お嬢様とメイドの奮闘記⑪/四月は誰の嘘?
「あら、今日はミシルとコルト君だけなのね? 旅人さんはどうしたのかしら?」
月に一度の約束の日。
それは、唄って踊る人形売り商売の関係者三人と、無関係な二人が集まって実施される晩餐会。
主催者であるはずの中年男は認めようとしないが、少なくとも女性4人の認識ではそうなっている。
るんるん気分でその待ち合わせ場所に出向いたお嬢様とメイドは、お目当ての相手が居ないことに気づいた。
「あんちゃんは、『どうせまた俺の部屋に来るんだろう? 嫌だと言っても無理矢理押しかけるんだろう? だったら、目的地は俺の部屋なんだから、わざわざ俺が外に出る必要はないよな?』とか駄々をこねて、部屋から出ようとしないんだよ、ソマリお嬢様」
「そそそうなんですっ、ソマリ様っ」
ソマリの問い掛けに、仲良く二人で待っていたミシルとコルトが答える。
「……旅人さんって、慣れてくるとすぐ雑になるわよね」
その雑な扱いに慣れてしまったお嬢様が、さもありなんとばかりに嘆息した。
「きっと旅人さんは、慣れて飽きた女をぽいって捨てちゃうタイプよね」
「あんちゃんって、そんなとこあるんだよなー」
「そそそんなっ…………」
この場に居ない男への批判に、同意する声と、悲観する声が上がった。
同意する気持ちも多少あったが、言われ放題の想い人に同情する気持ちが優ったメイドが口を開く。
「グリン様は、最近暴走ばかりしているお嬢様の来訪を暗に批難されているのだと思いますが?」
「――――さあっ、全員揃ったからすぐ出発しましょうっ。旅人さんを待たせたら可哀想だしねっ!」
メイドの辛辣で的確なツッコミを無視するお嬢様を先頭に、一同は男が住む部屋へと向かうのであった。
◇ ◇ ◇
――――コンコン。
部屋のドアがノックされる。
「入ってまーす」
俺は返事をする。
「――――」
しばらく間が空く。
「……失礼するわよ、旅人さん」
そして、許可なくドアが開き、お嬢様をはじめとした四人の女性が俺の部屋に入ってきた。
「入っていると言ったはずだが?」
「旅人さんの部屋は、いつからトイレになったのよ……」
ふん、不可侵な聖域って意味だと同じだろうさ。
「すすすみませんっ、おおお邪魔だったでしょうかっ!?」
「いやいや、そんな訳ないだろう? だってこれは、ミシルとコルトのための会議だからな」
名前が出なかった者は歓迎されてないぞ、との視線を向けると――――。
「…………」
お嬢様は、そっぽを向いて気づかないふりをした。
「…………」
メイドさんは、ぺこりとお辞儀してにっこり微笑んだ。
まったく、その図太さを繊細な俺に分けてほしい。
「――――って、何で部屋の中だけがこんなに寒いのっ!?」
異変に気づいたお嬢様が、両腕で身を抱えて震えながら騒ぎ出す。
まあ、彼女は概ね騒いでばかりだが。
「もちろん、今夜の食事のための趣向だ」
この部屋の温度は十度近く。
魔法を使って、日本の冬期並に温度を下げているのだ。
さながら、ガスも電気も使用しないエコなクーラーである。
本日に限って何でこんなギミックを施しているのかと言うと――――。
「この辺は年中暖かいらしいから、俺の地元の寒い時期を演出しているんだ」
そう、オクサードの街を含むここいら一帯は、一年を通して春期みたいな陽気な気候だという。
とても過ごしやすいのだろうが、四季の変化を楽しむのに長けた日本人からすると物足りない。
特に、その季節に合った料理を美味しく食べられないから困る。
だから今回は趣向を凝らし、冬の定番である鍋料理を楽しもうと画策したのである。
「簡潔に説明すると、寒い時に食べた方が美味しい料理を楽しみたいから、部屋の温度を下げているんだ」
「……相変わらず、普通の人が無駄だと思うところに頑張るわよね、旅人さんって」
「グリン様の料理に注ぐ情熱は素晴らしいと思います」
「なあ、あんちゃん、温度を操る魔法って凄く難しかったと思うんだけど?」
「そそそれなら今日の料理も凄く楽しみですっ。でででもでもっ凄く寒いですっ」
お嬢様、メイドさん、コルト、ミシルの順番で感想が述べられる。
概ね好評のようだ。
「寒さ対策についても抜かりない。何故なら今俺が入っている、このコタツという名の人類史上最高の暖房器具があるからな!」
コタツ最高!
