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無職と冒険者の付き合い方 3/3




 中年男には、孤独がよく似合う。


 街中を歩く時は、ひっそりと道の端っこを通り。

 娼館へ赴く時は、人気が少なくなる深夜を狙い。

 飯を食べる時は、カウンターの隅に座り、誰とも会話せず、孤独のグルメを楽しむ。


 それが、おっさん。

 少し前の、俺の姿。

 だったのに……。


「ほらほらっ、オッサン、今日も勝負だっ」

「今日はぁ絶対に負けなぁいわぁ~」


 古びた居酒屋で不味い酒を飲む俺の目の前には、赤い髪の女性二人が座っている。

 あの一件以来、オクサードの街で食事する俺を見つけては、勝負を挑んでくる者達。

 最近すっかり飲み友達になってしまったレティア姐さんとミスティナお姉様である。


「あんたらも懲りないな。一緒に飲むのは良いが、暴れるのだけは勘弁してくれよ」


 既に酔いが回っている俺は、この勝負を承諾。

 男として、若い女性から挑まれた勝負を断る訳にはいかない。

 たとえそれが、俺に何の得が無い勝負だとしてもだ。


「酒だけじゃなくて、飯もちゃんと食べておいた方が良いぞ」


 飯を食わず、酒だけを飲むのは体に悪い。

 沖縄では宴会する際に、まず自宅で食事を済ませ、その後に会場へと行くらしい。

 それもどうかと思うが、沖縄での飲み会はそれ程までに過酷なのだろう。


「今日こそオッサンに勝って、あたしの命令に従わせるからなっ」

「んふふっ、今日こそオールナイトで楽しむわぁ~」


 女性陣も酔いが回ってきたようだ。

 勝負の方法は、単純。

 最後まで酔い潰れなかった者の勝ち。

 勝者の権利も、単純。

 敗者に何でも言うことを聞かされる。


 意気込んで何度も勝負を挑んでくるからには、俺に頼みたいことがあるのだろう。

 ぶっちゃけ勝負なんかしなくても若くて美しい女性の頼みなら、何でも聞いてしまうのがおっさんという生き物。

 だが、この二人はちょっと例外で、飢えた獣のようにガツガツして怖いから、負けないよう頑張っている。

 高レベルで強化された俺の肉体は、意識すればアルコールの消化を早められるので問題ない。


「何でオッサンは、こんなに酒がつえーんだよー」

「わぁたぁし達も相当強い方なぁのにねぇ~」

「ふははっ、おっさんの中年腹を舐めるなよ。このぽっこりしたお腹は、無限の酒を貯蔵するためにあるんだぜ」


 名付けて、アンリミテッド・アルコールワークスである。


 そんな訳でいつも俺が勝っているのだが、彼女達にやってもらいたい事も無いので保留する格好になっている。

 負けたら損、勝っても何も無いのだから、俺にとっての利益は皆無。

 だとしても、こんな風に若い女性と酒を飲み交わす時間は、とても貴重だ。

 特にこの二人は悪友みたいな感じだから気兼ねなく話せる。

 まさかこの年になって、異性の飲み友達ができるとは思っていなかった。

 見栄を張った言い方をすれば、恋人を作るよりも、結婚するよりも、女友達を作る方が難しいのだ。


 あまり女を感じさせない相手と、くだらない話をしつつ酒を飲み、最後まで友達感覚のままベッドイン。

 お互い恋愛感情は無いのだが、他に相手が居ないし生理現象だから仕方ないよなー、みたいな気軽さで。

 翌朝、ほんの少し気恥ずかしいものの、特に関係が変わる訳でもなく。

 それが、ずっと続いていく。


 いい。

 これ、すごくいい。

 女性には理解できないかも知れないが、男にとっては憧れるシチュエーションである。


「だいたいよぉ、オッサンはいっつも勝ってるのに、何であたしらに命令しないんだよぉ?」

「そうよそうよ~、女としての自信がぁなぁくなぁちゃうわぁ~」


 俺だってなあ、本当はもっと大人の関係も楽しみたいんだよ。

 でも、拠点にしている街で特定の女性と深い関係になると、住みにくくなるのは目に見えている。

