年の差カップルと赤髪ペアの実地研修 1/5
コルトと一緒に雪風呂を愉しんだ日から数日後。
俺は珍しく朝食を口にしていた。
昨晩、コルトが部屋に泊まりに来たからである。
彼女と一緒のベッドで寝た次の日、俺はいつも彼氏気取りで甲斐甲斐しく朝食を用意している。
宿の一階にある食堂で食べてもいいのだが、常時腹ぺこ少女は肉ばかり食べるため、食事の改善を図るため米と魚を中心に作っているのだ。
自分で言うのも何だが、良い専業主夫になれそうだ。
「ほら、魚は骨が多くて苦手かもしれないけど、骨が取りやすいホッケだったら食べやすいだろう?」
「……」
「ご飯も新米だからな。まるでお姫様のようにツヤツヤして美味しいぞ」
「……」
「卵かけご飯と醤油の組合せが最高なんだよなぁ」
「……」
「どうした? 箸が上手く使えないならフォークに替えるか?」
「……あんちゃんってさ、オレに世話焼きすぎじゃね?」
コルトは、勘違い女につきまとわれウンザリしているイケメンみたいな顔をして言った。
俺の繊細なガラスハートはとても傷ついたが、ここで止める訳にはいかない。
だってコルトは、俺の大事な嫁候補だからな!
「だからー、あんちゃんが言うと冗談に聞こえないから、怖いんだって……」
おや? どうやら先程の想いが口に出ていたようだ。
独り身が長いと独り言が多くなって困る。
「嘘を嘘だと見破られない方法を知っているか? それは嘘の中に真実を混ぜて話すことさ」
「……それって、さっきの冗談に本気が混ざってるってことじゃん。……だから怖いって」
コルトは深々と溜息をつき、やれやれと首を振った。
苦労してそうな仕草が板についているところが涙を誘う。
まあ、概ね俺の所為なんだけどな。
「――――あのさぁ、あんちゃんもいい大人なんだから、オレみたいな未成年に構ってないでお似合いの人をちゃんと探しなよ。あんちゃんとオレは、三倍も年が離れてるんだぜ?」
コルトが、いつまで経っても結婚しない馬鹿息子を諭す母親みたいな顔をして言ってくる。
だから俺は、自分が置かれている危機的状況を全く理解していない馬鹿息子みたいにこう言った。
「大丈夫大丈夫。俺の地元では子供の頃から自分好みになるよう調教……、もとい大事に育てて嫁にする風習が美徳とされているからな」
「なんだよそれっ!? すごく怖いぞっ!」
平安生まれの偉大な先輩がやってたから、嘘じゃありませんよ。
「だから安心して俺に身を任せるんだ、紫の上!」
「誰だよそれっ!? オレの名前はコルトだ!」
おっと、いけないいけない。
妄想と現実が一体化していたぜ。
「……オレ、あんちゃんのこと誤解してたのかもしれないよ」
「おおっ、俺の愛をついに受け入れてくれるのか!?」
「今まであんちゃんが特別に変な大人だと思ってたけど、生まれ育った場所が変だったからそうなっちゃったんだな。あんちゃんだけが悪い訳じゃなかったんだな」
「…………」
あながち間違いではないのだが、生まれた環境で将来が決まってしまうと諦めるのは、コルトの教育に良くないだろう。
それに、日本の男性全員が若い子大好きだと思われると俺が怒られそうなので、一応否定しておくか。
「よく聞いてくれ、コルト。どんな環境で生まれ育ったとしても、結局は自分次第。どんな劣悪な環境でも、それに負けず立派な大人になることはできるんだよ」
「そっか……、よく分かったよ、あんちゃん」
「良かった、分かってくれたんだな」
「うん。つまりあんちゃんが変なのは、あんちゃん自身が原因ってことだよな」
「う、うん? 話をまとめると、確かにそうなる、な?」
おかしい。
ちょっと良い話をしようと思ったのに、墓穴を掘ってたみたいだ。
「……だいたいさ、あんちゃんは何故かモテてるんだし、釣り合うかは別にしてエレレねーちゃんとでも結婚すればいいじゃないか」
