地震
「あ、地震くるかも」
ごはんを一緒に食べていたとき、ナカちゃんが突然つぶやいた。
「え、マジ。大きいの」
「どうかなー。そんなに大きくはないかな。3くらい」
「ほんとにー。こわいなー」
そんなことを話していると、本当に揺れがきた。食器がかたかたと細かく音をたて、定食屋の店内にざわめきが起こる。
「あわわ、ほ、ほんとうに地震きたよ。逃げなくて大丈夫かな」
「大丈夫だよ、そんなに大きくはならないから」ナカちゃんは平然と言う。「ほら、もう収まってきた」
その言葉に導かれるように揺れは次第に小さくなっていき、そして収まった。
「あーびっくりした」
「カッちゃんは怖がりだなあ」ナカちゃんが、にやにや顔で言った。
「だけど、なんで地震がくるって分かったの」
「なんとなくかな。分かるんだ、くるって」
「へえ、すごいねえ」
お店のお姐さんが、デザートの五平もちを運んできたので、その話はそこまでとなった。ナカちゃんとぼくは地震のことなど忘れ五平もちにかぶり付いた。
冬の気配が色濃くなったある日、ぼくは旅の帰り道、ナカちゃんのところへ寄った。
「ただいま。あー疲れた」
「お疲れさん。出張もひと月となると大変だね」
「毎年の事なんだけど、疲れるねー。みんなの顔を見られるのは楽しいけれどね」ぼくは、よいしょと腰をおろす。
「おやじは元気だった。なにか言ってた」と、ナカちゃん。
「お父上はお元気だったよ。前以上に元気かも。相変わらずのイケメンで、もてもてだった。女性陣にきゃあきゃあ言われてたよ。それにリフォームしたばかりで、すごくご機嫌なご様子だった」
「そうだった、リフォームしたんだよな。羨ましい」
「いつも息子がお世話になってます、って言われたよ」
「お世話してるの、おれの方だよ」ナカちゃんは、お父様がお元気だと聞いて嬉しそうだ。
「それはそうと、ナカちゃん」
「ん、なに」
「ぼくの事だましたでしょ」
「だましたって、なんのことだろ」ナカちゃんは、ぽかんとしている。
「ほら、この前ごはんを食べたとき。地震」
「ああ」やっと思い当たったようで、ナカちゃんは照れくさそうな顔をした。「地震ね」
「お父上から聞いたよ。今年の地震当番の神はナカちゃんだって」
「ごめんごめん。カッちゃんが本気にしたから、つい面白くって」
「自分で地震を起こしておいて、地震が来そうだなんて、やらせもいいとこじゃない」
「そう怒るなよ。相撲で負けてあげたお返しだと思ってさ」
「負けてあげたって。あれ、ガチの勝負だったでしょ」ぼくは思わずぷっと吹き出してしまった。「まあいいや、はい、これおみやげ」
「お、縁結びマシュマロだ。出雲土産といったらこれだよな」
ナカちゃんは包装を開くと、マシュマロをひとつ摘み口に放り込んだ。「うまい。そうだ、お茶入れるよ。紅茶でいいかな」
「うん、紅茶がいいな」ぼくは、にっこり笑って言った。
ナカちゃんは席を立つと台所へ入っていった。ぼくはマシュマロを口に放り込んだ。甘酸っぱさが口の中に広がる。台所からはナカちゃんがお茶の支度をする音が聞こえてくる。
とりあえず、解説は省かせていただきます。
ご要望があれば後ほどに。でも、無粋かなあ。