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VS.新人メイドと巨人族の姉弟 1/5




 ――――エレ姉様の様子がおかしい。


 冒険者の街オクサードを統べる領主家の新人メイドがそう感じ始めたのは、襲撃事件が起きた少し後からであった。


 新人メイド――――シュモレは、まだ16歳になったばかり。

 成長過程にある体は小柄であり、実年齢よりも歳下に見られる。

 金色の髪を赤いリボンを使って両耳の上側で結わえ、くるくる巻きにして胸元まで垂らした愛らしい姿も子供っぽく見られる要因だろう。

 メイド服を纏い、全体的に庇護欲をそそる外見なのだが、顔つきは少し違った雰囲気がある。

 怖いくらいにぱっちりと開かれた瞳と、感情が伝わりにくい小さな口が相まって、じっと無表情に見上げている印象を受ける。


 そんな少女が抱いた違和感は、最初は小さなものだった。

 だけど、段々と大きくなってゆき、ある日、決定的なものになったのだ。


 ……その夜、王都から帰還途中の領主が襲撃された一報は、オクサードの街全体を震撼させた。

 何よりもエレレを崇拝しているシュモレは、真っ先に飛び出しそうになったがギリギリのところで思い留まる。

 領主の留守を守るのは、エレレの後任として期待されているシュモレの任務。

 そしてエレレから直々に頼まれた約束事。

 断じて反故になどできなかった。


(エレ姉様なら、どんな敵にも負けない!)


 信頼を通り越したそれは、もはや妄信に近い。

 強くて聡明で、しかも美しいエレレが死ぬわけがないと……。

 シュモレは信じて疑わなかった。


 そして、彼女の予想通り、領主一行は翌日に帰ってきた。

 エレレは重傷を負うどころか、かすり傷一つ付けていない。

 それどころかメイド服まで新調しており、そのポケットの中にはたくさんのお菓子が入っている。

 シュモレは、襲撃の知らせが誤報だったのではと疑ったほどだ。


(おかしい…………)


 理由はともあれ、無事でいてくれればそれに越したことはない。

 だけど、その日から、エレレの変化は顕著になった。

 どう表現すべきかシュモレには分からなかったが、動きに張りが出たのだ。

 そればかりか、肌の艶まで出てきたように感じる。

 憧れの存在がますます美しくなっていく様子を見て、シュモレは複雑な思いに駆られたものだ。


 エレレは魅力を増すのと同時に、ぼーっとする場面も多くなった。

 思いついたように立ち止まっては、左手の甲を凝視している。

 大抵の者は分からなかったが、シュモレには微笑んでいる様子が読み取れた。


「エレ姉様、最近何かあったのですか?」

「……いいえ、何もありませんよ」


 直接問い掛けても、明確な答えは返ってこない。

 もしかして、自分の変化に気づいていないのかもしれない。


 シュモレは仕方なく、いつもエレレを引っ張り回して迷惑ばかりかけている女――――ソマリに嫌々尋ねたところ、衝撃的な答えが返ってきた。


「あら、シュモレには分からないのね? うふふっ、女が変わる理由なんて、一つしかないでしょう?」


 自分よりたった一つ年上で、自分と同じくらい色恋沙汰に興味がなかったはずのソマリに、したり顔で諭されたシュモレは激高しながらもその言葉に混乱してしまう。

 

(まさか男がっ!? あの完全無欠で男なんかに頼る必要がないエレ姉様にっ!?)


