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36.


 ただいま。ただいま現実世界。いや妄想の中なのかな。漫画の中? 小説? ゲーム?


 ゲームだとしたらエロもホラーもごめんこうむる。私は、恋愛モノ以外は娯楽として認めないんだから!


 どうでもいい上に激しく人を選びそうな主張は、当たり前だけど口にされることはなかった。無事でーす、とトールたちに返事をしつつひっきりなしにぼたぼたと水が垂れる前髪をかきあげる。ぬるついてる。うぅぅぅ、嫌な感触。

 と思ったら、シャワーのような強さで水が頭からかけられた。何度も。合間に、髪をねじるようにつままれる。汚れが落ちてるか確認してるんだろう。細かいなぁ。


 っつかね、わがまま言って申し訳ないのですがね、細かすぎるレベルでスマンが、できればその、タオルはびしょ濡れになっちゃったし、もう少しかけてくれる水の温度をね、あの……。


 シャワーは顔の正面からも掛けられる。息が出来ない、と思う寸前で違うところへ行き、はぁふぅと荒い呼吸が落ち着けばまた丁寧に首筋までなでおろす。

 どんだけ粘ついてるのか、洗われるしつこさでようやく理解できた。きっと石鹸もどきがあれば絶対に使われてたね。水とボディソープの組み合わせ。考えただけで寒々しい。


 「ああ、こんなに赤くなって。カナ。カーナ。お前、お前という女は…っ!」

 「ほんと、面白い考え方をするよね、カナ。次はないから。こんなこと、二度とさせない」


 自分に言い聞かせるようなミハルとブックロゥの嘆きが二重で聞こえる。あれ? なんか悲しませるようなことしたかな? え、赤くなってるって? あ、あれだ、皮膚が痛かった分か。やっぱり軽いやけどみたいになっちゃってた?

 シャワーをかけられてる間は目をあけられない。だからミハルが私の足に洗う対象を移したすきに見た。自分の手のひら、ひっくり返して甲を見る。まだらに赤い。けど、そんな言われるような火傷まで行ってないような……ひどい日焼けみたいな……。

 

「げ」

 「何が『げ』なの? カナ。はい。先にこれを被ってくれる? とりあえず洗い上げるから」


 ばさばさと大量のタオルを頭からかけられた。匂いといい肌触りといい、極上ものだと経験から断言できる。間違いない、昨日買ってもらったやつのうちの何枚かだ。

 大きめのバスタオルを頭から被り肩を巻く。見る限り、下着まではぼろぼろになってないものの着ていた服は溶かされてた。思わず口に出して驚いちゃったよ。

エロ展開ゲームの中のスライムプレイっていうかさぁ? アニメで戦闘シーンの後、ボロボロになっちゃった服をなんていうかまとわりつかせてる人みたいな……。

 やれやれ、ほんとのポロリがなくてよかったよ。ぎりセーフ。セーフ、だよね?


 「もう、ほんとうに。龍の寿命を短くさせるなんぞ前代未聞だ」

 「というか、これだけ無謀なのに大人だと言い張らせるのか? ミハル」

 「そうだな……どうするか」


 何言ってるんですかねミハルとバルトは。私は大人。大人ですとも。


 足のつま先まで念入りに洗い流されて、ようやく立ち上がっていいよと言われた。何度も身じろぎして、立ちたいアピールしてた甲斐がありましたよ班長。やったね、たえちゃん! たえちゃんなんて知り合いにいないけどね!

 肩を巻いたのとは違う布で上半身を巻かれて腰を巻かれた。ミイラにするつもりなの? ミハルめ。過保護な保護者め。


 よたよたと手を借りて、私が出てきたと思しきモルボ○、ネギ坊主の元に行く。まぶしいくらいに光ってる。例えるなら竹取物語で光ってる竹のように茎がピカピカだ。

 ライにお願いして、茎の上をちょいと切ってもらう。モル○ル、茎が太いからさぁ、ほら、私が入り込めるくらいにね? だから特にピカピカしてる一部分を切り取っても、この花は倒れては来なかった。鉄腕ア○ム、マィティアトムのようにお腹の部分をぽこんと開けると貸金庫の中身のように小さな、両手ですくいあげられる大きさのスミレっぽい草を取り出す。中に詰まってたヌルヌルどこ行った、なんで空間があんだよっていう突っ込みは、どうか頭の中で済ませておいてほしい。少なくとも私は終わらせてある。……誰に言ってんだ私は。さっきから。

うん、そろそろ倒れそうにキツイからだよね。自分で言うのもなんだけど無茶しすぎだよ。いくら自分でやりたがったことだからって。

ふぅ。とにかく、光ってる茎の件はかぐや姫を見習ってみました。そして、それが正解だったことがうれしい。


 「……それは? ナーナ」

 「ケルン。近くに、日当たりと水はけのいい地面があるかな。この子を、そこに植え替えてあげたいの」

 「……それが我が伴侶の望みならば。カナ」


 後ろからミハルの手が伸びてくる。「ここにいろ」って、誰に言ったんだろうか。目をあけたらユーリとケルンがいてびっくりしたんだけど。


 「ケルン? ここに植えたいの。いい?」

 「構わぬ」


 大地の守護者っていうんだ、一応でも許可は取った方がいいだろうと言質をもらう。ケルンのひと掻きで適当な穴が地面に空いたのには笑った。はは、笑えるうちに笑った方がいいよね。なんていうチート展開。ずるいなぁ。

