表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/276

◆記念日に幸せな夢を◆




 それは、男が見た夢。


 きっと、おそらく、ゆめ。


 夢の中で見る夢は、ユメかウツツか……。






≪ メイドの場合 ≫



「…………ご無沙汰しております、グリン様」

「お、おう」


 ずーんとした効果音と淀んだ背景が見えそうなまでに、分かりやすく落ち込んだメイドさんが挨拶してきた。

 感情の起伏は人並みだが、人並み以上に感情の変化が表に出にくい彼女にしては、とても珍しい。


「なあ、お嬢様。お宅のメイドさんは、どうかしちゃったのかな?」


 直接本人には聞きにくいため、隣で苦笑していたお嬢様にこっそり問い掛ける。


「それがね、旅人さん。エレレってばね、衝撃の事実を知って落ち込んでいるのよ」


 衝撃の事実、ね……。

 何だろう、詳しく聞かない方が良さそうな気がする。


「実はね、これまで恋愛や結婚に縁がなかったエレレは、仮に何歳になったとしてもお互いが愛し合ってさえいれば結婚できるって思っていたらしいのよ」


 うん、結婚なんかにこれっぽっちも興味がない俺も、そんな認識だが。

 実際に晩年婚なんてヤツもあるらしいし。


「確かにね、結婚はいつでもできるのよ。初老の貴族が十代の幼妻を迎えるなんて珍しくない話だしね」


 うん、やっぱり、貴族は滅ぼした方が良さそうだ。


「……でもね、結婚はできても、子供を産める年齢には限界があるって知らなかったのよ、エレレは」

「………………」


 どうしろと?

 俺に何とコメントしろと?


