表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/276

冒険者の街オクサード②/飯と宿探し




「まさか、あんちゃんが金持ちだとは思わなかったぜ」


 店を出た後、コルトが疲れたように言った。

 失敬な。

 貧相な格好はしていないつもりなのだが。確かに地球では金に縁が無かったけどさ。

 それとも育ちが悪い下品な顔立ちだと思われていたのだろうか。

 どちらにしても失敬な。


「知り合いの冒険者から、余ったアイテムを譲ってもらったんだよ」

「どんな凄腕だよ、そいつ! 高ランクのアイテムを余るほど持ってるなんて普通じゃないぜっ。だいたい何と交換したんだよっ」

「ふっ、友情は見返りを求めないものさ」

「意味わかんねーよっ!」


 元気いいなぁ。何か良い事でもあったのかな。

 まあ、一応口止めしておこう。


「コルト、さっきの事だが――――」

「……分かってるって。誰にも言わねーぜ。ウォル爺にも迷惑掛かるしな」


 だったら大声で話すのは止めてほしい。

 近くに人の気配が無いからいいものの、この調子では無自覚に口から漏れてそうだ。

 おじちゃん心配だよ。

 やはり、早めにあの力を手に入れる必要がありそうだ。


「最初にあんちゃんを見かけた時から、何か変だなーって思ってたんだよ。だから覚悟してるぜ」


 おおっ、流石は直感スキル持ち。

 一般的なおっさんのステイタスに擬装した俺からも、何か感じるものがあったらしい。

 やはり直感スキルは要注意だな。

 ……ただの変人って意味じゃないよね?


「その感は大事にした方がいいぞ。怪しい奴には近づかないのが一番だからな」


 俺が言うのもなんだがな。


「多少の危険は仕方ねーぜ。これでも客商売だからな。危険な奴じゃないと金回りが良くねーんだよ」

「なるほど、道理だな」


 特にこの世界ではそうなのかもな。

 自分でボーダーラインを見極めてるようだし、他人の俺が口を挟む問題じゃないのだろう。


「よしよし、おりこーさんだ」


 ワシワシと帽子の上から頭を撫でる。

 子供とのスキンシップは大切だ。

 そんな子供扱いが嫌なのか、コルトは子供っぽく口を尖らせている。


「内緒にする代わりチップ弾めよな」

「おーけーおーけー。何でも好きな物を食べるがいいさ」

「なんだよ、飯だけかよ」

「綺麗なおべべでも欲しかったのか?」

「……そんなもん、何の役にもたたねーよ」


 俺はニヤニヤしながら、ふて腐れたように呟く少年の帽子をポンポンと叩いた。




 それでは、念願の異世界ランチタイムに入るとしよう。


「それで、この街の名物料理は何かな?」

「肉とパンが多いぜ。野菜も結構あるかな」


 俺の質問にコルトが応えてくれたが、答えになっていない。


「それは食材だろ。料理じゃないぞ」

「食材と料理って、何が違うんだよ?」


 ……なんという暴言であろうか。

 これは決して文化や歴史の違いなどで許容してはいけない言葉である。


「その食材は、どうやって食うんだ?」

「肉は焼いて食うし、パンと野菜はそのまま食うぜ。当たり前だろ?」


 どうやらこの世界の料理は、細やかな調理を行わないらしい。

 良く云えば素材を活かしたシンプルな料理、悪く云えば大雑把な手抜き料理だ。

 ……これは期待出来ない。


「――――――――」


 思わず空を仰いだ俺の脳裏に、『まずい食材はない。まずい料理があるだけだ』という名言が浮かんだ。


「そ、そんな、……食道楽という野望の一つが、早くも潰えるとは…………」

「大げさだな、あんちゃんは。飯なんて食えるだけで幸せだろ?」


 んぐっ。

 少年の曇りない瞳で言われると、返す言葉がない。

 俺は何て食い意地が張った罪深き人間なんだ。


 だが仕方ない。仕方ないのだ。

 人は慣れる。良くも悪くもだ。

 飽食時代の日本で30年以上も美味い飯を食い続けてきた俺が、今更焼いただけの味もそっけも無い料理で満足出来ようものか。

 ほんと無理です。勘弁して下さい。


 いや、実際は焼いただけの肉でも美味いタレさえあれば、それなりに満足するけどな。

 新世界の未知の料理に期待を膨らませていた分、ショックが大きいのである。


「お、おいっ。大丈夫かよあんちゃん!?」


 両膝を地面に付け、両手で頭を抱えて苦悩していた俺をコルトが心配してくれる。

 大丈夫じゃない。問題ありまくりだよ!