 それでなくとも、お嬢様やメイドさんとの風評被害に晒されているのに、これ以上は致命傷になりかねない。

 オクサードの街以外だったら、とっくにがっつりしっぽりしていただろうに。


「自由に生きるためには、自由を犠牲にしなくちゃいけない時もあるのさ」


 自由な力と身分と時間を手に入れてなお、真の自由にはほど遠い。

 だけど、そんな不自由さも悪くないと感じる。

 余裕が生まれてきた証拠かもしれないな。



「――――そういえばオッサンさぁ、ビビララの姐さんと弟さんに、すげー技を教えたそうじゃねーか?」  


 勝負も終盤にさしかかり、そろそろ彼女達が酔い潰れるだろうなーと思っていた頃、不意に尋ねられた。

  

「もしかしてプロレス技――――素手の格闘術のことを言っているのか?」

「ええそうよ~、魔法や武器がぁ通じなぁい魔物にも有利に戦えるようになったって喜んでいたぁわぁ~」


 へー、さすがは身体能力に優れた巨人族だな。

 あんな一方的に技をかけるだけの適当な教え方で、よく習得できたものだ。

 そうなると、魔物相手にドロップキックやジャーマンスープレックスを食らわしているのだろうか。

 巨人族と魔物、どちらも巨体で火を噴いたりするから、怪獣大乱闘みたいに大迫力の見世物だろう。


「あれは物のついでの出来事だから、教えると言うほど大したもんじゃないぞ」

「だったらその程度でもいーからさぁ、あたしらにも何か教えてくれよ、オッサン」

「研修の時も手慣れていたぁし、旅先で珍しい戦い方とかぁ知ってそうだぁわぁ」


 男へのおねだりが仕事関連とは、色気に欠ける話である。

 高級品の服やバッグを買ってくれとお願いされる方が承諾しやすいのに。

 まあ、この世界にとって新参者の俺が得ている程度の知識なら伝えても問題ないだろう。

 どうせ、他に気の利いた話題なんて持っていないしな。


「そうだなぁ……。最初に一つ聞いておきたいのだが、魔物を他のモノで例えるとしたらどう表現する?」

「それだと、狼みたいな牙を持つ獣が更に凶暴化しちまった感じだろーな」


「やはり、普通はそう感じるのか。だが、俺が思うに、魔物と獣とは全く別物だ」

「……どうしてそう思うのかぁしらぁ?」


「先日、巨人族の姉弟が言っていたように、魔物って奴はランクが高いほど特殊な耐性を持つようになる」

「それが当たり前だよなー」


「そう、成長すれば耐性が増すのが普通だ。魔族に劣る人類も、レベルアップする度に少しずつ頑丈になっていく」

「ええ、そうよね~」


「成長に合わせ弱点が無くなっていくのは、生物が持つありきたりな特性といえる。だけど、魔物はそうじゃない。上位ランクの魔物は特定の攻撃に対し強固な耐性を持つが、それ以外は下位ランクと大差ない。むしろ、部分的な強化と釣り合いを取るかのように、弱点もまた露骨になっている」

「……そう言われてみれば、そんな感じもするけどさー」


「それが、営みの中で生まれ血が通っている生物と、無機質な魔法で創られ意思を持たない魔物との大きな違い。魔物はどれほど強さが増しても、致命的な弱点を内包している。これが、どういった事実を指し示すのか分かるか?」

「「…………」」


「つまり、魔物は、人類に倒されるために、存在しているのさ」

「「――――」」


 ほろ酔い気分で興が乗った俺は、したり顔でもっともらしく語る。

 そんな似非教師を、二人の生徒が驚いた顔で見ている。

 変わった話をして人を驚かせるのって楽しいよなー。

 

 正直なところ、何の根拠も無い仮定の話。

 ゲームに登場するモンスターの特性と似ているため思いついただけの推論。

 若い娘さんに偉そうに語りたいおっさんが捻り出した意外性だけが売りの法螺話。


「少し話がそれてしまったな。要するに俺が言いたいのは、どんな魔物にも弱点があるから、まずそこを探して攻撃した方が効率的だって話だ」


 至極当然の事実をこれだけ大げさに語れるのだから、案外俺には詐欺師の才能があるのかもしれない。

  