 そんなことはありえない。

 あるはずがない。

 エレレのような完璧超人に釣り合う男なんて居るはずがないのだ。

 だから何かの間違いに違いない。

 思い込みの激しいソマリがいつものように勘違いしているに違いないはず。


(だけど…………)


 今までにないエレレの変化を説明するには、やはり今までにない出来事が起きたと考えざるを得ない。

 それは何かと問われたら、今まで噂さえ立たなかった「男」という回答が最も当て嵌まるのも確か。

 実際にエレレの一つ一つの変化を「男」と絡めて考えてみれば、答えは明白だった。


(最近のエレ姉様の変化……。外出が多くなったこと。よくプレゼントをもらってくること。ちょっと太ったこと。頻繁にオジョーサマと密談していること。同僚の結婚話を聞いてもあまりイライラしなくなったこと…………)


 考えれば考えるほど、答えは一つしかない。

 エレレに相応しい男が居るとは到底思えず、実際に今までそんな相手は現れていないが、いつまでもそうだとは限らない。

 あまり認めたくはないが、エレレ本人は恋人関係に憧れを持っており、結婚願望があるのも事実。

 エレレが寿退社した後に、ソマリを護る戦闘メイドの後任として自分を育成しているのがその証拠。


(――――まだっ、まだ決まってはいないっ)


 そこまで情況証拠が揃っていながらも諦めきれないシュモレは、エレレに関する噂を集め出す。

 間違いであってほしいと祈るように、屋敷内の従業員や外出した際に聞き回ったところ――――恐れていた結果が出てしまった。


(信じられないけど、エレ姉様の男に関する噂が確かにある……。しかも、付き纏われているのではなく、男に弄ばれているなんてトンデモない噂が…………。それに、これはどうでもいいけど、オジョーサマまで同じ男に誑かされている。本当にどうでもいいけど)


 エレレの変化。

 ソマリの意味深な言葉。

 さらに噂までも揃ってしまったのだから、どんなに信じられなくても目を背け続ける訳にはいかない。


(こうなったら、もう――――)


 この目で直接確かめるしかない、とシュモレは強く決心した。




 ◇ ◇ ◇




「――――エレ姉様、本日の外出には、シュモレの同伴も許可してほしいのです」


 その日、ソマリと一緒に出掛ける準備をしていたエレレに向かって、シュモレは勢いよく頭を下げてお願いした。


「……シュモレも一緒に、ですか?」

「護衛の資格を得る最低条件にされているレベル20に、昨日到達しました。これでシュモレも、オジョーサマの護衛として役立つはずですっ」


 ここ数ヶ月、エレレと同じ立場になるため必死にレベル上げを頑張ってきたシュモレは、まず正論から交渉を始める。


「確かにそれだけのレベルがあれば、少なくとも足手まといにはならないでしょうが…………」


 そう認めつつも、何かを心配するかのように、エレレは首を縦に振ってくれない。

 それならばと、シュモレはもう一つのカードを切る。

 使用した者が傷つくため、出来れば使いたくなかったカードを。


「エレ姉様は、ご自分の任務であるオジョーサマの護衛の後任に、シュモレを考えてくださっているのですよね?」

「……ええ、そうです」


「それでしたら、シュモレを護衛任務に早く慣れさせておけば、エレ姉様が、その……、きゅ、急に寿退社される事態になっても問題が少ないと思うですっ」

「――――シュモレの言い分はもっともです。あらゆる事態に備えておくのがメイドとしての務め。……分かりました、同伴を許可します」


「ありがとうございますっ、エレ姉様っ」

「しっかりと護衛の何たるかを学び、早く一人前になるのですよ」

「はいっ!」


 エレレから許可が出ること。

 それはすなわち、寿退社をする時期が近づいていることを意味する。

 たとえエレレの独りよがりな認識であっても、見知らぬ男との幸福な未来に想いを馳せる姿を見たくなかったシュモレの心の内は複雑である。


 犠牲を払ってまでまとまった話に、空気を読まない声が投げかけられる。


「旅人さんとの関係はあんまり進んでないから、そんなに急いで後任を育てる必要なんてないと思うわよ。ねえ、エレレ?」

「お嬢様は口を挟まないでください。これはメイドの仕事の話なのです」


「……そもそも同伴の許可については、エレレじゃなくて護衛対象の私に聞くべきじゃないのかしら。ねえ、シュモレ?」

「オジョーサマは黙っててください。これはエレ姉様とシュモレだけの問題なのです」


「…………前々から思っていたのだけどね、シュモレって主人である私よりも、エレレの方を大事にしていないかしら?」

「シュモレはエレ姉様に憧れてメイドになったので、当然なのです。だからオジョーサマはオマケというより、むしろ邪魔です」


「…………」

「駄目ですよ、シュモレ。主人を守ることがワタシ達メイドの役目。たとえそれが、どんなに面倒で我が侭であまつさえ最近は人の恋路まで邪魔するお嬢様であっても、その役目は変わらないのですよ」