「この前に偶然、30歳を超えると妊娠しにくくなるって話を聞いてしまってね、それで落ち込んでいるのよ」


 本当に偶然なのか、仕組まれた罠なのか……。

 とりあえずメイドさんは、保健体育をしっかりとお勉強した方が良いだろう。

 大概手遅れな気もするが……。

 きっと、戦闘と甘い物以外にリソースを割いてこなかったんだろうなぁ。


「さ、さいですか……」


 女性の生態に関して、俺はただ相槌を打つことしかできない。

 特に出産可能な年齢の話題は、とてもデリケートだ。

 この件で失言して干された芸能人も居るし。

 ここは、知らない振りをするのがベストであろう。

 実際、妊娠どころか結婚にも興味がない俺が詳しく知るはずもないのだが。


「知らなかったとはいえ、焦るのも仕方ないわ。だってエレレも、もう29歳だものね」


 ――――そう、俺がお嬢様とメイドさんと出会ってから、4年が経過していた。


 当時、17歳だったお嬢様は、21歳に。

 25歳だったメイドさんは、29歳に。

 そして、36歳だった俺は…………、まあ、男の年齢なんてどうでもいいな。


 4年の月日を数えても、俺を含めた三人の外見はさほど変わっていない。

 成長期であったお嬢様は、多少背と髪が伸びたようだが、お転婆な顔つきと性格は変わらない。

 胸部も同様である。


 メイドさんは元々成人女性だったので、変わり様がない。

 いや、むしろ当時よりも肌にハリが出て、若々しく感じられる。

 恋する女性は美しくなると聞くが、はてさて……。


 そんな訳だから、歳について気にしていなかったのだが、見かけよりも内側に問題があったらしい。

 俺も完全に失念していた。

 知っていたとしても、何もないはずなのだが…………。


「――――グリン様」

「はっ、はいっ!」


 メイドさんが、今までで最も怖い顔と声で話し掛けてきたので、反射的に返事をしてしまった。


「ワタシは、いつになったら結婚できるのでしょうか?」


「いやいや、俺に聞かれても」――――と口に出そうとしたが、流石に自重する。

 強すぎるせいで男性から気後れされている彼女だが、もし本気になれば結婚相手を見つけるのは容易いだろう。

 それほどの魅力が、彼女にはあるのだから。


「――――――」


 メイドさんの視線が、俺を捉えて放さない。


「………………」


 ……そうだよな。

 目を背けるのは、もうよそう。


 彼女は、答えを求めている。

 ならば、それに応じるのが男としての役目。

 たとえ、彼女を泣かせる結果になったとしても、だ。

 俺流に言えば、ぬるま湯の関係に飽きてしまったのだ。


 ――――奇しくも、今宵は満月。

 あの時の月夜の晩に言えなかった言葉を伝えるのも、悪くないだろうさ。


「今晩……」

「…………」


「話したい事があるから、時間をくれないか?」

「――――はい。お待ちしております」


 メイドさんは、微笑みながらお辞儀して、屋敷へと戻っていった。


 ……正直、まだ躊躇いがある。

 夜までには少し時間があるから、自分の気持ちをちゃんと確かめよう。

 とにかく、今の正直な答えを見つけるべきなのだ。


 幸いにも――――と表現していいのか微妙なところだが。

 今の俺には、俺以外の誰かを受け入れるだけの余裕がある。

 この数年で色々あった。

 本当に、色々ありすぎた。

 まさかアレがああであんな感じになってしまうとは……。

 漫画好きで超展開も見慣れている俺でも、ビックリな日々だった。


 アレに比べたら、人生最大の無駄、もとい最難関と思っていた結婚さえも、何とかなりそうな気がする。

 人生経験の積み重ねによる耐性というか、麻痺してしまったというか、諦めてしまったというか。

 まったく、慣れというものは恐ろしい。

 もしくは、お嬢様の好奇心に感化され、未知への興味が強まっているのかもしれない。


「あらあら、旅人さんも遂に観念したようね?」


 メイドさんに置いていかれたお嬢様が茶化してくる。

 あんたは護衛対象なんだから、ちゃんと一緒について帰りなさいよ。


「……ふん、俺はいつだって、悲しむ女性を黙って見過ごせない紳士なんだぞ」


 似非紳士だけどな。


「4年も放っておいて、どの口が言うのかしらね?」


 うるせえよ。


「でも、良かった……、これで私も安心できるわ…………」


 お嬢様が、嬉しそうに呟いた。

 何だかんだ言っても仲が良い主従関係だ。

 エレレ嬢の幸せを一番願っているのは、お嬢様なんだろう。


「本当に良かったわっ。私も20歳過ぎたから焦っていたのよ。これで約束通り、エレレと一緒に私も娶ってくれるわよね、旅人さん?」

「…………」


 そんな約束してません。






≪ 水の巫女の場合 ≫



「当代の水の巫女様――――メイアナ様は、本日限りでお役目を終えられます」

「……はあ」


 その日。

 俺は何故だか、水の都の神殿に連れ込まれていた。


「水の巫女様のお役目が30歳までである理由をご存じですか?」

「……さあ」


 連れ込んだのは、水の巫女さんではない。

 彼女のお世話役である女性達だ。

 俺とは初対面のはずなのだが……。


「30歳であれば、まだ結婚も出産も可能だからです」

「……へえ」


 椅子に座る俺をぐるっと囲むように、大勢の女性が立ち並んでいる。

 話題の主である水の巫女さんは、この場に居ない。


 なに、これ?

 カゴメカゴメなの?

 ゼーレの異端審問会なの?


「これは、今まで水の巫女様にもお伝えしていなかった話となるのですが、過酷な任務を満了された巫女様には、幾つかの特権が与えられます」

「……ふむ」


 まだ少しだけど、ようやく話が見えてきたぞ。


「そのうちの一つが、この水の都に在住する男性であれば、誰とでも結婚できるといった特権です」

「……おや?」


 話がきな臭い方向へ進んでいる気がする。


「――――メイアナ様は、その結婚相手として、あなたを指名されました」

「……んん?」


 ほら、俺の悪い予感は、たまに当たるのだ。


「…………すまないが、意味が分からない。俺は、その、彼女の父親なんだが?」


 この大義名分があったから、これまで密会を許されていたと思っていたのだが。

 密会といっても、何一つ手なんて出していないのだが。


「あなた様がどこの誰であるのかは、最後まで判明しませんでした。……しかし、メイアナ様の実の父親でない事だけは明確です」


 そうだよなぁ。

 普通に調べれば、それくらい分かるよなぁ。


「水の巫女様が望むのであれば、仮に父親であっても関係ありません。水の都の住民は、これを断る権利を持っていないのです。――――たとえ、血の繋がりがあっても、年端も行かぬ少年であっても、素性が知れぬ怪しい男であっても、です」


 その怪しい男が俺ですね、分かります。

 ……それにしても、綺麗な都だと思っていたら、こんなにも怖い裏ルールがあるとは。

 流石は、たった一人の若い女性を犠牲に発展してきた都だな。

 恐れ入る、というか怖い。

 もう帰りたい。


「話は概ね理解した。……だけど俺は、この都の住民ではないから、命令に従う義務はないはずだぞ?」

「その通りです。――――ですから、こうやってお願いしているのです」


 えっ、これってお願いだったのっ?