 人の欲望から食べる事を除いたら、後は昼寝と女遊びしかないじゃないか。


 …………ん?

 まあ、それもいいかもな。

 食べ慣れた地球産の美味い料理であれば複製魔法で創れるし。

 この世界の隠れた名物は気長に探せばいいだろう。


 世界は広い。美味い創作料理を作る店もきっとあるはずだ。

 ここは一つ、探す楽しみが出来たと喜ぼう。

 ゆったりとした食道楽の旅も悪くないだろうさ。



「心配かけたな、コルト。もう大丈夫だ。俺は試練を乗り越えたんだ。さあ食事を楽しもう!」

「ほんとに大丈夫かよ……。で、何が食べたいんだ?」

「そうだな、一番高い店に案内してもらおうか」

「……結局それかよ」


 仕方なかろう。まずこの街の最高レベルを知っておきたいのだ。

 俺の舌が特別グルメな訳じゃない。

 日本でランク分けされている肉質の違いなんて分からないのだ。

 精々、牛か豚か鳥、固いか柔いかの違いを感じる程度だ。


 そんな大雑把な舌を持つ俺でも、無機質な同じ物は食べたくないのだ。

 毎回そこそこ旨くて多種の料理を食べたい。

 ビュッフェ形式や居酒屋なんて最高だ。


「でもこの街には、貴族様が満足するような高級店は無いぜ」


 そっか、ここは冒険者の街だったな。

 高級な店は客層に合わないのだろう。

 ここで疑問が生じる。

 シンプルな料理しか無いのに、何故に価格差が?、と聞いたところ。


「値段の違いは、魔物のランクの差だぜ。野生の動物や野菜とかは、珍しいものが高いかな」


 なるほど。

 確かに魔物がドロップする肉アイテムは、ランクが高い方が美味かった気がする。

 食材がランク付けされてるのだから、料理の価格に差が出るのも当然か。

 鑑定アイテムがあるから偽装も不可能だろうし。


「大きな店ほど沢山の種類の肉が有るんだぜ、あんちゃん」

「ふーん、扱ってる肉の最高ランクは?」

「6だったかな」

「最高のランク10は無いのか?」

「ランク10の魔物なんて、軍隊でもなければ倒せないんだぜ。そんな肉は王都にしかないよ」


 だとすると、どんな店よりも自前のランク10の肉を自分で焼いた方が美味い可能性がある。

 日本製の美味い焼肉のタレを使えばなおさらだ。

 むしろ低ランクの肉を使う庶民向けの店の方がいいかもな。

 肉質が低い分、味付けの工夫でカバーしているかもしれないからだ。


「やっぱり露店の食べ歩きにするか。その方が色んなもんが食えるだろーしな」

「オレもその方が気楽でいいぜ、あんちゃん」


 コルトもこの案に賛成のようだ。

 では、初めての街で初めての食い倒れツアーと行きますか。




 オクサード街には多くの露店があった。

 数うちゃ当たるかと思ったが、どの店も単純に焼いただけ。

 味付けされている商品もあったが申し訳程度。

 日本の多彩で濃い味に慣れ過ぎているのかもな。


「うめえな! こんなに沢山食ったの初めてだよ!」


 コルトは満足しているようだ。味より量に対してのようだが。


「せめて食後のデザートがあれば救われるんだが」

「でざーとってなんだよ、あんちゃん?」


 残念ながら、まともな菓子類を売っている店も無かった。

 砂糖や蜂蜜のような甘い物は希少で高価らしい。

 一介の露店が扱える食材ではないそうだ。

 甘党の俺には辛い世界である。


 仕方ないのでデザートは複製魔法で自作した。

 メニューはおセンチに和菓子。定番の苺大福だ。


「なんだこれ! 中に苺が入ってるのか!? すっげーあめー!」


 女子供は甘いものが好きだな。おっさんも大好きですがね!