「……なぁるほどね~、とっても勉強になぁるお話だったぁわぁ~」

「そうかー? あたしにはよく分からなかったぜ」


 どちらも好戦的な戦士タイプだが、ミスティナお姉様の方が比較的慎重派だ。

 暴走気味なレティア姐さんを上手くコントロールするために、今回の話が役立てばいいのだが。



「なあなあ、オッサンよー、あたしにはもっと簡単で分かりやすいネタをくれよなー」


 レティア姐さんは理解できなかった自分だけが損したと思ったらしく、身を乗り出して催促してくる。

 酔っ払っているせいもあるだろうが、まるで駄々っ子だ。

 赤い頭をなでなでしたい。


「曖昧に聞かれても返答が難しい。具体的にどんな情報がお望みだ?」

「そりゃーやっぱ、あたしの強さが増す方法だよ」


「……レベルを上げたり、スキルを鍛えればいいだろう?」

「だーかーらー、そんな当たり前の話じゃなくってさー」


 我が儘な若い女に振り回される中年男。

 正直、悪くない。


「手っ取り早く攻撃力を上げる方法なら、一応あるにはあるぞ」

「えっ、本当かよオッサン。自分で聞いといてあれだが、ビックリだぜ」


「そんな大層なネタじゃないが……。先ほどの話の続きで、魔物の特異性に関連するネタだ」

「耐性やぁ弱点以外にも、何かぁあるのかぁしらぁ?」


「言うなれば、魔物共通の弱点だろう。魔物が受けるダメージ量の変動要因は、魔法とパワーと技能以外にもう一つあるんだよ」

「何だよそれっ、初耳だぞっ!?」


 あれ、そうなのか。

 割とポピュラーな話だと思っていたのだが。

 初耳学に認定されちゃうのか。


「なあなあっ、早く教えてくれよ、オッサンっ」

「わぁたぁしもすっごく聞きたぁいわぁ」

「はははっ、まてまて、慌てない慌てない」


 目の色を変えた二人が、俺の両脇へと移動してきて、鍛え上げた肉体を押しつけてねだってくる。

 あー、気分いいなー。

 キャバクラで大袈裟に驚いてくれるおねえちゃん達みたいに楽しいよなー。


「実は――――」

「「…………」」


「魔物が――――」

「「…………」」


「――――」

「「…………」」


 最後に一拍置いて、と。


「――――実は、魔物が受けるダメージ量には、技の派手さや格好良さといった芸術点も加味されるんだっ!!」


 散々もったいぶった俺は、MMRのリーダーのキバヤシ編集者にも負けない迫力で告げた。


「…………あれ?」

   

 おかしいぞ。

「な、なんだってー!?」と驚く声が聞こえてこない。

 不安になって、両脇に居る彼女達の顔を窺うと……。


「なに言ってんだよ、オッサン。頭、大丈夫か?」

「酔いがぁ回ってしまったぁのね。わぁたぁしがぁ介護するかぁらぁ、もう寝ちゃったぁ方が良いわぁよ~」


 どうしてか心配されているっ?

 もしかして、頭がおかしい奴だと思われているのかっ!?


「いやいや、俺は至って正常だぞ」

「ならさぁー、さっきオッサンが言った芸術点とやらも本気なのかよー?」


「そうそうマジだって、マジ卍だって!」

「でも~、さぁすがぁにそれはぁどうかぁしらぁ~」


 だめだ、全く信じられていない。

 そりゃあ、ちょっと突拍子がなかったかもしれないが、ゲームや漫画の中だと普通なのに。

 先ほどまでは尊敬されて鼻たーかだっかーっだったのに、嘘つきおっさんに早変わりしてしまった。


「信じてくれっ! ちゃんと鑑定アイテムで魔物の体力量を確認しながら実験した結果だから、間違いないはずだっ!」


 おっさんギャグを馬鹿にされるのはむしろご褒美だが、ガチの嘘つき呼ばわりはキツい。

 どうにか弁明せねばっ。


「…………」

「…………」


 駄目なおっさんに向けられる苦笑いと慈しみの微笑みが、俺を追い詰める。

 珍しくまともなアドバイスをしようとしたら、これだよ。

 きっとオオカミ少年もこんな気持ちで死んでいったのだろうな。

 死んだのは羊だけどさ。

 憐れな子羊に愛の手を!