 真面目に努力しようなんて気が、これじゃ失せちゃうよ。


 けど、自分で掘ろうとはさせてもらえないんだろうなって気もした。もう二度とっていうブックロゥの言葉がどこにかかってくるのか、それは今から聞かなくちゃいけないけど。きっとこれから、私が肉体的に苦しい事ってあんまり起きないんじゃないだろうか。

 お兄さんも含めて守護者さんたちが、すごーく細かいところまで先回りしそうでいっそ笑える。

 鍵を閉める事だけは、私にさせてもらえるんだろうか。うん。そこも後で言質をもらおう。

 穴の中に可憐な紫の蕾を付けた小さな花を置く。とんとんと根元を固定すれば、横からユーリがマグを差し出してくれてた。水だって言われる。

 お礼を言って、スミレもどきにたっぷりと水を上げた。トランディーノ、と呟かれた言葉で、この花の名前を知る。私も同じように呟いてみた。ちかりと名残のようにトランディーノの全部が光って、それで。


 それで、トランディーノの方は終わりだった。



 

 ミハルにお願いして、元の場所に戻ってもらう。ぐるぐる巻きの私の姿が異様だったんだろう。お兄さんたちが全員で呻いた。同じタイミング。ほんとに仲がいいなぁ。

 トランディーノ、さっきのスミレもどきがこの場に残した抜け殻に近寄る。まだ茎は光ってる。そりゃそうか。これが扉の本体だもんね。


 『足が欲しい、自由に動きたい』がネギ坊主の望みだと思った私は、あっつーい視線をもらっている足をばたつかせて、あの空間で頼んだ。

 「無理だから、私に生えてる足はあなたに上げられないから。けど、私がこの寒天から出られたら約束するよ。あなたを、君を、望んでる場所に連れてくよ」

 って。

 それから何往復かの会話はぶっちゃけ、通じてるようで通じてなかったと思う。だって、ら行と日本語の応酬だもん。あの子もだいぶうれしかったんだろうな。なんかこう、寒天の中でぐるぐる振り回されたような感覚がしたし。

 で、ちょっとだけ落ち着いてから、これが、この巨大化したモル○ルが扉の変形した物で、自分が固定化していくから優しく撫でてキスをして、不満があったねかわいそうにって宥めてあげればそれでよし! みたいなことを片言で説明してくれて。

そのあとはどんどん明るい方に進めばよかった。

 密度の濃すぎる空気っていうか、それがぴりぴり肌を刺し続けてるから急がないとって思ったのも大きい。気分的には『うらぅぁぁっっ』って叫びながら最後の幕を蹴破って出てきたわけだけど。


 「あなた。君。かわいそうだったの?」


 この扉の素になったトランディーノは、無事に宥められたと思う。あっちで光らなくなったってことは、こっちでまだ光り続けてる歪みとの接触も切れたってことにならないかな?

だから今度はこっちだ。この扉を、楽にしてあげたい。感情があるなんて変な扉だとは思うけど。歪みに気持ちだなんて、二重の意味になるんじゃないかと思わんくもないけど。

点滅じゃない、ずっと光ってるトランディーノの残骸に手を伸ばす。しゅうしゅうと音がして、私が触っていくところから縮んでいった。すげぇ。問答無用のファンタジー。

ネギ坊主の頭も撫でる。両手で撫で、辛かったの? 痛い? と聞きながら、教えられたようにキスも落とした。これに効果があるのか半信半疑だったんだけど、縮む勢いが加速したから効果はあったんだと信じるよ。いやいやだって、とげとげねとねとにチューして効果なかったら泣くよ、私が。


 くしゃってなってなかったら私の背よりも高かったネギ坊主が見る見るうちに形を変えて、南京錠に変形していく。スミレの方のトランディーノいわく、扉が形を変えたとしたらそれは私の中の施錠のイメージらしい。

鈍い金色、ぴかぴか新品の南京錠。鍵は私の髪の毛。

 思いついた思考のまま、一本だけ髪の毛を抜く。手の中でそれは、優美できれいなカギになった。金属製で、同じような金色。蔦と小鳥の意匠が透かし彫りで細工してある。


 ………………あり? 南京錠って、開けるときはともかく閉めるときは鍵いらなくね?


 手の中の南京錠をしげしげと見る。あ、うっかりさんだなぁ私。閉まってるじゃんコレ。最初が開いてないんだ。ふーん?

 鍵で錠をあける。ふんわりした光が広がった。まぶしくないそれが収束してから、これも思いついた衝動のままに刺さってる鍵ごとの金属にキスをする。お疲れさま、なんてなんとなく口にして、かちりとフックを穴に差し込んだ。さらりと刺さっていた鍵が溶ける。追いかけるように南京錠も空間に溶けて、それで施錠、扉を閉める一連が終了したんだって理解できた。

 なんじゃそら。いつもの口癖を出そうとして口を開く。

でも言えなかった。

 だって、そりゃ言えないよ。

私は、生まれて初めてっていうくらい頑張った。きっとトランディーノも頑張った。そういうものかどうか知らないけど、扉もきっと頑張った。


 えへへー、できた。私にもできたよクララ。ハイジが立ったよーーー。


 ちこーっとだけ違うような気がしたけど些細なことだ。いつの間にか座っていたから、立ち上がる。得意げに笑いつつも振り向いた途端。

 強制的に抱き上げられもみくちゃにされて転移されて風呂に入らされたでござる。


 はぁ。

 なんじゃそら。


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