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自然崇拝教のシスター②/大げさな表情でオーマイガーと叫びたい時があるよな。




 地震と思われるお告げについて、落ち着いて話をするため、シスターが駐在する支店的教会にお呼ばれする運びとなった。


 巨乳ハイテンションシスターことセシエル嬢が所属する教団は、知名度が低いらしく教会とは名ばかりの普通の貸屋だ。

 しかも、彼女以外は用事で出払っているという。

 勧誘目的ではないので安心して聞いた話は、とても安心できる内容ではなかった。


「わたくしが所属する自然崇拝教は、自然と生物との共存を尊んでおります」


 自然崇拝教とは、壮大なる自然そのものを神として捉え敬う集団であるが、自然災害にまで身を委ねる放任主義ではない。

 必死に生き抜こうとする生物の本能も自然の一部と解釈して、災害とも上手く調和しようとする理念を持っている。

 結構合理的というか普通な感じがする教義である。


「信者の中には、神のお告げを拝聴することを許された者がおります。かく言うわたくしも、その一人なのでございます」


 崇拝者が稀に授かる力。

 それが自然災害を予知する能力――――すなわち「お告げスキル」である。

 神なる自然が起こす災害を、神託を持って事前に察知する仕組み。


 それが本当に、神の言葉だとしたら…………。

 予告テロと変わらない気がするのだが。

 警告するくらいなら、最初から災害なんか起こすなよって話だ。

 神様がやる事は絶対なので、文句があるなら逃げればいいじゃない、って感じなのだろうか。

 マリー・アントワネットもビックリな尊大さだ。

 まあ、その方が神らしい気もするが。


 神が存在しないとしても実際に「お告げスキル」が発現しているのだから、異世界の法則というか、魔法社会の理というか、思い込みって怖いよな。

 災害天国の日本だったら大活躍なスキルだろう。

 できれば俺も、お一つ欲しいものだ。


「ですが、わたくしどものお告げはあまり重要視されていません」


 これまで予知されてきた災害の大半は、台風であるらしい。

 しかし台風は、予知せずともある程度近づけば察知可能な災害だ。

 しかも、外出を避けて建物に籠もる程度の対策しかできないので、早めに予知してもあまり意味がない。

 またこの世界には、災害よりも身近な脅威として魔族が存在する。

 それ以前にも、病気の死亡率がダントツで高い。


 そんな訳で、自然災害の予知と警告を得意とする自然崇拝教は、ありがたみが薄く宗教界隈では下位の位置付けらしい。

 簡単に言うと、人気がない教団なのだ。

 宗教にもランク付けがあるとは、ほんと世知辛い社会である。

 こんな風に信者達は、誰からも期待されない日々を送っているものの、決して腐らず、お告げが示す地域に出向き、災害を回避する手伝いを行っているのだ。


「それが、わたくしどもの使命なのでございます!」


 ……なんだよ、随分と立派な仕事じゃないか。

 セシエル嬢は本件の代表として、この地に派遣されたらしい。

 代表といっても二人しか来てないので、田舎の駐在所みたく下っ端なのだろう。



 ――さて、前置きはこのくらいにして、ここからが本題だ。


「先日、これまで聞いた事がない自然現象についてお告げを授かったのでございます」


 お告げは、「いつ」「どこで」「どんな現象」が発生するのか、端的に教えてくれるらしい。

 しかれども、「地面が動く現象が発生する」と聞かされても、実際に経験した事がある信者が居なかったため、具体的に起こる災害や被害の大きさを察するのは不可能だったのだ。

 自然崇拝教の歴史は浅い方であり、教団に残された資料にも該当する現象がない。

 国の書物も確認中なのだが、今のところめぼしい情報は見つかっていないそうだ。


 やはりこの大陸は、滅多に地震が起きない地域であるようだ。

 日本では飽きるくらいに揺れまくっているが、ドイツやフランスなど発生確率が非常に低い地域もある。

 それでも何百年、何千年に一度は発生する。

 大陸である以上、地震という自然現象からは逃れられないのだろう。

 今回は偶々、この地域にお鉢が回ってきたのだ。


 ……そんな歴史的瞬間に立ち会う名誉を与えられたのが、色んな意味で余所者である俺。

 確かにすごい確率かもしれないが、運が良いのか悪いのか。

 考えるまでもないだろう。


「そこでわたくしはこの地に赴き、街の有力者に事情を説明して避難を促してきました。ですが実際に起こりうる現象が不確かとあっては、迂闊に対処しても混乱が増すばかりだと保留されている状況なのでございます」


 俺がシスターを最初に見かけた場面が、その話し合いの最中だったのだ。

 彼女は「保留」という表現をしているが、実際は知名度の低い宗教家の取るに足らない戯言として相手にされていないのだろう。

 思うところは無きにしも非ずだが、単純に説得力が欠けているのだ。


「ですから旅人様のような識者と巡り会えたのは、思いがけない幸運でございました。お陰で不明瞭であった現象の実態が判明したのです。これで街の皆様も喜んで避難してくださるでしょう」