特にうたた寝好きにはたまらない逸品だ。
「……大量の魔力を使って、難しい温度調整魔法で寒くして、最後には道具で暖かくするって、全く意味が分からないのだけど?」
お嬢様が呆れた表情で呟いている。
これだから風情を理解できない野蛮人は嫌なのだ。
もっと俺を見習って雅に生きてほしいものである。
「不満があるのなら、無理に俺の部屋で食べる必要はないんだぞ?」
「――――今日はどんな料理なのかしら? すっごく楽しみね!」
白々しく明るい声を出しながら、俺の隣に入ってくるお嬢様。
害虫に農薬を散布しすぎると耐性がつくそうだが。
段々と厚かましさが増していくお嬢様は、それと同じだろう。
「あらっ、布団を被せているだけかと思ったのに、この中は本当に暖かいわねっ」
シンプルな機能美が、コタツの素晴らしさだからな。
「それでは、ワタシも失礼して…………」
お嬢様に対抗するかのように、俺のもう片方の隣に陣取るメイドさん。
正方形のコタツなんだから、他の三辺に座ればいいものの。
あまりくっつかないでくれ。
俺の加齢臭が移ったらどうすんだよ。
「……オレはここにするぜ、あんちゃん」
「……わわわたしはっ、ここにしますっ」
コルトはため息交じりに、ミシルは少し羨ましそうにしながら、俺から見て右側と左側の一辺に座った。
これだと、俺の正面だけが空く格好になるのが、ちょうど良い。
「それじゃあ、始めるとしよう。具材を入れてくれ、リリちゃん」
「かしこまりました! ご主人様っ」
残った正面には、部屋の隅で待機していたメイド見習いのリリちゃんが位置した。
この部屋で最初に反省会を行って以来、リリちゃんは欠かせない存在になっている。
特に鍋料理はお世話役が居た方が良いからな。
さあ、鍋パーティの始まりだ!
「「「…………」」」
リリちゃんが次々に入れる具材が、ぐつぐつと煮立っていく。
それを不思議そうに覗き込む面々。
この世界の料理は焼くだけのシンプルな調理方法が基本なので、日本では一般的な光景も珍しいのだろう。
いくら珍しかろうと、ただ見ていても仕方ない。
鍋料理は目の前で仕上げるため、少々時間を要する。
その間は談話に興じるとしよう。
「そういえば、今日はいつもより更に変な服を着ているのね、旅人さん?」
俺の衣替えに気づいたお嬢様が、ちょんちょんと袖を引っ張りながら聞いてくる。
それはともかく、俺がいつも着ている機能美溢れる素敵な作業着をディスるとはいい度胸だな、おい。
「これはドテラといって、寒い時に着る俺の地元の民族衣装だ。どうだ、可愛かろう?」
もこもこして柄が入っているドテラって可愛いよな。
俺は両腕をぱたぱたさせて、可愛さをアピールする。
「……可愛いって言葉は、旅人さんから最も掛け離れた褒め言葉だと思うのよね」
中年の男だからって、侮るなよ。
おっさんにだって、可愛さに対する妙な憧れがあるんだぞ。
「グリン様、ワタシは可愛いと思います」
「おおっ、流石は万能と名高いメイドさん、大した審美眼じゃないか。よしよし、そこまで言うのならメイドさんも着てみるかい?」
「ワタシはメイド服が最も似合う女ですので、ご遠慮しておきます。それと、エレレとお呼びください」
「…………」
キャバ嬢が得意そうな営業トークで振られてしまった俺は、コルトとミシルに視線を向ける。
「オレも遠慮しておくぜ、あんちゃん」
「あああのあのっ、そそそのそのっ」
どいつもこいつも…………。
どうやらこの世界の美的感覚は少々ズレているらしい。
