しっぽとネコ耳と彼女の自信
友だちのえー子(彼女の名誉のために敢えて仮名)が泣きながら電話をしてきて、でもそれでは訳が分からなかったので、彼女の家に行くことにした。なんでも尻尾がくっついちゃって取れないというの。
「いーちゃーん!」
ピンポンを押すと、ものすごい泣きはらした目で、えー子が現れた。どうしちゃったの、ホント!
「何があったのよ、しっぽって!」
と言いながら私は彼女の部屋に入り、早速話を聞くことにした。彼女はだいぶ取り乱したようで、いつもきちんと片付いている部屋に衣服が散乱していた。
「くっついちゃったーぁー!」
「だから、なんなのよ!」
泣きついてくるえー子は、いつもはジーパンをはいてるのに、今日はふわりとしたスカートだった。これだけで何か変だとは分かるものの、尻尾がくっついたって、何なの?
すると彼女はスカートをめくって私にパンツを見せようとした。
え、別に女同士だから恥ずかしくないけど、それってどうなのよ。とは思ったものの、しっかり彼女のお尻を見ると、まあ、とりあえず短パンははいてて、その短パンの上に尻尾が乗っていた。
尻尾。確かにね。尻尾よね。
黒猫のしなやかな尻尾。短パンの上にのってると言うよりは、短パンにくっついてるようにも見えたのだけど、彼女はその尻尾を上下に揺らして見せた。
「これ、取れないの」
背を向けて泣いているえー子に近づき、私はその尻尾に触ってみた。リアル。本当に猫の尻尾みたい。作り物の動きじゃなくて本物っぽい。しかも、短パンについてると思ったのに、よくよく見ると、えー子から生えてる。
「うそ。なに、コレ」
それしか言えないくらいの衝撃。くっついちゃったって言ってたけど、生えてるよ!
「曲がっちゃったのぉー!」
そこか!?この際ど真ん中にくっついても問題だろうが!ちょっと怒りを感じてえー子の頭をはたいた。ら、またビービー泣きやがった。は、いかん、だんだんバカらしくて言葉づかいが悪くなってしまった。
「だいたい、コレどうしたの?生えてきたの?」
生えてきたら「くっついた」って言わないか。でも、どうしたんだろ?
「買ったの」
「買った?どこで?」
すごい、すごいよ。何、今どきって、こんな精巧な尻尾売ってんの?
「ちょっと・・・怪しいお店。彼氏に連れてってもらったの」
えー子は赤くなりながら言った。私も赤くなった。あんたたち、何やってんの。
「だって、彼氏がぁ、えー子はもうちょっと可愛くしてほしいって言うからぁ」
「その、可愛いって、しっぽつければ可愛くなると思ってんのか!」
「うん」
えー子の思考回路がわからない。ちなみに、彼氏もよく分からない。良いのか、尻尾で!
「あのさぁ」私は呆れながらえー子に言った。「可愛いってさぁ、確かに人それぞれ感じ方は違うだろうけど、しっぽつければ可愛いってのとは違うんじゃない?」
「だって、彼氏がぁ、えー子は貧乳で貧ケツだからもうちょっと足したら良いって・・・」
「貧ケツにしっぽを足すな!そんなことしても、えー子可愛さは足されないの。いい?女の可愛さってのはね、愛嬌にあるのよ?見かけだって勿論ある程度は磨くけどさ、中身が重要なの、中身が!」
「中身じゃ見えないもん」
「見えんの!ちゃんとわかるの。その中身を磨くと可愛さアップするの」
「ホント?」
「ホント」
えー子が納得すると、尻尾がポロっと取れた。なんなの、この尻尾。怪しすぎ。
でもまあ、良かった。えー子が尻尾は必要ないって分かってくれたから取れたってことだよね。
それから数日して、またえー子から泣きながら電話があった。
「今、いーちゃん家の前なんだけど、行っていい?」
「え、ウチの前!?」
慌てて電話を切り、アパートのドアを開けると、ネコ耳を付けたえー子が立っていた。
「彼氏が、お前の顔は人間じゃねぇって言うから~!」
違う、違うぞえー子。多分彼氏は「お前、人間は顔じゃない」って言おうとしたんだと思うぞ。
結局えー子は色々と自分に自信がなかったのだろうけど、ネコ耳がくっついたえー子は、逆にたとえようもなく不細工だった。