 どう見ても、逃亡しないように囲い込んで脅している風にしか思えないんですけど?

 俺に視線を向ける女性達は、ゴミ虫を見るかのように嫌悪感いっぱいなんですけど?


「ち、ちなみに、断ったら、どうなるのかな?」

「メイアナ様にとって、そしてあなた様にとって、悲しい結末になるでしょう」


 それって、水の都の機密を知った俺が殺されて失踪扱いになるエンドだよな。

 間違いなくバッドエンドだよな。


「ち、ちなみに、聞き入れた場合は、報酬とかあるのかな?」

「はい。一つだけですが、あなた様の願いを叶えます。むろん、この都に限る事になりますが」


 毒を食らわば――、という訳ではないが、この際、受け入れてメリットを探した方が良いのかもしれない。

 そんな譲歩案を考えてしまうほど、この場には逆らっては駄目な空気が流れている。

 大勢の女性から敵意を向けられるのが、こんなに怖いとは知らなかった。


「なるほど…………。だとすれば、メイアナ嬢と結婚した後に、この都に住む別の女性を第二夫人として迎え入れることも可能なのかな?」

「……はい、その程度であれば問題ありません」


 第二夫人と聞いて、周りの視線が一層厳しくなった気がするが、気にしまい。

 もうここまで来たら、気にするだけ損である。


 しかし、そうか、そうなのか……。

 つまり。

 いつまで経ってもデレてくれないミズっちを手に入れる事ができるのか。


「――――」


 これは、最後のチャンスかもしれない。

 俺が結婚する、最後のチャンス。

 そして、ミズっちと結ばれる、最後のチャンス。


 水の巫女さんも、まあ、容姿は美しいし、性格も可愛いと言えなくもないし。

 アニメっぽい水色の長い髪はポイント高いし。


 巫女さんとミズっちは仲が良いから、俺を含めた三人で穏やかな日々を送れるかもしれない。

 水の都が生活面でもバックアップしてくれるだろうしな。


「そうか……、それも悪くないのかも、しれないな…………」

「それでは、返事をお聞かせ願えませんか?」


 ああ、答えは決まったよ。


「俺は――――――」






≪ シスターの場合 ≫



 その日――――。

 今や立派になった自然崇拝教の教会にて。

 金髪で巨乳なシスターは、俺に向かって厳かに宣言した。


「――――主様、わたくしも25を数える歳となりましたので、子供を授かろうと思います」


 そうか、初めて会ったのは彼女が22歳の頃だったから、もう3年が過ぎたのか……。

 高校生だったら、もう卒業して大人になる程の長い時間が過ぎてしまったのか…………。

 ということは、当時36歳だった俺もアラフォーにクラスチェンジしちゃったか………………。


「主様? わたくしの話、ちゃんとお耳に届いてございますか?」

「あ、ああ、もちろんだとも」


 清楚が売りのシスターからいきなり生々しい話をされたので、ちょっとトリップしていたようだ。

 子供を授かるとは、つまり、誰かと結婚し、誰かと子供を作り、誰かの子供を産むってこと。

 ふん、どうせ巨乳に惑わされたエロオヤジがお相手なのだろう。

 確かに一大イベントだが、わざわざ俺に伝える必要はないと思うのだが。


 それにしても、まさか彼女にそんなお相手が居たとは意外だ。

 ……いや、そう思いたいのだろうな、俺が。


 俺とシスターの関係は、最初に出会った時から大して変わっていない。

 ありていに言えば、友達だろうか。

 そんな付き合いの長い友達からいきなり、「あたしぃ、今度結婚すんだよねぇー」って聞かされたら誰でも動揺するはず。

 そう、あまりにも突然で予想外な話だったからビックリしただけで、これは、その、嫉妬とかそういう感情じゃないはずなのだ。


 でも…………。

 やっぱりちょっと、寂しいのかもしれない。


「……つきましては主様から、ご許可を頂戴したいのですが?」


 なぜ俺が、シスターの縁談に許可を出す必要があるのだろうか?