「分かりましたっ、エレ姉様っ! シュモレはどんなに嫌いな相手が護衛対象でも立派に守ってみせますです!」

「…………何で私の護衛役には変な子ばかり当てがわれるのかしら。一度お父様に抗議しなくちゃね」


 手を取り合って仕事内容を確認するメイド二人を見ながら、お嬢様はゲンナリした声で溜息をついた。



「――――まあ、いいわっ。それよりも、早く出発しましょう!」


 持ち前の切り替えの早さで気を取り直したソマリは、高らかに宣言する。

 自分の身に関わる問題であっても、面白さに欠ける事には興味を示さないのが彼女の特徴であった。


「あの、エレ姉様……、本日はどちらに?」

「どの場所に向かうのかは、お嬢様しか把握していません。言うなれば、お嬢様が興味を抱く場所に、でしょうね」


「?」

「とにかく、お嬢様の後を付いていけば分かりますよ」


 屋敷から出たソマリは、意気揚々とズンズン歩いていく。

 その後をメイド服を着た二人の女性がシズシズと追いかける。

 護衛対象を先頭にするのは避けるべきだが、行き先を知るのがお嬢様だけなのでどうしようもない。


「――――クンクン。あっちの方が匂うわね」


 大通りに出たソマリは、一度立ち止まり、くるっと一回転しながら鼻をヒクヒクさせ、また歩き始めた。


「あの、エレ姉様……、オジョーサマには犬族の血が混じっているのですか?」

「お嬢様はスキルを介して感じる気配をより明確にするため、匂うといった具体的な動作で捉えようとしているのでしょう」


「その、よく分かりませんが、お嬢様は誰かを探しているのですか?」

「ええ、その通りです」


 微かな笑みを浮かべながら答えるエレレを見て、シュモレは悪寒を感じた。

 その相手とは、もしや――――。


「――――見つけたわよっ、旅人さん!」


 シュモレが身構える間もなく、ソマリは目的地へと辿り着いていた。

 正確には、目的地ではなく、目的の人物が居る場所へ、である。


「――――っ」


 背後から「旅人さん」と呼びかけられた男は、ビクッと身体を震わせ、恐る恐ると振り返る。


「…………ふーーー。なんだ、人違いか」


 そして安心したように、やれやれと首を横に振りながら視線を前に戻し、足早に歩き始めた。


「ちょっと旅人さん? 人違いじゃないわよ旅人さん? いま私と目が合ったわよね旅人さん?」


 絶対に逃さぬとばかりに、ソマリは猛ダッシュして接近し、男の作業着を後ろから引っ張る。

 それでも男は、前を向いたままソマリをズリズリと引っ張って進もうとしていたが、やがて諦めたように溜息をつきながら振り返った。


「大切な一張羅が伸びるから手を離してくれ。……それで、どんなご用かな、暇人のお嬢様よ?」


 そう言った中年男は、心底嫌そうな顔をしていた。


「偶然ね、旅人さんっ。街中でばったり出逢うだなんて、やっぱり私達の相性はばっちりみたいねっ」

「いやいやいや、さっき大声で『見つけた』とか言っていたよな? 周りを見渡しながら探しまくっていたよな? そんなのを偶然って呼んじゃ駄目だよな?」


「旅人さんは、この出逢いは偶然なんかじゃなくて、運命だと思っているのねっ。顔に似合わずロマンチックなところがあるなんて知らなかったわっ」

「喧嘩売っているんだよな? 安値で買ってもいいんだよな? 俺が女性にもグーパンできる男女平等主義者だと知って言っているんだよな?」


 腕まくりして気色悪い笑みを浮かべた男が、腰に手を当てて得意げな顔をしているソマリに近づいてくる。

 一応護衛の役割を担っている身としては、止めに入るべきかとシュモレが悩んでいると……。


「ご無沙汰しております、グリン様。それに、コルト」


 音もなくソマリの前に移動したエレレが、男とその隣で状況を見守っていた子供に頭を下げた。


「……うん、まあ、そうだな。つい先日会ったばかりだけどな」