一夫多妻制や食生活など、文化の違いが生む認識の違いは如何ともし難い。
「――――よし、もう十分だろう。リリちゃん、みんなに配ってくれ」
「はいっ」
雑談している間に十分煮詰まっただろう。
度重なる食事会で手慣れているリリちゃんが、鍋の中から具を装い各々に手渡ししていく。
この「装う」――――外観を美しく飾る、といった意味を持つ言葉を料理に使うところに、日本の料理文化に対する拘りを感じてしまう。
「リリちゃん、俺は肉だけでいいから。エレレ嬢とミシルとコルトはバランス良く。お嬢様は野菜とアクだけでいいから」
「はーい」
「勝手に決めないでよっ!?」
「野菜は美容と健康に良いから、貴族のお嬢様に気を使ったんだが?」
「旅人さんが誰かに気を使う訳がないでしょ? 絶対、さっき私が可愛くないって言った仕返しでしょ?」
仕返しされるような真似をした方が悪い。
「……それはともかく、鍋から直接取りながら食べる料理は初めてだけど、何だかとっても楽しいわね」
気を取り直したお嬢様が興味深そうに感想を述べた。
コルトとミシルも同じ感想のようで、うんうん頷いている。
こんな風に、この世界の住民がもっと料理に興味を持てば良いのに。
そうして料理文化が進展すれば、俺の部屋で俺の魔法で出した俺の地元の料理を食べるなんて悲しい真似をしなくて済むのに。
「もう一杯いかがですか、グリン様」
「ああ、ありがとう」
俺の隣に座るメイドさんは、最初に会った時と同じように甲斐甲斐しくお酌してくれる。
「ほら、エレレ嬢も遠慮せず飲んでくれ」
「はい、いただきます」
あの時との違いは、メイドさんも飲んでいること。
見た目通りというか、かなりいける口だ。
あまり酔いが回らない体質のようで、一安心。
普段から脱ぎ癖がある彼女が酔って本格的に脱ぎだしたら、十八歳未満はお断りの乱交パーティーになっちゃうからな。
いや、一八歳以上は俺とメイドさんの二人だけだから、乱交にはならないか。
残念。
「うん、美味い…………。やはり寒い日の温かい鍋には、熱燗がよく合う」
本日の晩酌は食事の雰囲気に合わせて、日本酒にしてみた。
苦い酒が苦手な俺にしては珍しいチョイスだが、昨今の日本酒は甘めも多い。
まるで雪解けの季節に香る花のように華やかで、果実のようなフルーティーさと酸味によるキレが素晴らしい純米大吟醸である。
飲みやすいとはいえ、日本酒を楽しめるようになると、本当のおっさんになったのだと実感できるよなぁ。
「料理を食べるだけで、こんなにも体の芯から温かくなるなんて知らなかったわっ。旅人さんが環境から整えるだけあって、本当に寒い時に美味しい料理なのねっ」
「うめーっ、でもあちーっ、でもやっぱりうめーっ」
「だだ出汁がすごく美味しいですっ」
好評で何より。
そしてミシルは、相変わらず目の付け所が渋い。
「どれ、俺もいただこう」
コルトが言ったように、すごくうめー。
程よく冷えた体を内側から溶かしていくような旨さがたまらない。
今回は初めての鍋料理なので、スタンダードな味噌味のちゃんこ鍋にしてみた。
味噌は日本特有らしいが、この世界でも問題なく楽しめるらしい。
やはり日本料理は偉大だな。
慣れていけば段々と珍しい具材にも挑戦し、最後には闇鍋をやってみたい。
アニメや漫画でよく見るから、一度試してみたいんだよな。
大抵失敗するのは分かっているけど、怖い物見たさって奴だ。
その時は魔法を駆使してでも、絶対お嬢様に変な物を食べさせてやる!