「俺が、モテている、だと?」
初めて聞く言葉に首を傾げる。
そういえば、どんな人にも三回のモテ期があると聞く。
俺の36年程の記憶を遡ってみると、朧気ながら思い当たる節がなくもない。
一度目は中学時代、何やらラブレターらしき物をもらった記憶がある。
なにぶん昔の話なので、本人が望む結果に改竄されている可能性も否めないが。
どのような結果に終わったのか覚えていないので、不幸の手紙だったのかもしれない。
二度目は、長い時間を置いて、社会人になってから。
海外出張した時に通訳を兼ねて買った娼婦のおねーちゃんから結婚を催促された。
間違いなく日本という安住の地と金が目的だったのだろうが、求婚には違いない。
彼女の要望をはぐらかしつつ如何にサービス向上を促すかの際どい勝負が愉しかった記憶が懐かしい。
「なるほど、そして今が三度目のモテ期ってヤツか」
「……いや、一度目もかなり怪しいけど、二度目は絶対に違うだろ?」
またもや心の声が漏れていたようで、コルトから冷静なツッコミが入る。
コルトはまだ子供で男装しているけど、少なくとも俺よりは女性の気持ちに詳しい。
その彼女が「二度目」のモテ期が偽物だと断ずるのであれば、今回の「三度目」も同じはず。
この世界での俺は無駄に優遇されているから、外面が魅力的に見える場合もあるのだろう。
「あんちゃんがエレレねーちゃんと一緒になったら、オレはちょっかい出されなくなるし、エレレねーちゃんも腫れ物扱いされずに済むから良いこと尽くしじゃないか」
腫れ物って……、正直すぎる。
子供って凄いよな、怖い者知らずで。
「……メイドさんに言いつけてやる」
「わ、悪気はないんだから止めてくれよっ!」
コルトが顔を青くして慌てる。
その程度の軽口で恐れられるメイドさんっていったい……。
「でもさぁ、あんちゃん。実際の話、エレレねーちゃんはどうするんだよ?」
「……どうもこうも、別に何もしていないし、何もされていない関係だぞ?」
この旅人バージョンのグリンさんでは、の話だが。
「でも、ほら、エレレねーちゃんは凄く頑張ってアピールしているじゃんっ。……ねーちゃんなりに、だけど」
それは仕方ないよ。
残念メイドなんだから。
それがチャームポイントなんだから。
「不良が偶々見せた優しさに勘違いしているようなものさ。若い娘さんにはよくある話だ」
「若いって言うけど、エレレねーちゃんはもう25歳だぜ。普通ならとっくに結婚してる年齢だよ」
そうだよなー、この世界は結婚適齢期が早いんだよなー。
25歳ならまだまだ全盛期で、日本だったらさぞモテモテだったろうに。
不憫なメイドや。
その不憫さが似合ってるから困る。
不憫萌えってこんな感じだろうか。
「メイドさんは精神年齢というか、恋愛経験者としてはまだ未熟だろう? だから一時的な気の迷いだと思うぞ」
「そうかなぁ。けっこう本気に見えるけどなぁ」
「そもそも、高嶺の花である彼女が路地裏の雑草にも劣るおっさんに目を向けるのが間違っているのさ」
「オレもそう思うけど、人の趣味は色々だし。実際になんで結婚したのか理解できないカップルもいっぱい居るし。エレレねーちゃんもかなり変わり者だからなー」
コルトは苦労しているだけあって、他人をよく見ているな。
そして何気に毒舌だな。
「それにあんちゃんは、ソマリお嬢様にも好かれてるだろう?」
「……あのお嬢様の言動を好き嫌いで表現すると多分に語弊がある。ただ単に絡まれているだけだ」
「もう何だっていいじゃん。この街でも美人で凄い人達から興味を持たれてるなら、男として素直に喜んでおけばいいじゃんか」
「……コルトよ、俺の地元には『薬も過ぎれば毒となる』という言葉がある。仮に魅力的な女性だったとしても、興味を持たれ過ぎては疲れるだけだ」