「ソマリお嬢様にエレレねーちゃん、こんにちはっ」


 お澄まし顔で挨拶してくるメイドに対し、グリンと呼ばれた男はやや及び腰で、コルトと呼ばれた少年は元気よく応えた。


「お二人は、これからどちらへ?」

「主従揃ってマイペースなこって……。ともかく、暇を持て余す女――――略してモテアマと違って俺は忙しいのだ。何故なら、コルコルとラブラブデートの最中だからだっ。……だから邪魔するなよ? 絶対に邪魔するなよ?」


「オレとあんちゃんはデートなんかしてないだろっ。さっき偶然会ったばっかりじゃないかっ」

「それは違うぞ、コルト。男と女の出逢いは偶然なんかじゃなく、全て運命なんだよ。だから運命に従って、コルトは俺とデートする義務があるんだぞ」


「だったら旅人さんも、こうして出逢った私とデートしなくちゃいけないわよね?」

「グリン様、当然ワタシにも、その義務がありますよね?」


「はははっ――――運命なんてクソ食らえ!」


 シュモレが襲い来る男を前に身構えていたら、いつの間にかコントが始まっていた。

 展開についていけない新人メイドは、一歩下がった所から呆然とその様子を眺める。


 何よりも驚いたのは、エレレの様子。

 いつもはソマリにしか見せない、それこそ後任である自分にさえ滅多に見せないような、柔らかい表情をしていたのだ。

 あの「三十の悪魔サーティー・デビル」とまで恐れられた彼女が、である。


(まっ、まさかっ、こんなパッとしない中年男がエレ姉様のお相手っ!?)


 エレレと噂になっている相手を見つけるために同伴していたシュモレだが、まさかこんなに早く遭遇するとは想定していなかった。

 ソマリが見つけ出した男であり、こうして親しげに話していても、噂の相手とは全く結び付かなかったのだ。

 それ程までに、男として褒めるところが何一つ無い、凡庸で覇気が感じられず面白みさえ見当たらない相手であった。


(ボサボサの髪、眠たげな細い目、頼りない猫背、緑色の変な服……。だめだめっ、どこをどう見ても、素敵すぎるエレ姉様と釣り合う要素が皆無っ!)


 冷静に見た場合、外見については特にこれが駄目、といった部分はない。

 だけど、特に秀でた部分も一切見当たらない。

 では、内面はどうであろうか。


(何だか、チグハグした感じがする。言動と中身とが、噛み合っていないような…………)


 誰しもが、確固とした自我を確立させている訳ではない。

 自分にはこうした振る舞いがしっくりくるだろうと当たりをつけ、それに相応しい言動を取る。

 多くの者は、ソレと決めた自分自身を演じているに過ぎない。

 それが長い時間を経て熟れた結果、自我として定まる。


 しかし、時間を重ね大人と呼ばれる年齢に達しても、自分自身を定め切れない者も居る。

 本人は無意識なのかもしれないが、まだ色々な自分を模索している最中であり、一貫した答えを持つまでに至っていない。

 なまじ地力がしっかりしているだけに、精神の不安定さが目立ってしまう。


 ――――感受性が強いシュモレには、そんな不確かさがチグハグしているように感じられたのだ。



「んん? 先程から熱い視線を送ってくれるお嬢ちゃんは、新米のメイドさんなのかな?」


 疑惑の視線を好意的に解釈した男が、わざとらしく初めて気づいたように尋ねてくる。


「グリン様、紹介が遅れ申し訳ありません。こちらは、ワタシと同じくお嬢様の護衛兼メイドを務めるシュモレと申します」

「……シュモレと申しますです。どうぞお気遣いなく、適度な距離でよろしくお願いしますです」


「これはこれは、ご丁寧にどうも。俺の名はグリン。ちょっと前に、この街へやってきた旅人だ。何故かお宅のお嬢様みたいな変わり者によく絡まられる難儀な特性を持っているが、本人は至って普通のダンディな紳士だから、仲良くしてやってくれ」