「――――最後は、雑炊にするか」
具材が無くなった後は、余った汁を活用し、ご飯と卵を入れて締めの雑炊とする。
これがまた美味いんだよな。
麺で締めるパターンもあるが、俺は断然ご飯派だ。
十二分に汁を吸い込み、米が完全体へと変貌するのを根気よく待つ。
味が染み込む前に食べるのは愚の骨頂である。
「めっ!」
待ちきれず手を伸ばすお嬢様達を制止しながら、鍋奉行ぶりを発揮する。
最後の待ち時間は最後のスパイスなんだから、我慢しなさい。
「……よし、もう良いぞ」
許可とともに猛然と食べ出す少女達を見ていると、猛獣を管理している気分になる。
彼女達が色気より食い気を卒業するのは、まだまだ先の事であろう。
嬉しいような、情けないような。
世の父親はこんな気持ちを抱いているのだろうか。
「最後の最後は、デザートだが……」
残念ながら、鍋料理にぴったりなデザートを思いつかなかった。
だから、コタツと相性が良いミカンをそのまま出す。
手の込んだ極上のスイーツを期待していたメイドさんは若干残念そうだが、我慢してくれ。
コタツで食べるミカンは格別だからな。
段々とミカンの需要が減少しているのは、コタツを使わなくなった家が増えているから、かもしれない。
それくらい、ミカンとコタツとはベストマッチしているのだ。
さらに猫が居れば完璧だろうが……。
猫は嫌いだから呼びたくない。
どうせ猫舌だろうから、鍋には合わないだろうしな。
…………こんな感じで、一風変わった晩食会は過ぎていった。
寒い日に行うコタツでの晩餐は。
美味しい料理だけでなく、食事の後にもお楽しみがある。
「あー、もうお腹いっぱいだーーー」
満足した俺は、そのまま後ろに倒れ込み、睡眠体勢へと移る。
そう、食後にすぐ寝れるのも、冬のコタツならではである。
「ううっ、は、腹が痛い……」
「もももうっ食べれませんっ……」
食べ過ぎて動けなくなったコルトとミシルも横たわったようだ。
すぐにコタツの魔力に負けて、寝息を立て出すだろう。
慰労会の翌日はお店を休みにしているから、この二人は泊まっていっても問題なかろう。
「リリちゃんも、もう休んでくれ。片付けは明日でいいから」
「かしこまりましたっ、ご主人様っ」
リリちゃんを送り出したら、本日の晩餐は全て終了である。
俺もこのまま寝てしまおう。
「――――ねえ、エレレ。私もミシルと一緒に泊まっていくから、お父様には友達の家に泊まるって上手く伝えておいてよね?」
「ワタシはお嬢様の護衛です。ですから、お嬢様から片時も離れる訳にはいきません」
うとうとしてきたところに、空気を読まない二人の声が聞こえてくる。
お嬢様とメイドさんも横たわってしまい、帰るのが億劫になったようだ。
「むしろ、お嬢様が屋敷に戻って、ワタシはしばらく臨時休暇を取ると伝えておいてください」
「私を一人で帰そうとするなんて、さっきと言っている事が違うじゃない」
俺を真ん中に挟んだまま、両側から話すのはやめてくれませんかね。
特に距離が近いメイドさんの吐息が耳にあたって、その、くすぐったいのだが。
「……二人して漫才やってないで、さっさと帰ってくれ」
身分のある女性が何の関係もない男の部屋に泊まるのは不味かろう。
俺はこれ以上領主様に目を付けられたくないぞ。
「あっ、そういえば屋敷を出る時、泊まるかもしれないって伝えていたから問題ないわよね、エレレ?」
「はい。ワタシというお守りが居るので何ら問題ありませんね、お嬢様」
「おいこら……」
都合が悪い時にだけ結託するのは反則だろう。
問題だらけだろうがよ。
「…………」
……だめだ、コタツの魔力に負け、ツッコむ気力も失せていく。
まあ、お嬢様もメイドさんも色々とアレな性格をしているが、曲がりなりにも領主家のご令嬢とそのお付き。
そんな責任ある立場だから、何だかんだ言っても、夜が更ける前にちゃんと帰っていくはずだ。
だから、目くじらを立てて注意する必要はない、はず…………。
……寒い日に、暖かいコタツの中で、お腹いっぱい。
これ以上、睡眠を誘う場面が存在するだろうか?
