の最大の武器である。


 黄色い髪の少女、フラーウム。

 14歳。貧困な街の出身。貧弱な体つき。

 娼婦見習いの指導役から紹介され、中年男の誘惑に負け、歌で稼ぐ仕事を選んだ少女。

 彼女の「能力」は、突出している。

 ダンス力こそ低いものの、歌唱力に恵まれ、その澄み渡る歌声は唯一無二の強力な武器。

 まさに、歌うために生まれてきたようなもの。

 歌うことが大好きで「やる気」も高いが、仕事へ向ける純粋な情熱とは少し違う。

 彼女には、歌しかない。

 人前で上手く話せず、何もかも人並み程度にもこなせないため、歌に頼るしかない。

 しかし、歌だけで対価を得るのは難しい。

 路上で披露しても相手にされず、情緒に乏しい男が求めるのは体だけ。

 そんな彼女が自分の力で稼げる仕事にありつけたのだから、必死さは十分にある。


 赤い髪の少女、ロート。

 14歳。王都出身。均整の取れた体つき。

 劇場でモギリ係のアルバイトをしていたのだが、大好きなジュースとお菓子の食べ放題を条件に、人数あわせでグループの一員にされた少女。

 彼女の「能力」は、総じて高い。

 見たもの教えられたものを己の体で再現する能力に優れている。

 特に恵まれた身体能力による軽快なダンスが得意で、歌って踊る舞台でよく映える。

 だけど、「やる気」はあまりない。

 美味しい食べ物に釣られ、アルバイト感覚でやっているだけ。

 期待以上に演じ、観客に笑顔を返すのも得意だが、アイドルなる職業が特段好きというわけではない。

 憧れも必死さも無い少女は、「やる気」に欠けているのだ。



 髪の色と同様に、「能力」と「やる気」がバラバラな少女達。

 だけど、一つだけ共通する適性がある。

 それは、「運」。

 生まれも育ちも能力もやる気も違う三人の少女がチームを組むことになったのは、「運」以外の何物でもない。

 後ろ盾を持たない小娘が王都の大きな舞台の上に立てるのは、中年男との縁があったからという一点につきる。


 悲しいことに自身の力とは連動せず、そしてコントロールも不可能な適性。

 一度「運」という大波に巻き込まれてしまった者達は、陸地に向かって突き進むしかないのだ。




 ◇ ◇ ◇




「はいっ、ワンツー、ワンツー、ワンツー――――」


 トリ・コロールの三人娘は、デビューを目指し、レッスンに明け暮れる日々を送っていた。

 劇団の責任者兼プロデューサーであるはずの中年男は、基本的に不在。

 頼まれれば過剰に協力するものの、指示を出すことはあまり無い。

 冷やかしに、練習場に現れては汗を流す少女達を眺め、ニヤニヤと笑いながら適当な合いの手を打つだけ。

 不思議な四角い壁に映し出される映像を参考に、自分達がやりたい歌と踊りを自分達で作り上げろと放任主義。


 歌謡劇への参加が決まったものの、そう聞かされたブラウは憤り、フラーウムは泣きそうになり、ロートは欠伸をしたが、実際のところ男にも教えるだけの知識が無いのだからどうしようもない。