俺が珍しくまともなウンチクを述べているのに、コルトは「この贅沢者めが!」みたいな目で見てくる。
それも当然かもしれない。
俺だって他人からこんな話を聞かされたら、惚気話に聞こえてしまうだろう。
こればかりは、当事者にしか分からない問題なのだ。
「――――まあまあ、そんな生産性の無い話よりも、今日の予定は何か入っているのか、コルト? 暇なら俺とデートでもするかい? コルト専用のフリフリなスカートもちゃんと準備しているぞ?」
「……今まで他の女性の話をしてたのに、あんちゃんは見境がないのか、ありすぎるのかよく分からないぜ」
遊びと本気の違いってヤツだな。
「今日はオレ、これから大事な用があるんだ。だから、あんちゃんと遊んでる暇はねーよ」
勇気を出して誘ったのに、きっぱり断られてしまった。
そういえば今日のコルトは、ずっとソワソワしている気がする。
何だかいつもよりも、身だしなみを整えている気もするし。
「もっ、もしかしてっ、他の男とデートする気なのかっ!?」
「……何でそうなるんだよ。大事な用事だって言ってるだろ?」
「俺とのデートより大事な用なんてあるはずないだろうっ!?」
「だからー、そんな台詞はエレレねーちゃんに言えばいいのに……。そういう訳だから、またなあんちゃんっ」
つれないコルコルは、俺の誘いには見向きもせず、あっさりと出ていった。
貢いでも報われない世の男共は、こんな寂しい気持ちを味わっているのだろうか。
それでも彼女の笑顔が見たくて、また貢いでしまうのだろうな。
俺はそんな行為を愚かしいと思っていたが、違うのかもしれない。
報われないなら報われないなりの愉しさがあるのだろう。
「――――ああ、また、な」
そんなドM思考は置いておくとして。
俺は、よっこらしょっと勢いをつけて立ち上がり。
そのまま部屋から出た。
「あっ、おはようございます、ご主人様! 今日はお出掛けですかっ?」
「おはよう、リリちゃん。明日の夜まで帰らないから、適当に掃除をお願いするよ」
「かしこまりました!」
宿の一階で会った見習いメイドのリリちゃんに事情を話し、外へと出る。
……そして、目的地へと向かいながら、先日ウォル爺と交わした会話の内容を思い返していた。
◇ ◇ ◇
「……小僧、あの話は聞いておるか?」
いつものようにウォル爺の店でアイテムを換金した俺は、帰り際に強面ドワーフから話し掛けられた。
「ええ、もちろん聞いてますよ。例のあの話ですよね、あの話。ちょっと驚きましたが、全て抜かりなく万全で何の問題もないと思いますよ、はい」
苦手な相手の前から早く立ち去りたい俺は、適当に肯定する。
深入りして余計なトラブルに巻き込まれるのはゴメンだ。
「そうか、コルトから直接聞いているのなら、それで良いじゃろう」
「コ、コルトっ!? ……あっ、あー、そっちの方の話でしたかー。いやもちろんそっちも万全ですけどね。でも認識の齟齬があると後々問題になる可能性も否めないため、一応詳しく確認しておくべきでしょうね……?」
「…………」
「は、ははは…………」
ウォル爺の視線が痛い。
俺は懐からそっと酒を取りだし、お怒りの神にお供えした。
「……まったく、世間の情報を耳に入れようとしないのはお主の悪い癖じゃ」
「興味がない話を聞いてもすぐ忘れてしまうから、無駄を避けているだけですよ」
「己の興味が何よりも優先するところは、ソマリ嬢ちゃんとよく似ておる」
「…………」
そんなん似ていても全然嬉しくない。
お酒という賄賂を受け取ったんだから、余計な話はしないで早く本題に入ってくださいよ。
「――――以前、この街の領主が襲われた時、店の留守番を頼んだ事は覚えておるか?」
「えーと、はい、何となくですが」
「……あの件はこちらの借りだと言っておったじゃろう。その借りを、コルトに返す話じゃ」