「――――ははっ、はははっ! そこまで疑われては仕方ないっ。これまでの酒飲み勝負で溜め込んだ勝者の権利、ここで使わせてもらうぞっ!!」


「お、おっさん?」

「グ、グリンさぁん?」


 突然の宣言に、二人が戸惑っている。

 だけど、嘘つき呼ばわりされた怒りと、酔った勢いで調子に乗っている俺はもう止まらない。

 若く美しい女優に、技の練習という名目に、飲み場という格好の舞台。

 ここには全てが揃っている。


 さあ、お遊戯会の始まりだ!




「も、もう勘弁してくれよ、オッサン……」

「こ、これはぁさぁすがぁに、恥ずかぁしいわぁ……」


「これは勝者の権利にして敗者への罰だっ。泣き言は聞き入れんぞっ!」


 飲み屋のテーブルの上――――お立ち台の上で、恥ずかしそうに腰を振る二人に活を入れる。

 そんなんじゃ、立派な女優になれないぞ。


「ほらっ、もっと腰を入れて、真面目な顔で決め台詞を叫ぶんだっ。そんな体たらくじゃランク1の魔物だって倒せんぞっ!」


「く、くそっ……、しょ、衝撃のファイヤーブレイドォォォ!」

「も、燃えちゃぁいなぁさぁいっ、フレイムバスターァァァ!」


「もっとだっ、もっと格調高くぅぅぅっ」


 過剰に腰を振ってセクシーアピールをかまし、無駄に回転しながら派手な技を繰り出す女冒険者が二人。

 さながら、ポールダンスを披露する芸者のようだ。

 酔っ払いの中年男が集まる飲み屋で、これ以上の見世物はないだろう。


「いいぞー、愉快なネーチャンたちー、もっと腰を振れ-」

「踊れ踊れー、踊りまくれやー」

「うははっ、燃やせ燃やせっ、こんなちんけな店なんて燃やしてしまえー」


 赤髪の舞妓が舞う舞台の周りには、いつの間にか人だかりができていた。

 称賛や拍手と共に金銭が投げ込まれているから、本物の芸者と思われているのだろう。

 演舞ならぬ演武なのだが、過剰に演出された技はギャグにしか見えない。

 踊る阿呆に見る阿呆。

 芸術点を見込んだ技の練習をしつつ、小銭も稼げるのだから一石二鳥である。


「な、なあオッサンよぉ。無駄な動きが多い技はともかく、技の名前まで叫ぶ必要はねーよなー?」

「だめだめっ。魔物へのダメージは、技の形と名前のマッチングで左右される。技名もただ言葉にするんじゃなくて、魂を込めて叫ばないと威力が半減するぞっ!」


「で、でも~、こんなぁ馬鹿っぽい技がぁ、魔物に効くとはぁとても思えなぁいわぁ~?」

「疑問に思ったら負けだっ。たとえ自分を魔法少女だと信じているただの馬鹿だとしても、信じ込んだ奴が強いんだっ」


 馬鹿っぽくでなく馬鹿になりきれば無敵である。

 真剣に馬鹿をやれる本気の馬鹿が最後には勝つ。

 レティア嬢とミスティナ嬢の二人はやや年を食っているが、実際に魔法を使えるのだから魔法少女に違いない。

 そして、見映えする必殺技が最も似合うのは、魔法少女。

 強くなるためには、本物の魔法少女になるしかない!