 彼女はたまに、意味不明なことを言い出すから困る。

 もしかしたら、翻訳アイテムが変な風に意訳している可能性もある。


 ええと、許可ってのは反対しないって意味だから…………。

 要するに、新婚生活の門出を祝ってくれるか、と聞いているのだろうな。


「ああ、もちろん歓迎するとも。……幸せになってくれ、シスター」


 だから俺は、祝福の言葉を述べた。


「――――ああっ、感謝しますっ! これでわたくしも主様の子供を授かる事ができるのですね!!」


 そう歓喜しながらシスターは、両手を大きく広げて、誰かを受け止めるようなポーズを取った。

 誰かって、…………誰だ?


「ちょ、ちょっと待ってくれっ。その、聞き間違いじゃなければ、俺とシスターとの子供が欲しいって聞こえたんだが?」

「いえいえ、ご安心くださいまし」


「そうかそうか、やっぱり聞き間違い――――」

「主様は間違ってなどおりません。わたくしが望むお相手は、主様をおいて他にござません」


「オーマイガーッ!」


 なんてこったい。

 たまに意思の疎通が図れていない所があるとは思っていたが、ここまで認識の違いがあったとは。

 俺は出会ってこの方、金髪巨乳シスターに対して、性行為に分類される所業は一切実行していないと断言できるぞ!

 年を取るにつれセクハラ魔人と化している俺からすると、凄いことなんだぞ!

 そもそも俺は、巨乳が苦手なんだぞ!