おっ、ようやく中身が見えてきたぞ。
どうやらコルトだけじゃなく、俺も関係していたようだ。
「それで、何を返すんですか?」
「儂には相手が欲しがる物なんぞ分からん。じゃから、直接本人から希望を聞き、これに沿うことにした」
「…………」
「それが、冒険者の『実地研修』じゃ」
そういえばここって、冒険業を基幹産業とした街だったよな。
全然、全く、これっぽっちも冒険者の連中と関わってこなかったから、すっかり忘れていたよ。
その「実地研修」ってのは、入社したばかりの新人さんを鍛えるために実施する強化訓練みたいなものだろうか。
「通常の実地研修は、規定の15歳となり冒険者になったばかりの新人を対象に行う訓練。じゃが、一部を対象に冒険者になる前にも行う場合がある」
研修内容は、俺が想像するものと大差ないようだ。
問題は、まだ規定に届かぬ12歳のコルトが、事前に研修を受けるところ。
つまり、何かしら特別な理由があることを意味する。
「この事前研修を受けるには、三つの条件のうちどれか一つを満たす必要がある。一つめは、有力者の推薦。二つめは、多額の寄付金。三つめは、明確な素質じゃ」
なるほど……。
一つめと二つめの条件は、特権階級向けの措置だろう。
才能が無くとも、貴族や商人の子供らがその恩恵に与るシステム。
反則とまでは言わないが、どこの世界やどこの職業でも似たようなものだな。
むろん、そんな依怙贔屓ばかりだと組織として破綻するため、ちゃんとした実力枠も用意されているって訳か。
だけど、コルトの冒険者としての資質は、同年代よりは少々優れていても突出してはいない。
ステイタスでは表示されない要領の良さや頑張り屋や可愛さを加えたら、十二分に優秀だと思うけが。
残念ながら、そんなアイドル審査のような項目は評価されないだろうし。
となると、コルトが満たした条件は一つに絞られる。
「つまり、有力者としてコルトを推薦してくれるのですね?」
ウォル爺がその「有力者」を務める。
それが「借りを返す」ことになるのだろう。
そう、思ったのだが……。
「違う。儂は、こと冒険者に関しては一切贔屓などせん。それが本人のためじゃ」
ウォル爺は、首を横に振りきっぱりと否定した。
「えっ? だったら、冒険者に必要な素質には『可愛さ』も含まれるんですね?」
「……お主が何を言っておるのか全く理解できんが、コルトが認められた素質とは『魔法』じゃ」
「なるほど、コルトの『可愛さ』は、チャームの『魔法』にも匹敵すると言いたいんですね?」
「違うわいっ。……お主が持つ魔法薬は自分のために使った方がよさそうじゃな」
「ははっ、コルトからも言われましたよ。二人とも心配性ですね」
「…………とにかく、明確な素質として条件を満たしたのは、コルトの『水魔法』じゃ」
「水魔法?」
おや、最近どこかで聞いたキーワードだぞ。
「つい先日の話となるが、コルトの『水魔法』がランク3に上がっておった。お主も知っているように、魔法やスキルのランク3の難易度は、レベルでいうところの30に匹敵する」
「……」
「つまるところ、レベルはまだ十にも満たぬのに、ランク3の魔法を会得したコルトの才能を認めぬ訳にはいかんのじゃ」
「…………」
頭の中で、池の中に落ちた石から広がる波紋のイメージが浮かんだ。
この前の風呂場での出来事が、こんな形で影響してしまったのか。
ランク3なんて十段階ある中でまだまだ下位だから、大した魔法は使えないはず。
だけど、相対的に考えた場合、魔法やスキルが職業と密接に関連するこの世界では、その程度でも目立ってしまうのだろう。
さてさて、予想外のこの変化、鬼が出るか蛇が出るか……。
どっちも出てきちゃ駄目じゃん。
「……事前に研修を受ける資格を持つ者は確かに少ないが、特例で15歳になる前に冒険者と認められるまでの才能はコルトにはない。そんなもんはエレレのような一握りの天才だけじゃからな」