 紹介してくれたエレレの顔を立てるため、嫌々ながら簡素に頭を下げたシュモレに対し、男は左手を顎に当て「ほうほう」と頷きながら挨拶してくる。

 その中年男独特の嘗め回すような嫌らしい視線に、シュモレは身の毛がよだつ思いをした。


「うんうん、まだ若いのに中々のメンヘラ臭……、もとい将来有望なお嬢さんみたいだな」

「シュモレはまだ16歳だけどレベル20もあるのよ、旅人さん。それとさっき、私の悪口を言ったわよね?」


「なるほどなるほど、期待の新人メイドさんって訳か。これからは二人のメイドさんを間違えないように、新人ちゃんはニューメイド、老練のメイドさんはキューメイドと呼び分けることにしよう」

「……これまで通り、ワタシのことはエレレ、そしてこちらはシュモレと名前でお呼びください」


 まるで古い玩具に飽きてしまったかのようにソマリとエレレを雑に扱い、新しい玩具の方に興味を示す男。

 失礼なまでの露骨さにソマリと似た空気を感じながら、シュモレは「苦手な相手」だとはっきり自覚した。


「新人さんなら、こちらのコルトとは面識がないのかな?」

「……新人とはオジョーサマ付きのという意味で、三年ほど前からメイド見習いとしてずっと訓練してきたのです。ですから、コルちゃんとも顔見知りなのです」

「だからその呼び方は止めてくれよな、シュモレねーちゃん」

「シュモレはね、自分の後釜にするためエレレが直接指導しているのよ、旅人さん」


「そういえば以前、お嬢様からエレレ嬢が後任を育成しているって話を聞いたよな」

「そうそう、シュモレはこんな感じだけど、猛特訓のお蔭で十分な実力を持つ優秀な護衛なのよ。だから、エレレはいつでも寿退社できる体制が整っているから安心してちょうだい? 更に私の方も、次の領主は弟が継ぐ予定だからいつ嫁いでも安心よっ」


「……何がどう安心なのかさっぱりだが、エレレ嬢はさておき、お嬢様が嫁に出たら新人メイドちゃんの仕事がなくなるんじゃないのか?」

「あら、そう言えばそうね。盲点だったわ」

「邪魔者が居なくなったら、エレ姉様とシュモレの二人で末永く幸せに暮らすから問題ないのです。だからオジョーサマは、一刻も早くどこぞの変態の元へ嫁げば良いのです」


「ふむふむ、性悪お嬢様の子守りを任せられるだけあって、逞しい性格をしているようだな」

「……旅人さんは、何が何でも私が悪いことにしたいのね」


 ソマリと男は、睨み合いながら火花を散らす。

 だけどそこには、険悪な空気は漂っていなかった。


(エレ姉様と噂になっている男は、物好きなことにオジョーサマにも手を出していると聞く……。だとしたら、やはりこの男こそが噂の男っ!)


 エレレは当然として、ソマリも男性と楽しく談笑するタイプではない。

 その二人がこうして一人の男と親しくしているのだから、間違いない。


(だとしたら、何でこんな男にエレ姉様が…………。違う違うっ、きっと騙されているに違いないっ。今日一日観察して、化けの皮を剥いでやるっ)


 噂の相手は異性としての魅力に欠けていたが、たとえどんな男であってもシュモレは納得しなかっただろう。

 もはや八つ当たりに等しい感情を抱き、男に向かって怨嗟の念を送る。


 個性溢れる新人メイドを加え、賑々しさを増した集団が雑談していると……。


「――――おやぁ、久しぶりじゃないか、冷血メイド」


 横から新たな声が聞こえてきた。




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