 テレビの中とはいえ、お手本があるだけマシというもの。

 そもそも男の感覚としては、愛人の趣味に付き合っている程度でしかない。

 しかし、下手に命令されるより、自主性が養える分、完成度は高くなる。


「うんたん♪ うんたん♪ うんたん♪――――」


 それに、先輩であるコン・トラストの二人が丁寧に助言してくれる。

 まだ十代でそう歳も変わらないはずなのに、王都で人気な彼女達は新人にとって憧れの先輩であり、良き姉代わり。

 王都に実家があるロートはともかく、故郷から遠く離れたブラウとフラーウムにとっては、最も頼れる相手。

 その役目は、本来ならスカウトしてきた男が果たすべきだが、人には向き不向きがあるのだから、仕方ない。


「よかったい、よかったい、よかったい――――」


 環境に恵まれたアイドルもどきは、少しずつだが、着実に上達していく。

 コン・トラストの二人とは違い、一人一人では上手くできない三人だが、トリオだからこそ見映えする劇もある。


「よしっ、本日はこれくらいにしよう!」


 その日は珍しく、男が指導していた。

 指導といっても、実際は適当な掛け声のもと踊りに合わせて手を叩き、プロデューサー気分に浸りたいだけであったが。


「うんうん、だいぶん形になってきたな」

「……本当に?」


 上機嫌な男はそう評するが、トリ・コロールのリーダーに任命されたブラウは納得できない。


「ああ、まだ一曲だけだが、後は本番で慣れていけばいい。最初はどんなに無茶に思えても、人は良くも悪くも慣れてしまう。実際にネネ姉妹がそうだったから、自信を持ってぶつかればいいのさ」

「でも…………」


「不安なのは、精一杯練習した表れ。そもそも頑張りが足りない者は、失敗して当然だから心配などしない。不安とは頑張った証しなんだよ」

「…………」


 いつも変な事ばかり言う男だが、偶にまともな事も言うから反応に困る。


「……あー、そ、そのっ、これで、失礼しますっ」

「あたしも疲れちゃったからー、もう帰りまーすっ。ねえねえ、だからーっ……」


「ほら、これが本日のご褒美――――コーラとポップコーンだ」

「やったーっ。それじゃー、ばいばーい」


 悩んでいるのはリーダーだけだったようで、他の二人はそそくさと部屋から出ていった。

 人見知りのフラーウムは、男と視線を合わせるのを避けるように。

 お菓子目当てで参加しているロートは、芸の善し悪しには興味なさそうに。


「ふむ、我ながら変わった子達を集めてしまったものだな」

「……ねえ、その中に私は入ってないでしょうね?」


「世界は広いから、歌が上手い人見知りや、芸に興味がない芸達者は居るだろうが、アイドルを目指すため奴隷になる奴は世界広しといえただ一人だろうなぁ」

「…………」


 改めて考えると、反論しようもない。

 辺鄙な農村から外に出て、発達した都会で暮らすようになり、人の社会の常識を知った今のブラウなら、自分がどれ程馬鹿な手段を取ったのかよく分かる。

 だけど、その無謀な選択の先に夢見た景色があるのだから、人生とは分からないものである。


「一番の変わり者は私かもしれないけど、舞台女優として相応しいのはあの二人なのよ。普段はとてもそうは見えないのに、練習では凄い歌と踊りができている。私はいっぱい練習しても、ついていくのがやっとなのに……」


 ブラウの不安の根底にあるのは、劇場デビューといった未知の経験ではない。

 同じような立場のはずなのに、すいすいと先を進んでいく仲間に焦っているのだ。


 ……悲しいことに、誰よりもアイドルに憧れ、誰よりも頑張っている少女の才能は、凡庸であった。

 