だろうか……。
か……。
……。
「ぐー…………」
お休みなさい。
◇ ◇ ◇
翌朝。
誰よりも早く起きた俺は。
コタツの中でだらしなく眠る四人の乙女を見て頭が痛くなったので。
朝風呂に入りながら現実逃避を図る…………。
「……どうすんだよ、これ」
結局泊めてしまったじゃねーか。
これはもしかしなくても、これまでギリギリ耐えていた一線を越えてしまったのではなかろうか。
コルトは、いつものことだから、全く問題ない。
ミシルは、お年頃の娘さんだが、独立した一人暮らしだし、コルトも一緒だから大丈夫だろう。
メイドさんは、色々と噂になるかもしれないが、クリスマス越えの立派すぎる大人の女性だから、ギリギリセーフと思いたい。
だけどお嬢様。されどお嬢様。
あんたは駄目だ。駄目駄目だ。
たとえ従者や友達が一緒だったとしても、男の部屋に泊まったとあっては言い訳がつかない。
お父様に殺されてしまう。
主に俺が。
「うーん……」
婚約者話をもう一度ぶり返せば許されるかもしれないが……。
せっかく沈静化しつつあるのに、蒸し返すなんて冗談じゃない。
「ぶくぶく…………」
湯船に沈みながら、考える。
こんな時ほど冷静にならねば。
しかし、この窮地を覆す手は本当にあるのだろうか。
どうせ誤解されるのなら、いっそのこと本当に襲ってしまった方が損益を相殺できるのではなかろうか。
……いやいや、ヤケになってどうする。
思考を破棄するな。
サイコロ回して頭も回すんや。
俺なら出来る。
出来る出来る出来るったら出来る。
多種多様な力を持つ俺ならスマートに解決出来るはずだ!
「――――ぼがっ。これだっ!」
そして、最高にスマートな打開策を見つけ出した俺は。
すぐさま風呂から飛び出し。
ヨダレを垂らしながら呑気に眠っているお嬢様に襲いかかった。
むろん、全裸で。
◇ ◇ ◇
「――――っ!」
「…………」
「――――いっ、痛いっ!?」
「…………」
「――――頭が痛いわっ!!」
「ようやくお目覚めですね、お嬢様。あむあむ」
「エ、エレレ? ……どうしてかしら、頭が物凄く痛いのだけど?」
「お嬢様は、昨晩、たくさんお酒を飲んだため、二日酔いだと、思われます。あむあむ」
「お酒なんて、一滴も飲んだ記憶がないわよ?」
「人は、お酒を飲み過ぎると、記憶をなくす、そうです。あむあむ」
「……仮にお酒が原因だったとしても、飲んだこと自体を忘れるのは変よね?」
「お子ちゃまなお嬢様は、お酒に慣れていないため、そうなった、と思われます。あむあむ」
「……それに、ここは旅人さんの部屋じゃないわよね? 人形がいっぱい置いてあるから、たぶんミシルの部屋だと思うのだけど……。現に、隣でミシルとコルト君も寝ているし……」
「昨晩、無様に酔って暴れ出したお嬢様は、グリン様の部屋を飛び出し、『二次会行くぞごらぁーっ!』と喚きながら、泣いて嫌がるミシルの部屋に無理矢理押しかけ、そのまま寝てしまったのです。あむあむ」
「…………誤魔化すつもりなら、せめて棒読みをどうにかしなさいよ。旅人さんから教えられたまま言っているのが丸わかりじゃない。それに、さっきからずっと食べているお菓子が、旅人さんに買収された証拠じゃない」
「事実無根です。あむあむ」
「何よりも、さっきからずっと食べているお菓子が、旅人さんに買収された証拠じゃない」
「お嬢様の分はありませんよ。あむあむ」
「どうせ、強引に解決するのが大得意な旅人さんのことだから、寝ている私に無理矢理お酒を飲ませて、転移アイテムを使って断りなくミシルの部屋に放り込み、エレレを嘘の証人に仕立てて誤魔化そうとしているのでしょう? まったく、女との逢い引きを隠すためだけに稀少なアイテムを消費するだなんて非常識にも程があるわよ。そんなにするまで私達と噂になるのが嫌だなんて、流石にちょっと傷つくわよね」
「グリン様は、嫁入り前のお嬢様を気遣っていらっしゃるのです。ああ、なんてお優しいのでしょう。あむあむ」
「全部が全部、自分の保身のためじゃないっ。もうっ、せっかく弱みを作れそうだったのに、台無しだわっ!」
「あむあむ」
「そもそも、頭が痛くなるまでお酒を飲ませる必要なんてないじゃないっ。しかも、私だけが飲まされたみたいだし!」
「あむあむ」
「――――ううっ、話をする度に頭が痛むわっ!!」
「せこい真似ばかりするから痛い目に遭うのですよ、お嬢様。あむあむ」
▼あとがき
エイプリルフールのネタとして
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