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59.最終話

三話一気更新です。

このお屋敷、どうしよう。

そう切り出したのは私だった。泣きすぎて声が枯れてる。目も腫れてて、ぶっちゃけると二目と見られない顔だ。アイシングしてるから晒さないけどな! 自分にもな!!


「そうさな。どうするか」

「僕としては潰したいです、ナーナ。そんなにナーナを悲しませるのならこの家など」

「ふむ。悪くない」


ミハル、ユーリ、バルトの順です。……んぅ?


「とりあえず、カナが泣いて泣いて目を腫らして声を枯らすまで大号泣したことは忘れんからな」

「乾杯用のお酒を持ち出して酔いつぶれて、二日酔いになってのた打ち回られましたよね?」

「あれらが消えて、たったの一日でよくもまぁ」


ううぅぅぅ。うるさいです。うるさいですよ人外トリオ。か、カルテットじゃなくなっちゃってるじゃん…………。


「この状況が解せぬ、あくどくも試したか。人間の雄ごときが。我が伴侶を」

「いえ母上。……その、つまり」

「おっと。お前だったのかユーリ。……ミハル。これもまだ年若い雄なのだ。ちょっとした腹いせくらいは許されよう」

「……なんとまぁ。地の守護者殿をも巻き込んだか、ユーリ」

「…………こうもナーナが嘆くのであれば、しませんでした」

「「さもあらん」」


ミハルとバルトがくつくつと笑いながら天を仰ぐ。なんなのよぅ。何が面白いのよう。

文句なんて言えるほど元気じゃない。私はぐったりとソファに沈み込んだ。




……大体、今の状況は流れで理解できたと思う。私は最後のほころびを綴じたあと、ベース、つまりこの家に転移してもらった。お風呂に入って逆上せるまで喚き続けて。

風呂から上がったら、いつかのときに『酒喰らって寝る』って言ってたことを覚えていたミハルが乾杯用のお酒を手にしていて。瓶ごと煽って一気に倒れた。

…………翌日のひどい二日酔いのことは、もう思い出したくもない。

ライの薬湯もあるわけで無し、結局のところは夕方まで中庭でグロッキー、死体のようにうつろな目をして空を見上げてた。この空だって兄さんたちにも届いてない。そんな距離に離れてしまったんだ。……ケルンだって戻ってこないし。


気を抜けばめそめそ、ぐちぐちと泣く私に寄り添って座っていたのはユーリだ。きちんと真摯でしたよ。手もつながずに肩も抱かれなかった。いわんやキスなんて。紳士です。


別れて風呂って二日酔い。夕方にようやく人心地ついて居間に戻ってきたんだけど。どうしてこんな、いつも通りの会話かな。そんなにショック受けるようなことでもないのかな。っつか、むしろ私が不思議か? ちょこっと手伝ってもらってただけの兄さんたちにこんなに依存してて。

こんなに寂しがってて。ぽっかり穴が開いたようで。


膝を抱えて顔を伏せる。ぽんぽんと頭を撫でられた。順番に、三人。仕方あるまいな、とこぼしたのがミハルだ。業腹です、と舌打ちしたのがユーリ。上機嫌なバルト。

何がだよう、と言おうとしてなったチャイムに心底ぽかんとした。

は?

……っつか、はぁ? 

この家、チャイムとかあったんだ?


驚きつつもチャイムが鳴ったら出迎えるのが常識でしょ。冷たいタオルを外して、私は玄関へと急ぐ。……うぅ、この家、鏡がないんだよ。あ、いやあったわ。玄関から誰も出入りしないから知らなかったけど、姿見があったん…………うっわーお。ぶっさいくぅ。

涙の潮負けと擦って粘膜を腫らしてるせいでまだらに染まった顔をできるだけ深く俯けて、玄関の鍵を開ける。がちゃり。開錠と同時に向こう側へと玄関扉は引かれた。反射で一歩を下がり、顔を見られないようにする。




「……カナ。お前、もしかしていつも、相手を見ずに玄関を開けてるんじゃなかろうな」

「それよりも問題なのは確認より先に一歩をさがっちゃうとこでしょ。こうやって踏み込まれたらカナの体格じゃ押し返せないよ? ダメだ、対抗手段を教え込もう」

「それよりもいい提案があります。カナを、外界に接触させなければいいんですよ。玄関へは近づかない、街へは行かせない、私たちだけと暮らさせるんです」

「……龍並みの執着だな、保護者ども。いいか、それはダメだとミハルでさえも自覚してるんだ。その手の危険思想は止めておけ」


「ライ。ブックロゥ。トール。……ケルン」


「いや、ひどい目に合った。お前の所に出るかと思っていた扉の向こうだがな、ジャングルのど真ん中だ」

「ケルンの能力も僕らの魔法も一切効かない、サバイバルな空間だったよ。人食いの樹とか、初めて見た。僕としては早く、カナに会いたかったのに」

「風龍の仕業でしょうからこれ以上は言えませんが。じつにスリリングでした」

「やれ。出て来るのに一日がかりとは盛大な迷路だった。……カナ。愛し子。泣くな。泣いたら我も、我慢できなくなる」


せっかくおさまってた涙が、正反対の意味を持って流れた。どやどや言いながら玄関ホールに入ってきた兄さんたちとケルンが私にキスをする。どれだけ深く接触されても嫌悪感の欠片もない感覚に、ようやく自覚した。

うん。好き。好きだよ、みんな。



頭の中でぱちぱちと音がする。遠くで聞こえる大勢の、お帰りなさいの大合唱。

シャンパンを抜かれる音。乾杯の音頭、そして垂れ幕。


『グランドフィナーレ!! 大 団 円 !!』




頭の中を。エンドマークが躍った。



はい。こういうお話でした。いかがでしたでしょうか。


正直、一か月間は長かったですよね。お疲れ様でした。


乙女ゲームはしたことがないのですが、これもまた逆ハーエンド、ということでいいのでしょうか。

みんな友達だよエンド、みたいなノリです。や、もう少し踏み込んでますね。

進展すればエロ展開アリ、ハーレムエンドですか。ふしだらな。

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