「やっぱり私は、舞台女優に相応しくないのかな」

「…………」


「歌の才能も、踊りの才能も、何も持っていない私なんかじゃ……」

「――――俺が持っとるんじゃーーーい!」


 真面目に落ち込んでいたブラウは、不真面目なツッコミを受けてビックリした。


「えっ、な、なにがっ!?」

「だから、イモ子が持ってなくとも、俺が持ってるから問題ないと説得しているのだよ」


「……お、お兄ちゃんが才能を持ってたとしても、私には関係ないじゃないっ」

「おや、言われてみればその通りだな。おかしいな、この場面にピッタリな格好いい決め台詞のはずなのに」


 確固たる意志を持たず、漫画やアニメなどの創作物から言葉を借りてばかりの男は、慰め方も下手であった。


「もうっ、慰めるつもりがないなら出ていってよっ」

「うむ、その口調は本当の妹っぽくて大変素晴らしい。よしよし、では俺も本気で慰めの言葉を考えるとしよう。えーとえーと…………」


「……どうせ私は、考えてもすぐには思いつかないくらい才能が無い子ですよーだっ」

「うむ、その拗ね方も妹っぽくて大変素晴らしい。もう本物の妹と比べても遜色ないぞ」


「そんな褒め方されても全然嬉しくないっ」

「はははっ」


 男が言うように、傍から見た二人は仲が良い関係に見えた。

 ただ、年齢差が大きかったため、兄妹というよりも親子関係にしか見えなかったが。

 村から出て間もない少女はまだ純粋であったが、意図せずとも直感的に男を利用するしたたかさが備わっていた。

 妹に似ているらしい自分が妹っぽく振る舞えば男が喜び、その結果、自分にも恩恵が返ってくる。

 人の社会で円滑に過ごす一般的なコミュニケーションではあったが、単純な男を味方にする手練手管はアイドルとしての素質の表れだったのかもしれない。


「そう自分を卑下するんじゃない。アイドルに必要な素質っていうのは、何も歌と踊りが全てじゃない」

「だったら、他に何があるの?」


「うーん、やっぱり顔、かな?」

「……見た目だって私、あの二人に負けてるし。村育ちだから、垢抜けてないし」


「大丈夫大丈夫、クラスで一番の可愛さじゃなくても二番や三番だって輝けるって、秋元先生が言ってたから!」

「誰よ、アキモトセンセイって?」


「むろん、アイドルの創造神だ」

「…………」


 いい加減な男の性格にいい加減慣れてきたブラウは、項垂れただけでそれ以上聞き返さなかった。



「どう考えても、私があの二人に勝てるものなんて無いじゃないっ」

「だとしても、どこぞのグループと違って48人も居ないんだから、内輪で競って意味ないぞ」


「やっぱりお兄ちゃんも、私が一番ダメな子だって思ってるじゃないっ」

「……否定しても納得せず、同調しても怒られるって、どないせいちゅうねん」


 結婚せず、恋人も作れない男には、少女の繊細な気持ちなんて分かるはずもなかった。


「まあまあ、少し落ち着こう。シンガーならともかく、アイドルグループってのはそう簡単じゃない。考えてみろ、もしこのグループにイモ子が居なかったらどうなっていると思う?」

「…………」


 自称兄に諭された似非妹は、不満げに口を尖らせながらその様子を想像してみる。

 歌っている最中以外は、人前でまともに振る舞えないフラーウム。

 抜群のダンス力と歌もそつなくこなすが、やる気と協調性に欠けるロート。

 深く考えるまでもなく、グループとして成立するとは思えない。

 それに、ソロでもやっていけるか怪しい。


「ほら、よーく分かっただろう。芸達者な奴らは、良く言えば突出した個性の持ち主、悪く言えば社会に馴染めない不適合者だ」

「…………」


「そんな暴れ馬をまとめて劇として成立させるためには、一般的な感性を持つリーダーが必要だ」

「……なんの取り柄も無い私が、そのリーダーの役目をやれってことなの?」


「才能があって、更にまともな人格者だったら、それが一番リーダーに相応しいのだろう。だけど、突出した才能を持つ者は、他の者を客観的に見ることができない。だから、一歩引いたところから皆をまとめる者が必要なのさ」

「才能が無いからこそできるって、あまり嬉しくはないけど…………。でも、舞台の上で認められるためには、それも大事なことかもね」


「そうそう、個々では輝けなくとも皆と一緒なら大成できる。一つじゃ駄目でも三つ集まれば、良い知恵が浮かぶし、折れないし、成功するのだ。もはやトリ・コロールの成否は、イモ子の手にかかっていると言っても過言ではないぞ」