 ……とにもかくにも、よく分からないうちに恋愛フラグが立っていたらしい。

 漫画好きからすると、悪い方のフラグは分かりやすいが、良い方のフラグは分かりにくい。

 そもそも、この俺に恋愛フラグが立つだなんて思いもしなかった。

 一応は長い付き合いだし、未婚の男女だからそういう関係になってもおかしくないのだろうが…………。


「…………」


 シスターは、素晴らしい。

 率先して災害から人々を守ろうとする慈悲深い性格をはじめ、聖母のような容姿もますます磨きがかかっている。

 唯一にして最大の欠点である巨乳も、ここ数年で女性に慣れた俺なら何とか対応できるだろう。

 うん、きっと、バックからなら大丈夫だと思う。


「……いいのか?」


 色々と疑問は尽きないのだが。

 好意を持ってくれているらしい相手に、その理由を根掘り葉掘り聞くのは男らしくない。

 でも、これだけは聞いておきたい。


「本当に、俺が相手で、いいのか?」

「――――はいっ、もちろんでございますっ」


 一片の迷いもなく、シスターは答えた。

 あの時と、同じように。

 ……俺は、彼女にとって、災害から守る民と同等以上の存在になれたのだろうか。


「少しだけ、待ってくれないか?」


 彼女の決意は、固い。

 だから俺は、答えを保留した。

 心底求めてくれる女性を断るのは、俺が目指す余裕とは違う気がしたからだ。


 せめて、もう少し、心の整理がつくまで、待ってほしい…………。


「はいっ、わたくしの排卵日が始まるまで、我慢してお待ちしております!」


 待ってくれってのは、そういう意味じゃねえよ。






≪ 愛人の場合 ≫



 本日は、愛人記念日。


 彼女達と愛人契約を締結してから、十年が経つ……。

 この節目に、この契約を、解約しようと思う。


 異世界に来てから十年間、とても楽しかった。

 まるで本物の恋人と過ごすような幸せを感じた。

 まあ、実際に恋人が居た経験がないから、比べようがないのだが。

 そんな悲しい話は置いといて。


 楽しい日々ではあったが、俺と彼女達との関係に大きな変化はなかった。

 それも当然。

 だって、金で結んだ、契約、なのだから。


 だから俺は、その楔を取り払う。

 彼女達を、俺という呪縛から解き放つのだ。


 これまでも何度か、そんな雰囲気になった時があった。

 だけど、俺はもとより、彼女達も、何も言い出せなかった。

 もし、彼女達が望むのであれば、愛人契約なんていつでも解消したのに。

 いつでも俺から離れて、自由な生き方を選ぶ事ができたのに。


 それでも彼女達は、何も言わなかった。

 やはり、受け入れた俺の方から提言するべきなのだろう。

 いつまでも、半端な関係を続けていられない。

 どんな結論が待っていようと、ケジメをつける時期がきてしまったのだ。


 ……幸か不幸か、最大の懸念材料は払拭されている。

 そう、この世界は一夫多妻制。

 その点だけは、教えてくれたお嬢様に感謝しよう。

 それを使うかどうかは、また別の話だが。


「…………」


 それを告げた時。

 彼女達は、何と答えるのだろうか。

 どのような表情をするのだろうか。

 

 俺は、それを怖く感じる。

 でも、そんな感情も、きっと変化している証拠。

 たとえどんな表情をされても、全て自分の行いが招いた結果だと受け入れる事ができるだろう。

 

 ああ――――。


 願わくば、お互い笑顔でありたいものだ。





≪ 男装少女の場合 ≫



 この時を迎えられた幸運に感謝する。


 本日は、コルトの15歳の誕生日。

 そして彼女が、冒険者になる記念すべき日である。


 コルトは、今朝早く俺の部屋にやってきて、風呂に入り、朝ご飯を食べ、身だしなみを整えて、冒険者ギルドへと走っていった。


「いってくるぜっ、あんちゃん!」


 意気揚々と、しかし緊張した面持ちで門出を迎えるコルトを、俺は笑顔で送り出した。


 男装少女だったのは、昔の話。

 今は、伸びる所は伸び、出る所は出て、随分と女性らしくなった。

 それでもまだ、少女の域を出ないのは歓迎すべきであろう。

 親が我が子に対してそう思うように、男にとって少女は、いつまでも少女であってほしいのだ。 


 ――――俺は、そんな彼女の帰りを部屋で待っている。

 もちろん、白いタキシード姿で。


 照れ屋な彼女は、最後まで口にしなかったが……。

 今日という日は、冒険者になることと、もう一つ大切な目的がある、はずだ。


 それは、プロポーズ。

 冒険者となり、晴れて立派な社会人となったコルトは、こう思っているはずだ。


「これで胸を張って、あんちゃんにプロポーズできるぜ!」


 一人前になった男が女にプロポーズするのは、よくあること。

 今回の場合は、働いていない俺が女房役で、勇ましい冒険者のコルトが旦那役。


 そう、白馬に乗ったコルトが、俺を奪いに来てくれるのだ。


 その瞬間を楽しみに、俺は部屋の中でいつまでも待つ…………。


 ――――扉は、まだ開かない。






≪ 魔人娘の場合 ≫



「…………」


「どうしてキイコ達をじーっと見ているっすか、マスターっ?」

「やっとエンコ達の魅力に気づいたのねっ。遅すぎだけど許さないでもないわ!」

「……マスターは、ようやくアンコ達の大切さに気づきました」


「お前らは、何年経っても全く変わらないな。容姿も、おつむも…………」


 呆れた声を出しているのに、何故だか安心している俺がいる。

 もしこいつらが、成人女性並みに外見も内面も成長してしまったら、扱いに困っただろう。

 俺の沽券に関わるので、意地でも褒めたり手を出したりはしないのだが。

 それでも、子供だから許されていたものが、大人だと冗談で済まなくなるので、大変やりづらいだろう。


「……お前らは、それでいいのかもな」


 まさか、ポンコツトリオのポンコツな様子を見て癒やされる日が来ようとは思いもしなかった。

 日々変わりゆく世界で、唯一不変なものがあるとしたら、それは彼女達かもしれない。


「そんなに熱っぽい瞳で見なくても大丈夫っすよ、マスターっ。キイコ達は、マスターがどんなに老けてヨボヨボになっても、ずっと一緒に居るっすから!」

「そうよそうよっ、どんなに髪の毛が薄くなっても見捨てないから安心しなさいよっ!」

「……マスターは、どんなにお腹が出てもマスターです」


 前言撤回。


 やっぱりこいつらは、永遠に俺の敵だ。

▼あとがき

 まだ、夢は覚めません。

 二巻の発売日、決まりました。

 詳細は、活動報告にて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