 大福を気に入ったコルトがおねだりしてきたので、好きなだけ出した。

 餌付けは基本である。




 その後も観光を続ける。

 しばらくこの街を拠点にするつもりなので、昼からは実用的な店を中心に案内してもらった。

 だがしかし、とても1日で回れる広さではない。

 明日も案内役を頼んでみよう。


「いいぜ! でも夕方から他の仕事があるから、それまでな」

「ああ、助かるよ。それじゃあ最後に宿を紹介してくれ」

「あんちゃんはどんな宿がいいんだよ?」


 そうだな、部屋は狭くてもいいが、清潔でふかふかのベッド。ムカデとか虫が出る所はNG。それと個室風呂は絶対条件だ。

 ビジネスホテルの標準装備並みかな。

 そんな要望を伝えてみる。


「ふろぉ? そんなもん貴族しか入らねーよ。宿に有る訳ねーだろ」

「おいおい、客の要望に応えるのが案内役の仕事だろ?」


 やはり風呂は珍しいのか。

 目立ちたくはないが、風呂は優先順が高いのだ。

 寝付きが悪いので、風呂でウトウトするのは重要なのだ。


「むちゃ言うなよ、あんちゃん…………ん? そういえばポプラ亭の親父さんが、金持ち向けにいい部屋を作ったって話してたかな」

「おお、そこなら有りそうだな。早速行ってみよう」


 風呂自体は複製魔法で出せるが、湿気や排水処理が可能な部屋じゃないと使うのは厳しい。

 ここは現地産に期待しよう。



「あるぞ! 奮発して上客用に造ったんだが、誰も泊まらなくて困ってたんだ」

「当たり前だぜ。貴族様がこんな宿に泊まるわけねーじゃんか」

「こんな宿とは、言ってくれるじゃねーかコル坊」


 台詞ほど困ってなさそうに、宿屋の親父さんはガハハと笑いながら説明してくれる。

 彼は元建築業で、この宿も自分で造ったそうだ。

 暇を見つけては改築しており、王都で見かけた風呂が気に入ったので試しに追加したらしい。

 何にせよ風呂があって良かったよ。


「その部屋を見せてもらえますか?」

「おうよ、こっちだ」


 案内された部屋は、2階角間の日当たりが良い特上席。

 10畳程の大きさでダブルベッドが置いてあり、何より浴室がある。しかも数人が同時に入れるほどの広い檜風呂だ。

 一人で住むには十分すぎる設備である。


「いい部屋ですね。1泊、幾らですか?」

「聞いて驚け。飯付きで金貨1枚だ!」


 客を驚かしてどうするよ。


「参考に他の普通の部屋は?」

「銀貨2枚だな」


 通常の5倍する部屋か。

 なるほど、そんな高い部屋を借りる酔狂は居ないだろうさ。

 風呂に価値を見出す奴以外はな。


「高いですね」

「風呂を含めた部屋の改装に随分かかっちまってな。そんぐらい取らねえと割が合わんのだ」

「1晩で金貨1枚なんて女が買える値段だぜ」


 まじでか! いい情報をありがとうよ、コルト。

 是非とも活用させてもらおう。


「相談ですが、1年契約の前払い、食事と風呂の水は無しを条件に、金貨200枚でどうですか?」


 この世界は1年300日なので3分の2の値段となるが、どうせ誰も借りない部屋だ。

 少しくらい値切っても大丈夫だろう。

 是非、拠点の一つとして確保しておきたい。

 なお、この世界は30日で1ヶ月の全10ヶ月で1年となり、1日が30時間と長いため、年間の総時間は地球と概ね同じである。


「そりゃあこっちも助かる! でも風呂水はどうするんだ?」

「水魔法が使えるので、自分で出しますよ」

「そりゃあ凄い。こんな大きな風呂に水を貯めるなんて、お前さん結構高レベルなんだな」

「少し魔力が多いだけですよ。これで契約成立ですね。支払いは白金貨でいいですか?」


 危ない危ない。

 水魔法は一般的な魔法なので問題ないと思ったが、風呂を満たす魔力量に問題があったようだ。

 さっさと金を払って誤魔化そう。

 白金貨は金貨100枚分だから2枚払えばいい。


「おうよ! しかしお前さん、白金貨をポンと使うとは見かけによらず豪気だな!」


 見かけによらずって……。

 コルトに続いてまた言われたよ。俺ってそんなに庶民臭いのかな。

 しょんぼり。


「今から使ってもいいですか?」

「おうよ、好きに使ってくれ!」

「部屋に帰らない日もあると思いますが、気にしないで下さい」

「分かった。長期不在にする時は一言いってくれ」

「はい。しばらく世話になります」


 こうして俺は、初めての宿を確保したのである。




「いい部屋が見つかったな。コルトのお陰だ」

「それはいいけど、こんな部屋に1年も泊まるなんて贅沢だな、あんちゃん」

「大雑把なだけさ」


 何度も宿を探したり金を払ったりするのは面倒だしな。

 日本でも年間契約が普通だろうし。

 沖縄では離島に住む人が、本土に宿代わりとしてもう一つの家を持っているそうだからな。


「それに魔力が多いんだな。羨ましいぜ」

「水と炎は旅に必須だからな。色々工夫してるんだよ。コルトはどんな魔法が使えるんだ?」


 能力の違いはあれど、この世界では誰でも魔法が使える。

 だから深く考えずに尋ねた。


「……水がちょろっと出るくらいだぜ。全然役に立たねーよ」


 おやおや、コルトのテンションが下がっちゃったな。

 好感度も下がってなければいいのだが。

 残念ながら最高峰のアイテムで鑑定しても感情までは数値化されない。

 せめて好感度のアップダウンをサウンドで知らせてほしいものだ。


 勤労少年は、自分の能力の低さを気にしているらしい。

 ここは茶化さず、相手が喜びそうな言葉を選ぶのが正解だろう。


「魔法はイメージが大切だからな。零から独学で会得するのは難しいんだよ。今度コツでも教えようか?」

「ほ、本当か!? 約束だぜ、あんちゃん!!」


 おっと、予想以上に食いつきがいいぞ。将来は冒険者を目指しているのかもな。

 少年よ大志を抱け、ってね。

 子供は素直に喜ぶから見ていて気持ちいいものだ。

 嫌がる表情も露骨なので面白いのだが。


「今日は色々案内してくれて助かったぞ。約束の代金だ」

「おっ、こんなにいいのかいっ。感謝するぜ、あんちゃんっ」


 銀貨3枚の契約だったが、満足いく案内だったので金貨1枚を渡しておいた。

 人一人の一日のアルバイト代として1万円は妥当だろう。

 お年玉をもらったようにはしゃぐコルトを見ながら、自然に笑みが漏れる。

 