「……そんなに褒めても、『お兄ちゃん』って呼ぶ以上はしないからね?」


「それで十分。都合が良い時ばかり頼られ、金と時間を使ってサポートし、そして報われないのが兄としての正しい姿だからな」

「…………」


 明らかに間違った兄妹関係だったが、ブラウは指摘しなかった。

 そう思わせておいた方が自分にとって都合が良いからだ。


 降って湧いたチャンス。

 世間知らずの小娘にも、またとない好機だと分かる。

 これを逃さないためには、中年男の変態趣味に付き合うのも苦にならない。

 アイドルは、下積みが大切なのだ。




 ◇ ◇ ◇




「「「ありがとうございました!!!」」」


 レッスンが終わり、指導してくれた先輩アイドルに対して、新人アイドルは頭を下げて礼を言った。


「うん、お疲れさま。今日もよく頑張ったね」

「段々良くなってきている。でも、まだまだ練習しないとダメだよ」


 姉のルーネは、しっかり者なのに、案外甘い。

 妹のティーネは、大人しいのに、案外厳しい。

 コン・トラストことネネ姉妹による飴と鞭の指導のもと、トリ・コロールの三人娘は順調に成長している。


 ……不本意ながらリーダーを仰せつかったブラウは、前々から気になっていた疑問を聞いてみることにした。


「あのっ、先輩方はおにい……、じゃなくてプロデューサーとどんな関係なんですか?」


 自分は、彼女達に憧れ、村を飛び出し、妹に似ているという理由で偶々気に入られただけ。

 きっかけを作ってくれたコン・トラストの二人について知りたいが故の質問だったが……。


「あたいらはね、旦那の愛人なんだよっ」

「そうですっ、お姉ちゃんとわたしは旦那様の愛人なんですっ」


 返ってきたのは、予想だにしない答えだった。

 堂々と胸を張って答える先輩を見て、ブラウは憧れの舞台女優の姿がガラガラと壊れていく音を聞いた。


「そ、そうだったんですか……。有名になるためには、やっぱり体を売らないとダメなんですね…………」


 手は出さないと言っていたのに、怪しい男を信じた自分が馬鹿だったとブラウは後悔したのだが。


「それは違うよ、あたいらは舞台の上で歌うために愛人になったわけじゃないよ」

「そうですっ、お姉ちゃんとわたしは愛人であるために歌っているんです」

「……え?」


 そう説明されても、要領を得ない。


「その、先か後かの違いだけで、けっきょく愛人だからこその話じゃないんですか?」

「いいや、違うね。あたいらがお願いして愛人になった時は歌なんて考えもしなかったし、旦那も望んでなかったからね」

「そうですっ、お姉ちゃんとわたしは旦那様に飽きられないために歌っているんです!」


 つまり、現在の立場は愛人として望んだ結果であり、かの男はそれに付き合っているに過ぎないということ。


「その、今の話を聞くと、プロデューサーにはメリットがあるんでしょうか?」

「あー、それは耳が痛い話だねぇ」

「……旦那様の手を煩わせているだけかもしれません」


「あっ、す、すみませんっ、余計なこと言っちゃいましたっ」

「いいんだよ、それが事実だしね。結局いつまで経っても、あたいらは旦那に甘えてばかりさ」

「旦那様はお姉ちゃんとわたしが愛人だから、甘やかしてくれるんです。……だから、愛人じゃなくても親身にされているあなたたちが少し羨ましいです」


「「「…………」」」


 お菓子とジュースに釣られ、成り行きで舞台に上げられたロートには、理解できない。

 親に捨てられ、イライザに拾われ、男に連れてこられたフラーウムには、少しだけ理解できる。

 そして、妹に似ているという理由だけで優遇されているブラウには、痛いほど理解できた。


 愛人を主張する姉妹を惑わせ、新たに三人の少女を巻き込んで、男は何をしたいのだろうか?