 喜んでどうするよ。


「……いや、それだけじゃ足りないと思うぞ」

「それは何故でございましょうか?」


「そもそも内容が不確かでも信用があれば、とりあえず住民に警告ぐらいは出していたはずだ」

「確かにその通りでございましょう。それにこの地域では、これまで大きな自然現象が発生していないそうなのです」


 なるほど、シスターだけでなく、自然現象そのものに信用がなかった訳だ。

 啓蒙活動とはいえ、こんな地域で災害の脅威を警告しても通じるはずがない。

 名を売るためには、もっと災害が多い地域で活動すべきだろうに。


 宗教さえも需要がある場所でしか成立しないとはな。

 神は人を容易に殺せるが、人もまた、神を信じない事でその存在を容易に抹殺できるのだろう。


「だったら、説得するのは無理だろう。珍しい地震どころか災害自体を認識していない者には理解できない話だ」

「ああっ、それもそうでございますね」


 妙に納得した顔で素直に頷く金髪巨乳シスター。

 あれだけ熱弁していたのに、諦めるのが早すぎる。


 しかも全身で元気よく頷くから、首の動きと一緒に大きな二つの乳までが上下しやがる。

 なんだか頭が三つあるみたいで怖い。

 実際に三つの頭を持つ阿修羅像のように、乳にも顔が付いている姿を想像してしまい身震いする。


「震えているようですが、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、あまりの大きさに恐怖を感じていたところだ」


「ええ、そうでございますね。わたくしも事態の大きさに驚いております」

「ああ、うん、そうだな」


 理解者を得たとばかりに、またもや嬉しそうに頷くおっぱいお化け。

 ズシンズシンと音が聞こえてくるようだ。

 俺が怖いのはあんただよ。


「……大変なのは分かったが、急いては事を仕損じると言うし。一度落ち着いて考え直した方がいいだろうな」


 とてもとても困った事態だが、慌てて考えても良案は出ない。

 こんな時はあえて他の仕事をしたり、風呂に入ってリラックスしたりすると、ふと閃くものなのだ。

 やはり、心に余裕を持つのって大事だよな。


「そうでございますね。ジシンが起こる明日までまだ時間があります。わたくしも今一度考え直してみましょう」


 そうそう、落ち着いて落ち着いて。

 慌てない慌てない、一休み一休み。

 ポクポクポク――――んんーーー?


「…………すまないが、聞いていいかな?」

「はいはい、なんなりと」


「俺の聞き間違いだと思うが、地震の発生は『明日』って聞こえた気がするのだが?」

「いえいえ、ご安心くださいまし」


「そうかそうか、やっぱり聞き間違い――――」

「旅人様は間違ってなどおりません。お告げにあったジシンは明日でございます」


「……だめじゃん」


 おー、なんてこったいっ! 

 さすがは神様だ。

 いつも寝てばかりいるくせに、偶に起きたと思ったら天罰ばかりだぜ。

 悪さばかりが目立つのに、崇められるとは良いご身分ですなぁ。


 そういや、こんな時に相応しいアメリカンな言葉があったよな。

 確か――――。


「オーマイガーッ!」


 俺は大袈裟に頭を抱えて叫んだ。

 平たい顔つきの大根役者なので、たぶん全く絵になっていない。


「おーまいがー? それは、どのような意味でございましょう?」


 他国の抽象的な言葉をよく理解せずに使ったから、上手く翻訳されずにそのまま伝わったようだ。

 直訳すると「ああ私の神様」だろうか。

 漫画のタイトルっぽいが、どんな意味か分からないよな。


「俺の地元で、とても困った時に神様助けてくださいって感じで使う言葉、かな?」


 実際は、嘆きの言葉だった気がするが。

「神」って単語が入っているから、助けを求めるニュアンスを感じるのだ。


「ああっ、それはとても素晴らしい言葉でございますね!」


 シスターは、目の前で両手の指を絡めて握るポーズをつくり、本当に嬉しそうにしている。

 いわゆる神に祈るポーズなのでとても清らかなはずだが、大きすぎる乳に手がめり込んでいるため卑猥さしか感じない。

 神に謝れよ!


「ですが、今回のように原因が神の場合は、誰に助けを求めれば良いのでしょうか?」


 うん、とても良い質問だ。

 そして、とても難しい問題である。

 でも、あんたらのような信者は抱えてはいけない疑問だぞ。


「それは、ほら、自然現象の天敵的な?別の?神様?かな?」


 人間社会や宗教界隈にもあるのだから、神々にも力の優劣があってもおかしくないだろうさ。


「ああっ、それでしたら何の問題もございませんね!」

「ないのっ!? ほんとうにっ!?」


 宗教家なのに、自分達が崇める存在以外の神を認めちゃっていいのだろうか。


「神は自然の種類毎に数多く存在しております。一見自然とは無関係に思える神も何かしらの摂理を司るため、我々は全ての神々を崇めているのです」

「……そりゃあまた、自然らしい雄大な教義だな」


 随分と懐が広いじゃないか。

 日本の八百万の神信仰と相通じるものがある。


「そうなると、地面の揺れを抑えるにはどんな神様が適任だろうかね?」

「そうでございますね、やはり動く事がお嫌いな神様でしょうか」


 それって大抵の神様に当てはまると思うぞ。

 俺なんかその権化だし。


 ……さて、と。

 オチもついたし、時間もないし、無駄話は程々にして具体的な対策を考えていきましょうかね。




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