 知り合いが一人も居ないこの異世界で、俺はこの子と仲良くなれるのだろうか。




「じゃあ、また明日な。…………って、どうせ明日も一緒だ。せっかくなら泊まってくか?」

「え、いいのかあんちゃんっ。一度風呂に入りたかったんだよな!」


 ――――やばい。

 ノリで言ったら、お持ち帰りが成功してしまったぞ。

 ベッドは一つしか無いし。俺は一人じゃないとあまり眠れないのだが。


 ……ここはプラス思考だ。

 リアル抱き枕を調達出来たと思えばいいのだ。

 コルトも喜んでるしな。


「そういえば、コルトは何時も何処に泊まってるんだ?」

「馬小屋の藁を借りて寝てるぜ」

「あー、藁のベッドって案外寝ごこちいいよな」


 子供の頃にやった事がある。

 服の中に藁が入り込んで痒くなるのが欠点だが、植物特有の柔らかさと匂いが快適だったのを覚えている。


「早速、風呂にするかな。コルトが先に入るか?」

「……いや、オレは後でいいぜ」

「そうか。俺は長風呂だから、ベッドでゆっくりしておいてくれ」


 ファーストは不要か。

 さて、久々の風呂を楽しもう。


 別室の浴場に入り、魔法で湯を満たす。

 水魔法で出したお湯では味気ないので、名所の温泉湯を複製魔法で出す。

 滋養強壮や美肌などの色々な効能が含まれている湯だ。


 風呂に入る前に体を洗おう。

 後から客人が入るので当然のマナーである。

 風呂用のアメニティグッズは置いてないので、魔法で適当に出しておこう。

 タオルに石鹸にシャンプーなどなど。子供用にアヒルや水鉄砲も必要だろうか。


「あー、生き返るわー」


 おっさんぽい台詞を吐きながら、湯に浸る。

 足が伸ばせるほどの大きな風呂で良かった。

 温めだが熱いのが苦手なので丁度いい。


 だらしなく口を開けて堪能していると眠くなってくる。

 …………そこで侵入者の気配がした。



「――――あんちゃん、オレも一緒に入っていいかな」


 浴場に裸で入ってきたコルトを見て、笑いながら返事する。


「いいのか? 隠してたんじゃないのか?」

「……やっぱ気づいてたのかよ」

「まあな」


 悪びれず、しれっと答える。

 見くびらないでいただきたい。

 子供とはいえ、俺が男なんぞに優しくするはずがなかろうて。

 ――――そう、コルトは、少年の振りをした少女だったのだ。


「ふむふむ…………」

「おい、じろじろ見んなよなっ」


 家無しの勤労少女なので痩せこけてないかと心配したが、少々細いながらも成育に問題ないようだ。

 服の上では全く分からなかったが、僅かながら胸も膨らんでいる。


「あんちゃんは、どうして気づいたんだよ?」

「もちろん匂いだ」

「どんな匂いだよ!?」


 もちろん嘘だ。

 確かに一定以上の年齢に達した女性からは特有の匂いがするが、少女からはまだ漂ってこない。

 性別に気づいたのは、何となくの感半分とお約束の期待半分だ。


「まず体を洗ってから風呂に入るのがマナーだぞ。ほら、そこの白い塊をタオルに付け泡立てから洗うんだ」

「……あんちゃんって、見かけによらず細かいんだな」


 日本でもでかい図体と血液型の割には、細かい処があると言われたな。

 上司が大雑把な人だったから、仕方なく細かいフォローをしてただけなのだが。

 まあ、俺自身でも大概だと自覚してるけどな。

 どうでもいい事だが、血液型による性格診断は結構信憑性が高いと思っている。


「何でオレが男の格好しているか聞かないのか?」