危険な冒険者になるのが早まった訳ではないと喜ぶべきか。
コルトの才能が見くびられていると憤るべきか。
似非保護者としては難しいところだ。
つーか、メイドさんはそんなに凄かったのか。
初耳だよ。
「これまでの話をまとめると、コルトは同年代の少年少女に比べると素質が高い方だから、少し早めに冒険者としての経験を積む機会を得た程度の認識で良いのでしょうか?」
「そうじゃ。コルトが冒険者になるのは以前から本人の希望なので、他人が口出しする事ではない。じゃから今回の実地研修はその時の糧になると思い、儂が冒険者ギルドに取り持ったのじゃ」
「では、特に危険が増す訳ではないのですね?」
「経験を得た後に冒険者になるから、むしろ安全が増すといえるじゃろう」
ふー、セーフセーフ。
なんだよもー、驚かせるんじゃねーよ。
そうだよな、ちょっとランクが上がったくらいで、劇的に運命が変わりやしないよな。
……でも、まあ、ちょっと身に染みたかな。
今度からは、もうちょっと自重しよう。
いくらコルトに格好いい所を見せたいからって、やりすぎは良くない。
一つの系統の魔法ランクが上がり過ぎると目立つみたいだから、今度からは別系統にしておこう。
今日も今日とて事もなし、である。
「――――じゃが、実地研修の最中には危険がある」
ほっとした俺の隙を狙ったかのように、ウォル爺が厳しい言葉を突きつけてきた。
なるほど、これが上げて落とすテクニックか。
「……危険、とは?」
「実地研修じゃから、その名の通り街の外に出て魔物との戦闘を直接見学することになる。むろん、指導に当たる冒険者は実力者を選ぶし、低ランクの魔物との戦闘を厳守させるが、偶然に強力な魔物から襲われるような危険はつきまとうじゃろう」
子供に初めてのお使いをさせ自立心を養うのはいいが、途中で交通事故に遭うといった望まぬ経験も増える恐れがあるってことか。
「何かを得るためにリスクを負うのは、何事でも同じでしょうね」
「運も含め冒険者としての素質なんじゃが……。コルトと交流のあるお主にも事前に伝えておくべきと思ったのじゃ」
その判断は、きっと正しい。
もしも、全て終わった後に知った時、コルトの身に何か起こっていたら、俺はウォル爺に八つ当たりしただろうからな。
……情報が出揃ったところで、さて、どうしようか。
万全を期すのであれば、この場でウォル爺に酒を渡して買収するなり、直接コルトを説得するなりして、実地研修を中止させるのが確実だろう。
だけど、コルトが15歳となり、実際に冒険者となった後の生存確率を上げるためには、今回の研修は必ず役に立つ。
このような状況を考慮しつつ、今は蚊帳の外だけど保護者を気取りたい俺が出来る事といったら――――。
「……大変有益な情報を提供頂きありがとうごいました。これは心ばかりの品――――お酒です。どうぞお納めください」
「猿芝居はやめい。そもそもお主がコルト本人から話を聞いておれば、儂がわざわざ忠告する必要などなかったのじゃ」
あーあ、言っちゃったよ。
俺が必死に考えまいとしていた悲しい現実をはっきりと指摘されちゃったよ。
……違うよな?
コルトから信用されていない訳じゃないよな?
ほら、俺に心配かけまいとする、彼女なりの優しさだよな?
そうだと言ってくれよっ!?
「はっ、はははっ、コルトは照れ屋さんだから、上手く言い出せないだけだと思いますよ?」
「…………」
ウォル爺の呆れた視線がとても辛い。
まだ話は終わっていないのだから、気をしっかり持たねばっ。
「そ、それはともかく、コルトに返した『借り』とやらは、俺にもあるんですよね?」
「……ああ、そうじゃが?」
「――――でしたら、その『借り』、今すぐ返してくれませんか?」