「「「ええぞーええぞー、はよ服を脱げ-っ」」」


 赤い顔の酔っ払いが囃し立てる中心で。

 赤い髪で赤色の武器と炎を振り回す二人は実に映える。

 これは高い芸術点が期待できそうだ。


「こうなりゃヤケだっ。撃滅のヴォルケイノーインパクトォォォッツ!!」

「んふふっ、ちょっと楽しくなぁってきたぁわぁ~。燃やぁし尽くしなぁさぁいっ、クラーテルスマッシャーァァァッツ!!」



 狂乱の宴は、夜通し続けられた。

 こうしてまた、出入り禁止の店が増えたのは、言うまでもないだろう。


 しかし、モノは考えよう。

 この調子で全ての居酒屋で出禁なれば、面倒な飲み会に参加できなくなる。

 はははっ。

 うれしいなぁ……。






◆ ◆ ◆






―――― 数日後 ――――






「……なぁ、どんな感じだよ、ミスティナ?」

「……あらぁ、わぁたぁしに聞かぁなぁくても、自分で分かぁるでしょう、レティア?」


 冒険者の街オクサードの近くにある森の中で、二人の女性が言葉を交わしていた。

 特徴的な赤い髪と血気盛んな性格から「赤獅子」と呼ばれる二人組の冒険者だ。

 彼女達の前には、魔物の成れの果てであるアイテムが転がっている。

 

「あのオッサンの言うことだから念のためやってみたけどさー、まさかここまでとはなぁー」

「魔物って本当に不思議よね~。グリンさぁんがぁ獣とはぁ違うと言ってたぁ意味がぁよーく分かったぁわぁ~」


 赤獅子は、先日飲み屋で中年の男から無理矢理体に覚えさせられた技を試していた。

 恥ずかしい技名を高らかに叫びながら、大袈裟な動きで攻撃を仕掛ける。

 意味など無いはずの言動なのに。

 これまでと明らかに違う手応えに戸惑っているのだ。


「やっぱ強い男は、考えることも常人とは違うよなー。さすがはあたしが見込んだ強い男だぜ」

「あらぁ、こんなぁにも奇抜なぁ技を見つけてしまぁうのはぁ、駄目なぁ男に決まってるわぁ~」


 男の魅力を再確認し、笑みを浮かべる二人。

 その獰猛な笑顔は、お互いに向けられていた。



「それはそうとしてさー、オッサンから教わったもう一つの方はどうなんだよ、ミスティナ?」

「グリンさぁんが指摘したぁように、弱点ありきで魔物を観察すると気づく点がぁ多いわぁ。本当に弱点がぁ無い魔物はぁ居なぁいのかぁもね~」


「それなら、あたしら二人でも上位ランクの魔物とも戦えるようになりそーだなっ」

「……でも、どんなぁ魔物にも弱点がぁ有る理由についてはぁ、とっても難しい問題だぁわぁ。わぁたぁし達のようなぁ冒険者がぁ深く考えても仕方なぁいでしょうね」


「魔物と一番戦っている冒険者が駄目なら、いったい誰が考える問題なんだよー?」

「わぁたぁしにはぁ、思いつかぁなぁいわぁ~」


「ならさー、それに気づいたオッサンが考えるべきなんじゃねーのか」

「……ええ、そうかぁもしれなぁいわね」


 何事にも囚われず、好き勝手に生きているように見える男。

 その実、本人も気づいていないシガラミがあるのかもしれない。


「難しい問題はオッサンに任せるとして、冒険者なら誰もが欲しがる決め技が、やり方を変えるだけで手に入るとは思ってなかったよなー」

「そうよね、こんなぁ工夫で技の威力がぁアップするなぁんて驚きだぁわぁ~」


「だけどよー、動きが派手すぎる分スキが多いし、使いどころに気をつけないとなー」

「それに、やっぱぁり恥ずかぁしいかぁらぁ、人前ではぁ使いにくいわぁ。話しても信じてもらえなぁいだぁろうし~」



 冒険者でもなければ働いてさえいない無職の男から受けたアドバイスをもとに。

 赤獅子は、魔物の特性を知り、新たな力を手に入れた。


 しかし。

 赤獅子はたった二人のパーティーであり。

 その性格から、同性はおろか、異性からも避けられる厄介者であり。

 さらに、技の恥ずかしさから、要所でしか使用せず、自ら話題にする機会も無かったこともあり。

 魔物に対する芸術点の有効性は、一般に広まらなかった。


 ただ……。

 森の中で、赤い髪を狂ったように振り回しながら、奇声を上げつつ奇っ怪な技を繰り広げる姿を偶然目撃した同業者から噂が広がり。

「悪魔憑きの赤い女」「踊り狂いの赤獅子」「赤獅子舞」などと呼ばれるようになった二人は、これまで以上に避けられるようになって。


 その反動から、これまで以上に中年男に絡むようになるのだが――――――それはまた、別のお話。





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