「コルトも俺やアイテムについて聞かなかっただろ」

「そりゃあ、あんちゃんは客だからな」


 洗い終わったコルトが風呂に入ってくる。

 湯に浸かるのが初めてなのか、恐る恐ると片足から順に沈めていく。


 このコルトという男装少女に対して、俺は多少の興味を抱いている。

 それは性別や性格に対するものであって、内情には全く興味ない。

 過去の重い話とかされても困るだけだ。


「俺にとってコルコルは、ちょっと変わった勤労少女って事で十分だ」

「……あんちゃんにだけは変わり者って言われたくないぜ。それとコルコル言うな」


 コルトは呆れたように、少し笑いながら抗議してくる。


「それに、そんな起伏の乏しい体つきじゃあ、男女を気にする必要ないだろ?」


 そんな少女の裸体を眺め、笑いながら茶化す。


「……悪かったな、真っ平らな胸で」


 彼女は幾分拗ねたように呟く。

 どうやら自分が女である事を否定している訳ではなさそうだ。


 俺は、巨乳に対して苦手以上の生理的な嫌悪すら感じるが、対極の無乳が大好きという訳ではない。

 手の平に納まりながら確かな柔らかさを感じさせる、やや小さめ美乳がベスト。

 日本人は慎ましさを好むものなのだ。


「1年後に期待してるぞ」

「1年程度じゃ、あんま変わんねーよ」

「じゃあ2年で」

「…………」


 コルトの目が段々細くなっていく。

 少女のジト目は最高である。






 コルトは風呂に入って気が抜けたのか、布団に入ると直ぐに寝息をたて始めた。


 俺はしばらく本を読んでいたが、読み終わると手持ち無沙汰になる。

 隣で無邪気に眠るコルトのホッペを突くのも飽きたので、彼女を抱き枕にして横になる。


 …………結局、大して眠れなかったが、子供特有の温かさとシャンプーの匂いがする髪の感触を愉しめたので良しとしよう。


 しかし、そういう目的以外で、女性と一緒に風呂やベッドに入る日が来るとは思っていなかった。

 日本であのままの生活を続けていたら出来なかった経験だろう。

 こうした些細な体験も道楽になるのだろうか。


「案外、道楽ってのは、ささやかな出来事の集まりなのかもな」


 そういえば、「何でもない有り触れた出来事が幸せだった」みたいな歌が学生時代に流行った記憶がある。

 当時は、不幸にならないと幸福に気づく事が出来ないんだな、と捻くれた感想を抱いたっけ。

 もしそうだとしたら、不幸にならず感じられる幸福とは何なのだろうか。

 …………そんな益体の無い事を考えてしまう。


 気持ちの有り方次第だとしても、金と力を使った俗世まみれの道楽を見逃すつもりはない。

 この世界に来て、俺は随分と欲張りになったようだ。

 これも『余裕』があるからこそなのだろうか。


 ――――この異世界で。

 際限なく、見境無く、気まぐれに、欲望のままに、様々な快楽を求める。

 それこそが俺にとっての道楽となる。


 ……そんな気がした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 誤字脱字が少なく、きちんと推敲されていて、丁寧な仕上がりで、安心して読めます。 [気になる点] ここまで、感半分とか、勘を感としている箇所が幾つかあります。意識的に勘ではなく、感としている…
[良い点] ひゃっほい!ロリバンザイ! [気になる点] もしかして…ロリコン…? [一言] ロリ…へへっ(ニチャア
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