 本当にただ頼まれたからやっているだけなのだろうか?

 けっして安くない資金と長い時間を投じてまで――――。


「旦那は言ったよ、いつまでも愛人じゃ居られないって。だから、その時まで、精々稼いでおけって」

「きっと、舞台で歌うのも同じなんです。そう長い時間、夢の中に居られるわけないから」


 ああ、そうか……。

 と、ブラウは納得する。

 ふざけた態度はともかく、出会った時から、男は好意的だった。

 奴隷から解放し、仲間を元の村へと戻し、自分には望んでいた立場を与えてくれた。

 なのに、男を信用することはできなかった。

 それはきっと、こんな男の性質を感じ取っていたから。


 男にとって、何もかもが、さして重要ではないのだろう。

 だからこそ、愛人という契約や肉親に似ているなどと理由を付けて、自ら優先度を区分しているのだろう。

 指針が無い心を、無理やり型にはめ、方向性を定めようとしている。

 その方が、ヒトらしいから……。


 でも、仮初めの優先度だから、いつまで続くのか分からない。

 ちょっとしたことで壊れたり、本当に大切なモノが見つかったりすれば、あっさり切り捨ててしまう。

 そんな作られた理性こそが、男の危うさ。

  

「でも、あたいらは諦めないよっ。旦那に見放されないために歌っているんだからねっ!」

「そうですっ、旦那様が本当に愛する人に、いつかきっとなってみせますっ!」


 だけど、男に振り回されているだけだとしても、関係ない。

 誰しもが生まれ持った性別に、能力に、環境に振り回されて生きているのだから。

 それが今更一つ増えたくらいで、気にしても仕方ない。

 要は、その中で、自分がどう思い、どうしていくかが、大事。


「――――私も頑張りますっ。お兄ちゃんが頭を下げてプロデューサーを続けさせてくれって言ってくるような、立派な舞台女優になってみせます!!」

     



 かくして、奇妙な理由でやる気を出した者がまた一人。

 本人には朧気なやる気や目的しかないのに、相反するように周りの者は奮い立つ。

 寝たまま活発化させる様は神のようであり、動いて引っかき回す様は悪魔のようでもある。


 ……だが、神と悪魔を同時に宿すモノが居るとしたら、それこそヒトしかありえないだろう。




 ◇ ◇ ◇




 深夜の真っ黒な劇場。

 客席の真ん中に座り。

 男は虚空を見つめる。


「うーむ、どうしてこうなったのやら……」


 近頃、王都の劇場を賑わしている自称プロデューサーは、将来を憂いていた。

 

「妹に似ている少女の登場に興奮して、ついついプロデューサー業に熱が入ってしまったんだよなぁ」


 男の血液型は、O型。

 男の故郷には、血液型占いという科学的な分類法に基づく非科学的な分類法が存在する。

 この占いによると――――。


 O型は、熱くなりやすい。


「しかも、イモ子を含めて三人も……」


 O型は、頼まれたら断れない。


「いつまでもネネ姉妹とアイドルごっこしてられないよなぁ、と思っていたら、何故か別のグループを作っていたんだよなぁ……」


 O型は、大雑把。


「そもそもプロデューサーを引退するのなら、アイドルの替わりじゃなくて、俺の替わりを見つけなきゃいけないんだよなぁ」


 O型は、うっかり屋さん。


「これでまたしばらくは、引退できなそうだなぁ」


 O型は、変なところで几帳面。


「でもなぁ……」


 O型は、面倒くさがり。


「はぁぁぁ………………」


 O型は、熱しやすく、冷めやすい。




 男は、異なる世界で。


 道楽を求め。

 道楽を見つけ。

 道楽を堪能し。

 道楽に慣れ。


 そして――――。


 道楽に、飽きはじめていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] そんなO型の人達が居るから世の中、回ってる んです。O型が居なかったら人類なんて、とっくに滅びてますよね(笑)
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